ブルブルと身体が震える。それと同時に布で石の床が擦れる小さな音がする。この震えは寒さから来るものじゃない。死の恐怖からくるもの。
あの男、「血潮のガーリル」とか言ってた。さっきまで、町の方からたくさんの悲鳴が聞こえていたのに、今は恐ろしいほどに静かだ。いや、時たま声はする。下品な男たちの吐き気がするような笑い声が。
母さんも帰ってこない。母さんが出て行ってすぐは海賊たちの悲鳴が聞こえていた。「これで助かる」そう思った。でも、そんなことは無かった。すぐに大きな発砲音と爆裂音がして、海賊たちの悲鳴も収まった。
海賊たちが憎い、許せない。こんな悪の蔓延る世界も許せない。そして何より、ここに隠れてブルブル震えている自分が許せない。
僕、ここで死ぬのかな?嫌だな、もっと生きて、生きて、正義になりたい!!なんでかな?少し眠いや……。
次に俺の意識が浮上してきたのは、あの時から数えて四年と少し。ほとんど約束通りであったが、何故か早く目覚めてしまったらしい。しばし、今までの記憶を楽しむ。早く意識が覚醒した理由はどうやら、この島の現状のせいであるらしい。
少しばかり治安の悪い国にでも生まれたのかと思っていたが、海賊に襲撃され、ほとんどの島民が殺されてしまっているようだ。最悪なことにこの島を襲ったのは、襲った島、町に住む人間を皆殺しにするところから【血潮のガーリル】と呼ばれるか海賊で、懸賞金は二億三千万ベリー。海軍ですら近づけないとされるワノ国の中の島「一松」。ここを守護していた侍ですら、手も足も出ずに殺された。町から外れたところに住まわされていた俺と母さんだったが、母さんは俺を地下室に閉じ込めて町に向かい、そこで殺されたようだ。
もうすでに「血潮のガーリル」はこの町にはいない。億を越えるような懸賞金の海賊は、拠点となる島以外には長居をしないのだそうだ。そしてこの一松は、他の島との交流も絶っているような閉鎖された場所で、島民のほとんどが時給自足で生活している。ここを拠点にしようにも、とにかくメリットよりもデメリットが目立つ。食料はない、土地もあまりない、開拓も進んでいない、という具合に。
奴らがもういないのなら、この部屋から出ることにしよう。さてと、まずは、食料を確保しなけりゃな。
ダンッ。
木でできた扉が勢いよく、石の壁に叩きつけられる。普通ではありえないような破砕音がした。
……見つかった。ただ、それだけだった。殺される、そう思った。そして、殺されるくらいなら相討ちでいい、道連れにしてやる。そう思った。
あの幼児に頼んだバシャバシャの実は、意識が覚醒するよりも前に食べていたらしい。あまりの不味さに三日ほど寝込んだらしいが。いや、今はそれどころじゃないか。
右腕を水に変え、それを龍の形にする。擬似・水龍弾の術だ。右腕の質量程度だが、この狭い部屋の中ではこの程度の大きさで充分。
それを相手へと向かわせる。噛み付いた後、血液に水を注ぎ込むためだ。
ジュッ。
倒したつもりでいたが、俺の作った水龍は唐突に消えた。後に残ったのは、蒸発した時に発生した蒸気だけ。というか、アレだけの量の水を一気に蒸発できるなんて、もう勝てる気がしない。この実が最強なのは、海の上だけなのだ。
水になって逃げるか?この部屋には幸いなことに、排水溝がある。そこを伝えば、ほぼ確実に逃げられるはずだ。
「元気のええガキじゃの。」
まったくもって、効いていないことが今の声の調子から読み取れる。
「ワレをつれていくけ、はよぉ準備しんさい。」
そこでようやく違和感に気付き、男の顔を見る。なんで、広島弁なんだろう、と。
「かっ海軍本部大将の赤犬?!」
そこにいたのは、海軍本部大将の赤犬ことサカズキであった。つまり、今まで俺は海軍の最高戦力にはむかっていたわけだ……。
「もっ、申し訳ありませんでした!!」
殺されても文句も言えないのだ。
「そがぁなことぁええから、はよぉ準備しんさい」
連れて行くってのはたぶん海軍のことでいいのだから、準備は船旅に必要なもんかな?そしたら、必要なのは、着替えと日用品とー、アレも持っていこう。
掛け軸の裏に置かれていた刀を手に取り、引きずらないように肩にさげる。
「ほう、ええ刀じゃの。」
ずぅっと後ろをついて回っているサカズキさんから、声がかかる。
「はい、母のくれた大切なものなんです!」
これが原因で母は、村八分にされていたのだ。最上大業物「海」。当然、町の有力者は欲しがる。だが、母さんも当然のように断る。結果的に、有力者から疎まれた母さんは、村八分のような状態になってしまっていたのだ。なんだってこんなものを母がもっていたのかは知らないが、これをくれただけではなく稽古まで付けてくれていた。まぁ、まだ身体ができていないから、体力づくりとかが主だったけれど、気まぐれに型を教えてくれていた。
「……母、のぅ」
しみじみとつぶやいている。この人は、母さんを知っているのだろうか?
