帝国魔将ゴルベーザ!   作:RIN

4 / 39
プロローグは今回で終了。
ユグドラシル世界から抜け出します。今後のオリジナル設定(特にNPC関連)が分からなくなった場合、多分このプロローグ4話中に出てくると思いますのでこのお話を読み返しましょう。

今回の一言

「『悪』ってなんだろうね?」byRIN


終末と目指したもの

 ある日ギルドメンバーから、リアルが忙しくてギルドを辞めさせてほしいと相談された。

 

「…リアルが忙しいのであれば仕方がない。」

 

 最近は同じようなことを言っている気がする。しかし、ここはゲームなのだから誰でもいつかこんな日が来ることはわかってはいた。

 

 だが、今回の相談はいつもとは毛色の違うものだった。

 

 このギルドメンバーはノエルさんと同じゲームに出てくるボスキャラのロールプレイをいつもしている人だ。七英雄と呼ばれるものだが、自分が辞めてしまうとせっかく七人揃っているのに迷惑にならないだろうかと悩んでいるようだ。

 

 …ノエルさん達がそういったことを気にすることはないと思うが、確かに自分がこのギルドメンバーと同じ立場で考えると辞めるのは勇気がいるかもしれない。

 

 あまり考えたくはないが、このギルドメンバーと同じように人数が揃ってるからこそ活躍できるボスキャラ、例えば四天王や三魔将みたいなキャラクター達などは迷惑を掛けたくなくて、辞めたくても辞められない人がいるのではないかと思った。

 

―――そのままにしておけばいい。寂しい思いをするくらいなら…――

 

―…駄目だ。辞めたい人をゲームに引き留めることは躊躇われる。やはり関わってきたギルドメンバーのためにも、ゲームより自分の人生を大切にしてほしい。真剣にこの問題について考えなければ…。

 

 

 

 私は後日ギルドメンバーに新たなルールを伝えた。もし今後、諸事情でゲームを辞める時や長期間ログインをしない場合、急ぎでなければ自分と同じ姿をした眷属NPCを作ってからにすること。またもし許すようであれば自身の装備もそのNPCに預けておくことをお願いした。

 

 これであればNPCではあるものの欠員は出ないし、もし辞めた後別アバターで再度ユグドラシルにログインをする気になったら、そのNPCから装備を預かればいい。これである程度けじめを付けた上で、迷惑を掛けることなく辞めることもできるだろう。

 

―――ああ…何故自分で自分の首を絞めるのかな。こんなこと提案しなければ今こんな思いしなくても済んだだろうに…――

 

―…私はギルド長としてやるべきことをやっただけだ。私は…私は間違っていないはずだ。

 

 

 

 その後ギルド内にはギルドメンバーの姿をしたNPCが多くなっていった。最初期には世界最大規模のゲームと言われてきたユグドラシルも他のDMMO-RPGに代替わりをしてきたのである。わかってはいる…新しいゲームがあればそちらへ行くのも当然だし、私だっていつも通りなら見切りをつけて新しいゲームに移り変わっているだろう。

 

 だが…私はいつも通りではなかったらしい。どうしても楽しかった思い出が忘れられずギルドから離れることができなかった。

 

 だから私のわがままに最後まで付き合ってくれたノエルさんが、一緒に別ゲームでギルドを立ち上げようと誘ってくれた時も断ってしまった――…私はユグドラシルが終わるその日までギルド長としてここを守りたいと…。

 

「…新しいギルドでもゴルベーザさんの居場所を用意して待っています…またお会いしましょう。」

 

 

 

 

 

―――私は一人になってしまったのだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――…カシャン、カシャン…

 

重く鉄のこすれる音が規則正しく聞こえる。

 

―――…カシャン、カシャン、カシャン…

 

暗く広い空間で音が反響し、孤独な足音に感じる。

 

―――…カシャン、カシャン、カン…

 

 

