帝国魔将ゴルベーザ!   作:RIN

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第4話の投稿です。
今度は鉄級のあの冒険者が登場します。
また爪切りさんの身に何かが起こる!

今回の一言
「おや…ブレインの様子が?」byRIN



人形

――ブリタSIDE――

 

 

 

 

―――何故私はこんなところにいるんだろう。

 

 

 

 

 

 

――ああ…発端はきっとあそこだ。あの時に私が欲をかいて『()()()』なんてしなければ、こんなことにはならなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 私は鉄級冒険者のブリタ。今エ・ランテルの冒険者組合を中心に鉄級冒険者チームで活動している女さ。

 

 万年鉄級冒険者でなかなか上がれないけど、いつかは銀級や金級に昇格してばりばり仕事を受けて行きたいね!

 

 それで今日は街道警備の仕事を任され、皆で都市周辺の魔物なんかを討伐する仕事をしている。都市周辺部はカッツェ平原やトブの大森林が近いこともあって、アンデットや動物型の魔物がたまに出る。

 

 しかし、大体がはぐれの魔物のため、強い魔物はほとんどいない。ただそれでも商人や一般人にとっては脅威になりえるため、人数の多い鉄級冒険者チームの私達が警備をしているのだ。

 

 結構広い範囲で見なければならない上、人数が多いせいか報酬も少ないが、定期的にもらえる仕事なので鉄級の私にはありがたい仕事である。

 

 今日も何もなければいいなと思いながら同じ班の仲間と街道を歩いていると、後ろから誰かが走ってくるのに気が付いた。振り向いて目を凝らして見てみると、確かあの人は隣の道を担当している班の人ではなかっただろうか?

 

「おい、そこの班。隊長から全員集合だとよ。何でも野盗のアジトらしきところを発見したそうだ。」

 

 野盗か…。街道の野盗の討伐または情報の収集も私たちの仕事だ。相手が強ければもっと上のクラスの冒険者や常備兵に任せる。しかしもし私達で野盗を討伐できれば、頭割りでも追加の報酬がたんまりもらえる。私であれば1~2ヵ月は生活できるレベルの報酬である。

 

 野盗は都市にとっては魔物よりもたちが悪い存在で、討伐には相当の報酬を用意している。討伐は命が懸かる分実力が必要だが、ランク昇格や次回の仕事の斡旋も有利になり、自分の格を上げるチャンスでもある。

 

「わかった。みんな行こう!」

 

 降って湧いたチャンスに戦意を上げながら、隊長の招集場所に全員で向かった。

 

 

 

 鉄級冒険者チーム全員で集合場所に集まり、今回の野盗の詳細を聞いた。野盗自体は大規模だが、数だけの集団であり私達でも十分対処できるレベルと判断しているようだ。

 

 一応強者がいる可能性も考え、まず偵察班が相手の状況を探り、その後大丈夫そうであれば、本隊が強襲を掛けることにした。私は一番功績が高くなる偵察班に立候補し夜を待った。

 

 

 

 

―――そう、この時私は実力に見合わぬ『背伸び』をしたのだ。どんなことが待っているかも知らずに…。

 

 

 

 

 夜――10人の冒険者で野盗のアジトを目指す。街道から外れた暗い森の中を全員が黙々と歩く。そして、しばらく森の中を歩いていると開けた場所に出てきた。

 

「静かに…おそらくあの廃坑が野盗のアジトだ。どうやら見張りはいないようだが、周囲が開けすぎて隠れる場所がない。しかし…妙だな…。この地形なら見張りは必須だと思うのだが…。」

 

 隊長が先に状況を確認し全員に伝える。隊長は元は金級冒険者であったが足に怪我をしたため、一度引退してから再度冒険者になった経歴を持つ。今は鉄級ではあるが実戦経験は最も高い。その隊長がしきりに首を傾げている。

 

 自分も身体を乗り出して見てみると、そこは窪地のような草の生えていない荒野のような場所だった。岩や障害物は撤去されており、あるのは木でできた粗末な柵のみである。

 