怖すぎて、何も聞けないけれど……。
「あの、えっとー、準備できました、はい。」
なんてゆうか、ただいるだけなのに威圧感が半端ない。普通に話そうとしているのに、喉を抑えられているかのように自由が利かない。
「ほうか、そしたら、外の船に乗っていぬるとしよか」
結構な重量になったバッグを背負った俺を脇に抱えて、ずんすんと歩き出す。怖くて何も言えない。軍艦につくまで、このままだった。
軍艦に乗り込むと、甲板の中央には棺が置かれていた。海軍の人たちが着いたのは、海賊がすでに逃げた後だったので、不思議だ。しかも、その棺を見て泣いているのは、40近い人からそれ以上で、若い人は特に何も感じていない様子で、それもまた不思議だ。
「われのおかんじゃ、あいさつしといで。」
「えっ?」
そう言われて、棺の中を覗き見ると確かに母が眠っていた。
それからはあまり覚えていない。ふつふつと沸き起こる海賊に対しての怒りと、母の死に対する実感、悲しみ。それらが一緒くたになって、俺の心の中もグチャグチャで訳が分からなくなって、次に目が覚めたらもう船は出港していて、あれから三日も経っていた。食事もちゃんととっていたらしいのだが、ソレすらまったく記憶に無いほど、呆然としていた。
一緒に過ごした時間は、たった四年程度の母子である。だけど、確かに俺たちには絆があって親子になっていた。ソレを痛いほどに感じた。
「トビラマ君、サカズキ中将がお呼びだ。ついてきてくれないか、イイネ?」
目の前の人は確か、サカズキ大将の副官をやっている人で、イイネ大佐とかいう名前だったはずだ。ワンピースの世界では、「名は体を表す」コレが特に顕著だ。それでこの人も何かというと、「イイネ」を使う。
「えぇ」
苦笑しながら頷く。慣れればなんてことはないのかもしれないが、なんていうか、上司の対して面白くないギャグを聞かされているような気分だ。
「どうだい?この船には慣れたかい?」
この身体は、もうこの船の揺れにも対応しているようだし、慣れたといえるだろう。子供らしく、元気に頷いておく。
「はい!」
俺の言葉に対して、イイネ大佐は眩しそうに目を細めながら、続けて口を開く。
「それはイイネ!サカズキ中将も君の様子を気にかけていてね。でも、ホラ、中将はあんな方だし、顔も怖いだろう?君が萎縮してしまうんじゃないかって、僕が代わりにね」
その言葉の通り、サカズキ大将と比べれば目の前のイイネ大佐は、優しげでなんとなくだが子供好きそうな印象もある。しかし、サカズキ大将が俺の様子を気にかけていた?どういうことだろうか?
