気がついたら、アストルフォは平原に立っていた。
着ている服もパトレンジャーの制服ではなく、アイドル風なドレス姿だった。
吹いている風が心地よい、このまま日向ぼっこしたくなるような気分だった。
「もし、そこのご婦人?」
「…?」
振り返るとタキシードを着た老人がいたが、顔には靄がかかったようによく見えなかった。
しかし、アストルフォにはどこかこの老人に見覚えがある気がした。
「もしよろしければ、あちらに居られる旦那様と奥様と一緒に話をなさいませんか?」
老人が指さす方向に目を向けるとテーブルを囲むようにドレスとロングコートを着た二人の男女が座っていた。
どちらも顔に靄がかかっていてよく見えなかった。
ただ、アストルフォにはなんとなくだが、どこかであったような、そんな懐かしい雰囲気があった。
老人に手を引かれるまま、男女と面と向かい合わせになるように座らされる。
老人が日傘を出したと思ったらテーブルの真ん中に刺し込んで、3人に直射日光が当たらないように影ができた。
「あ、あの…」
アストルフォは指をもじもじと動かしながら顔を下げて目だけを二人に向けながら何かを言おうとする。
目の前にいる男女、どこかで見たことがあるのは確かだが、何か口にするだけでも気まずい感じがするのだ。
「心配しないで、落ち着いてお話をしましょう?」
すると、女性がアストルフォの肩に手をポンと置いて、見えない顔で笑いかけた。
「…っ」
その見えない笑顔に、不思議とアストルフォは緊張していた顔付きが少しだけだが和らぐ。
「…あの、一つ聞いても、良いですか?」
「…何かな?」
「もし、自分の子供が見逃したり見抜けなかったせいで、自分や自分の家族が殺されることになったら、あなたたちは、その子供のことを、どう思いますか?」
自分でも何を言ってるのか、最初に出てきた言葉がそれだった。
何か、この二人にはそれを聞かなければならないと、何となくそう思ったのだ。
けどそれと同時に後悔もあった。
こんな質問しても、何を言ってるんだとか憎しみを抱くに決まってるとか、そんな答えが帰ってくるのだから。
「そうだな…」
男は一息間を置いて、改めてアストルフォの顔を見る。
「少なくとも私はその子供のことを心配するね。
自分たちが殺されても生き残れたのかとか、この先生きていけるのかと、そう思うよ」
「…!」
「私も、自分の子供が怖い目にあっていないかっておもうわ。
だって、自分たちの大切な子供なんですもの…!」
「…っ、何で」
予想外の返答に焦りを覚えるアストルフォ。
この二人はよりにもよって、自分のことよりもその子供のことを心配しているのだ。
焦りと同時に、怒りを覚えた。
どうしてそんな答えが出てくるのか。
「何でそんなこと、平然と言えるんだっ!!」
二人の言葉に耐えられず、アストルフォは思わず椅子から立ち上がって噛みつくように二人に怒鳴った。
「だってそいつは親を見殺しにしてるんだよ!?
そいつが、殺人鬼を見逃したせいで、親が兄弟が姉妹が死んじゃうかも知れないんだよ!?
もし、そいつが見逃さなかったら、ちゃんと見抜いていたら、この先の未来があるのかもしれないのに…!」
「…確かにそうかもしれないが、それでも子供の心配は親として当然だ。
だから、この先に様々な未来があるであろう子供の行く末を見るのが、親の務めだ。
最も、死んでしまってその先を見れなくなるのなら、とても悲しいが」
「家族を見殺しにするような子供に!?
そんなやつは、生きてる資格なんかないんだよ!
皆死んで、そいつだけが…、ボクだけが転生して生きてるなんてできないっ!」
「…それは」
一度爆発した感情が止まることを知らないように溢れ出る。
「だから、ボクなんか…、ボクなんか…っ」
「やめて、もうそれ以上は…」
「ボクなんか、あのまま死んじゃえば良かったんだっ!!」
「
「っ!?」
老人が悲しそうな声でアストルフォを止めに入る。
「お願いです、どうか…!
どうかそれ以上自分で自分を傷つけないでください…っ!」
「な、なんだよ!
さっきまで黙ってたくせに、急に止めに入って…?
今、ぼっちゃまって…」
今先ほど老人が自分に向けて言った言葉に沸騰していた頭がまるで冷水をかけられたように、一気に冷めていき冷静さが戻っていく。
「…爺やの言う通りだ。
そんなに自分を傷つけるべきじゃない、そんなことをしても悲しいだけだからな。
…逆に聞かせてほしいが、もし君が死んで、それは自分のせいだと思って君の家族が自傷行為に走ったり自殺したりしたら、どんな気持ちになると思う?」
「え…?