 おそらく侵入者が来てもあの柵を壁に遠距離攻撃を行うのであろう。隠れる場所が無いので数人から矢を射られれば厳しい状況に追い込まれる。

 

 しかしそれを実行するには見張りは絶対に必要だ。《アラーム/警報》の魔法でもあるのかもしれないが、一気に近づかれて廃坑の入り口を押さえられたら逆に不利になる。足止め要因は最低限必要だろう。

 

「ブリタ…気になるのはわかるがそろそろ頭を引っ込めろ。とりあえず見張りがいないことは好都合だ。まず一気に近づき廃坑内まで進んで相手の様子を見る。もし何かがあれば私が合図をする。その時は反転して撤退。本隊へ合流して検討する。この森の境目に今回二人残す。俺達が戻らない時は本隊を呼んでくれ。では各自アイテムと装備が確認取れ次第報告。その後突入するぞ。」

 

 作戦を簡潔に伝えられ、言われた通り全員が装備とアイテムをチェックした後報告を済ませた。

 

「では、突入する!私に続………うぐおっ!?何だ!?」

 

 そしていざ突入となったときに異変が起きた。森の中で待機していた私達に何者かが横から強襲をかけてきたのだ。隊長は運よくその攻撃が当たらずに済んだが、隊長の隣にあった木が真っ二つに切れていた。

 

「……!!?全員突入中止!!敵を目視で確認しろ!前衛と後衛に分かれて戦闘態勢を取れ!後衛は前衛のフォロー忘れるな!隙を見て逃げるぞ!」

 

 隊長は相手を危険と判断したのか、前後衛の逃げる時に使う戦闘陣形の指示を出した。隊長らの実戦経験の多い者は前衛で攻撃と防御を行い、私や新人らは後衛でアイテム使用や前衛の隙を埋める役だ。

 

 即座に陣形を組み、敵を全員で確認した。だが、そこには信じられないような相手がいた。

 

 

 

―――人形だ。道化の格好をした人形がそこにはいたのだ。

 

 

 

 人形にしては身長は3m近い巨大なものであった。腕や足は骨のような組み方をされており精巧にできている。顔は目元に赤と青の道化のペイントがされていたが、鼻や耳などは無いようだ。頭にも同じように赤と青の色が左右に分かれた帽子をかぶっており、腕や腰巻やパンツにも似たような意匠が施されていた。

 特徴的な部分は二つ。まず、首・腕・太腿付近に巨大な歯車が付いており、不規則にそれぞれがぎちぎちと音を立てながら回転をしていること。もう一つが人形の手や頭周りに大きいサーベルが何本も浮いており、それを人形が手でジャグリングするかのように器用に回していることだった。

 

 

「な、なんだこいつは…!?」

 

 鉄級の中でも実戦経験の多い隊長も見たことが無い魔物のようだ。だが木を一刀の元に斬ってしまう程の力を持っているのは確かだ。

 

 そして、不気味な音を立てていた人形がついに動き始めた。くるくるとその場で回転し、次の瞬間私達の視界から消えてしまったのだ。

 

「なっ!?どこへ消え………あ、あ…?」

 

 隊長含めた前衛が消えた人形を探そうと周囲を見渡そうとするが、前衛は何故かその行動に移すことは出来なかった。

 

 その答えは後衛にいた者達だけがわかった――前衛五人が浮いている五本のサーベルによって、それぞれが身体を両断されていたからだ。

 

 前衛五人がどっと倒れ周囲に血が拡散する。人形はいつの間にか最初と同じ場所に戻ってきており、そして同じようにぎちぎちと不気味な音を立てながら佇んでいる。

 

「う、うわぁぁぁ!?逃げろ!!こ、こんな奴に勝てるわけがない!!」

 

 隊長も含めて前衛全員が一撃で殺されてしまったため、パーティは瓦解してしまった。助かりたい一心でそれぞれブリタを除く四人が違った方向に駆け出していく。しかし…

 