「あはは、そういえば、まだ知らないんだっけ?もうすぐ分かることだし、あんまり気にしないでおいてよ」
俺の不思議そうな顔に気付いたのか、大佐は続けた。どうやら、今からサカズキ大将の元へ行くのは、単に船の乗り心地を確かめられるわけではないようだ。母さんの出生が分かるのかもしれない。
「お、ついたね。僕の任務は君をここに連れてくることだけだから。イイネ!」
そういうと、イイネ大佐は自分の仕事(船員たちの仕事ぶりを視るらしい)へと戻っていくようだった。目の前には、艦長室と書かれた立派な扉がある。この中にあの重厚な威圧感を発しているサカズキ大将がいると思うと、気が重くなる。
何度か、扉を開けようと取っ手に手を伸ばしてはソレを引っ込めるのを繰り返していると、突如目の前の扉が勢いよく開いた。
ソレは、俺の顔面にぶつかる、その瞬間ピタッと止まった。顔面との距離はわずか一センチほど。こんなしょうもないところで、大将の実力を知る結果となった。
「はよぉ、中に入り」
そこにいたのはもちろんサカズキ大将で、入るより他に選択肢はなかった。
「は、はい」
中に入ると、サカズキ大将のイメージピッタリな和風な室内。もちろん床は板張りだし、ソファーとかデスク(執務机と思われる)とか、置いてあるので完全な和風というわけではないが。
俺が中に入ると、サカズキ大将はあごで目の前のソファーに座るように示し、自分は示したソファーの反対側の高級そうなチェアに座る。
「あんたぁ、わしのことを何も聞いとらんようなけぇ、今からその話をしよぅて思うんけぇの。」
話が直球なこともあって、いきなりの展開についていけていない。サカズキ大将のことを誰に聞くというのだろう?
「まず、わしとあんたのおかんの関係じゃが、血のつながっとる実の親子じゃ。」
驚いた。そして、合点がいった。なぜ、あの島に、海軍ともつながっていない島に、海軍の最高戦力である「大将」がなぜ、あの島に来たのか。そして、なんで俺をこの船に乗せたのか。
「つまりわしは、あんたのおじいさんっちゅうわけじゃ」
「そう、ですね」
「あんた、これからどうしたいん?強くなりたいんじゃったら、手を貸す。何事も無かったかんように生きるんなら、場所も用意しょぉで。さ、選びんさい。」
正直、子供に四歳の子供に尋ねる内容じゃないだろ。だけど、俺の意思を尊重してくれるのは感謝する。さて、どっちを選んだものか……。
でも、せっかく選択肢があるのなら、奴らをこの手で捕まえて、殺してやりたい。母さんの仇を取ってやりたい。なら、答えは決まりだ。
「強くなりたい……。母さんを殺したあいつらを、この手で殺してやりたい!」
我ながら過激な言葉だが、これは本心。大好きだった母さん……。奴らはゆるさねぇ。
「ほうか、なら、わしがあんたを海軍に推薦しといちゃるわ。ほいで、わしがあんたを鍛えちゃる。」
まぁ気に入られたようなので、それでよしとしよう。
海軍なら、合法的に奴らを皆殺しにできる。賞金稼ぎになるという手もあるが、情報は海軍のほうが集まりやすいだろうし、賞金稼ぎでは手出しできないこともあるだろう。もし、海軍で出来ない事が出てくるのであれば、ソゲキングのように顔を隠してしまえばいい。
「ありがとうございます、サカズキ大将」
俺の言葉に、少し何か言いたげな表情を見せた大将だったが、すぐにいつもの不機嫌顔に戻ってしまった。
「ふむ、それでだ「二時の方向に敵船発見!旗の模様からして、懸賞金九千万ベリー【リーディ海賊団】と思われます。繰り返します……」
サカズキ大将の言葉の途中、見張りと思われる海兵から敵船発見の報が入った。それを聞いてサカズキ大将が立ち上がる。大将直々に出るのだろうか?
