「………上手くいったみたいだね。」
「その様だ。」
そう言い、俺は当面の危機が去ったことに安堵のため息をついた。
「しかし、驚いたよ。」
「ん?なにが?」
「今の話術もだけど、話してないこのディスプレイフォームの特性まで当てるんだから。」
その言葉に、俺は先ほどの会話を思い返した。
―――――
「おい、神無月。
お前が止めたトラップ、もう一度起動させること出来るか?」
「出来るけど、……右手はこの通り動かない状態だ「いや、関係ないはずだ。
そのディスプレイフォームっていうのは、機械を手動で操作しなくても機械が操れるフォーム、なんだろ?」…?!なんでそれを!?」
今は出来るかどうかを答えてくれ!」
小声でも確かに伝わる彼の強い意思に、神無月は数瞬巡回する。
「……可能だ。
ただし、外から解除出来ない様に細工するから、少し時間が欲しい。」
「どのくらいだ?」
「2分あれば。」
「わかった、なんとか稼いでみる。」
「でも、出来るのか?
さっきので奴らは大分警戒しているはずだけど。」
「大丈夫、今は逆にそっちの方が都合が良い。
っと、来たぞ。
抜け出そうと、もがく素振りは見せておこう。」
「そうだね。
うぉぉぉ!」
「ふんぬぅぅぅ!」
ーーーーー
「まさか、本当に時間を稼ぎきるなんて、思ってもみなかったよ。
しかも、みんな君に警戒していたから、僕もやり易かったしね。」
「これもミスディレクションの一つさ。
騒いでみせたり、ボケて魅せたりも、全ては俺に意識と視線を向けさせるためさ。
さっき引っ掛かったから、なおのこと集め易かったよ。
さて、あとはこれから抜け出せれば完璧なんだが。」
「ああ、それは僕に任せてよ。」
そう言うやいなや、左腕から2本コードが伸び、それぞれ白い塊に刺さる。そしてその数秒後、突然粘着性を無くした塊は二人と壁から剥がれ、ゴロッと地面に転がり落ちた。
「な、なんで?どうして?」
「さっき僕は君に、原子構造が分かれば、なんでも生み出すことができる。って言ったのを覚えているかい?」
「ああ、覚えてる。」
「それは同時に、構造さえ分かっていれば、その特性を強めることも、無くすこともできる。ってことさ。」
「なるほどな。
じゃあ、これは粘着性を無くした結果。っていうわけか。」
「そういうこと。
更に言えば、この左腕の機械は電子に働きかけることができる物で、基本的にこのコードを概して、原子構成を弄ったり、電子を操ることができるんだ。
ちなみにこのコード、電子に直接接続出来る優れものだよ。」
「なるほど、俺達は電子で出来ているからな。
だから、色んな物に挿すことが出来るのか。」
「そういうこと。
もっとも、原子構成や電子を操ることができるのは、生物以外の物に限るけどね。」
「ん?なんでだ?」
「なんでって、君も言ったろ?
生きとし生ける物全て違うんだ、って。
器は同じでも、中のデータは全て少しずつ異なっているから、下手にいじれないんだ。
せいぜい出来て、データの読み取り、つまり記憶を見るぐらいだね。」
「記憶を見る、ねぇ~。」
それはそれで便利な様な気が………、いや、ちょっと待て。
それって、
「もしかしてあの時のは!?」
「ああ、記憶を読もうとしてた。
もっとも、君はその前に僕の手を弾いたけどね。
正直なところ、本当に驚いたよ。」
そう言いながら、彼はあはは、っと笑っている。
いや、笑えないんだが。
「…っと、そんな話をしている内に、解除出来たよ。」
その言葉と共に扉が開き、彼はさっさと部屋に入って行った。
俺もそれに続いて入ると、
「なんじゃこりゃ!?」
俺は目の前の状況に、あんぐりと口を開けながら驚いていた。
部屋の中央には、鍵穴の付いてない四角の鉄の箱が置いてあり、その周りを赤外線がランダムに飛び交い、床には電気が流れているのか、時折バチッと音している。
そんなもん見たら、叫び声の一つも出るってもんだ。
「こんなの大したことはないよ。」
「いやいや、そうは言うがな?
これはちょっとやり過ぎじゃねえか?」
「まあ、確かにね。
でもね、こんな警備も近付かなきゃ、あっても無くても同じことさ。」
そう言いながら神無月は、近くのパソコンにコードを繋げて操作を始めた。
画面に無数のウィンドウが、次々と文字羅列を並べながら立ち上がっていく。
「うぉぉ、スゲェな。」
「このフォームは技術特化だからね。
この程度のことなら、お茶の子さいさいだよ。
そう言えば、睦月さんはなんでこのフォームの特性がわかったんだい?」
「…最初に疑問に思ったのは、お前がそのフォームになってから、左腕の機械を弄った様子がなかったことだ。
そのくせ、監視カメラの映像は見てるは、トラップは解除してるはで、少し気になっていた。
確信したのは白い塊にやられた時だな。
お前、避けられないのがわかって、左腕だけ残しただろ?
