今回はナザリックのコキュートスのお話。彼には悩みがあるようだからみんなもしっかり聞いてあげよう!
平和な一幕の中にある一つの違和感…だんだん何かが芽吹いていく。
いつも通り大空のような広い気持ちで見てね!
今回の一言
「違和感とは一つの直感であり、それを放置することで首を絞めることもある」byRIN
――コキュートスSIDE――
――久シブリノ外ダ…。フム…タマニハ周囲ヲ見回ッテミルノモ楽シイモノダナ…。
草の擦れる音、風が自身を撫でる感触、森特有の土臭い匂い、木の葉に遮られながらも刺すような光を放つ日光…どれもコキュートスにとっては物珍しく感じるものばかりだ。
基本的に防衛任務でナザリックに籠っていることがほとんどであるため、ここにあるものはナザリックのジャングルに似てこそいるが生きている脈動をその肌で感じられた…ただコキュートスにとってはこの場所も風景もナザリック以上のものとは微塵も思ってはいないが。
(外ヲ楽シムノハ後ニシヨウ…ソロソロアウラノ作ッテイル拠点ニ戻ラナケレバ…。)
コキュートスは昂った気を静めるために少し外に出ていたのだ。いつも冷静を保っているコキュートスが配下の前で珍しく気が昂らせてしまったためだ。そのコキュートスを昂らせる理由は偉大にして至高なる御方――アインズから直々に指令を貰っていたからだった。
―――アンデッドの軍勢を用いての
今回の任務はかなり特殊だ。用意された弱小アンデッドの大軍を用いて
しかも出来る限り自身の判断でのみ切り抜けるようにとのお達しで、コキュートスには至高なる御方に一体何の狙いがあるのか理解することは叶わなかった。
(シカシ、ドノヨウナ御推察ガアロウトモ失敗ヲスルワケニハイカン…。私ノ外デノ初任務…必ズ成功サセル…!)
ナザリック防衛以外での初めての外での任務…。防衛の任も大役であるとは認識しているが、周囲の守護者達が功績を積み上げるのを見て何も思わぬほど愚鈍ではない。やはり差を付けられている感覚がどうしても付いてまわる。
コキュートスは他の守護者が羨ましかったのだ。戦闘要員である自身に出来ぬことが至高なる御方の役に立っているのが…。そのため今回は戦闘指揮のみとは言え、戦闘要員である自分の格を試すことの出来る任務に神経を注いでいる。気が昂ってしまうのも無理はなかった。
(昂ッタ気モ十分ニ静マッタ。慣レヌ戦闘指揮デハアルガヤルシカナイ。ソレガ御方ノ御意思ナノダカラ。)
コキュートスは散策を切り上げそのまま拠点――偽のナザリックに戻ることにする。拠点に近づく度に小槌の音や木を切る音が大きくなってくる。
そして、大きなナザリック似のログハウスのようなものが見えてきた。確かに外見こそナザリックの入り口に似ているものの、塗装がされていないせいか茶色の木が剥き出しになっている。また、周囲には足場にするためなのか木の枠組みが組まれており、まだ建設途中なのだというのが一目でわかる。
(シカシ、コレモアウラノ能力ガアッテコソノ成果…。マタ一歩他ノ守護者ニ差ヲ付ケラレタカ…。)
おそらく自分ではここまでの状態には行っていないだろうとコキュートスは考えてしまう。やはり自分の能力では偉大なる御方のお役に立つのは難しいのではないか…そんな創造主を否定する最悪の考えが浮かんでしまいそうになる。
(イカン…。コノヨウナコトヲ考エルノハ至高ナル御方達ニ不敬ダ…。私モ何カノオ役ニ立テルハズ…精進セネバ…。)
頭を振り悪い考えを追い出す。少しばかりか足取りが重くなりながらも、そのまま偽のナザリックの中に入っていく。
「あ!コキュートス様ぁ!お帰りなさぁい。気分転換はぁどうでしたかぁ?」
