「…落ち着いた?」
「は、はい…。
すみません、その銃を見てたら思い出して…」
かことアストルフォ、霞はどうにか少女を落ち着かせることに成功した。
「はぁ、全くよ」
「あの、私、家甲桜って言います!」
「かこです。
よろしくお願いします」
「ボクはアストルフォ。
桜ちゃん、よろしくね!」
「…私は霞よ」
「あの、それであなたたちは、怪盗の、ルパンレンジャーの仲間ですか!?」
桜は興奮気味にかことアストルフォのVSチェンジャーを見ながら質問する。
それを見た三人は少し複雑な気分になる。
その時に、アストルフォが口を開いた。
「…ううん、ボクたちは違うんだ。
ボクたちは…、そんなものじゃないよ…」
「え…?
じゃ、じゃあ…」
ルパンレンジャーじゃないと言われて動揺する桜はかこに目を向けるが、かこは悲しげに首を横に振った。
「…私たちは、ルパンレンジャーではないんです。
パトレンジャーという、警察の戦隊なのです…」
「パ、パトレンジャー…?
えと、それはどういう…」
困惑する桜を前に、かこはアストルフォに声を掛けた。
「アストルフォちゃん、変身、しよ…?」
「…うん、そうだね」
「…?」
桜は何のことだかわからなかったが、かことアストルフォは桜から少し距離を離れてVSチェンジャーとトリガーマシンを取り出した。
「「警察チェンジ!!」」
『2号 3号!
パトライズ!
警察チェンジ!
パトレンジャー!!』
二人は桜に信じてもらうためにパトレン2号とパトレン3号に変身した。
「…っ!?」
さくらは変身した二人の姿に驚いた。
「マントがない…、それに顔の目も黒一色…」
そんな桜の様子を確認した二人はvsチェンジャーからトリガーマシンを引き抜いて変身解除する。
「…これで信じてもらえましたか?」
「…はい」
桜は力なく項垂れながら頷いた。
「…あんた、元々転生者だったわよね?」
「…!?
ど、どうしてそれを…!」
霞に言われて、桜は動揺する。
そして、霞は書類を取り出した。
「あんたが寝ている間に調べさせてもらったわ。
もう、その特典もないこともね」
「…」
「心配しなくても、私たちはあんたに何かするつもりはないわ。
ルパンレンジャーではないところ申し訳ないけど、あんたの味方よ」
「ほ、本当ですか…?」
そう言って、桜は霞だけでなく、かことアストルフォを見る。
すると、二人は桜にうなづいた。
そして、かこが言った。
「だから、その、教えてくれませんか?
あなたの身に何が起こったのかを…」
「…わかりました」
桜は少し安心したのか、少しずつ話した。
それは、自身が怪盗ルパンレンジャーに特典を盗まれ、家族と自由に過ごして1週間が経ったときのことだった。
学校の帰りに一人で通学路を通って帰っている時に突然、黒服に捕まれて口に布を当てられて意識を失った。
気が付いたら、牢獄のような場所に入れられていて、壁に磔にされて、手足が枷で繋がれていて身動きが取れない状態だった。
そして、一人の男が五人の部下を連れてやってきた。
その五人は仮面を着けた男、同じ顔をした双子の兄弟、神父の格好をした金髪オールバックの男、そして、長い髪に獣のような男だった。
その五人を率いた男はまるで舐め回すように桜を見ながら、こう言った。
お前の持つ特典で、金を出せ、と。
桜はそれはもうないと言ったが、嘘だと吐き捨てられた。
仮にそうだとしても、残りカスはあるだろうと。
さくらは何度も持ってないと言ったが、もういいと言わんばかりに、男は後ろに控えていた五人の部下のうち、双子の兄弟と、仮面を着けた男に声を掛けた。
金を出すまで、殺さない程度で好きにしろと。
そう言って、男は三人に札束を投げつけ、それが三人の体に吸収される。
すると、三人の様子が変わった。
男は二人の部下を連れてその場を後にし、三人の男はさくらを見る。
二人の兄弟は蛇を思わせるような目で、仮面の男は仮面越しであるためわからないが無機質な目で睨みつけていた。
仮面の男は何か準備をすると言ってその場から離れて二人の兄弟は舌なめずりをしながら、簡単に殺さないように火炎放射器や氷冷放射器の出力を変えた。
そして、ホースを肌に直接当てられ火傷や凍傷を負ったこと。
さらには、仮面の男が戻ってきたと思ったら、その後ろで巨大な人の手のようなものが床から生えて、そのまま体を殴り付けられ骨が折れる音がしたこと。
それから体を刃物で切りつけられたりと、何度も続いた。
その中でも、桜は痛いと、やめてと、助けてと、何度も泣き叫び続けた。
だが、それは何度も続き双子の兄弟と仮面の男は日をまたぐように交代して拷問された。
そうして続いた拷問に、意識が朦朧となり、心が壊れそうになった時に、誰かが助けに来た。
その誰かに運ばれ、最後に車らしき音と、光を感じて意識を失った。
気が付いたら、この病室で目が覚めて、体の傷も完治していた。
以上のことだった。
「「「…」」」
それを聞いて、三人は拳を握り震えていた。
こんな小さな女の子を、特典のためにそんなひどい怪我を負わせたことに、怒りで震えていた。
「…どうして」
「…?」
桜は顔を下に向けて、涙を流していた。
「どうして、私がこんな目に遭わなきゃいけないんですかっ!
