帝国魔将ゴルベーザ!   作:RIN

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第3話の投稿です!
オーバーロード原作と同じところはいつも通り少なめ。知りたければ書籍を買うんだ!
今回は爪切りさんの運命の出会いが繰り広げられます!

今回の一言
「わかっていただろうにのう ブレイン」byRIN


道化の男

――ブレインSIDE――

 

 

 

 

―――俺は何故このような場所にいるのだろうか…。

 

 

 

 

 ここは『死を振り撒く剣団』のアジトである廃坑内。基本的に廃坑内は狭く、うねる様な道が細々と入り口から山の奥深くまでずっと続いている。

 

 しかし、その中でも特に広い場所――鉱石を一時的に貯めておく場所だったのだろうか?――があり、俺はその場所で下っ端から報告のあった強者達と戦うことになった。

 

 幅も廃坑内にしては広く天井もある程度高いこの場所であれば、俺の悔恨の念と苦心の努力の末に手に入れた剣技を使うには十分な広さがある。

 

 ガゼフに負けた時から一心不乱に鍛えた続けた俺の剣技があれば誰にも負けない!――あいつに出会うまで俺はそう思っていた。

 

 

 

 

「あなた…。そんなに強くはないでありんすか?申し訳ないでありんすぇ。私の測れる強さの物差しは1メートル単位でありんすぇ。1ミリと3ミリの違いってわかりんせんでありんすね。」

 

 

 

――俺の鍛えた剣技が一切効かない…。

 

 

 

「あれ?疲れちゃいんしたかぇ?それにしてもこの爪切りは切れ味が悪いでありんすね。」

 

 

 

――勝てるわけがない。人間の常識を超えた強さを持つ奴なんかに…。

 

 

 

「努力?意味のない言葉よぇ。私は強くあれと生み出されたから、強さを得るのに努力したことなどありんせん。」

 

 

 

――俺の努力は無駄だったのか…。意味は無かったのか…?

 

 

 

「……?あはははははは、何を泣いてありんすの?悲しいことがあったんでありんすか?」

 

 

 

――そうだ…無意味だったのだ。俺の鍛えた技も、俺の努力も、そして俺の人生も…!全てが…すべてが無意味だったんだ…!

 

 

 

「俺は馬鹿だ…。」

 

 

 ああ…俺は馬鹿だったんだ…。こんな強い奴から見れば俺など弱者に過ぎない。俺が弱いと断じてきた奴と同じ弱者だ。ガゼフの時とは違う圧倒的な力の差。努力の必要の無い種族の生まれの違い。

 

 

 悔しい…!努力もしないで力を手に入れた奴が憎い…!俺の人生を無意味に染めた奴を殺したい…!

 

 

 ()()()()()…!()()()()()()()()()()()()()()()()…!しかし…俺には……!

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ああ…俺はこの時に逃げれば良かったんだ。そうすれば巻き込まれずに済んだんだ…。何故あの時あんなことを思ってしまったのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ?お主あの小娘に勝ちたいか?儂が力を貸してやろうかの?」

 

 

 俺の耳に悪魔が囁きかけてきた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ほぉ?お主あの小娘に勝ちたいか?儂が力を貸してやろうかの?」

 

 

 今はシャルティアとブレインしかいない空間にしわがれた声が響く。どちらも聞いたことのない声に大小あれど戸惑っている。

 

「え…何で俺の……?誰だ一体…?ど、どこにいる…!?」

 

「おや?あなたのお仲間じゃないんでありんすかぇ?まぁ私にとってはどっちも同じこと。さっさと姿を現したらどうでありんす?」

 

 ブレインは自分の考えが読まれたことに驚き、シャルティアは新たな獲物の登場に少し期待しているようだ。

 

「慌てんでも良いぞ?儂はここにおる。」

 

 そうして二人が視線を彷徨わせていると、廃坑の奥の影から暗闇を凝縮し、人のような姿が形作られていく。そして、その暗闇から出てきたのは一人の老人だった。

 

 顔はかなりの年を重ねているのか皺が多く、頭頂付近は広く禿げてしまっているが、側頭部から顎にかけて立派な白い髭を生やしている。顔付きからは老人の柔和さは一切無く、眼光の強さも相まって非常に鋭い顔付きをしていた。

