「うおぉぉ!!」
叫びを上げながら、神無月は握った拳で目の前の戦闘員を殴りかかった。
一方、殴られそうな戦闘員は避けられず、覚悟を決めたのか、目を瞑っていた。
そして、
-ポコッ-
辺りに短く小さな打撃音が響く。
「うおぉぉ!」
-ポコポコポコポコ-
彼は叫びながら殴り続けるが、辺りには可愛い打撃音しか響かない。
「イィー。」
流石にうざったくなったのか、戦闘員が虫を払うかの様に手を振った。
そして、それが神無月に当たると
「グハッ!!」
っと叫びながらすっ飛んできた。
「…………。」
「…………。」
『……………。』
「あいたたたた。」
全員がその姿を凝視していると、神無月が叩かれた場所を擦りながら立ち上がった。
っていうか俺、さっきからいやな予感しかしないんだけど、気のせい……だよな?
「……おい。」
「ん?」
「そのディスプレイフォームって、もしかして戦えないのか?。」
「残念ながら、戦闘力は皆無。」
「ちなみにお前は?」
「喧嘩は空っきし!」
「バッキャローー(バカ野郎―ー)!!!」
サムズアップをしながら答える彼に、俺は頭を抱えながら叫んだ。
いや、これは叫ばずにはいられないだろ。
「……さて、覚悟は良いか?」
そう言いながら蜘蛛男は構える。
表情がわかるなら、多分良い笑顔をしてんだろうな―。
「……遠い目をしてるが、大丈夫か?」
「お前のせいだろ!!!!」
ぐわぁぁぁ、マジヤベーよ!!!
うぅぅ、まったく、しょうがねえ奴だな。
「……まったく、とうそう本能に火を点けてくれる奴だよ、お前は。」
そう言って俺は握りこぶしを作る。
「……なにを言っているんだ?君は!止めるんだ!」
後ろで神無月がなにかを言っているが、気にしない。
こうなったら、なにがなんでも生き延びてやる。
さっきまで死ぬ覚悟までしてたクセに、って思った奴もいるだろう。
しょうがねえだろ?
こいつは、神無月は死なせちゃいけないんだ。って、感じたんだから!
「行くぞ!」
「止めろぉぉぉぉぉ!」
俺を止めようと神無月は素早く立ち、手を伸ばすが、タッチの差で空を切る。
「うぉぉぉぉ!」
叫びながら蜘蛛男に向かって駆け寄る。
そして、奴に向かって左の拳を
「あ!!」
振るわずに上を指さした。
「ん?」
『イ~?』
それに釣られ奴らも上を向く。
残念というか、当然というか、なにもそこにはない。
「あ~~~……。」
そう言いながら指を上から下へ下ろし、自分の右手を指さした。
釣られて全員が見る右手の中には、一本の催涙スプレーが、
-プシュー-
『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「今だ!走れ!!」
「え?あ、ああ!」
悶える男達の横を駆け抜け扉を開けると、俺達は部屋から飛び出し、急ぎ駆け出した。
「な、なにをしている!
早く追え!」
『イ、イィー!』
後ろの方からドタドタと、人が飛び出す音が聞こえてくる。
「ヤベ、追ってきた!」
「ああ、急ご…!!
睦月、左へ行くぞ!」
「え?わ、わかった!」
二股を右に曲がって、入り口へ戻ろうとしていた俺だったが、神無月の雰囲気に押され、一緒に左へ曲がる。
「な、なあ!入り口へ戻らないのか?」
「監視カメラをハックしたら、既に入り口は戦闘員達に固められていた。
そのまま行ったら、確実に捕まっていたよ。」
「そうだったのか、危ねえ~。
………って、ということは、俺達逃げらんねえんじゃね?」
「……このままの状態なら、ね。」
「おいおい、どうすんだよ!?」
「君も話を聞かない人だね。
僕はこのままの状態なら、って言ったんだ。」
「っていうことは、なんかあるのか?」
「ああ、このまま奥に行き、僕の探し物が手に入れれば、ね。」
「……随分と勝算の低い博打の様だな。」
「なら、大人しく捕まっておくかい?」
「それは、まっぴらごめんだ!」
「なら、乗るしかないよ?」
「みてえだ…!」
そんな会話をしていると、前の方から数人の戦闘員が現れた。
「不味い、このままじゃ。」
ああこいつ、戦闘員にも勝てなかったよな。
となると、
「……しゃあねえ、な!」
「ちょ、ちょ!」
一気に加速した俺に、神無月は驚きの声を上げた。
悪いが気にしている暇は
「無いんだ、よ!!」
叫びながら俺はジャンプすると、一番目の前にいた戦闘員に向かってドロップキック一閃。
「イィー!?」
「どりゃぁぁ!!」
そのままの流れで、腕を広げライトニングネックブリーカードロップをその横にいた戦闘員にぶちかます。
『イ゛ィ―!?』
「まだまだぁぁぁ!」
俺は素早く起き上がり、近くの戦闘員に向かって前転し、寝っ転がっている戦闘員の上へフランケンシュタイナーを仕掛けた。
『イ゛ィ―!!??』
頭から落ちた戦闘員は、みごと仲間の溝うちの上へ落ち、一緒に悶絶している。
「よし!!……なにしてんだ!急ぐぞ!!」
「あ、ああ。」
呆気にとられている神無月を呼ぶと、彼は慌てて駆け抜け、俺も跡に続いた。
「ねえ?」
「ん?」
「今のプロレス技といい、さっきの逃げる時の行動といい、なんでそんなことが出来るの?」
「ああ、「一見は百聞に如かず、経験に勝る説得力なし。
ジャーナリストになるなら、色々なことをやっておけ。」って言われていてな、昔から色々とボランティアやバイトしていたのさ。
今のプロレス技は、少し前にバイトしていた時に教わって、さっきの逃げる時のやつは、ボランティアで奇術の手伝いをした時、ミスディレクションの技術を教えてもらって、その応用。」
「な、なるほど。
ちなみに、さっき言っていたとうそう本能は?」
「んなもん、逃走本能に決まっているだろ?
