2号とティアナが入った部屋の先には、一人の少女がうずくまりながら泣いていた。
「まさか、この子が?」
「転生者、みたいですね。
あの猫と、同じ反応が見られますので」
「じゃあ、この子を更正すれば…」
ティアナは2号に提案する。
もし、目の前の少女を更正すれば、この街の騒動も、猫たちも消えると思って。
「…」
ティアナの言葉を聞いて、2号は手元にある手錠と少女を交互に見る。
「…いえ、今はまだやめておきましょう」
「え?」
そう言って、2号は手錠をしまう。
「ど、どうしてですか?
目の前に、転生者がいるのに」
「確かに、転生者です。
ですが、この人をすぐに更正すると、余計騒がしくなると思いまして」
「どういうこと、ですか?」
「この子のからの反応で、暴走している可能性があるからです。
だから、更生したところで、主を失った特典はさらに暴走するかもしれないんです」
「じゃ、じゃあ!
どうすればいいですか!?」
「…私に、考えがあります。
ですので、ティアナさんはしばらく、外から猫が来ないかを見てもらっていいですか?」
「っ!
…わかりました」
どこか納得のいかない様子で、ティアナは壁の隙間や特典の反応から、猫が来ないかを見張る。
2号は少女の方へと近づく。
「うっ…ぐすっ…!」
「あの…、こんにちは」
「ひっ!?」
2号は少女に声を掛けるが、少女は驚いて怯えてしまっている。
この姿で話かけると余計に警戒されると判断したのか、2号は変身を解除した。
「落ち着いてください!
決して、怪しい者ではありません!」
かこは怯える少女を説得しようとする。
だが、少女は耳を塞ぎ、さらにうずくまってしまう。
「…」
かこは少女の様子を見て、少し考える。
すると、かこは少女の手を握った。
「あ…」
少女は急に手を握られて驚いたように、かこを見る。
かこは、そんな少女に優しく微笑む。
「大丈夫です。
私たちは、あなたの敵ではありません。
だから、どうか落ち着いてもらえますか?」
「…」
少女は涙を流したまま、かこの胸に顔をうずめく。
かこは、少女が落ち着くまで、優しく頭を撫で続けた。
それから数分後。
「落ち着きましたか?」
「はい、ありがとうございます!」
落ち着きを取り戻した少女は、涙を拭きながら元気にそう答えた。
「うん、それは良かったです。
私は、かこと言います。
よろしければ、あなたの名前を聞かせてもらって良いですか?」
「はい!
綾野 理恵って言います!
この世界には、今日この世界に来たばかりの転生者です!」
「そ、そうなんですか」
流石のかこも、目の前の少女、理恵の発言には驚いた。
まさか、自ら堂々と転生者と言うのだから。
「じゃあ、あの猫たちは、あなたの特典ということで、間違いないですか?」
「そ、そうなんです…。
なぜか、あの猫が私の特典として入ってたんです」
「入ってた?
それはどういうことですか?」
「はい、実は…」
理恵は説明する。
自分は死んだと思ったら、気が付いたらこの世界に飛ばされていたこと。
自分の手元に、身に覚えのないカードが入ってたこと。
それが怖くなって、近くにあった交番に届けたこと。
交番に届けて、しばらくしたら携帯から猫が一匹飛び出し、そこから一気に増えていったこと。
それと同時に、自分の携帯に入れた覚えのないアプリであるにゃんこ大戦争が入っていて、そのアプリから断続的に料金の請求が来ていること。
その二つが怖くなって、行く当てもないままこの廃墟にたどり着いたこと。
それらを説明した。
「…おそらくは、そのカードが手元になくなったから、そのアプリの特典が暴走したのかもしれませんね」
「え?
やっぱり、これが特典なんですか!?
