後輩と、いくつか上の先輩と   作:いろはにほへと✍︎

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僕の存在にはあなたが必要だ。
どうしても必要だ。
―夏目漱石『それから』―




雪ノ下陽乃の吃驚

 「じゃ、お茶とかありがとな」

 

 靴を履きながら、先輩は視線だけを私に流した。その視線を受け取ってから、私はばっちりウインクをこなす。 するとはるさん先輩がどこか見透かしたような目で私を見ていることに気がついた。

 

 なんですか……。

 言いたいことあるなら言ってください。

 

 決して口には出さない。けれど、目は口ほどに物を言うらしいから、はるさん先輩は目ざとく気づいた。

 

 ……ぱっちりウインクされた。

 

 私は含みのある微笑みを返す。それからにこにこ笑顔で先輩の顔を見る。私たちの言葉のない会話に、先輩は困り顔だった。

 

 「先輩、帰り道気をつけてくださいね? 最近、魔王とか出るらしいんで」

 

 「え、マジ? 魔王もついに野生で出てくる時代になったか……」

 

 「なんなら人の家に上がってくる上に宣戦布告してくる時代ですよ?」

 

 「おっかねーな」

 

 ふと、先輩の背後のはるさん先輩と目が合った。おっかない顔だった。顔だけ笑ってた。死ぬかと思った。寒気がはしった。

 

 「ほらー、もう行こうよ比企谷くん」

 

 そう言って、はるさん先輩は、先輩の腕をとって自分の腕と絡ませる。先輩の頬がやや赤く染まった。

 

 「い、いやわかったんで少し離れ……」

 

 「えー? だってほら早く出た方がいいじゃない? きっと迷惑だよ……。ほら一色ちゃん明らかにイライラしてるじゃん」

 

 まあ、それは別の原因なんですけどね?

 

 ……なんでこんなもの見せつけられなくちゃいけないんだろう。

 

 私はすーっと息を吸って、吐き出す。それからゆっくり、決して笑顔は崩さずに口を開く。

 

 「あ、そうだ、これからは、はるさんって呼んでもいいですか?」

 

 はるさん先輩は一瞬あっけに取られてから、返しかけてた踵を戻して私に歩み寄ってくる。そして耳打ちをする。

 

 「いいけど、なんで?」

 

 耳朶にかかる甘い吐息に、やけに大人の色気があった。私は負けじとはるさん先輩の顔を両手で挟んで、耳を向けさせた。はるさん先輩の後ろで、先輩が目を見開くのが見えた。

 

 「先輩というよりも、一人の女性としてライバルですから」

 

 言葉に音を混ぜず、吐き出した息とともに静かな声を耳に送った。一瞬、はるさん先輩の頬が緩んだ。けれどその表情はすぐに戻って、私は慌てて両手を離した。

 すると突然、ぱっと私の顔が冷たいものに包まれた。はるさん先輩の手だと認識すると同時に、彼女の顔が、眼前に迫った。

 

 「いいよ。私もいろはちゃんって呼ぶね」

 

 × × ×

 

 「なんでいるんですか? はるさん」

 

 「んー、なんでだと思う?」

 

 放課後。生徒会をサボって奉仕部に来てみれば、はるさんがすでに先輩の横の席を陣取っていた。

 先輩はまだ来ておらず、かと言って先輩の席に座る訳にも行かず、私は渋々依頼人席に座る。

 

 「えーっと、お友達がいないのかな」

 

 「あはは! いろはちゃんって面白いこと言うね。確かにいないかも」

 

 「じゃあ今日はお友達探しのご依頼ですか? それなら無駄ですよ」

 

 「えー、どうして?」

 

 「だって奉仕部に入ってても、先輩も雪ノ下先輩も友達いないんですから……」

 

 だから無駄です! と言いかけて止まる。あれ、なんかまずいこと言った気がするなあ……。ついでに悪寒がするなあ……。

 

 「一色さん?」

 

 「は、はいぃ」

 

 「前言を撤回する意思はあるのかしら」

 

 氷のような眼差しが、逸らされることなく私の瞳に刺さった。

 私は恐怖のあまり、口から漏らす。

 

 「……ぼっちで孤高を気取っていて、その上、自分最高、とか自惚れているような人間は先輩だけです」

 

 「ひどい言い草だな」

 

 「あ、ヒッキー」

 

 ガラガラと無遠慮に扉が開かれ、話を聞いていたであろう先輩が割って入ってきた。相変わらず、言葉の割には傷ついた素振りがない。まったくいじりがいがないなあ。

 