 

「――がっ!?な、なんで…!?前から……!?」

 

 

 四人それぞれが逃げた方向からなんとサーベルが飛んできたのだ。そのサーベルは容易く胴体を真っ二つにし、四人から声が聞こえなくなった。

 

「あ、ああ…あ……。」

 

 ブリタは恐怖で動けず固まっていた。人形は最後の自分に対し、ぎちぎちと音を立てながら少しずつその距離を詰めてくる。

 

「わ、私はいつかは銀級や金級に昇格してばりばり仕事を受けて、誰からも頼られる存在になるんだ…。お金もいっぱい稼いで、おいしいものを食べて、それで…それで…!」

 

 もうブリタ自身で何を言っているのかわからない。思いついたことをただ口に出しているだけだ。人形は無常にも動けない自身に対して、歩みを止めることなく少しずつ近づいてくる。

 

「どうして…どうしてこんなことに…!あの時…あの時私が『背伸び』なんてしなければ…こんなことには…!」

 

 恐怖と後悔で混乱しているブリタを余所に、人形はそのサーベルの間合いに入ったのか浮いているそれを一つ取り、勢いよくそのサーベルを真上に振り上げた。

 

 

「うう…神様…私強くなりたい…。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。こんなやつに…!!」

 

 

 神様への叶わぬ願いを最後の言葉とし、その生命が絶たれた………と思われた。

 

 

 

 

 

 

「ほう…面白い願いじゃな?その願い叶えてやろうかの…?」

 

 

 私の耳に神様が語りかけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「うう…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 薄暗い廃坑の中で絶叫が響き渡る。その声は廃坑内を反射し、まるで山彦のように余韻を残す。

 

 シャルティアが自力で身体の自由を取り戻したのだ。抵抗する為とは言え、絶叫を上げながら立ち上がる姿からは先程の余裕は一切見られなかった。

 

「ほぅ…?『脱力』状態から強引に抜けたか。思った以上に早かったのぅ。」

 

 それに対し謎の老人は余裕を全く崩すことなく、シャルティアが動き出したのを感心して見つめている。

 

「このクソ爺!!私に対しての侮辱…生きて帰れると思うなぁぁ!!」

 

 顔を憤怒で歪ませ目を真っ赤に染め上げながら、怒りという感情を前面に押し出して老人に対して啖呵を切る。正に鬼の形相であった。

 

「おお、これはすまなかった。侮辱する気はなかったのじゃ。ちょいとこやつと作戦会議をしておってな。結果、儂とこやつの二人でお嬢ちゃんと戦うことにしたぞい。」

 

 そう老人が言うと隣にいたブレインが前に出てきた。ただ先程の泣き喚いていた時と違い、妙に戦気に溢れ興奮しているように見える。他に身体中に何か細い糸のようなものが老人と繋がっており、また持っている剣がブレインが最初持っていた刀ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()に変わっていた。

 

「はっ!その雑魚と一緒に戦うですって?私の肌すら傷付けられない程度の輩なんて何の役に立つのよ!冗談も休み休み言いなさい!!」

 

「酷いのう…儂の相棒がボロクソに言われておる。しかし、一応言っておくぞい。冗談でもなんでもない…油断していると痛い目をみるぞ?ほれ、そう言っておる間に…」

 

 

 

 

―――足元に()()()()をしておるぞ…?

 

 

 

――ぼとっ。

 

 

「えっ…?」

 

 シャルティアの右下から何かが落ちた音がした。そのまま音の方向に目を向けてみると、()()()()()()()()()()()。ピントを手前に合わせるように自身の右手を見てみると、その手首から先が消えて無くなっていた。そして思い出したかのように血が勢いよく流れ出してくる。

 

「きゃ…きゃああああぁぁ!い、一体どうなって…!?」

 

 シャルティアは何が起きたか分からず、周囲を見渡し異変が無いか探ると、老人の隣でブレインが剣を振り下ろした態勢になっているのに気が付いた。

 