もう、あの特典もないのに、どうして出せなんて言われないといけないんですか!!
確かに、私はかつてあの、お金の特典を持っていましたよ。
でも、怪盗さんに奪ってもらって、やっとお父さんとお母さんと一緒に幸せに暮らせるって思ったのにっ!!
何で、もう私にはない特典のことで私が家族から引き離されなくちゃいけないんですかっ!!!
…私は、わたしは、本当に…、お父さんとお母さんと一緒に、幸せに暮らしたかっただけなのに…っ!」
そう言い切った後、桜は子見た目相応に泣き始めた。
それを聞いて、三人は怒りから暗い表情になった。
そしてある考えに至った。
転生者の中にも、家族と幸せに暮らしたいと願う者もいると。
しかし、自分たちパトレンジャーはそんな願いを持った転生者をも更生し、その世界での家族との繋がりを無理やり断ち切ったと。
そう考えたとき、アストルフォは悲しい顔で頭に手をやり、かこは涙を流した。
「アストルフォちゃん…、アストルフォちゃん…っ!」
「かこ…」
アストルフォは泣いているかこをそっと抱き寄せる。
霞は、泣きそうになりながら桜を介抱する。
だが、そんな状態は束の間だった。
「…っ!?
ちっ、こんな時に…!」
「霞、どうしたの?」
霞が何かを感じ取ったことを察したアストルフォが聞いた。
「…今、IS学園と時空管理局が転生者による襲撃を受けてるわ。
しかも、金の紋章らしき反応あるわ。
あんたたちは、時空管理局に向かいなさい」
「えっ!?
金の紋章ってまさか…!?」
「わかってるなら、めそめそしてないで早く行きなさいっ!!
このクズどもがっ!!」
「…っ!?
わ、わかったよ!
行こう、かこ…!」
「…うん!」
霞の怒号に驚きながら、かことアストルフォは病室を後にした。
「…急に怒鳴ってごめんなさい。
私、ちょっと用事があるから、失礼するわ」
「…」
未だに泣いている桜にそう言って、霞は病室を出て、外出しているバン、右京、亀山に連絡して、IS学園に向かうように伝えた。
「はぁ…」
連絡を終えた霞は通路の壁に背中を預け力なく座り込んだ。
「うぅ…、ぐすっ…!」
そのまま霞は膝を抱え、顔を埋めて泣いていた。
「ふぅ…。
ここの紅茶は、良い香りがしますねぇ」
「そ、そうですね」
「…」
一方、右京、亀山、バンは近くの公園で右京が持ち歩いていた紅茶を嗜んでいた。
右京は自前で用意した紅茶のポットを徐々に上に上げながらカップに注ぎ、亀山は相変わらずすごい入れ方だなと言わんばかりに見つめながら自身の紅茶を飲んでいた。
しかし、バンだけはカップに入ってる紅茶に目もくれず、下を向いたままだった。
「おや、バンくん。
紅茶は苦手でしたか?」
すると、それに気付いた右京がバンに声を掛けた。
「…別にそんなものじゃないですよ」
「そうですか…。
ところでバンくん、一つ聞いてもよろしいですか?」
「…」
「君は、パトレンジャーになったことについて、後悔してますか?」
「…!」
右京の言葉にバンは顔を上げる。
「それは、どういう意味で聞いてるんですか?」
「その言葉通りの意味です。
君が更正した転生者のことを調べているところで、どこか悲しい顔をしてましたからねぇ」
「…それは、俺にもよくわからないんですよ」
「はい?」
バンは光の灯っていない、虚ろな目でポツリポツリと言った。
転生者のその後を見ていく中で、悲しくなったこと。
それは、更生した転生者がまた罪を犯していたり、記憶がなくて周りに不信感を抱いたりしていること。
中には、記憶がないことを良いことに、犯罪の道具として利用され、見捨てられた元転生者がいること。
当然、中には新しい家族ができて、幸せに暮らしている元転生者もいること。
かつての転生者の家族もこれらと似たものだったこと。
当然、転生者が更生されて、いなくなった家族のことを調べても、更生された転生者と似たケースだった。
最愛の家族がいなくなり、悲しみと絶望に覆われて、家庭崩壊した家族がいた。
逆に、その転生者がいなくなったことで、支配から解放されたと喜ぶ家族もいた。
