転生者を更正する警察集団   作:ガンダムラザーニャ

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それぞれの事情と前兆

デビルガンダムPとの闘いから二日が経った。

 

あの件から意気消沈としていたバンたちに、例の少女が意識を取り戻したという連絡が入った。

 

かことアストルフォは少女がいる病室に向かうのだが、バンは別の用事があるとのことで、二人で行くことになった。

 

「…意識を取り戻したけど、拷問された時のトラウマもあるかも知れないから、無理に刺激するじゃないわよ」

 

病室の前にいる霞にそう忠告されて、二人は無言で頷き、中に入って行き、霞もそれについて行くように入って行った。

 

病室のベッドに上には、一人の少女が、上半身だけ起こしてぼうっとしていた。

 

「…」

 

ぼうっとしていた少女はかこたちが入ってきたことに気が付いたのか、顔だけを向ける。

 

「あっ…」

 

少女はかこたちの顔を見て、すぐにかことアストルフォ太股に懸架されたVSチェンジャーを見つけた。

 

すると、少女は涙を流し始めた。

 

「えっ!?

あの、ちょっと…」

 

「ど、どうしたのっ!?」

 

「…」

 

かことアストルフォは突然泣き出した少女に狼狽える。

 

霞はそれに目をそらし、複雑な表情になる。

 

「か、いとう…さん?」

 

「えっ?」

 

「また、私を、助けてくれたんですか…?」

 

少女は泣きながら、そう言う。

 

すると少女はベッドから身を乗り出し、ベッドから落ちそうになる。

 

「あ、危ないっ!!」

 

アストルフォが走り出して、慌てながらも少女の体を支える。

 

少女は支えられながら、アストルフォの体に抱きついた。

 

「ありがとう…、怪盗さん。

ありがとう…」

 

「怪盗…?

ちょっと、待ってよ…!

ボクたちは…」

 

「あの、霞さん、これは…」

 

「…見ての通りよ。

あの子は、かつて怪盗に特典を奪われた、元転生者よ。

多分、あんたたちが持ってるVSチェンジャーが怪盗のとそっくりだったから、あんな反応してるんでしょうね」

 

「…!」

 

かこは霞の言葉を聞いて驚いた。

 

「あの子の場合、特典を奪われたことで幸せになった人間なのよ。

…皮肉なことに、ね」

 

霞は話をしていくうちに、表情が暗くなる。

 

「ねぇちょっとぉっ!

二人で話をしてないで早く何とかしてよぉ!!」

 

一人では対処仕切れなくて、涙目になりながら助けを呼ぶアストルフォ。

 

二人はそれを聞いて、アストルフォの手伝いをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、バンは様々な世界を巡りながら、様々な転生者の様子を見ていた。

 

今まで更生してきた転生者たちの様子を。

 

そして今は、その根本のきっかけになったともとれる、ドリィの転生者の更生先の世界に来ていた。

 

そして、ようやくドリィの転生者を見つけ出し、気付かれない距離から、建物の陰に隠れて見ていた。

 

バンの視線の先には、この世界における母親らしき女性と、楽しく会話をしながら買い物をしているかつてのドリィの転生者の姿があった。

 

「…」

 

バンは、そんなドリィの転生者の姿を見て、複雑な気分になった。

 

バンは例の少女の件を断ってまで、今まで更正してきた転生者の今後を見てきた

 

ある者は、ろくに働かず女性にナンパをしては警察に通報され連行され。

 

ある者は、家族から出来損ないと見下され、逆上して暴力を振るい。

 

ある者は、周りに対する不信感のあまりに、常に卑屈な態度を取っては金をだまし取り。

 

ある者は、幼子になって、新しい家族に愛されて生活を送り。

 

ある者は、鍛えに鍛えた筋肉を使って、ボディービルダーとなって。

 

皆、良くも悪くも、生活を送っていた。

 

当然、その中には幸せになった者もいれば、幸せになれない者もいた。

 

記憶がないことを良いことに、心無い者たちによって、やりたくもないことをさせられたり、身代わりにされたりもあった。

 

ついこの間まで、前の世界で特典が暴走したり、自らの意志で街や住人を脅かしていた転生者たちが。

 

「…」

 

バンはそれを見るたびに、悲しい気分になった。

 

記憶もないまま様々な人生を送る原因を作ったのは、他でもない自分たち、パトレンジャーなのだから。

 

当然、転生者の中には前の世界に家族がいる者はいる。

 

その中には、その転生者がいなくなったことに悲しむ者もいれば、喜ぶ者もいる。

 

だが、バンたちパトレンジャーの更生の力は、前の世界に家族がいて、幸せな生活を送っていた転生者の人生すらも奪ってしまうのだ。

 

ふと、バンの脳裏に、赤いルパンレンジャーの言葉が蘇る。

 

『他の奴らからしたら、会えるかどうか分からない大切な人との繋がりを無理矢理奪う行為だ』

 

『それが幸せかどうか分からないかもしれないがな、記憶を持ったまま転生したお前達に記憶を奪われた奴らの気持ちなんて分かるかよ』

 

「…っ!」

 

それを思い出しただけで、バンは建物の壁を殴りつける。

 

