原作とは違う展開を迎えて来ましたこの話…オバロ組の味もしっかり出したいですね。基本的にはアインズ様寄りの視点になっていますが、演出の都合上御察し下さい。
今回の一言
「この意味深なアイテムは今章では使わない予定です。」
空は赤く夕闇の空が広がっている。青々と佇んでいた湖や新緑の溢れていた大森林も夕闇の空に合わせその色を赤く染め上げていた。しかし、この赤ももうじき終わり闇に飲み込まれる時間だ…その時間まで一時間もないことだろう。
そして、大森林の一角では先程まで建設をしていた立派な拠点がその音を止め静寂を保っている。どうやら今日の建設作業は終了したようだ。周囲の動物も音が止んだことで僅かな心の安寧を取り戻しつつあった。
「――よくぞ戻って来た…コキュートスよ。大事は無かったか?」
アインズはその大森林の仮拠点の大部屋…今は玉座の間となっている一室で忠実に再現された玉座に座りながら、頭を下げているコキュートスに話しかける。その様子をアインズの横にいるアルベドやコキュートスの左右に控える守護者達が見ているような形での謁見になっている。
「ハイ…御方ニゴ迷惑ヲオ掛ケシ誠ニ申シ訳ゴザイマセン。シカシ、不覚コソ取リマシタガアノヨウナ軟弱ナ攻撃ナド私ニハ効キマセヌ。」
コキュートスはアインズの言葉に対し、特に相手の攻撃に問題は無かったと答える。むしろ軟弱と評す辺り、少なくともコキュートスにとっては脅威となる攻撃ではなかったのだと思われた。
アインズは部屋の中央に浮いている
今のこの状況は、先程シャルティアに《転移門》で何故か通信阻害を受けたコキュートスを回収してもらい、その大規模な津波攻撃についての報告会をしているところだ。一応この報告会は全員で情報を共有し、敵の情報を掴むためのものなのだが…。
(あの津波の後…
なんと
敵も意味もなくこのような大規模攻撃に出るとは思えないアインズは、様々な理由を自分なりに考えてみるが…やはり情報の少ない今では考察も難しい。この報告会では情報を共有するというよりも、少しでも敵の取っ掛かりを手に入れるためのアインズ直々の事情聴取のような意味合いが強い。
「ふむ…ではコキュートス。相手のあの津波のような攻撃で何かわかったことや不審なことは無かったか?相手の情報を少しでも集めたい。どうだ?何か無かったか?」
そうしてアインズは早速とばかりに相手の情報を掴もうとコキュートスに質問を投げかける。戻ってきたばかりのコキュートスには悪いとは思うが、ここで何としても情報が欲しい。
「イエ…オ役ニ立テズ申シ訳ゴザイマセンガ、相手ノ攻撃ガ思ッタヨリ弱カッタコト程度シカオ伝エデキマセヌ。強イテ言エバ、相手ハコチラノ戦力ヲ見誤ッテイルカモシレナイ…位デショウカ。」
あの謎の津波の現場にいたコキュートスにも、どうやら相手の情報に繋がるものは何もなかったらしい。少しでも情報の欲しかったアインズは、内心少し落胆しながらも表面には出さずに会話を続ける。
「そうか…どうやらコキュートスの言う通り、相手もこちらの戦力を読み違えていたのだろうな。流石に相手の攻撃もレベル100の守護者達には及ばなかったらしい。これが分かっただけでも収穫だろう。」
アインズもこの推論が気休めにしかならないことは承知しながらも、一応分かる限りで答えたコキュートスに役立った情報であったと労う。オールドガーダー達を失ったのは少し痛いものの、守護者が生き残っていれば損害から言えば軽微である。まずはコキュートスが無事戻ってきたことに遠回しながらも言葉を贈った。
しかし、敵の正体や目的が分からないままだ。どこに敵が潜んでいるのか…何故あのような津波を起こしてこちらを攻撃してきたのか…これからどんな行動に出るのか…分からないことだらけである。
「アルベド…索敵の様子はどうだ。」
「いえ…上流を捜索しましたが依然手掛かりも掴めておりません。証拠すら掴ませない手際から察するに、敵はかなり用意周到な者と思われます。」
「デミウルゴス…敵の目的に推察できるところはあるか。お前の意見が聞きたい。」
「申し訳ございませんアインズ様…少々情報が不足しております。様々なことが考えられますが全てが可能性の域を出ません。非才な私をどうかお許し下さい…。」
「アウラ、マーレ、シャルティア…お前達にも何か気付いたことは無かったか?些細なことでも構わんぞ?」
「アインズ様…申し訳ございません。私にはちょっと…。」
「ぼ、僕も特には何も…あ、あのごめんなさいアインズ様…。」
「私もコキュートスを迎えに現場には行ったでありんすが…全部流されて瓦礫しかなかったでありんす。」
「そうか…。」
(守護者達も駄目か…これはかなり厄介な敵かもしれないな。)
拠点外とは言え、ユグドラシルの知識を総動員した索敵に引っ掛からないこの敵にアインズは不気味さを感じていた。アインズの経験上で推察すると、おそらく相手は隠密や何らかの特殊スキルに特化した者の可能性があると考えている。
しかし、そういった特殊な者はユグドラシルでもなかなか見ることは無く、流石のアインズでもどんな手段を用いているのかは想像が出来なかった。
(目的も所在も不明である相手――まさに『見えない敵』か…。頭では分かっていたつもりだが、いざ現実で戦うとなるとこれほどまでに強い圧迫感があるとは思わなかった…。)
シャルティアを洗脳した件もそうだが、見えない相手の暗躍ほど恐ろしいものはない。こちらが叩き潰すための力を持っていても、それを振るう相手がいないのだ。気付いた時に取り返しの付かない事態になっていては、たとえ強大な力を持っていても意味を成さないのである。
(再度誰かを洗脳する機会を伺っているのか…または策のための布石の一環なのか…それとも今回はこちらを脅すためのブラフなのか…。デミウルゴスの言う通り可能性の域を出ない選択肢が多すぎる…。一体何が目的なんだ…?)