普通は機械を弄る右腕もなんとか残そうとするはずなのに、お前はそれをしなかった。
それで確信したんだ。
それに、お前は戦闘力は皆無だ。とは言ったけど、戦えない。とは言ってなかったしな。」
「なるほどね。
意外と良く見ているんだね。」
「意外とは余計だ。」
そんなことを話つつも、画面上では次々とウィンドウが表れ続ける。
「……あと、どのくらいかかりそうなんだ?」
「今最後の壁に挑むところ、これが越えれば完了だよ。
トラップももうすぐ終わるし、出来るだけ早めにやらなきゃね。」
「ん?トラップが終わる?」
「あれ?言ってなかったっけ?
あれ、ある一定の時間が過ぎると、自動的に終わるんだよ?
それに、恐らくあのトラップじゃ、あいつらは殺せないよ。」
「マジかよ!?
それヤバくないか!?こんな所でのんびりしている暇は「大丈夫。
逃げる算段はついてるよ。」……そ、そうなのか?」
「うん、それに最後の壁も、あと数秒もすれば終わ…。」
そう言いかけた、その時だった。
-ビービービービー-
突然の警告音に俺だけでなく、神無月も驚いた表情を見せる。
「なんだこれは!?
これは、…パスワード?
このタイミングで!?」
「大丈夫なのか?」
「この程度なら大丈………、え?」
「なんだ?どうかしたのか?」
「な、なんなんだ、これは?」
今まで焦りはすれど、普通だった彼の声色に戸惑いが混じる。
「…こんなの、……いるわけが!?」
「おい、神無月。
どうした?なにがあった!?」
「……睦月さん。」
「ん?なんだ?」
「……君は、…こんな生物、……知っているか?」
そう言いながら、彼はパソコンの画面に目をやる。
俺もそれに釣られ目をやると、パスワード画面に変わっていた。
そこには、こう書いてあった。
『この謎かけの答えをパスワードに打ち込みなさい。
問
口は一つ、目は3つ、頭は5つあって手足が1000本ある生き物はなに?』
「………。」
「………うん、なるほどな。」
戸惑いもするわな、こんな問題。
「わかるかい?
睦月さん。」
すがる様な声色で、神無月は俺に問いかけてきた。
ん~~、なんとかしたいけど、そんな生物……。
ん?あれ待てよ?
もしかして、これって……。
「……まあ、普通に考えて居ないわな、そんな生物。」
実際問題、居たら怖いよな、これ。
「……やっぱり知らない、……か。
ここまで来て、諦めないといけないなんて。」
そう言いながら彼は頭を抱え、突っ伏した。
……いやいや、ちょっと待て。
「なんか勘違いしてないか?お前。」
「……え?」
不思議そうな声をだしながら、神無月は顔を上げる。
「別に俺、わからないとは一言も言っていないぞ?」
「……へ?
いやだって、そんな生物居ないって、今言ったじゃないか!?」
「ああ、言った。
むしろ、そんな生物が居るならお目にかかりたい。」
まあ、出来れば避けたいけどね。
そして、俺の言葉に頭をひねっている彼に一言。
「居ない。って認めることが第一歩だ。
まあ聞きなよ。」
そう言いながら、俺はニヤリと笑った。
同じ頃
神無月達の策により、レーザーが飛び交う中に閉じ込められた戦闘員達はというと、
「イィー!!」
元気だった。
「イィー!!」
溢れんばかりの良い笑顔をしながら、彼らは健在だった。
「イィー!!」
某カード会社のCMの踊り子や、某バレー団顔負けの華麗なダンスを踊りながら、時折、
「イィー!!」
と決めポーズまで決めていた。
ちなみに、彼らが本当に踊りを楽しんでたか?というと、
「イィー?(あとどれくらいだろうか?)」
「イィー。(さすがに疲れてきたよ。)」
実はそうでもなかったりする。
では、なぜ彼らは踊っているか?というと、単純にレーザーのに当たらない形がそうなっているだけで、意識してやっているわけではない。
ちなみに、
「イィー。(おい、そろそろだぞ。)」
「イィー。(わかってるよ。)」
『イィー!』
彼らが決めポーズをするのは、格好つけではなく、やらないとレーザーに撃ち抜かれるからである。
とはいえ、神無月も言ったが、これは普通の人なら数秒で細切れにされるぐらいに難しい動きや形が設定されている。
彼ら戦闘員は、改造手術を受けた時に埋め込まれた情報があるから踊れるが、それでも並みの戦闘員では命を落としかねんほどの激しさであった。
では、なぜ彼らは踊れるのか?