そんなことは自分にだってわかってる、でも自分たちにはこれしかできない。

 

けど、実際転生者を更生して救われた世界もあるんだ、と。

 

バンは強く自分に言い聞かせようとする。

 

それでも、あの言葉が頭から離れなかった。

 

その時だった。

 

「おや、こんなところで奇遇ですねぇ」

 

「…!」

 

背後から声が聞こえ振り返ると、そこには右京がいた。

 

「…長官」

 

「言わなくてもわかります。

大方、今まで更生した転生者の今後の生活を見ていたのではないでしょうかねぇ」

 

「…」

 

右京に自分の行っていたことを打ち明けられ、バンは何も言えなかった。

 

「…今回の件について、僕たちもかなりの痛手でしたねぇ。

まさか、パトレンジャーの在り方に疑問を抱くことになっているのですから」

 

「僕たちって、何を言ってるんですか?

…今まで更生をやってきたのは俺たちなんですよ。

何で、長官まで責任を感じる必要があるんですか…」

 

右京は難しい顔をしながら言うが、バンは右京と目を合わせないで言った。

 

「そこはもちろん、僕は君たちパトレンジャーの長官です。

僕は君たちに様々な指示を送っては、転生者の更生のためのサポートをしてきたからですよ」

 

「それはそうですけど…!」

 

「右京さんっ!」

 

「おや?」

 

「…?

あれは…」

 

二人は声のする方向に目を向けると、亀山が走ってきていた。

 

「亀山さん…」

 

「どうしましたか?

そんなに慌てて」

 

「どうしたもこうしたもありませんよ!

いきなり、ふらぁっと外に出るんですから…!」

 

「これは失礼しました。

…バンくんと亀山くん、よろしければ気分転換にお茶をしませんか?」

 

「「…?」」

 

右京の突然の提案に、二人は少し疑問を抱く。

 

 

 

一方その頃、とある世界のビル、一人の男が一つの部屋にいた。

 

「…」

 

男は額に青筋が立っていた。

 

それは、何人もの部下を、パトレンジャーに倒されてしまったことともう一つ、一人の少女を取り逃がしたことだった。

 

今頃、パトレンジャーに保護されてしまっているだろう。

 

そう考えただけで殺意が湧いていた。

 

「ちくしょう、あのガキとその仲間どもめ、今度会ったらぶっ殺してやる…!」

 

そう呟き、拳で机を殴る。

 

すると、誰かがドアにノックをした。

 

「…入れ」

 

「失礼します」

 

その言葉と共に、一人のスーツ姿の男が入ってくる。

 

その手には、通信機と思われる機材が握られていた。

 

「先程、ケイネス様とサーチェス様が予定ポイントに入りました。

いつでも行動を開始できるとのことです」

 

「わかった。

後の指揮は俺がやるから、お前は下がれ」

 

「失礼します」

 

スーツ姿の男は、男に機材を渡してその場を後にした。

 

「…作戦決行だ。

ISコアやロストロギア、及び金になりそうなやつは人間であろうと物だろうと構うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

奪え……!」

 

機材を手にした男の口は三日月のように、笑っていた。

 

まるで、これから起きることが、さも喜劇だというように。

 

 

 

 

IS学園の遥か上空、全身に赤い粒子を撒き散らす、獣のような男が見下ろしていた。

 

「ハッ、大将から許可が下りたか…。

じゃあ、報酬は弾んでもらわねぇとなぁっ!」

 

男は舌舐めずりして、一気にIS学園のアリーナのドームへと急降下し、それと同時に全身を覆っていた赤い粒子が晴れて、全貌が明らかになる。

 

赤黒い装甲に異様に長い腕、背中には同じ色の大剣が二本と折り畳み式のキャノン砲が一つ。

 

そして、腰元の両端にはスカートのように伸びる大きな装甲があった。

 

「行くぜ、インフィニットなんたらぁっ!!」

 

男は大剣を取り出し、アリーナのバリアを突き破る。

 

その瞬間、狩りが始まった。

 

 

 

 

ミッドチルダの時空管理局の正門前から遥か遠く、金髪のオールバックをした一人の男が大量のゴーレムを連れていた。

 

「…全く、社長も人使いが荒いな。

まさか、あの小娘を取り戻すためとはいえ、私にこのようなことをさせるのだからな」

 

男はやれやれと言った様子で首を振るが、その間にも懐から一本のビーカーを取り出した。

 

その中には、水銀が入っていた。

 

「まぁいいさ。

この任務をこなせれば、私の格も上がるというもの。

…フェルヴォール メイ サングィス」

 

言葉を紡ぐと同時に、水銀を溢す。

 

すると水銀が膨れ上がり、バランスボールの大きさになって留まる

 

それと同時にゴーレムの体の隙間から水銀が飛び出し、軋みながら動き出した。

 

それを見た男は、ほくそ笑みながら指を鳴らす。

 

ゴーレムは少しずつ、前に進む。

 

「…さて、進軍開始だ。

我らを辱しめたパトレンジャーと、その協力関係に誅伐を」

 

男は笑みを浮かべ、歩みを進める。

 

足元の水銀も、それについていくように動く。

 

 

 


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