 服は脚まで隠れるくらい大きい緑色の法服を着ている。老人にしては腰は曲がっておらずピンと伸ばしているが、身体つき自体は非常に細く折れてしまいそうなほどだ。

 一番特徴的なところは手である。確かに腕と手は繋がっているのだが、何故か手だけが全体像から浮いており、細い身体と相まって大きく見える。そして、その特徴的な手の両方に何かの武器なのか、二つの金属の棒を組み合わせた十字架のような物を持っていた。

 

「あら…?随分とお年を召した方が来たでありんすぇ。これでは血が少なくて物足りないでありんす。」

 

 見た目が明らかに弱そうな老人が来たことで、シャルティアは上品に笑っているが、言葉では老人を嘲っている。

 

「ほっほっほっ…強気なお嬢ちゃんじゃな。お嬢ちゃんの相手は後でしよう。今はちょいとこの男に用があるでの?逃げることはせんから待っていてもらえるかの?」

 

 シャルティアの嘲りも軽く流し、敵であるシャルティアにお嬢ちゃん呼ばわりの上、後で相手をするから待っていろなど、シャルティアを愚弄しているとしか思えないことを言いだした。

 

 当然シャルティアは従うつもりは無い。強者である自身が至高の御方以外の奴に従う必要があるのか。そのことを思い、口に出して言おうとするが…

 

「何故わたしがあなたの……………………?!?」

 

 急に途中で声が出なくなった。そして今気が付いたが、身体が動かなくなっている。何かに縛られているような物理的な物ではなく、身体に力が入らない感じだ。シャルティアも抵抗しようとするが思うように上手く行かない。

 

 項垂れた身体で目だけを動かし、近くの吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)に何とかさせようとするが、姿()()()()()()()()。肝心な時に使えない僕にシャルティアは怒りを覚える。

 

「何も言わないということは良いと言うことかの?ありがとうお嬢ちゃん。すぐに終わらせるからもう少し待っていなさい。」

 

 いけしゃあしゃあと都合の良いことを言い出すこの老人に、更に怒りを覚えながらもシャルティアは自身の中に全意識を向けながら抵抗を続ける。

 

 そして、自身に用があると言われたブレインは震えた手で剣を構えながら謎の老人と対面する。

 

「お、俺に何の用だ…!?俺の思考を読んでまで…お前も俺の努力を否定するつもりか…!!?」

 

 ブレインの心は既に折れかけているのか、涙ながらに自身を自虐するように卑下している。

 

「いいや?儂はお主の努力を否定などせんよ。むしろその努力は認められるべきものであり、このような小娘に摘み取られるべきものではないとも思っておるよ。」

 

 謎の老人の言葉が折れかけたブレインの心に響く。しかし、疑心暗鬼になっている彼は老人の言葉に抗うように反論する。

 

「嘘だ!お前もあの吸血鬼と一緒だろう!弱者の気持ちが…努力もしないで力を得られた奴らに…俺の気持ちが分かるわけがない!!」

 

「ふむ…なるほど。お主の意見も尤もじゃ。しかし、儂について一つ勘違いをしておるよ。あの小娘は元々が真祖の吸血鬼、生まれながらの強者じゃ。だが儂は元は人間じゃ…お主が言う同じ弱者じゃな。」

 

「え……?元は人間なのか…あんた…?」

 

「そうじゃよ。儂は今でこそ邪法で強くなったが、元は頭が良いだけの法律家じゃ。昔は今のお主にも全く勝てんぐらい弱かったぞい?」

 

 ブレインは驚く。あのどうにもならなかった人外の吸血鬼を止めているこの老人は、見た目は人間でも確実に人外だ。しかし、元は自身よりも弱い人間だったと言うのだ。

 

「儂のいたところでは魔物達の被害がとても凄くての。有志達がそれを憂いて皆のために立ち上がったのじゃ。儂もその一人での、参謀役として皆に付いて行くことにしたのじゃ。その時に弱かった儂ら七人は危険を承知で邪法に手を出したのじゃ。それで魔物達はどうにかできたが…まぁそのせいで人間を辞めることになってしまったがのう…。」

 