…私は今扉の前に立っている。この先は私がラスボスとして立つ定位置…邪神の祭壇だ。

 

 重い扉を漆黒の籠手で開くと…そこにはかつてのプレイヤーや眷属の全NPCが祭壇まで道の両端に傅いて並んでいた。

 

―――あと残り時間は5分…ユグドラシルが終了する時間だ。

 

 祭壇までゆっくりと歩きNPCの顔を見ながら思い出に耽る。楽しかった思い出が溢れてくると同時に、寂しさと怒りと悲しみも同時に込み上げてくる…私の知らない感情が押し寄せてきた。

 

 どの感情もぶつける相手がおらず、ただ自分の中にさまよっている…しかしこの感情もあと少しで終わる。あと数分のうちにここの全てが消えてなくなるのだから…。

 

 祭壇付近では玉座があった。ギルドメンバーがラスボスを務める私のために用意をしてくれた玉座だ。私は祭壇に玉座は似合わないと言ったんだがなぁ…。ラスボスは玉座が定番だと譲ってくれなかったものだ。

 

 また玉座の周囲には私が作ったゴルベーザ四天王が固めていた。かつてのギルドメンバーの姿をしたNPCも私が直々にレベル100まで育て上げたが、やはり最初に作って育てた眷属NPCということもあり、一番愛着のあるNPC達だ。

 

 玉座に座り、そして自分の体を確認する。細かい装飾の施された『黒龍の鎧』が鈍く漆黒の輝きを上げていた。結局、第1回ラスボス決定戦から最後の決定戦まで私が勝ち抜いてしまった。ギルド武器である『黒龍の鎧』も最後までラスボスとして死守することができた…ギルドメンバーから託された役目を最後まで守ることができたのは誇ってもいいだろう。

 

 アイテムボックスを確認してみたら『邪神の宝球』が出てきた。そういえばワールドアイテムはこれ以外だと2つしか手に入れられなかった。しかしこれ以上手を出したら、かの有名な『極悪PKギルド』に狙われるかもしれなかったからこれでいいかもしれない。

 

 私も『悪』について語り合うギルド外の友人から聞いて知ったのだが、ギルドに侵入してきた1500人ものプレイヤーを返り討ちにした伝説的ギルドだそうだ。そんなとんでもないプレイヤー達など絶対に会いたくない。

 

 

―――残り時間は1分…この1秒がとても長く感じる。

 

 

 私はこのユグドラシルで何がしたかったのだろう。

 

――仲間と楽しみたかった?…それならノエルさんについていけばよかった話だ。

 

――ラスボスやギルド長の座がほしかった?…望みはしたがこれも結果論であってやりたかったことではない。

 

――ギルドを存続させたかった?…愛着はあるがユグドラシルでしたかったことじゃない。

 

 そういえば私は何でこのユグドラシルを始めたのだったか…?

 

 

―――残り時間は30秒…私は考えに没頭している。

 

 

 ああ…思い出した。私は『悪役ロールプレイ』をやりたくてここに来たんだった。ギルドメンバーが少なくなってからは、ロールプレイも何もできなかったな…。みんながいなくなってからの悲しい気持ちが大きくなりすぎて、何をやりたかったのかすら忘れてしまっていたようだ。

 

 

―――残り時間は10秒…時間は非情である。

 

 

 今更こんなこと思い出しても……もう時間がない。もしも…もしも次があるのならば…

 

 

 

―――残り時間は5秒…最後の時が迫る。

 

 

 

 

 

「私は…『悪』になりたい。」

 

 

 

 

 

 

00:00ユグドラシルは終わりを迎えた。

 

 

 




今回の概要
①プレイヤーが辞めてみんなNPCに…。
②みんなのNPCは私が育てた!
③さよならユグドラシル…。






筆者の本音:本当に…『悪』ってなんだろうね…?

みんなが思う『悪』はなんですか?きっとそれが今後の一つのテーマと目的。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。