じゃあ、どうすれば止まるんですか!?」
理恵は泣きそうになりながら、かこに詰め寄る。
「理恵さん。
そのカードは、どこの交番に届けましたか?」
「え?」
かこは真剣な顔で、理恵の顔を見つめながら聞いた。
そのころ、ティアナは廃墟の壁の隙間と探知機の特典の反応から、猫が来ないかを見張っていた。
「はあ…。
かこさん、なんですぐに更生しなかったのかしら…」
ティアナは先ほどのかこの行動に理解ができなかった。
探知機を確認しても、あの少女が特典の持ち主だという事は確かだ。
だが、かこはそれをせず、変身解除し、あの少女に手を差し伸べた。
「考えがあるって、行ってたけど。
それに暴走って…」
ティアナはまたしてもため息をついた。
その時に、かこが少女を連れてきた。
「ティアナさん、話は終わりました」
「そうですか。
あの、それで考えとは何ですか?」
「はい。
理恵さんをこの街の交番にお連れします。
その交番に、この特典を止めるためのカードがあるんです」
「というか、私がそこに届けちゃったんですけど…」
ははは、と力のない笑いをする少女、理恵と、かこの話を聞いて、ティアナは察した。
「つまり、彼女のカードがある交番に向かうから、それに協力してほしい、ってことですよね?」
ティアナは半ば呆れながら納得した。
ティアナはスバルのようにパトレンジャーと一緒にいたわけじゃないから、あまりパトレンジャーが過去に、どんな転生者を更生したかを知らない。
だが、かこの言っていた考えについて予想していた。
前に暴走した状態で転生者を更生したせいで、特典がひとりでに暴走して大変なことになったことを。
だから、今回はそれを防ぐために、手を差し伸べたのだと。
「あの、それでティアナさん。
それで頼みたいことがあるんですけど、良いですか?」
「な、何ですか?」
かこは、ティアナにあることを頼んだ。
街には猫が蔓延っている。
街の各地で、バンやなのはたちが対処しているが、それはいつまで持つかわからない。
かこたちが言っていた交番がある。
だが、その場所にも猫がいた。
まるで何かを探すかのようにあちこちを見てから、どこかへと飛び跳ねていった。
すると、交番の近くの壁の空間が歪み、かこたち三人の姿が現れた。
「どうやら、何とか着きましたね」
「まさか、オプティックハイドを使って隠れながら進むのが作戦だったとは…」
「でも、なんか忍者っぽくないですか?」
「私は魔導師ですよ。
…確かに、幻術も使えますが」
「それでも、ありがとうございます!
これであの猫たちと遭遇せずにたどり着けました!」
「お、お礼は良いので早く交番に行ってください!」
ティアナは顔を赤くて顔をそらす。
「わかりました。
理恵さん、行きましょう!」
「はい!」
かこは理恵の手を引いて交番に向かった。
「お邪魔します!」
「お巡りさん、いらっしゃいますか?」
交番に入って、二人は呼びかけた。
「…誰も、いないみたいですね」
「待ってください!
机の影に人が!」
理恵に言われてかこは机の影を見る。
「うっ、うぅ」
「まさか、この交番のお巡りさんですか!?」
かこと理恵は倒れこんでいた警官に駆け寄る。
よく見ると、頭から血を流して気を失っていたようだ。
「しっかりしてください!
大丈夫ですか!?」
呼びかけが聞こえたのか、警官は呻きながらかこたちを見た。
「うっ、何を、している。
ここは危険だから、早く、逃げなさい…!」
「それはわかってます。
ですが、その前にこの子がこの交番にカードを渡したみたいんですが、それはどこにあるんですか?」
「この子?
…君はさっきの!
確か、机の引き出しの中に保管してあるよ。
そのカードに何か心当たりが、あったのかい?」
「もしかしたら、彼女が間違えて、そのカードを出したかもしれないので、その確認です」
「そうなのか…。
確かに、あの子は名前を言わなかったから、それとそのカードの名前が一致すれば」
警官は頭を押さえながら机の中を開けてカードを取り出した。
「このカードだったはずだ。
名前は、綾野理恵さん、だね」
「ありがとうございます!
