ちゃんとした下地を作るためプロローグはさっぱりかつ長めです。
設定を詰め込んでいる形になりますので1章から見て分からなくなったら戻ってくるというのもよろしいかと。
今回の一言
「ゴルベーザってかっこいいよね?」byRIN
私の最初のユグドラシル
―――…カシャン、カシャン…
重く鉄のこすれる音が、規則正しく聞こえる。
―――…カシャン、カシャン、カシャン…
暗く広い空間で音が反響し、孤独な足音に感じる。
―――…カシャン、カシャン、カン…
不意に足音が聞こえなくなって…ようやく気が付いた―――これは自分の足音であると。
その場で周囲を見渡してみると、禍々しいがどこか荘厳さを感じさせる柱が、何本も奥まで続いていた。薄暗く明かりも、壁に掛けられた燭台のみでありながらも、そこには静謐で神々しい雰囲気を感じさせる空気があった――まるで、お伽噺に出てくる魔王の城のように。
今この場所を歩いているのは自分だけで、周りには誰もいない。だが、自分の記憶ではこの場所はもっと騒々しく楽しい場所であって、少なくとも足音から、孤独を感じるような場所ではなかったと覚えている。
―――この場所はこんなに広かっただろうか…?
…その疑問に応えてくれる者は、今は誰もいなかった。
―――残りはあと2時間になった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
DMMORPG「ユグドラシル」
西暦2126年に日本メーカーによってサービスを開始し、世界的な大ヒットを博したゲームである。他のゲームと比較して、プレイヤーの自由度が異様なほど広いことで有名で『無限の遊び方ができる』とも言われていた。
課金こそ必要なものの、様々なアイテムやNPCを作り出せ、外見や効能なども自分の裁量で決定できる。また自分の容姿や種族も、自由に決めることができ、理想的な自分を作り出せる。ユグドラシル内の世界もプレイヤー自身で、未知の場所を冒険し、様々な謎や新しい発見などを切り開くことができる。まさに第二の世界と言ってもよいほどだ。
――そして、現実世界では会社の事務職を細々とやっている女の私も、その世界観に強く惹きつけられ、とある目的を持ってこのゲームをやり始めた。
――その目的とは、『悪役ロールプレイ』をやることだった。
私は元々レトロゲーマーで、21世紀初頭ぐらいに発売されたゲームを好んでやっていた。その中でもRPGが大好きで、仕事から帰ってきたら夢中になってレベル上げに勤しんでいた。
同僚からはよく休みに何をしているかと聞かれて、正直にこのレベル上げのことを話すと『何で昔の単調なレベル上げが楽しいの?』とよく言われる。
確かに、レベル上げ自体は効率の良さを重視し、何度も何度も同じような敵と戦うことが多いため、嫌う人が多いのも事実だ。私としても、時々レベル上げが苦痛に感じることもやはりある。
だが、このレベル上げは私にとっての『ご褒美』があるので、最後まで頑張ってしまうのだ。
そのご褒美とは、魅力的な『敵ボス』と戦うことだ。
RPGのボスは、主人公に何らかの理由で立ち塞がり、その目的を達成させまいと戦いを挑んでくる。その理由は、悪事がばれた時の口封じだったり、欲を満たすための闘争だったり、洗脳を受けた仲間を嗾けてきたり、覚悟を試すための手合わせだったり、はたまた愛する家族に強くなってもらうためにだったり、と本当に多種多様だ。
そういった背景を持ちながら、敵ボスが持っている何かしらの『強さ』を武器に強敵として立ちはだかるのだが、その『強さ』も魅力的で、例えばとんでもない馬鹿力だったり、ものすごい武器を持っていたり、魔法のプロフェッショナルだったり、星や悪魔から力を得ていたり、長年の経験や修行を武器にしたりなど強烈な個性を持っていることが多い。
特に昔のゲームというのは、そんな個性がわかりやすく、ちょっと厨二病的なあれも、心をくすぐってくれるのが良い。――正直に言うと、全てを倒してしまう主人公より、個性的な悪役である敵ボスの方が、私は好きである。