それは彼らが数多の任務を乗り越え、厳しい訓練に耐え抜いた戦闘員の中の戦闘員、エリート戦闘員と呼ばれる者達だからである。
彼らは厳しい訓練に耐え抜いた証しとして、赤い腕章を右腕に着けており、戦闘員の間では赤キャプと呼ばれ、憧れと羨望の眼差しを受ける存在なのだ。
また、彼らは通常の戦闘員の約3倍の戦闘力を持ち、身体能力も優れていた。
睦月は彼らの虚をついて逃げたが、戦っていたら、ものの数秒でのされてたに違いない。
それほどまでに、通常の戦闘員達とは一線を画しているのだ。
ちなみに、神無月が殴りかかったのは、普通の戦闘員だったと、ここに明記しておく。
閑話休題
やがてレーザーが終わり、彼らは少し乱れた息を整えた後、前方にある円柱状の白い塊まで駆け寄った。
「イィー、イィー!(蜘蛛男様、レーザーが終わりました!)」「む、そうか。」
前方の白い塊から、そんな声が聞こえたかと思うと、シュルシュルっという音と共に白い塊が少しずつ消えていき、中から蜘蛛男が姿を表した。
「ふん、手間取らせおって。
行くぞ!」
『イィー!!(はっ!!)』
そう言って彼は、なんでもなかったかの様に歩きだし、壁が上がりきった通路を蜘蛛男はすたすたと歩いていき、扉の前で懐からカードキーを取り出した。
「イィー?(急がなくてよろしいんですか?)」
「ふっ、安心しろ。
前回のことがあったから、今回はちょっとした問題を用意しておいたのだ。」
「イィー?(問題ですか?)」
「そうだ、あの手の奴は頭は良いが、固い所が多々ある。
そういうやつには、絶対に解けない問題を用意しておいたのだ。
今頃奴は頭を抱え、悶絶しているにちがいない。」
『イィー!(おぉー!)』
クックックックツと、蜘蛛男が悪いの笑みを浮かべながらカードキーを差し込む後ろで、戦闘員達は拍手を送っていた。
実際問題、彼の目録は正しく、神無月一人だったら間違いなく諦めていただろう。
だが、神無月には幸運なことに、
「イ、イィー。(あ、でも。)」
「ん?なんだ?」
そして、彼には不幸なことに、
「イィー、イィー。(一緒にいた奴、頭柔らかかった様な気が。)」
睦月 好子というイレギュラーな存在がいたことだった。
「あ。」
『イ。(あ。)』
その言葉に反応する様に扉が開き、彼らの前に丁度箱から数枚のディスクを取り出している、神無月達の姿があった。
「あ゛ぁぁぁ!」
『イ゛ィー!(あ゛ぁぁぁ!)』
「おろ、ギリギリだったみたいだな。」
「その様だ、危なかったよ。」
そう言いながら神無月は、手にしたディスクを腰に着けたディスクケースに閉まった。
「おのれ、おのれー!!
そのディスクを返せぇぇぇぇ!!」
「イィー!!(返せ!!)」
「おっと。」
「わわわ!!」
飛びかかってくる蜘蛛男達を睦月は慌てて、神無月は悠々と避けると、二人は蜘蛛男達から再び距離をとる。
「おのれぇぇぇ!
逃げるなぁぁ!」
「ふぅ、まったく。
そんなに慌てなくても、僕達は逃げる気はないよ。」
「いやいや、とっとと逃げないか?」
「ん?なんでだい?」
「なんでだい?って、お前な~。」
いまいち緊張感が無い二人に、蜘蛛男のイライラが積もっていく。
「さっき頭を抱えていたのが、嘘みたい自信だな。」
「な!?
それは関係ないだろ!?」
「でも本当のことだろ?」
「全然関係「ふざけるなぁぁぁ!」おお!?」
「さっきから聞いてれば、関係ないことをごちゃごちゃごちゃごちゃと!
さっさとディスクを返しやがれぇぇぇぇ!!!」
「……さすがにおちょくり過ぎたか?」
「その様だね。」
蜘蛛男のあまりの怒気に、二人は顔を見合わせた。
「なんだとぉぉぉ!?」
「だから止めておこう。って、言ったんだ。
絶対に怒るから。」
「あんな問題を出してきたんだ。
これぐらいは許してくれよ。」
「おいおい。」
「それに、僕は嘘はついてないよ?」
そう言いながら神無月は、プレイヤーの上の方の小さなぼたんを押す。
すると2枚並べて入れられるドライブが出てくる。
「僕は逃げる気はないよ。
なぜなら…、」
そこに2枚のディスクをセットする。
「なぜなら、これで漸く僕も戦えるんだから!!」
そう言いながらドライブを戻すと、周りにディスクを読み取る音が響く。
『仮面ライダー1号』
「ライダー、変身!!」
『仮面ライダークウガ』
「変身!!」
『ミックストール!!』
その電子音と共に無数のウィンドウが、彼の体をおおい、ディスクを読み取る音が更に大きくなる。
そして次の瞬間、
『仮面ライダーハッカー アルト オブ サウザンドアーツ!』
彼の体の周りのウィンドウが弾け、そこには赤色のボディの仮面ライダー1号に似た戦士が立っていた。
彼は人差し指と中指の2本を、蜘蛛男に差し向けると、こう一言。
「Are You Ready?」
次回より漸くバトルパート入ります。
お待ちの方、お待たせしました。
なお、謎かけの答は次回の後書きに書かせていただきます。
もしよろしくければ、皆さんも一緒に考えてみてください。