赤髪のトビラマ   作:千村碧

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第四話

 あの後は、五時には夕食を食べ(寮の夕食の時間は5時から7時までだった)、すぐさま風呂に入って寝た。大佐は俺の能力を見ても普通に接してくれた人の一人で、この人には嫌われたくないという思いが強かったのと、大佐が得意といわれている体術というのが六式なら、原作の技術ってことになるのでテンションがあがってしまったということもある。だが、テンションがあがりすぎると人がどうなるのかといえば、分かると思うが眠れなくなるわけで……。

 絶賛俺は、遅刻中なのである!目を開けてみれば、太陽は昇りきっていて食堂は閉まっている。時計を恐る恐る見てみれば時刻は大佐と約束していた八時を軽く五時間も越えていた。外ではイイネ大佐が微笑んで待っていた。普段の大佐は田舎の優しげなお兄さんといった顔をしているから、笑顔を浮かべていると子供たちがひきつけられていく。のだが、今の大佐も笑顔は浮かべている。その笑みは人殺しの笑みである。目の奥に光がなく、縫い付けられてしまいそうな深い闇が見える気がする。

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 言い訳をしよう、などという甘い考えさえ浮かばなかった。というよりも、言い訳などすれば埋められる、なぜかそう思った。

 そんな俺の精一杯の俺の謝罪に対して、イイネ大佐の返答は簡単なもので気にしてないよ、の一言だった。そうは思えなかったが、反論などという愚かな真似はせず静かに感謝しているのが伝わるように微笑んでおいた。

 

「大幅に予定がずれてしまったけど、それじゃあ始めようかな」

 

 そう言うとイイネ大佐は一枚の紙を取り出した。どうやら、訓練の内容が書かれているらしい。訓練の内容といっても、走りこみ→筋トレ→走りこみ→組み手→筋トレといった感じで、今までの内容とあんまり違いがないようだった。強いて言うならば組み手が追加されただけだが、しばらくの間は他の海兵と海兵の組み手を見るだけといった感じらしい。さすがに四歳児と海兵を戦わせようとは思わないらしい。

 

「今日は時間があんまりないし、走りこみ→筋トレの流れをやってみるだけにしておこうか。時間が余ったら私の体術を見せてあげるとしよう。」

 

 とのことなので、走り込みをすることになったのだが、他の海兵さんたちの視線が痛かった。海兵専用の訓練場で訓練を開始したのだけれど、海兵専用の訓練場を大佐に見られながら走る四歳児は、かなりインパクトが強かったらしい……。

 途中寄ってきて絡もうとする人もいたのだが、イイネ大佐が俺の訓練教官だと知ると焦って離れていった。海軍本部大佐のイイネさんは、「ストッパー」「拳撃のイイネ」とかいう二つ名を持つかなり有名で、下士官の方々には恐れられているらしい。それにはサカズキ中将の腹心であることも一因であるらしいのだが。

 

 イイネ大佐は元々は東の海と呼ばれるところの海軍支部の中尉だったらしい。いつか海軍本部で自前の船を持つことが夢だったのだそうだ。そのためにただひたすら、基礎に忠実に正拳突きを続けていた。そんなある日、大佐は自分の上司が巨大な男に掴まれ、殺されかけているのを見た。海賊と確信した大佐は男に拳を振るった。全く避けるそぶりを見せなかった男は、大佐の拳が男に当たった瞬間、目を見開いたらしい。

次に大佐が目を覚ましたとき、大佐は揺れる一室の中にいた。大佐が殴った男は海軍本部の少将サカズキといい、その時すでにマグマグの実を取り込んだ自然系の能力者だった。まさか東の海に不完全ながら覇気使いがいるとは思いもしなかったサカズキに気に入られて本部へと異動になった。それからはサカズキのもとで覇気を磨きながら副官として過ごしていた。海賊の討伐に積極的なサカズキの船に乗っていたとはいえ、たった六年で五つの階級を駆け上がったのは異常といえる。だがそれは一重に、拳を振り続けた大佐の努力ゆえである。そして階級を駆け上がりながらも鍛練を欠かすことがなかった大佐は、拳で空気を叩くという意味が分からない技術を生み出したのだそうだ。今はまだ威力が不十分で、船に当てても何本か板が折れるだけで終わるらしい。拳圧ではだけどね、拳圧ではね……と強調された。

