ゴーレムの転生者を更正してから数日後、バンは復帰し、仕事の合間を縫って、トリガーマシンスペーススクワッドで練習し、何とか吐き気を克服した。
そして、今バンたちは少女が眠る病室にいた、亀山と霞と一緒に。
だが、かこだけは右京のいる長官室に呼ばれたので、その場にいない。
「この子の状態はどうなんだよ?」
「…あの時、かこが使ったトリガーマシンのおかげで徐々に回復に向かってるわ。
…まだ、意識は戻らないけど」
「それで亀山さん。
ボクたちに話って、何なんですか?」
「あぁ、実はこの子のことで、色々とわかったことがあるんだ。
何で、この子が狙われたのかも」
そう言うと、亀山は二人にデータを見せた。
その内容には、少女が元々転生者だったが、その特典はすでに奪われており、普通の人間として生きていたが、それを知らない組織に拉致監禁及び拷問されていたことなどが記されていた。
また、その奪われた特典がどんなものだったのかも記されていた。
「…お金が湯水のように出る特典?」
「でも、特典を奪われて普通の人間になったってことは…」
「おそらく、それをやったのはルパンレンジャーよ」
「あの怪盗たちが!?」
「うん。
俺もルパンレンジャーの事調べてたからわかるけど、あの怪盗に特典を奪われると、転生者は普通の人間になるみたいだ」
「ま、今まであの怪盗たちと戦ったあんたたちならわかるでしょ?」
「…そう言えば!」
バンは思い返した。
初めてルパンレンジャーと対峙したときにことを。
あの時、目の前で特典を奪われた転生者を更生しようとして手錠を嵌めたときにことを。
そして、その転生はもうただの人間になっていたので、更生することができなかったことを。
「…でも、この子の場合、この特典を使って何か悪いことをしていたってわけでも、暴走したってわけでもないみたいよ」
「…?」
そう言うと、霞は少女の経歴のデータを表示する。
「この子は、転生するときに、自らの承諾もなしに神様から特典を授けられたみたいなの。
そして、この子は生前縁のなかった家族を手に入れて、それなりに暮らしてたけど、一度親が多額の借金を背負ったときにその特典で返済したことがきっかけで周囲に知られて、その特典を目当てに誘拐されそうになったってわけよ」
「そんな時に、ルパンレンジャーが特典を盗みに来たってことか…」
「うん。
何か、特典を奪われたあとは、狙われることもなくなったから、この子は家族と幸せに暮らしてたってことなんだ…」
亀山は少し複雑な表情を浮かべながら言う。
「…」
その話を聞いて、バンは複雑な気持ちになりながら少女を見る。
「…世の中には、特典を奪われた人は、犯罪を犯す人って訳じゃないんだよね…」
「それについては、あんたらの偏見でしょ?
転生者だって元は人間なんだから、犯罪者になるやつもいれば、一般人として家族と生きるやつもいるってことよ」
「そりゃあそうだけど、さ…」
アストルフォはどう言えば良いのかわからず黙ってしまう。
だが、そう言った霞も少し表情が暗かった。
すると、バンは頭を掻きながら質問する。
「…話を戻すけどよ、何で普通の人間になったこの子が、拉致監禁されてるんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。
…誤認よ。
この子には特典はもうないのに、それをまだ持っていると思って、連れ去った。
って、私は思うわ…」
「マジかよ…っ!」
それを聞いてバンは拳を握る。
すると、亀山の携帯が鳴った。
「ごめん…!
…もしもし、右京さんですか?
はい、はい。
…え?
わかりました、ではバンくんとアストルフォを連れてきます」
「…長官から、ですか?」
亀山が電話を切ったのを確認したバンが聞いた。
「うん。
今からエリス様のところに行くから、長官室に来るようにってさ」
「エリス様が?
…わかりました。
行くぞ、アストルフォ」
「うん。
霞、その子をお願いね?」
「わかったからさっさと行きなさい」
バンとアストルフォは複雑な表情を浮かべて少女を見た後、亀山に連れられ病室を後にした。
一人取り残された霞は、アンテナの髪飾りから以上な反応を捉えながら呟いた。
「…気を付けなさいよ。
今度の相手は、パトレンジャーにとって、存在意義を疑うようなやつだから」
そう呟いた霞の表情は、どこか悲しげだった。
時間は遡り、かこは長官室に呼ばれていた。
「君だけここに来てもらって、大変申し訳ありませんねぇ」
「いえ良いんです。
それで、私に話って何なのでしょうか?」
かこがそう言うと、右京はファイルを取り出し、その中の資料を取り出した。
「ここ最近君たちが戦ったお金の紋章の転生者のことなのですけど、実はある企業が関わっているのではと思いましてねぇ。
その企業について、お確かめしてほしいことがあるのです」
「企業、ですか?