「秘剣<音速剣>…。凄い!俺の剣技が効いた!これなら勝てる!はははははは!俺は最強だ!!」

 

 そして原因が判明した。なんとブレインがその場で剣技を発動し、剣圧をこちらまで飛ばしてきたのである。先程まで一切の攻撃を与えられなかったブレインが、シャルティアの四肢の一つをもぎ取る技を発動した。これは明らかな異常であった。

 

 シャルティアもこの異常を感じ取り、最強の戦闘態勢に移行する。赤いドレス状の鎧を装着し、その他必要な全武装を一瞬で装着する。また同時に腕も一瞬で回復させ、相手と本気で相対する。

 

「……そこのクソ爺!!お前は一体誰だ!?」

 

 異常の原因は明らかであった。この謎の老人が現れてから全てがおかしくなった。そしてこのブレインの異常な強さもこの老人が原因であることは間違いない。

 

「ククク…カッカッカッ!!今更気が付いたのか脳筋小娘!!この洞窟まで来た時から馬鹿だ馬鹿だと思っておったが、ここまで馬鹿だとは思わなかったぞ!あの場で現れた時点で察しぐらい付いているものだと思うたわい!」

 

 先程までおどけて余裕を持っていた顔が、顔を歪ませる程の邪悪な笑みに変わった。おそらくこちらが本性なのだろう。

 

「しかしお主は脳筋なのに顔は綺麗じゃのう?まるで人形のようじゃ。儂は人形が大好きでのう。そうじゃな…良いことを思いついた。この七英雄のボクオーンがお主を人形にしてやろう!」

 

 ボクオーンと名乗る老人との死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 




<原作を知ろう!>
ボクオーン
出典:ロマサガ2
容姿:緑色の傀儡子
○原作では?
 ロマサガ2の七英雄の一人で通称ずる賢いボクオーン。原作ではステップ地帯に巨大な地上戦艦を建造し、遊牧民ノーマッドが採取する薬草を奪って麻薬を製造。世界各地にばら撒いて金を稼いでいた。また堅牢なヴィクトール要塞を築いて進行を阻み、ボクオーンに挑む主人公である皇帝に罠を仕込んだりとかなりの頭脳派系ボス。もしちゃんとしたルートで戦いを挑まないと、こいつと戦う前に装備を全て没収された状態で戦う羽目になる。
 またボクオーンとの戦闘では、まず戦闘に入る前に命乞いをしてくる。その時にうっかりこいつを許してしまうとバックアタックの状態で陣形を崩されてしまう。絶対に許してはいけない。そして、肝心の戦闘では一番に注意しなければならない技はボクオーンの代名詞ともいえる<マリオネット>だ。これを先制で食らってしまった味方は技の対象が全て味方になってしまい、強力な技をそのまま味方にぶち込んで殺してしまうことがある…非常に危険な技だ。しかし、陣形のラピッドストリームを持っていると味方が必ず先制できるため<マリオネット>を食らうことがなくなり、第一形態は雑魚同然となる。だが敵もそれは考えており、ピエロの大きな人形を携えた第二形態になってラピッドストリームで戦うと敵一列に大ダメージを与える<水鳥剣>が飛んできて全滅することもある。
 しかし大体のプレイヤーは最初の七英雄戦(クジンシーは除く)はこいつになりやすい。厄介な技を使用するものの本体は非常に貧弱で、自身の使う技にさえ気を付けていれば七英雄の中でかなりの雑魚。というか最弱だ。ストーリーや背景的な強さで戦うボスであり、実際の戦闘は弱かったということだろう。
○この小説では?
 様々なスキルと魔法を用いて戦うがかなり癖の強いものが多い。また必殺枠に<道化の人形化>ととあるスキルがあるが内容は今後の展開で。ちなみにマリオネットという魔法がオーバーロード原作にもあるため技をそのまま使うことができない。なんて厄介な…。



仕事の後の執筆は眠い…。眠りこけながら書いてたので変なところがあったらごめんね!

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