翌日俺が起きると、寮の案内板に海兵たちの人だかりが出来ていた。俺が気になって人だかりを掻き分けて前に出て行くと、俺に気付いた海兵たちが嫉妬と羨望のこもった眼差しを向けながらも祝福してくれた。
寮の案内板には俺の名前と共に、伍長に任ずると書かれていた。伍長と言うと私服が認められる階級で、下から四つ目にあたる。俺がこの階級に任じられた理由は、悪魔の実の能力よりも俺自身の戦闘能力よりも、サカズキ中将の孫であるということにある。過激派である中将を恐れる海兵は多い。その中将の孫である俺を下の階級にやって、上の階級の海兵が萎縮して上手く扱えなくても困るし、七光りとかいって下手な反感でいじめみたいなものがおきても困る。かといって、上の階級をやっても年下の海兵に従う者は少ないだろう。それらを考慮してこの階級なのだろうが、それでも十歳の子供に与えられる階級にしてはいささか高すぎる気もする。
「トビラマ君、中将がお呼びだ。朝食を食べたらすぐに執務室へ向かうこと、イイネ?」
海兵たちにもみくちゃにされていると、イイネ准将が現れ伝言を告げるとすぐにどこかへ行ってしまった。
イイネ准将が現れた途端に海兵の群れがサーッと引いていったのは少し笑ってしまった。
その後は急いで朝食をかきこんで、走って執務室へと向かう。非常時と訓練時以外の剃は禁止されているので、普通に走って、だ。俺が自室にしている寮は二等兵から一等兵の海兵が泊まっている寮で、上級士官用の寮ではないので島の外周部にあり、島の中心部にある執務室からはだいぶ離れている。普通に歩いていこうとすると、だいぶかかってしまうからだ。
中将の執務室に着くと、イイネ准将が外で待っていた。たぶんあれからずっと待っていてくれたのだろうと考え、いそいで頭を下げる。伍長の分際で十階級も上の准将を待たせるなんて、縦社会の海軍ではとても許されない。頭を下げた俺に対して准将は、笑って手を振って気にしていないと言ってくれた。それでも、という俺に対して、中将が待っているから、と笑顔を浮かべながら執務室の扉を上げてくれた。
そこにはいつも通り仏頂面のサカズキ中将がいた。中将が手招きすると、いつもはそこで出て行ってしまう准将が室内に入ってきて、綺麗に包装された紙袋を一つを中将に渡した。
「伍長からは私服でおられるけんのぅ、昇進祝いじゃ。受け取れぇ」
そう言うと、中将は准将から手渡された紙袋をこっちに放り投げてきた。突然投げられた紙袋をなんとかキャッチすると、准将はニヤニヤと笑いながら自分の持っていた紙箱を渡してくれた。
「中将はあんまり素直な方じゃないので、言葉通りに受け取らないこと、イイネ?それとこっちは私からの昇進祝いだよ。」
受け取ると、准将が開けてみるように促してきたので、中将の紙袋から開けてみる。するとそこには、中将がいつも着ているワインレッドのシャツが、三着ほど入っていた。ヤーさんな雰囲気の一品だが、俺自身は好きな色合いで欲しいなと思っていたものなので素直に感謝と喜んでいることを伝えた。
「ありがとうございます!中将の着ているこのシャツ格好いいなって思ってたんですよ!!」
そう伝えると准将は、またニヤニヤ笑いを浮かべて中将を見た。
「良かったじゃないですかサカズキ中将。わざわざオーダーメイドした甲斐がありましたね!」
なんと、オーダーメイドらしい。そりゃ確かに十歳の子供に着せる用のワインレッド色のYシャツがあるはずないが、誕生日祝いという概念がないこの世界で初めてのプレゼントが結構手間隙かかったものと知ると凄く嬉しくなった。
つづいて准将の紙箱を開けてみると、入っていたのは武田信玄がつけていたような顔半分を隠すくらいの大きさの赤い鬼の面だった。面の後ろ部分には、歌舞伎役者が頭を振り回すときに付けているような赤いかつらがついている。この面にはセットでボクシングで使うようなヘッドギア(つまり、NARUT○で二代目が付けていたようなもの)がついていて、それにカチリとはめることが出来る。そうすると、激しい運動をしても取れなくなるらしい。ウソップのゴーグルのように、面だけを上にずらす事も出来る。
准将いわく、これもオーダーメイドで、わざわざ俺の二つ名に合うように作ってくれたのだそうだ。なかなかに威圧感のある面だから、これを付けていればガキだからってなめてくるような奴も減るだろう、という算段もあるらしい。