そんな悪役ボスが好きな私が、この自由度の高すぎるユグドラシルで、悪役をやってみたいと思うのはもう当然のことで、今まで見てきた敵ボスの設定資料を読み漁り、どの悪役にするか悩みに悩んで、初っ端から課金に給料のほとんどをつぎ込み、自分の容姿を設定した。
その容姿は…身長は約2m以上あり、意匠を凝らした漆黒のフルアーマーとマントを纏い、様々な魔法を駆使して戦う魔導士である敵ボス『ゴルベーザ』だった。
このゴルベーザとは、ファイナルファンタジー4に現れる物語の中核を担う敵ボスだ。最初は敵軍団の大物として登場し、性格も冷酷非情、部下にも容赦なしで人類を憎んでいると『まさに悪役』という感じで出てくる。しかし後半になってから、本当は黒幕に操られていたり、月の民である主人公の実の兄だったり、洗脳が解けた後の弟を想うセリフなど、きっとゲームをプレイした人は一番印象に残ったボスだったのではないだろうか。
原作に合わせて、種族は『月人』という寿命のないといわれる魔法適性の高い不老種族に設定し、中身が女性であることがばれないように、声も渋い声に変える課金装備を仕込んだ。
一応成長方針としては、職業レベルで同じ魔法でも、近接と遠距離で威力や効果の違うスキルの取れる『サイキックファイター』を取得し、より一層キャラクターに近づけるつもりで考えていた。
ちなみに、なぜゴルベーザになったかというと、上記での説明通り原作や続編でも強烈な個性を持って登場し、非常に心に残っていたからである。それになによりも『漆黒のフルアーマー』に『マント』に『魔法で戦う』なんて、元から持っていた厨二病魂がうずいてしまうではないか。
…それはともかく、私はこのゴルベーザの容姿と共に、悪役ロールプレイをユグドラシルでやることにしたのだった。
ユグドラシルと仕事を両立させながら、約2か月ほどが経った。私が口調やセリフ回しなどに慣れ始めたところで、運命的な新しい出会いがあった。
街の中で、レベル上げのためのアイテムを店で買い込んでいたところで、ふと周りを見渡してみると…私が見たことのあるレトロ系敵ボスの格好をした人がいた。様々なレトロゲームをやりこんだ上、設定資料を最初に見まくったこともあってか、そのキャラの名前もよく覚えていた。
しかし、その時は考えている間に相手が店から出て行ってしまったので、流石に声をかけることはできなかった。話しかければよかったと少し後悔しながら、買い物を続けていたら、新しく店の中に入ってきた客がまたも別のレトロ系敵ボスの格好をした人だった。1世紀も前のゲームなんて、自分ぐらいしかやっていないと思っていたので、2人も見つかると正直驚きが隠せなかった。
頭上のアイコンを確認してみると、この人は『ノエル』さんと言うらしい…というか敵ボスの名前そのままであった。まさか名前まで同じとは…完全に意識して作ったんだろうな…。
そんなことを思いながら、視線を顔へと戻してみると、こちらと同じように、相手も私の頭上を見ながら驚いた顔(アイコン)で見ており…そして、そのまま相手の視線がこちらと合ってしまった。
「…」
「…」
沈黙が痛い。だがこの時私は確信していた。
――こいつは同類だ…と。
相手もきっと同じことを考えていたのだろう。この時出てくるお互いの最初の一言は必然だったと思う。
「やらせていただきます!」
「いいですとも!」
お互いに固い握手を交わした。
第1章からはこの下記の欄で実際の原作設定を書き込んでいきます。名付けて<原作を知ろう!>です。
このプロローグ章では今後出てくるオリジナル設定の下地になりますので、主人公がユグドラシルで一体どんな経緯があったかだけ分かってくれれば大丈夫です。
また、どうしても長いプロローグに時間を取れない方や原作キャラが多く出る一話から見たい人のために、軽く要約したものをプロローグ全話の後書き欄下に書いておきます。細部や物語の伏線などは書きませんのであくまで設定だけです。是非ともご参考に。
今回の概要
①主人公「悪役したいからゴルベーザロールプレイしますわ!」
②同類っぽいノエルさんと会いました!
筆者の本音:一緒に昔のゲームで盛り上がろうぜ!