 先輩は話に割って入ることばかりを意識していたのか、席に座る瞬間になって漸くはるさんの存在に気づいたようだった。傍目から見てもわかるくらい、嫌そうな顔を浮かべた。私は勝利の表情を浮かべ、はるさんを見つめる。けれど、はるさんは、それを意に介するほどの矮小な人間ではないらしい。

 

 「もー、比企谷くんこんな美人のお姉さんに会ってすぐ嫌な顔するなんて、ほんとに男の子?」

 

 「そっすよ、なんなら証明しましょうか?」

 

 ゆい先輩が頬を染める。

 

 「ちょ、ちょっとヒッキーここ部室だし!」

 

 は? と腕を捲る先輩と、顔を赤く染めたゆい先輩の目が合う。机に肘を置いて、先輩は腕相撲で証明するつもりだったらしい。勘違いしたゆい先輩は、茹でダコみたいに真っ赤になった。

 

 「ヒッキーのばか!」

 

 「なんで俺だよ……」

 

 「それより比企谷くんは腕相撲で姉さんに勝つつもりだったのかしら」

 

 「あはは、ほんとに比企谷くんって面白いよねー」

 

 「そうね、こればかりは姉さんに同意だわ。滑稽極まりないもの」

 

 「え、はるさんどれだけ強いんですか」

 

 「やってみる?」

 

 「いえ、遠慮しておきます……」

 

 強さが想像出来るのがはるさんの怖いところだ。レスリング会の女王とか適当なことを言われても納得しそう……。

 

 と、私は本来はるさんに聞かなければいけなかったことを思い出した。少しだけ姿勢を正してから、真っ直ぐにはるさんを見つめた。けれど、実際はるさんに聞いたのは先輩だった。

 

 「今日はいったいどういうご要件で?」

 

 「んー、静ちゃんへの挨拶ついでの監視?」

 

 「なんの監視だよ……」

 

 「最近、泥棒猫が徘徊してるらしいからね。気をつけてよ?」

 

 「は? 泥棒猫? 魔王とか泥棒猫とか物騒だな最近は」

 

 「そうだよねー、盗めもしないくせに盗もうとする間抜けな子らしいからだいじょーぶだとは思うんだけど……」

 

 そこで一旦話を区切って、はるさんは先輩に向き直る。そして少し翳りのある笑みを、先輩に向けた。

 

 「確実なんて存在しないじゃない?」

 

 「……は?」

 

 「現代っ子冷たーい」

 

 「いやいや突然来てなに意味不明なこといってんすか、日本語は得意な方なんですけど」

 

 「そうよ姉さん、彼は国語力だけは、国語力だけは自信があると奢り高ぶっているのだから」

 

 「おいなんで二回言った」

 

 「いや奢り高ぶってるもなかなかひどいですよ先輩……」

 

 「お、おにごーり?」

 

 「それポケモンな」

 

 「かきごーり?」

 

 「それ美味しいやつな」

 

 「あ、これからデザートでも食べに行きませんか? 今日はもう終わって」

 

 「あ、いろはちゃんいいこと言うね! パフェなんてどーかな? ゆきのんそうしようよ!」

 

 「まあ、私は構わないけれど……」

 

 「じゃあおねーさんは先にお暇するね。監視の役目は終わったから」

 

 「だからなんの監視だよ……」

 

 先輩の呟きむなしく、はるさんは荷物を取ると足早に部室を出ようとする。

 

 「それじゃあねー」

 

 手をひらひらと振ると、はるさんはすぐに帰ってしまった。

 

 「ほんとなに考えてんのかわからん」

 

 「あれが姉さんなのよ」

 

 「それもそうだな、じゃあ俺は帰らせてもらうわ」

 

 そう言うと、先輩はカバンに出しかけた本を閉まって、帰る支度をする。五時さえも回っておらず、サボりとも言える時間だ。

 

 「先輩!」

 

 私は精一杯のあざとさ、間違えた、可愛さを詰めて、先輩を呼び止める。

 

 「先輩も行きますよ、パフェ!」

 

 「へ?」

 

 先輩の困った顔が、妙に可愛かった。

 

 

 

 





どうもお久しぶりです。
受験があったり、五等分の花嫁を読んだり、小説読んだり、五等分の花嫁を再読したり、機種変更したり、五等分の花嫁を再読しているうちに気づいたら春休みに入っていました。
とりあえず大学は合格いたしましたことを報告します(*^^*)
あとは五等分の花嫁が最高だということを報告しておきます。いやまじ読んで……。一花と四葉可愛すぎて悶えたんで……。

いつも評価・感想・お気に入り登録などありがとうございます(*^^*)たくさん待ってるんでどうぞどうぞ!
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