考えれば考えるほど相手の行動が読めなくなってくる。だが、この静けさの間に敵が何かの目的のために動いていると思うと、こちらも出来ることをしなければ本当に取り返しの付かない事態になってしまうかもしれない。
「相手の行動は未だに読めない。しかし、まずはコキュートスに
まずは
「では、コキュートス。お前にはこれを渡しておこう――
アインズは異空間から約2m以上はあろう長大な大太刀を取り出す。鞘に包まれていて刀身は見えないが、太刀の部類にしては反りは少なめの直刀近い形状でかなり細身のように見える。
「――…ッ!!ハッ!御方ノ…アインズ様ノ御慈悲ニ感謝シマス!」
コキュートスはやや驚きながらもアインズから大太刀を直接受け取り、じっくりと外見を眺めた後にそれを異空間にしまった。どうやら室内では取り回しが悪いのか今は装備しないようだ。
(まぁ、流石にあの長さじゃそうだろうな…。他の守護者も今は
不意に些細なことが気になったアインズだが、防護効果があれば問題ないとし守護者の装備の件は自己解決した。
「――それにしてもコキュートスよ。
「イエ…問題御座イマセン。アノヨウナ
「そうか…。まぁ、お前であればあのまま
「ハッ!カシコマリマシタ。」
コキュートスも諦めがついていたのか、
「――む…?」
しかし、守護者の中に僅かに顔をしかめた者がいた。その者は表情にこそ出さないが、何かに対して違和感を持っているようだ。アインズはその守護者の反応には気付かず話を続ける。
「では、これから次の方針を決めたい。敵の姿や目的の分からないままだが、このまま手をこまねいているわけにもいかん。ふむ…どうしたものか…。」
(敵が見つかるまでこのままってのもまずいよな。誰か良い案でも出してくれないかな…。)
アインズは自身では良い案が浮かばないため、考えるふりをしながら少し間を持ち、守護者に意見を出させる作戦に出る。横目にちらちらと――主にデミウルゴスへ視線を送り、意見を出してもらえるように努力をする…何故か頷くだけで意図に気付いてもらえなかったが…。
しかしその時、意見を出してきたのは知恵袋のデミウルゴスではなく別の守護者だった。
「――アインズ様…私カラ一ツ良案ガ御座イマス。」
「コキュートス?お前からか…?」
なんと今回はコキュートスから献策が出てきたのだ。あまりない展開にアインズも反射的に聞き返してしまった。
「オホン…すまぬコキュートス。では、お前の良案とやらを聞かせてみせよ。」
「ハッ!結論カラ言イマスト、全員デ本拠点ニ戻ラレテハイカガデショウカ?」
「ナザリック大墳墓に帰るだと…?それに何の意味があるのだ?」
「今ハ敵ガ見ツカッテオラズ、目的モ分カッテオリマセン。相手ノ出方ガ分カラナイ以上、我々ガタダココニ留マルノハ危険ヲ増ヤスダケノ可能性ガアリマス。索敵ハ得意ナ者ニ任セ、我々ハ本拠点…ナザリック大墳墓ニ帰還スベキダト考エマス。」
「ふむ…確かにそうだな。」
(確かにここにいる者が万が一にでも洗脳されたら大変なことになる。それならいっその事拠点に戻り、安全を確保した上で索敵を行うのは悪くない案だな…。何かあれば『転移門』で駆け付ければいいし…。)
アインズもこの単純で分かりやすく、かつ安全性を考慮した提案にかなり魅力を感じていた。実行に移すのも容易で欠点らしいところも見当たらないのも心を後押ししている。
(それに今の手詰まっている状態を打破するのは難しい。相手が見つかるまでの間の話だし、これは採用しても問題ないだろう。コキュートスも成長したなぁ…。)
「うむ…では…―――」
「―――いいえアインズ様。それ以上は結構でございます。後はこのデミウルゴスにお任せ下さい。」
「ぁ、ぇ…――?」
アインズが喜んでコキュートスの意見を採用する直前に、何故かデミウルゴスが話を引き継いできた。呆けた言葉は何とか飲み込んだものの、アインズはデミウルゴスの突然の割り込みに頭が付いて行かなくなっている。
「ドウシタ…デミウルゴス。私ニ何カアルノカ…?」
「ああ…そうだねコキュートス。親友の君にいくつか質問がしたいと思っている―――もちろん…
「………。」
デミウルゴスは不敵に笑みを浮かべ、コキュートスは返答をせず無言で見つめ返す。静かな…そして張り詰めた空気が拠点内を覆っていた。
―――漆黒の夜がもうすぐやってくる。
デミさんは一体何に気付いたのだろうか。
ただ…それに気付いたとしても、少し遅かったかも知れませんね。