幼い少女のような声色でこちらに声を掛けてくる和服メイド姿の可憐な少女――エントマ・ヴァシリッサ・ゼータが入り口で出迎えてきた。声は甘ったるく可愛い声をしているが顔のパーツは一切微動だにしない。擬態だから仕方のないことではあるが、声とのギャップにやはり少し違和感がある。まぁ、表情の変わらないコキュートスも人のことは言えないのだが…。
「ウム…少シ昂ッタ心ガ元ニ戻ッタ。
「特に大きな動きはありませんよぉ?今まで通り防備を固めたりぃ、数名村から出たり入ったりぃ、したぐらいですかねぇ。」
散策に出て行った時と大差はないようだ。そんなに長く歩いていたわけではないので、そう急激に変わることもないとは思っていたが、念のための確認だ。
コキュートスはエントマから目を離し周囲を見る。そこにはコキュートスの部下が何人かおり、皆一様に鏡――
また部下達が集まっているテーブルの上には大量の
だが、その
消耗品である
それを解決したのがデミウルゴスで『聖王国両脚羊』なる者から皮を剥ぐことで魔法を封入するのに耐えうる羊皮紙の供給を可能にした。
(コレデマタ一ツ差ヲ付ケラレタナ…。)
親友であるデミウルゴスの成功は喜ばしいものだ。事実コキュートス自身も喜んだ。しかし、やはり羨ましさからの嫉妬の念は消すことが出来ず燻っていた。
―――自分も主人の役に立ち、皆と同じように歓喜を味わいたい…。
未だに自身だけ得られぬ劣等感に近い感情は拭いさることは出来ず、コキュートスはただただその場に立ち尽くしていた。
――コン、コン…。
その時、背後から音が聞こえた。どうやらこの部屋の入り口の壁を叩いている音のようだ。おそらくノックの代わりだろう。
「誰ダ…。」
そうして声を掛けるとその入り口付近から出てきたのは、金髪のショートヘアに金と紫という左右の異なる瞳、薄黒い肌と長く尖った耳を持つダークエルフである第6階層守護者の片割れ…
「フム…アウラカ…。」
「――ふふ…そう!私が…『アウラ』だよ!こんにちは!調子はどう?」
「……?」
入り口の縁に身体を寄りかからせながら、笑顔でこちらに挨拶をするアウラ。何の変哲もないただの挨拶のはずなのだが、コキュートスには何か説明できない違和感を感じた。
(先程考エテイタ事ガ悪カッタノカモ知レン…。仲間ニ嫉妬スルナド…馬鹿ナ考エノ所為ダロウナ…。)
しかし、その違和感もきっと自分が不純なことを考えていたのが原因だとコキュートスは結論付けた。コキュートスは自身を戒めながら、その内心を表に出さぬように会話を続ける。
「コチラハ順調ニ任務ヲ進メテイル。
実際の戦闘指示自体には不慣れではあるが、コキュートスは守護者としての虚勢を張る。ただ実際に今の蜥蜴人達では本当に今の手勢だけでもどうにかなりそうではあるのだが…。
「ああ、そうだったね。コキュートスは
「何…?ドウイウコトダ…?」
「おっと…別にコキュートスを蔑ろにしているわけじゃないよ!もしかしたらコキュートスの任務中に偉大なる御方がこちらに来るかもしれないでしょ?だから内装を整えたいだけなの!コキュートスもみすぼらしい場所で御方をお迎えするのはイヤじゃない?」
確かにこの場所は偽のナザリックとして機能する場所ではあるが、仮とは言えナザリックに似せた場所が木の露出したままのみすぼらしい場所では格好がつかない。コキュートスも自分の働きを見てもらう場所が、御方の威光に釣り合っていない場所では座りが良くないのは確かである。
「アウラ様ぁ…一体どういうおつもりですぅ?御方のご指示をお忘れですかぁ?」
