近いうちに、正月の番外編を書かせていただきます。
ギャングラーの暗殺者、フレディクルーガーを倒してから翌日。
右京やエリス、亀山、霞にギャングラーの暗殺部隊の存在をバンたちから聞いた。
それから厳重に警戒を強めるとともに、桜と達人の送迎も、周囲に警戒態勢を取りながら行うことになった。
この情報は、時空管理局にも、IS学園にも伝わっている。
特にIS学園では前回の襲撃で校舎が半壊したり、生徒と教員の大半がトラウマになってしまっているため、注意を仰いでいる。
一方、捨て身でフレディを夢の中から追い出したアストルフォはエリスに呼ばれていた。
「…なぜあのような無茶を?」
「あぁ、その…。
あぁするしか、あの転生者を追い出せなかったというか…」
「…とにかく、あの本の特典を見せてください」
「…はい」
少し厳しめな言い方で質問されたアストルフォは、言いよどんでしまい、エリスから特典を出すように言われて、しぶしぶ出して渡していた。
ルナ・ブレイクマニュアル、本当の名前はキャッサー・デ・ロジェスティラ。
フレディを夢の中から追い出すのに使ったアストルフォの特典の一つだ。
エリスはその特典を手に取り、特典の中のデータを見る。
「…特に、異常はないですね。
でも、あの転生者と戦う前に少しばかり設定を変えてるようですが」
「ぎくっ!」
「まさかだと思いますが、夢の中でちゃんと発動するかどうかわからなかったから、自分の体に一定以上の魔術的干渉から来るダメージがあれば自動的に発動するようにした、ということですか?」
「あ、あはは…。
それも、そう、ですね…」
冷や汗をかきながら目をそらすアストルフォに、エリスはため息を漏らす。
「はぁ…、まぁ外部から発動させて誰かの夢に入らないように、追い出すために仕方のないことだったとはいえ、あまり無茶はしないでくださいね?
バンさんもかこさんも、あなたの前ではあまり言いませんでしたが、かなり心配してましたから」
「そうですか…」
アストルフォは、あの二人に悪いことしたなと、頭を掻く。
「ところで、かこさんから治していただいたので問題はないと思いますが、あの転生者から受けた傷はもう大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫ですよエリス様!
ほら、この通り!」
アストルフォはそう言って自分は健康だというように両手を広げる。
「…そうですか、それなら問題はありませんね。
ですが、今回は注意だけにしますが、今後からは気を付けてくださるのでしたら、もう下がっても良いですよ?」
「はい、それでは、失礼します!」
元気よく返事をしてからアストルフォはその場を後にした。
それでもエリスの中ではどうしてもぬぐい切れない不安があった。
「はぁ…」
ため息をついて、エリスはアストルフォのパトレンジャーとしての活動履歴の資料に目を通す。
普段からパトロールをしていても特に大けがになったり、転生者を絡まないトラブルに巻き込まれることはない。
だが、一度だけ。
アストルフォは転生者との戦いで今回と似たようなことをして意識不明の重体になったことがあるのだ。
それはフレディとの戦いよりも、機動六課と協力関係を結ぶ前の話。
その時は本当に突然のことだったので、バンもかこも対処することはできなかった戦い。
エリスは一度、その時の資料に目を通すことにした。
それは、怪盗と出会う前の話。
ガミザミという蟹のモンスターを召喚、使役できる特典とショウグンギザミの装備に双剣の特典を持つ転生者と戦っていた時の話であった。
1号たちは大量のガミザミが暴れる街から人々を避難させた後で戦っていたが、次第に押されてしまい一つの建物の中に入って様子を窺っていた時だった。
「くそ!
あの野郎、数で俺たちを押す気かよ…!」
「それだけでなく、あの蟹たち、猛毒を持ってますよ?