それ、私の名前なんです…!」
「そうなんだ。
大切に、使いなさい」
「はい、ありがとうございます!」
理恵は涙を流しながら、警官からカードを受け取り、礼を言う。
だが、その喜びも束の間だった。
地面が揺れ、何かが近づいているのが聞こえた。
「な、何だ!?」
「これは、まさか…!」
「かこさん、大変です!」
ティアナが交番の入り口から声を張り上げる。
「あの猫たちが、雪崩みたいになってこっちに迫ってます!」
「な、雪崩…!?
い、いや…、助けて…!」
「理恵さん!?」
雪崩と聞いた瞬間、理恵は頭を抱えて、泣きながらしゃがみこんだ。
まるで、トラウマを思い出したかのように。
「助けて、助けてよぉ…!
私はあの冷たい中で一人ぼっちで死にたくない!
お願いだから、私を一人にしないでぇっ!!」
理恵は支離滅裂に叫ぶ。
「理恵さんっ!」
「っ!?」
かこの声で理恵はハッとする。
「私たちは、あなたを一人にはしません。
ですから、私と一緒に、この特典の暴走を止めましょう!」
「…はい!」
理恵は携帯を取りだし、にゃんこ大戦争のアプリを開く。
そして、かこの言葉を聞いて、その請求の支払いまでのページへと進む。
「あとは、このIDを入力してOKを押してください!」
「わかりました!」
「しまった!」
ティアナが次々と迫る猫を数匹を撃ち漏らしてしまい、交番の中に入ってきた。
「理恵さんは、やらせません!
警察チェンジ!」
かこはパトレン2号に変身し、パトメガボーで理恵に当たらないように弾いていく。
「かこさん!」
「理恵さん、私たちが止めてる隙に、早く!」
「はいっ!」
そう言って、理恵はカードのIDを間違えないように確認しながら入力する。
そして、OKボタンを押した。
すると、街中の猫が一斉に動きを止めた。
そして、猫の体は砂になるように消えた。
こうして、街を覆っていた猫は消えた。
交番を後にしたかこと理恵は、近くにあった公園にいた。
「やっぱり、そうなるんですよね」
「はい…。
暴走したとはいえ、私はあなたを更正しなくちゃいけないんです」
かこは理恵に、更正の話をする。
当然、理恵の顔は暗かった。
「でも、やっぱり寂しいですよね。
特典ごと、記憶も無くしちゃいますから。
かこさんたちとの、思い出も、全部」
「はい…」
かこは小さな手を震えるほど握る。
「でも…」
「?」
「でも、記憶も特典を失って、別の世界に行っても、あなたのこれからは幸せに満ちてると信じてます!」
「え?
どうして、ですか?」
「私も、転生した先で、大切な人たちと会いました。
だから、その先で辛いことがあっても、その人たちと入れたから、私は幸せになったんです」
「…」
「ですから、私は、あなたの幸せを願います!」
かこは真剣な眼差しで理恵に言った。
自分は転生して幸福になった。
その思いは、決して間違いではないと。
「…わかりました。
更正して、別の世界に行って記憶を失っても、きっと幸せになれるように、頑張ります!」
その言葉を聞いて、かこは理恵の手に手錠を嵌めた。
「ありがとう、優しいお巡りさん…」
光の粒子になりながら、理恵はそう言って、転送された。
「…あなたに、幸せの祝福があらんことを、祈ります」
かこは微笑みながら、空に向かってそう言った。
「終わった、みたいですね」
「ティアナさん」
理恵を見送った後、ティアナが歩み寄ってきた。
「かこさん」
「はい?」
「あなたはどうして、理恵さんに手を差し伸べたのですか?
単純に、暴走を止めるためだけじゃないですよね」
「…似ていたんです。
彼女が、生前と転生直後の私に。
だから、この人にも幸せになってほしいな、なんて」
「え?」
かこは少し恥ずかしそうに、ティアナの質問に答えた。
「さぁ、早くバン隊長と合流しましょう、ティアナ!」
「は、はい!」
かこは通信機を使ってバンたちに連絡し、合流する場所へと移動しようとし、ティアナはそれについていく。
あることを考えながら。
「…かこさんたちの生前や転生直後に、なにがあったんだろ?」