と、イイネ大佐の過去話を聞かされ、自分で考えてみたのだが、どう考えてもサカズキ中将は俺に覇気と拳圧を飛ばす技術を覚えさせる気である。

 

「トビラマ君は、武器は何にするつもりなのかな?銃とか刀は一般的だけど、上の階級の方だと拳を使う方も多いね。どんな武器でも一人は教官を見つけられるだろうと思うよ。イイネ!」

 

 ふむ。俺はどんな武器を使いたいだろうか?欲を張ればどんな武器も使いこなせる万能な海兵になりたいけど、最初からあれこれ手を出すのは愚策だろう。俺の能力を考えるならば遠距離系の武器はあまり意味がないだろう。

 

「あ、中将からの指示で、体術は叩き込むから拳以外で選んでくれよ、イイネ?」

 

 どうやら二種類使いこなせるようになることは、中将の頭の中で決定らしい。それなら刀がいいだろう。母さんの形見もあることだし。

 

「では僕は、刀を習いたいです!」

 

 俺の言葉に大佐は「分かっていたぞ」という風に頷いた。俺の刀を見て知っていたのだから、刀を選ぶというのはなんとなく理解していたのかもしれない。

 

「まぁ、そう言うだろうと思ったよ。僕も一応、刀を扱う訓練は受けているんだけれど、一向に上達しないんだけど、基礎くらいなら教えられるから今はそれで我慢してくれるかい?」

 

 というとどこに置いてあったのか木刀を手に持ってきた。それはむこうの世界によくある一般的な形の木刀と違い、かなりの太さ、重さがあった。大佐に文句を言うわけにもいかず、「四歳児にこんな重い木刀振らせるのかよ」だとか「四歳児の手じゃこんな太い木刀持てないわ」という不平不満を押さえ込んで素振りを始めた。否、始めようとした途端、大佐によって木刀は取り上げられた。俺の顔が唖然としているのが、おもしろかったのか苦笑しながらその意図を説明してくれた。

 

「あはは、ごめんよ。今、木刀を持たせたのはいきなり素振りを始めるってことじゃなくて、どんなものを持つのか教えようって思っただけなんだ。まずは身体作りから。これは中将との取り決めだから、しばらくは同じような訓練が続くけれど、我慢して付いてきてくれ。イイネ?」

 

 どうやら俺の勘違いだったようなので、少し恥ずかしく思いながらも心の中だけでごめんなさいする。なんだかんだ文句を言いながらも案外やる気充分だった自分もまた恥ずかしい。少しはしゃいでいたようだ。

 

「はい、がんばります!」

 

 俺がそう言うと、大佐は俺に手を伸ばしてきた。大佐の顔をうかがうと、なんとなく体育会系っぽい顔をしていたので、こちらも手を伸ばし握る。

 

「よし、一緒に頑張ろう!それじゃあ、まずは走り込みだ!!走りは全ての基本だからな!」

 

 過去の話から気付くべきだった。この人は本部に来る為に正拳突きをやるような人だ。普段は上手く隠しているが、素の顔は体育会系だ。それも周囲の人間を巻き込むタイプの熱血野郎。

 自分の教官となった人間がかなりメンドくさいタイプであることに遅まきながらも気付いたが、今さらどうこうできるわけもなし、諦めが肝心だと自分に言い聞かせた。

 大佐は熱血野郎でありながら、状況を見極める冷静さも持ち合わせていた。それがどうなるのかというと、動けないけれどもギリギリ意識はあるという極限な状況にまで、追い込まれることとなった。

 

 もう走れません、という俺の言葉に対して、気合が足りないからだ!気合だぁー!と返されるとは思わなかった。イイネ大佐がこんなテンプレタイプの熱血野郎であると、俺の教官に命じたサカズキ中将は知っているのだろうか?てか、キャラ変わりすぎだろ……

 クタクタになって大佐に運ばれてきたベッドの中、薄れ行く意識の中でふと疑問に感じたのだった。




読んでいただいてありがとうございます!

さて、主人公のヒロインですが、希望などありましたら活動報告の方に専用の投稿をしておきますので、たくさんのご応募待ってます!

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