いくら私の特典で治せるとはいえ、あれだけの数に囲まれてしまっては…」
危機的状況だった。
当時まだ聖騎士バンの特典を持っていた1号ですらも、流石にこれには対処できないと思っていた。
いくら不死身でも、単身で突っ込んでも何分持つのか。
力を吸収しようにも体があの数の力を吸収することを許容できるのか。
当時まだ経験の浅かった1号たちでは、それが限界だった。
一方3号は窓から街の様子を見ていた。
未だにガミザミの群れが動いていて、自分たちを探してるようだった。
「…ふう」
3号はまだ見つかっていないことに安心したのか、ため息をついた。
だが、その時だった。
3号は再び窓の外を見ると、その先では逃げ遅れていたのか、ウサギを抱えた少女たちがガミザミに追いかけられていた。
「…!?」
それを見た3号はすぐに建物から外に出た。
「アストルフォ!?
どこに行く気だ!!」
「アストルフォちゃん、今外は危険だよ!?」
二人の制止を振り払い、3号はパトメガボーを構えて走った。
街を走って逃げていた少女の内、ウサギを抱えていた水色の髪の少女が足を引っ掻けて転んでしまう。
「うっ!?」
「チノちゃん!?」
「チノ!
くっ、こいつら…!」
桃色の髪をした少女がウサギを抱えていた少女の片を担ぎ、黒髪の少女がモデルガンで対抗しようとする。
しかし、弾が当たってもびくともせず少女たちに向かってくる。
後ろは気が付いたら既に囲まれており、その奥でショウグンキザミの鎧を来た男が両手に双剣を構えてその様子を見ている。
まるで餌をどう料理しようかと舌舐めずりするかのように。
そんな絶望的な状況の中、3号が突っ込んできた。
「やめろぉっ!!!」
3号はガミザミを切り払いながら少女たちの退路を確保しようとするが、きりがなかった。
そんな時に1号と2号が駆けつけて退路を開いた。
「おい、一人で突っ込むんじゃねえぞ!」
「逃げ遅れた人のためとは言え、無茶はダメだよ!」
「ごめん、二人とも!
…それと、その子たちは任せたから!」
「おい!?」
そう言って3号はヒポグリフを召喚し、VSチェンジャーで牽制しながらガミザミと転生者を引き付けて、すぐに遠いところへと向かった。
懐から角笛を取り出して。
少女たちの避難を終えた1号たちはすぐに転生者の反応が消えたことを確認して、3号のもとへと向かった。
「…!」
「ひっ…!」
二人は向かった先で見た光景に驚く。
何故なら、そこには変身解除したアストルフォがいたから。
しかしその体は血塗れで所々ガミザミの毒を浴び、腕や太腿、胸を切り刻まれた状態で倒れていたのだ。
「アストルフォぉぉぉぉぉっ!!!」
「アストルフォちゃあああああああああっんっ!!!」
二人は慌てて駆け寄り安否を確認し、2号はすぐに変身解除して治療する。
傷はすぐに完治したが、しばらくは意識が戻らなかったのだ。
その後ようやく目覚めたアストルフォから聞いた話だと、街の外にガミザミと転生者を集めて、そこから角笛の特典、ラ・ブラック・ルナでの音波攻撃で一掃しようとした。
しかし、あまりの大勢の相手を一手に引き受けたので対処できないところから狙われて転生者やガミザミに切りつけられたり毒の攻撃を食らったのだ。
だがそれでも立ち上がってVSチェンジャー等を使って対処してどうにか持ちこたえた。
そして最後に残った転生者には、ヒポグリフに乗って高速移動からのパトメガボーで、凄まじい速度で殴り飛ばした後で更正し、そのまま意識を失ったのだという。
ちなみに、アストルフォは意識を取り戻した後でバンから思いっきり殴られ、かこからは本気でビンタを打たれ、そこからなんであんな無茶をしたんだと真剣に怒られたそうだ。
その時かこに至っては泣き崩れていたらしく、アストルフォがこのまま意識を失ったまま目を覚まさないのではと思い、死ぬほど悲しくなったそうだ。
それからアストルフォは反省して無茶なことはしないと約束し、それ以降は単独での対処が難しくなったらすぐに応援を要請するようにしている。
「…」
資料を読み終えて、他の資料が置いてある場所に片付ける。
それからエリスは、先ほどまでアストルフォがいた場所に目を向ける。
「あなたは、正義感が強いのは認めます。
ですが、あなたのそれはバンさんとかこさん以上の自己犠牲と優しさから来るものです。
あなたは、そんなに生前に何も守れなかった自分が嫌いなのですか、アストルフォさん」