 なんとこの老人は魔物に抗うために人間を辞めてしまったと言うのだ。それが本当なら、皆のために自分を犠牲にしたこの老人は紛うことなき英雄ではないか。

 

「儂の時は努力をするだけの時間がなかったのじゃ。だからお主自身の努力で得たその強さは、儂にはとても羨ましい物に見える。それを摘み取ろうとするあの小娘が許せんでの。お主に力を貸してやりたくなったのじゃよ。」

 

 ブレインは自分に力を貸すその理由にとりあえず納得した。少なくともこの老人は敵ではないと分かり、握り拳を解いて剣を降ろし、味方として接することとした。しかし、例えこの老人が味方であったとしても、先程の老人の提案には一つ問題があった。

 

「ああ…とりあえず俺に力を貸してくれる理由は分かった。しかし、あんたが力を貸してくれたところで、俺はあの吸血鬼に勝てるのだろうか…?」

 

 そう、明らかな地力の差がブレインとシャルティアの間にはある。ブレイン自身も具体的な差は分からないが、一生を懸けても追いつけないと思える差はあると感じていた。

 

「ふむ…普通では無理じゃの。しかし、儂を小娘から守ってくれるのであれば、出来んこともないぞ?」

 

「守るって言っても、俺の強さじゃ…。」

 

「では例えば、お主が()()()()()()()()()()()()()()()()、儂を守りながらあの小娘を倒すことができるかの?」

 

 同じだけの地力…つまり、()()()()()()()ブレインの努力でどうにかできるのかと聞いていた。それに対してブレインは自信を持って答えた。

 

「ああ…できる!スタートが同じなら俺の努力はどんな奴にも負けない!」

 

「ほっほっほ…良い返事じゃ。ではちょいと身体を借りるぞい。スキル<道化の人形化(クラウン・マリオネット)>!」

 

 すると老人の手に持っていた十字の棒から糸が勢いよく飛び出し、ブレインの身体のあちこちに張り付いていく。そして張り付いた糸からブレインは何かが流れてくるのを感じた。

 

――それは力だった。漠然とした言い方ではあるが、身体全体に力がみなぎってくる。そして同時に何かの知識も流れ込んできた。それはブレインが憧れた最強の剣技の数々、奥義とも言える自身の成しえなかった剣技の最終系…。

 

 ブレインは最高の気分だった。今なら何でも出来る。ガゼフだって倒せる。世界だって征服できる。人類の頂点に今自分は立っている。この剣技を誰かに試したい。誰かを殺したい。皆殺しにしたい。自分以外誰もいなくていい。ああ…()()()()()()鹿()()()()()()()()()()

 

「ククク…どうじゃ?これであの小娘は倒せるかの?」

 

「ああ…!任せてくれ…!ころす…殺してやるぞ!あははははははは!!!」

 

 もうブレインには何のために戦いたかったのか分かっていない。それはきっと誰かが隣で見ていればブレインに対してこう言っただろう――()()()()()()()()()()…。

 

 

「そうかそうか頼もしいのう…。そのまま死ぬまで戦うと良いぞ…ククク…。」

 

 

 

 

 

 




<原作を知ろう!>特別編
七英雄の名前の元ネタ
出典:ロマサガ2
 七英雄はその名前の通り七人いる。全員の名前はワグナス、ノエル、ロックブーケ、ボクオーン、ダンターグ、スービエ、クジンシーの七人だ。全員原作では考え方が違い個性のある七人ではあるが、この七人には名前の元になったものがある。それがJR東日本の電車路線である山手線の駅名だ。実は七英雄の名前は山手線の駅名を逆に読んでもじった名前なのである。実際にワグナス(品川)、ノエル(上野)、ロックブーケ(池袋)、ボクオーン(新大久保)、ダンターグ(五反田)、スービエ(恵比寿)、クジンシー(新宿)となっている。この七英雄の名前は結構有名ではあるが、知らない人にとっては品川やら上野やらでキャラクターの話をされると何が何だか分からない。一応今はあるか定かではないが、2015年にロマンシング・佐賀2のイベントで元ネタの各駅に七英雄のキャラクターとその有名な台詞が何故か佐賀弁になって描かれたポスターが展示された。ちなみにそのイベントのキャッチコピーの一つが「そして、彼らは来た…だが佐賀弁だった」である。

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