「ちょうどええ。あんたの実力でも見せてもらおうか。」
えっ?あれ?この人何言ってんの?九千万ベリーってアーロンの4.5倍くらいだろ?初めての敵にしてはちょいとレベル高すぎないかな?いや、そりゃ最初に戦ったのは海軍最高戦力で次期元帥だけどさ。
「い、いや、でも……」
なんとかして、断ろうとするが、不機嫌顔でギロリと睨まれればもうなにも言えない。ただしずっかに頷くだけ。
「ほいたら、行くとしようか。」
艦長室から出て、なるべくゆっくり廊下を歩き甲板に出る。まだ船とは五百メートルほどの差があり、大砲の砲弾も届いていないようである。いまだそんな距離にあるためか、サカズキ大将が現れれると全員がこちらを向き敬礼をする。サカズキ大将は、それを見て無言でうなずくとイイネ大佐を呼ぶ。
「何でありましょうか!」
すぐに近づいてきた大佐に小声で何かを伝えると、大佐は驚いたような顔でこちらを向き戸惑いながら頷いた。サカズキ大将に略式の敬礼をすると、すぐさまこちらへとやってきた。
「トビラマ君、君が水を操れるというのは本当なのかい?」
あまり信じていないような様子でたずねてくる大佐に小さく肯定の返事をする。
「ホントなのか!うん、分かった。じゃあ、ついてきてくれ」
驚いたようではあったが、小声で「まあ、サカズキ中将の孫だしな」といっているのが聞こえた。あまり、関係ないような気もするけな……。
急いでいるのだろう、スタスタと先へ進むイイネ大佐の後を小走りでついて行く。連れてこられたのは、軍艦の少し高くなったところで、そこからは件の海賊船が見えている。
「サカズキ中将の話なら、ここからあの船の周りの海を操ることもできるらしいね。イイネ!」
そんなこと試したこともないが、サカズキ大将ができるというのならそうなのだろう、と思ってやってみることにした。
確かNARUTOの術でちょうどいい技があった。水牢球の術である。あの船を丸ごと包み込めるかは分からないが、ロマンがあるのでやってみることにした。
「水遁・水衝波の術!!」
術のイメージは簡単だ。津波を起こすだけ。ただし、あの船だけを襲う津波を。強い波には弱いのか、一回の津波で船はひっくり返った。船員たちも船から投げ出されているようだ。船はひっくり返ったままだし、船の中に残っていた者もそのうち出てくることだろう。
しばらくそのまま待つ。……。
艦長室で見せられた船長の【虹毛のリーディ】と思われる男が出てきた。あの頭に生えた虹色のとさかを真似する奴なんてそうそういないはずだしな。
「水遁・水牢球の術!!」
イメージするのは、海がめくりあがりやつらを包み込む。後は空気が入らないように、それだけ。
海面がめくれ上がって奴らを包み込み、持ち上がる。もし、包み込んでも抜けられたらと思ったが、不思議現象が俺の味方をしてくれているらしい。
できあがった水の牢屋をこの軍艦のそばまで持ってくる。右手はこの現象を維持するためにふさがっているが、腕一本でこれができるなら充分すぎる結果だ。
「サカズキ大将、これはどうしたらいいですかね?」
艦長であり、大将でもあるサカズキに尋ねる。
「ふん、好きにせぇ」
水でできただけの牢屋は出ることはできないが、水圧はあまりかかっていないよう。
広げたままだった右手をだんだんと閉じて行く。右手から抵抗がある。圧力をかけるのはなかなか手間がかかるようだ。
右手が完全に閉じた時、あまり聞きたくない音が聞こえ、赤黒い水が飛び散った。他の海兵の方々の仕事を増やすわけにもいかないので、赤黒い水を持ち上げ球の形にし、百メートルほど離れたところで俺の意識から切り離す。すると、俺に操られていた水は急に球の形を保てなくなり、弾けて海にかえっていった。
俺は恐ろしかった。人を初めて殺したことがじゃない。それを見て、わずかばかりに愉悦を感じた己自身にだ。あまりにあっけない初めての人殺しは、俺の自身の本性への不安と辺りに漂う死臭を残して終了した。
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それでは。