「本当に!本当にありがとうございます!!絶対に大事にしますね!」
こちらにも微笑みながら、しっかり感謝する。Yシャツもそうだったが、こちらの面に関しても面に使う樹の材質からこだわって選んだものらしい。
その後、中将に言われて海に出る用の私服を買ってくるように言われたのだが、一人じゃ不安ということで准将も一緒についてきてくれることになった。
「トビラマ君、コートを見に行きませんか?海での体温調節は必須ですからね!」
と准将が言うので、准将おススメの上着専門店に行くことになった。准将は、支部から本部に転属になったこともあって、趣味はマリンフォード巡りなんだそうだ。
キャサリン上着専門店
ある意味、お約束といえるのかもしれない。けれど、実際に遭遇したくなかったお約束に俺は、殺意を抑えることが出来なかった。何故なら……
「あっら~ん、イイネちゃんじゃないのよん!もうっ、最近全然来てくれないから、キャサリン寂しかったのよぉ?」
身体をくねらせながら理解出来ない言語を話すこの目の前の怪物のせいである。女言葉かどうかさえ怪しい言葉で話す怪物は、筋骨隆々で浅黒い肌をして、体長は三メートルほどはありそうである。毛皮で作ったと思われる短い腰巻を巻き、腹筋を見せ付けるように毛皮で作ったコートだけを羽織っている。インナーなど着ていない。俺は前世のこともあって、オカマにはある一定の理解があると思っている。だが、これは無理だ。キツイ、自然系の俺が視覚だけで殺されかけているということで、こいつの危険度は分かってもらえると思う。
「あらっ?!まぁ、可愛い子連れちゃって!イイネちゃんいつ子供なんて作ったのよぉ?もう式は挙げたの?何で呼んでくれないのよぉ?」
「あぁ、この子は僕の子じゃないよ。最近、昇進したから忙しくてね。あぁ、この子の上着を見繕ってもらえるかな?」
この目の前の化物に勇敢に立ち向かう准将の姿に感動した。恐慌状態に陥ることなく、冷静に対処するその姿はまさに、一軍の将であるといえる。
目の前の怪物が動き、俺の目の前で停止した。それだけで俺は動くことが出来なかった。怪物によって俺は影を縫いつけられてしまったのかもしれない。このまま、ここで喰われてしまう。
そう覚悟したとき、怪物が俺を視界からはずし、イイネ准将へと向き直った。
「この子、ウブなのね。可愛いわぁ、フフ。この子に似合いそうなのが一着あるけれど、勝手に決めちゃっていいのかしら?」
「そうだね、あんまり派手でなければ誰も文句は言わないよ。」
准将が怪物に呪文を唱えると、怪物は諦めたのか後方に退散していった。
と思ったのだが、もう一匹いたのか同じ種類の怪物が現れた。さすがにヤバイと思ったのか、准将は怪物にお札を渡すと、ボスドロップと思われる黒いコートを受け取り、ダンジョンの外へと出た。怪物はダンジョンの外には出てこれないようだった。
「はい、どうぞ。彼女は、見た目はあんなんだけど、心は可愛らしい乙女だから、あんまり酷いことは言わないであげてね。」
やはり准将も心に深いダメージを受けていたのだろう。最後になぜか、味方であるはずの俺にも、精神汚染系の呪文を唱えてきた。
二人で近くの喫茶店で精神の安定を図ってから、ズボンを買いにいった。こちらに関しては、前の店が何だったのかと思うくらい、スムーズに終わった。インナーがYシャツなので、下はスラックスを買うことにしたのだが、やはり俺の体躯に合うものは無くて、オーダーメイドということになった。
ホントはオーダーメイドなんてもの凄く時間がかかるものなのだが、イイネ准将の弟子だと知ると出来る限り急いでくれることになり、なんと三日で仕上げてくれるらしい。その代わり、材質の指定は出来ないということだった。
一週間くらいは、配属先が決まらないから、出港するころにはフル装備できるだろう、と准将に言われた。
今日一日、濃すぎて大変だったけど、准将の凄いところをいっぱい知ることが出来てなんだか、幸せだった。早く出世して、准将の副官になって恩返しをする。それが俺の今の目標だ。明日からもっと頑張ろう。
コメント、評価お待ちしてます。
希望があったら、他の人視点もやろうかなと思っています。
それでは