でも、その話をするだけなら、私だけじゃなくても…」
「金丈コーポレーション、という企業を知ってるはずですよね?」
「金丈コーポレーション!?
…はい、生前両親と一緒に経営していた図書館の近くに建ってた大企業の、はずです」
かこは少し驚いた表情で言った。
「なるほど、ではそこはどんな企業だったのか、わかりますか?」
「え、えーと…」
右京に言われ、かこは金丈コーポレーションはどんなものだったのかを説明した。
その企業は様々な分野に力を入れている上、経済力が恐ろしいくらいまですごかったこと。
その上、そこの就職率も異常なまでに高く、中にはあまり活動的ではなかった人も、そこに入って人が変わったように仕事に打ち込むようになったことがあったこと。
また、本来なら肩を並べてもおかしくもない企業を同盟や協力関係ではなく、傘下に置いて、その企業の社員や社長も何のためらいもなく、例え本来の企業の理念や方針に反することがあっても従っていること。
それだけじゃなく、企業に限らずスーパーや飲食店、図書館などの小規模の施設も傘下にしていたこと。
そして、数回かこと両親の図書館に訪問して、傘下に入るか図書館の土地を明け渡すのかという話を持ち出し、両親はそれを断ったことなどがあった。
「…そうでしたか、聞く限りではあまりにも奇妙な企業ですねぇ?
しかし、なぜ君のご両親はお断りしたのでしょうか?」
「…図書館の方針を曲げたくないという事もあるのですけど、いくら大企業だからと言っても、様々な企業などを必ず傘下にするのはおかしいと思ったからです。
何より、あの時いくつかのジュラルミンケースに入った多額のお金を見せてこれでも考えないかと迫ったことがあるからです」
「ジュラルミンケースを?
…ちなみに誰が訪問しましたか?」
「はい、最初の数回は社員さんでした。
でも、最後にジュラルミンケースを持ってきたのはその社長で、その時は数人のSPを連れていました」
「なるほど。
では最後に、一つ確認しても良いですか?」
「何でしょうか?」
「図書館に身に覚えのない莫大な借金を背負う前の、常連客からのクレームは来た時期は、そのあとですか?
それと、その常連客はいつもと何か違いはありましたか?」
「…え?
えーと、そうですね…。
…!」
金丈コーポレーションの話からいきなり図書館に起こったことを聞かれ少し動揺するかこだが、その時のことを思い出そうとする。
「はい、確かそのあとだったと思います。
あと、クレームについてですが…」
かこは一拍間を置いて、口を開く。
「クレームを言ってきた常連客の人たちは皆目に、お金の紋章がありました…!」
「それは、君から見たときに、間違いはありませんね?」
「はい!
そのはずです!」
「そうでしたか…」
そう言って、右京はデータや資料を一目見る。
「…やはり、君の言うとおりですね」
「え…?」
かこは思わずきょとんとする。
その様子を見た右京は過去に資料とデータを見せた。
「実は君たちが断罪兄弟と戦っている時に調べたのですが、君がいた世界ではお金の紋章の反応が多数見られたのですよ。
それに、こちらの記録を見てください」
「…?」
かこはピックアップされたデータを見る。
「これは、君が殺される前の時間の世界の記録です。
…時期的には、常連客からクレームを言われた時と、その直前の君のご両親がお断りした時です」
「…。
えっ、そんな…!」
かこは記録を見て驚く。
そこには断った直前かた直後に掛けて、お金の紋章の反応が急激に上がったことが記されていた。
そして、データを見たままかこは口を開いた。
「…長官、お金の紋章を持つ人達はその転生者の部下だってことはわかります。
ですが、これって、いや、これが本当だとするなら、常連客や両親を連れ去った人たちは…」
「えぇ。
君のご察しの通り、彼らは転生者によって操られた人たちです。
おそらく、お金を人を操り、その人の意思すらも捻じ曲げることができるでしょう。
そして、その特典を持っているのは、彼だけですねぇ」
右京は転生者リストから一人のデータを出した。
「彼の名前は金丈 公也。
金丈コーポレーションの創設者にして、若き社長。
…かこちゃんは一度彼とは会っていますね?」
「はい、その人がジュラルミンケースを持ってきて、中にあった大量のお金を見せつけていました」
「…なるほど。
では近日中にも…!」
言葉の途中で右京の動きが止まり、頭に手を当てる。
「…なるほど、わかりました。
ではすぐにパトレンジャーを収集し、そちらに向かいます」
そう言った後、頭から手を離す。
「あの、エリス様、ですか?」
「…えぇ。
しかし、今回はかなりまずい状況のようですねぇ」
「…?」
右京はそう言うと、電話を使って亀山に連絡した。