だが、どちらにしても、どんな形であったにしても、家族がいた転生者には、その家族と繋がりがあった。
だからこそ、バンはこういう考えに至った。
自分たちパトレンジャーが、転生者と家族との繋がりを断ち切ったと。
だから、もうなにもわからなくなってしまったのだと。
そして、さらにバンは力なく笑いながらこう言った。
「…思えば、俺たちって運が良かったんですよ。
だって、全員が全員、記憶を持ったまま転生できるなんてありえませんし。
俺たちのやってきたことって、その運の良かった奴らから、大切な物を奪ったも同然なんですよ…」
その表情には絶望にも似た混乱に満ちていた。
それを見た右京と亀山は難しそうな顔になる。
「…」
「…」
しばらく沈黙が続いた。
「…バンくん。
君の気持ちはわかります。
確かに、パトレンジャーの力である更正の力は君の言うとおり、転生者とその家族との繋がりを断ち切ります。
…僕としたことが、このようなことを想定できませんでした」
「…」
「ですがバンくん」
「…?」
右京の言葉にバンは顔を上げる。
「もし、わからないと言うのであれば、今はわからないなりに前を向いてください。
君には、かこちゃんやアストルフォくんに、エリスさん、僕や亀山くん、そしてなのはさんたち機動六課なとがいます。
なので、一人で責任を背負おうとしないでください」
右京は優しげに微笑みながら、バンの肩を叩く。
「…あのさ」
すると、亀山がバンに声を掛けた。
「俺はさバンくん。
今はまだ、わからなくても良いんじゃないかって思うんだ」
「…?」
「俺もさ、パトレンジャーをやっててわからないことがあるんだ。
この転生者を更正したら、残された家族はどうなるんだろうって」
「…」
「俺が警察辞めてサルウィンにいるの、知ってるかな?」
「…それが何ですか?」
「…俺はさ、その国に親友がいたんだ。
けど、その親友がある事件で殺されて、その国の子供たちは取り残された状態だったんだ」
「…」
「サルウィンはその、荒れてた国でさ。
俺の親友は、ある団体に入って、そこの子供たちの支援をしてたんだよ」
「そう、ですか…」
「うん。
だから俺、その親友の意志を継いでって言うのは照れるつーか、恥ずかしいんだけどさ。
子供たちに、今まで右京さんと行動を共にして培ってきた警察の精神を、俺なりに教えたり、支えたくて、サルウィンに行ったんだよ」
亀山は恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「まぁその、今から言うのは例みたいだけど。
残された家族とか、更正して記憶を失った転生者の支援とかも、ありなんじゃないかなぁ、なんて」
「…そう言う考えも、あるんですかね」
「亀山くんの言ってることも踏まえて、色々考えてみてはどうですか?
何かあれば、微々たるものですが、僕も力を貸します」
「…はい」
そう言ってバンは少しだけ、目に力が入って、少し考えようとした。
しかし、それは直後に中断された。
右京の携帯が鳴り出したのだ。
「…もしもし、右京です。
…!
わかりました、では二人にはそこへ向かうよう伝えます…!」
右京は電話で話を聞いていくうちに、顔が険しくなり、電話を切った。
「…あの、右京さん?」
亀山は右京の表情を見て何かを察したのか、気まずそうに声を掛けた。
「…亀山くん、バンくん。
霞ちゃんから今、IS学園と時空管理局が金の紋章の反応がある転生者に襲われていると情報が入りました。
管理局はかこちゃんとアストルフォくんが向かってます。
ですので、お二人には至急、IS学園に向かって戴きたいのです」
「っ!?
りょ、了解です…!」
「…了解です」
そう言って、二人は走って移動した。
走っていく二人を見送った右京はただ一人空を見ながら、紅茶を口に含んだ。
「…やはり、VSチェンジャーに選らばれたとは言え、彼らにこのような責務を負わせてしまった僕にも、責任はありますねぇ…。
Xチェンジャーを託した亀山くんについても、ですが」
そう言った右京の顔は、少し悲しげだった。
家甲桜の容姿はfateの遠阪桜(要は間桐に養子に出される前の桜)です。