あんな多勢に無勢で戦えないし、怪人と戦うなんて、もっとごめんだね。
それに俺は、基本的に魔法使いのポジションだしな。」
「魔法使い?」
「おう、某冒険漫画で言っていたんだ。
「魔法使いは常にクールであれ。」ってな。
俺自身、常に考え続けられる様に心掛けているから、そういう気構えでやっているんだ。」
「ふ~ん、なるほどね。
そうなると……。」
そう言うと彼は、顎に手を当てながら考え込み始めた。
「ん?どうした?」
「いや、それの意味することを考えていた。」
「意味すること?」
「ああ、それはつまり君は
DTっていうことだね?」
-スドドドド-
ずっこけた、もう見事なまでに。
走っていた為か、結構な勢いで滑り、そのせいで顔が痛い。
「~~~~!どういう意味だ!コノヤロウ!!」
「ん?意味を知らないのか?
なら聞き直そう。
君はチェ「そういう意味じゃねぇぇぇ!
なんでそんな話になったのか?って言ってんだ!!」……なんだ、そんなことか。
たしか、その状態だとなるんだよね?
魔法使い。」
「それは30越えたらだぁぁ!!」
まあ、それも眉唾物だけどな!
「ん~、そうなのか。
ただ、そんなに大きい声を出していると、「イィー!」…ほら、見つかったよ。」
「だぁぁぁ、邪魔だぁぁぁぁ!!」
そう叫びながら、俺は駆け出した。
ああ、そうだよ。
俺はDTさ。
それのなにが悪いよ!
彼女いない歴19年=歳の数さ、なんか悪いか!
世の中、そんな奴は沢山いるんだぁぁぁぁぁぁ!!
と、心の中で叫びながら、俺は目の前の戦闘員達に怒りと悲しみのラリアットと、100%エルボーを喰らわす。
『イィ~!!(理不尽だぁぁ!!)』
なんかあいつらの心の声が聞こえた気がするが、まあ気のせいだろ。
気のせいにちがいない。
ついでに涙が出そうなのも、さっき顔を擦ったからにちがいない。
「しかし、魔法使いポジションっという割には、いやに武道派だな?」
「誰のせいだと思ってんだぁぁぁぁ!!!」
こいつ、一度殴った方が良いか?
そんな物騒なことを考えつつ、向かってくる戦闘員達に、ひたすらプロレス技をかけ続けた。
「よし、着いたぞ。」
それから数分間ひたすら走り続け、俺達は白い廊下の前にたどり着いた。
「あの扉がそうか?」
「ああ、あれだ。」
白い廊下の奥には扉があり、どうやらあそこに目的の物があるようだ。
………しかし、この廊下、あからさまに怪しいよな?
イメージ的には、某実写版ゾンビ映画のレーザートラップみたいな感じだ。
その廊下へ神無月は無造作に入っていく。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「ん?ああ、トラップは解除済みだよ。」
あ、やっぱり罠あったのね。
「ちなみにこれ、どんなトラップなんだ?」
「入り口と出口に壁が落ちてきて、その中を無数のレーザーが照射され、それが縦横無尽に動くトラップだよ。
普通の人なら数秒でバラバラになるね。」
そのまんまかい!!
そんなことを脳内でツッコミつつ、俺達は廊下を駆け抜け、神無月がプラグを扉の横の機械に投げ刺した、その瞬間だった!
-ビュー-
っという風切り音と共に、白い塊が俺達に向けて飛んできた。
「がはぁ!!」
「ぐっはぁ!」
突然のことにかわせなかった俺達は、塊と共に壁に叩きつけられた。
「な、なんだ?いったい?」
体を動かそうとするが、白い塊は鳥もちみたいに粘着性が強く、壁に貼り付けられてしまい、俺は僅かに横を向いている状態で受けたおかげか、僅かに頭と左腕は動かせるが、後ろからモロに受けた神無月は、左腕以外は動かせないでいた。
「いったい、なにが?」
「クックックックッ、漸く捕まえたぞ。」
「その声は、蜘蛛男!」
僅かに動く頭を動かし、声の方を見ると、戦闘員達を従えた蜘蛛男が、ゆっくりとこっちに向かってくる。
「てこずらせおって。
仮面ライダーとやらも、逃げ足だけは優秀だったしな。」
苦々しく言ってはいるが、捕まえたことが嬉しいのか、足取りはどこか軽い。
「く、くそぉぉ!動かない!」
「なんか、なんか手は…、
ん?あれは?