そ、そんなの…、卑怯だよ…!」
アストルフォはポロポロと涙を零し、嗚咽をあげる。
今頭の中で自分の死にバンが自殺したり、かこが荒れて自傷したりする場面を想像しただけで悲しくなったのだ。
「そんなのっ…、嫌だよ…っ!
ボクなんかのためにっ、そんなこと…っ、しないでよぉ…っ!!」
「私たちが言ってることは、そういうことなんだよ。
だからもう、自分を許してやっても良いんじゃないのか、
「…っ!?
どうしてボクの名前を…?
いや待って、…その顔は…!
あなたたちは…っ!」
涙で濡れた目で改めて男女の顔を見ると次第に靄がなくなり、素顔が見えてくる。
それはアストルフォにとって、もう一度会いたかった人たちの顔だったのだ。
「あなたたちは…っ、ボクがあいつを見逃したせいで殺された…っ!!」
「アストルフォ、言葉や行動はあれだったが、お前の気持ちは十分に伝わってきているんだよ。
私たちが、何て家族思いな息子を持ったんだと誇りに思えるぐらいにね」
「だから、私からもお願い、もう自分を許してあげて?」
「父さん…、母さん…っ!」
「坊ちゃま!」
老人が涙を流しながらアストルフォの手を握る、その顔には靄がなくなり優しそうな老人の素顔がそこにあった。
彼もまた、アストルフォがもう一度会いたかった一人なのだ。
「爺や…っ!!」
「坊ちゃま、申し訳ございませんでした…!
かつて、私めが殺されてしまったばかりにそのような思いをさせてしまって…!」
「うん…っ、うんっ、許すよ…!
だから…、ボクは…っ、自分のことを…っ、うわあああああぁぁぁぁ…!」
アストルフォは爺やを抱きしめて泣いた。
そこにあるのは、男の娘とか、パトレン3号だとか、そんなものは関係ない。
長い間迷子でやっとの思いで家族と再会できた、何てことのない子供の泣き声だった。
爺やは涙を流しながらもアストルフォの体を強く抱きしめた。
アストルフォの両親は涙を拭きながらも、息子との再会と息子の心の傷を癒すことができたことを喜んでいた。
「うぅっ、ぐすっ…!」
「落ち着かれましたか、坊ちゃま」
「うん、ありがとう爺や。
父さんも、母さんも…」
しばらく泣き続けて気持ちが落ち着いたアストルフォは三人の顔を見る。
そこには先ほどの暗さは無くなっており、少しずつ明るくなってきていた。
それは自分がずっと背負い込んでいた罪悪感が拭われて、雨雲が消えて太陽が光を照らすようなものだった。
すると、両親と爺やの体が徐々に浮かび上がり、、体も透けてきていた。
「…!
父さん、母さん、爺や、これは…!」
「私たちは、お前に会えてうれしいが、そろそろここを離れなきゃいけないんだ
元々私たちは、この石板にしがみついていただけの亡霊に過ぎない」
「ま、待ってよ!
それじゃあ…」
「アストルフォ、私たちにとって未練だったのは、あなたに悲しい思いをさせたことだった。
だから、あなたの心が救われた今、名残惜しいことではあるけれど、お別れになるの」
「そんな…!」
「坊ちゃま、もし寂しい思いをされるのでしたら、私たちのことを、思い出してください。
あなたの心に、私たちはいつでも居りますので」
「だが、お前の居場所はここじゃない。
後ろを、振り返ってみろ」
アストルフォは振り返ると、そこにはバン、かこ、亀山、右京、霞、そして機動六課、一夏、映士の姿があった。
彼らこそが、今の自分の居場所なんだと、アストルフォは悟った。
「…これで私たちとこの石板を通して形成された私たちのかつての屋敷も消えるが、気にするな。
私たちは、本来向かうべきだった場所に戻るだけなのだから、ただ元に…」
やがて三人は空高く昇り、最後は笑顔のまま消えていった。
アストルフォはただ一人、風が吹く草原の中三人が消えた空を眺めていた。
「うん、さよなら。
ボクも、いくらか気が晴れたような気がするよ。
それに僕自身がパトレンジャーとして戦う理由も、思い出してきたよ。
…もし、もうないかもしれないけど、また自分の罪悪感で苛まれることになるのなら…」
やがて光が全てを覆い、アストルフォさえも飲み込む。
「ボクは、彼らとともに戦う、そして勝ってみせる…!
だから、そこで見守っていてね」