しかし、そのアウラの言葉に待ったを掛けたのがエントマだ。守護者はコキュートスの判断を出来る限り歪めることをしないように指示を受けている。おそらくエントマはアインズから受けている指示にアウラが反していると思ったのだろう。
「もちろん覚えているよ!ただあなたは少し勘違いしているね。これはね『提案』なのさ!私はこの場所を御方をお迎えできるようにするべきかもってコキュートスに『提案』しているだけ。ここからはコキュートスが決めればいいよ!これなら問題ないでしょ?」
「むむぅ…でもぉ…。」
一応筋が通っている話にエントマの言葉が詰まる。アウラの行動を諫めたエントマもそう簡単に言葉を引っ込めることができない。それを許していいのかどうか判断が難しいからだ。
「まぁ…確かに判断が難しいかもしれないね…もしかしたら直接聞いてみるのもいいかも。ただ…偉大なる御方に『お迎えする準備をした方がいいですか?』って普通聞くことかなぁ?こういうのって私達が当たり前にやっておくべき事であって、許可を貰ってまですることじゃないと思うんだけど――…あなたはどう思う?」
「う…!た、確かに…そうですぅ…。」
メイドであるエントマも流石にそんなことで許可を取ったりはしない。お迎えする準備などやっておくのが普通であって、いちいち申請を出すことなど無駄である。むしろそんなことも許可が無ければ出来ないメイドなどいらないだろう。
「でしょ?私だってここを任された身なんだから気になっちゃうじゃない?だからコキュートスに提案しようって思ったわけ。それで…どうするコキュートス?一応内装が終わるまで
「ム…?
コキュートスはそういった建築には正直詳しくは無い。コキュートスの想像では内装は相当時間が掛かりそうだと思っていたのだが…。
「うん!大丈夫だよ!元々私って
コキュートスはアウラにそんな特技があるのを初めて知った。きっと今までそれを試す機会が無かったのかもしれない。ちゃんと覚えておこうとコキュートスは心のメモに書き込む。
「分カッタ。デハ、アウラニ部屋ノ内装ヲ任セヨウ。ココニアルモノハ作業ノ邪魔ニナロウ…。皆ノ者!巻物ヤ鏡モ含メ全テ持チ出セ!急イデ行動セヨ!」
「――ハッ!かしこまりました!」
全員がその言葉を聞き急いで撤収作業に入る。配下達は鏡を丁寧に外に運んで行き、
しかし、配下の一人が急ぎ過ぎた所為か、
(フム…少シ急カシ過ギタカ…?マァイイ…ソレデコレハ何ノ
配下が立ち去った後、足元の
(……?コレガ何故
手に取った
(トリアエズ、私ノ持チ物ニ入レテオコウカ…。)
手に持ってしまったものは仕方が無いので、コキュートスは
そうして
―――…お前は危険だな。
「……?ドウシタアウラ…小声デハ聞コエンゾ?…ソレトモ私ノ身体ニ何カ付イテイルノカ?」
コキュートスは何かアウラが言ったような気がしたが、その声を聞き取ることが出来なかった。
「ん?何でもないよ!じゃあ私はそろそろ仕事に入ろうかな!偉大なる御方を招待する準備はしっかりしないとね!」
「…ソウカ。ヨロシク頼ム。」
アウラは先程の様子を一変させてコキュートスから離れる。コキュートスも必要なものの移動は終わったので、アウラに後を任せ部屋を出ていく。そうして部屋にはアウラ以外は誰もいなくなったのだった。
「任せておいてよ…しっかり準備して招待してあげる…。」
―――そう…招待しようか。お前ら全員を地獄までなぁ…!クカカカカ…。
アウラは邪悪な笑みを浮かべて作業を始めたのだった。
アウラの邪悪な笑み…それもアリだと思います!なんかゾクゾクしますねぇ…。
でも、ほんとにこんなタイプの敵が身内にいたら厄介すぎると思う。コキュートスの立場になって考えると…コレどうやって気付けばいいんだ…?