………おい、神無月……。」
「…ふむ、逃げんのか?」
睦月達とあと十数メートルの位置までたどり着いた蜘蛛男は、二人に対して余裕しゃくしゃくな態度で話しかけてきた。
ちなみに、その時二人はというと、
「ふんぬぅぅ!」
「うぉぉぉぉ!」
粘着から逃れようと、未だにもがいていた。
「うむうむ、逃げぬのは、覚悟が出来ているっということだな?
良い覚悟だ。
では、その覚悟に答え、今止めを「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」…なんだ?
今良いところなんだから、邪魔をするな。」
「良いところって、どこがだ!それに返答も聞いていないのに、一人納得してんじゃねぇ!!」
「そんな当然だ、答えは聞いてないからな!」
『うわ~~。』
胸を張って言いきる蜘蛛男に、二人も絶句するしかなかった。
「納得したか?
では、止め「だから、ちょっと待てぇぇぇ!」…んー、なんなんだお前は?
場や空気を読まん男はモテんぞ?」
「余計なお世話だぁぁ!
って、そうじゃなくて、あんたを見ていて、2つ謎かけを思い付いた。
最後だ。っていうなら、それを言わしてくれないか?」
「駄目だ。」
「即答かよ!」
「さっき程あんなことをされたのに、はい、どうぞ。っと許すわけないだろ?」
「ん~、まあ、言いたいことはわかる。
わかるけど……、今この状態で、なにが出来ると?」
そう言いながら睦月は、自分の左腕をパタパタと振ってみせる。
実際問題、彼の力でそこから抜け出すのは無理そうだった。
隣の神無月も左腕が自由で腕からコードが伸び、刺さりっぱなしではあるが、身動き一つ出来そうにない。
蜘蛛男はその姿を見ながらしばらく考え、
「……良いだろう、許してやる。
その代わり、怪しい動きをしたら、即殺す。
肝に命じておけ。」
「ん、わかった。」
そう言うと睦月はぐりぐりと動き、顔を蜘蛛男達の方へきちんと向けた。
「…よし、行くぞ。
まず一つめ、蜘蛛とかけまして、敵の諜報員を見つけた時の言葉と解く。」
「…その心は?」
「お前がスパイだー(スパイダー)!」
そう言いながら睦月は、左手でビシッと蜘蛛男の後ろを指さした。
『イィー。(あぁ~。)』
「なるほどな。」
蜘蛛男達はというと、睦月の謎かけに感心はしているが、彼からは目を離さないでいた。
「…………。」
「…………。」
『…………。』
「ん?どうした?
どれだけ待っても、我々はお前から目を離さないぞ?」
「そのようだね、残念だよ。」
と睦月はそう言うが、表情は少しも残念がっておらず、むしろニヤリと笑みを浮かべていた。
その表情に蜘蛛男は一瞬訝しげたが、ただのハッタリだと思い直し、余裕綽々な態度を崩さずにいた。
「それじゃ、2つめ。
蜘蛛男、あんたに忠告とかけまして、図面の上に注意と書いてある絵の読み方。と解く。」
「?その心は?」
「図上に注意(頭上に注意)だ。」
睦月はそう言いながら上へ指を指した。
当然、蜘蛛男は視線を逸らさず、睦月の方しか見ない。
しかし、
「イィー!!(上ぇぇ!!)」
後ろの戦闘員の声に蜘蛛男は上を見上げると、物凄い勢いで壁が上から落ちてきた。
「うぉぉぉぉぉ!?」
突然のことに、咄嗟に蜘蛛男は後ろへ素早く跳んだ。
その判断は正しかったらしく、壁が落ちきるギリギリで抜け出すことに成功した。
ズドンと地響きと共に壁が落ちきる。
あと少し遅かったら、自分はぺったんこになっていたであろう事実に、蜘蛛男は恐怖した。
「あ、危なかった。
もう少しで潰される所だったな。」
そう言いながら安堵のため息をつく蜘蛛男。
しかし
「イィー!(横ぉぉ!)」
「ん?」
彼の、いや彼らの危機は、まだ始まったばかりだった。
蜘蛛男が横を見ると、無数の機械がこちらに銃口を向ける動きをし、そして、
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
一斉に照射されるレーザー、蜘蛛男はその一瞬前に、もう一度後ろへ跳んでいたため、ギリギリかわすことができた。
だが、
「くぅぅ、レーザーがくるぞぉぉ!!」
中にいる者を消さんと、レーザーが縦横無尽に動き、彼らに襲いかかってくる。