_______________煙草の煙が高く舞う。
それを見届けて、また煙草に口をつける。
煙が良い感じに循環して、また口から吐息のように出ていく。
「今日は煙草なんですね…」
後ろから突然声がかけられる。
面倒くさく思いながら、ふらりと後ろを振り返る。
「…………蘭、か…」
「………今日はあたしだけじゃないですけど…」
そう、蘭が言うとひょっこり影が飛び出てきた。
そんな影の正体を見る前にそっと近くの空き缶に短くなった煙草を捨てておく。
……………何となく予想はできているが、あいつのペースで会話を進めていくと煙草のことをつい忘れてしまうことがあるからな…
今のうちにしっかり処理しておかないと、火傷することになりそうだ…
………………………さてと…
そっと視線を扉の方に向ける。
「今日はモカちゃんもサボり組だよ~」
__________________予想通りだった。
へらっと笑うモカの姿が目に入る。
私や蘭ほどの頻度でサボることはないが、たまにこうして屋上にやって来る。
…………久しぶりだな、こいつが授業中に来るの…
「わ、わぁ。は、初めてサボっちゃった……」
………………………ん?
「おぉ~。来栖先輩が珍しく驚いてる~」
「………………レアだ…」
おい。人の感情をアイテム扱いするな。
私だって驚くときは驚く。
………………特に今。
桃色の髪を2つに結んだ少女。
視線が自然と惹き付けられる翡翠色に輝く瞳が特徴的な少女である。
そしてそんな少女は私の記憶違いでないなら、昨日階段のところでぶつかった少女であった。
……………まさか、こいつらと知り合いだったのか…?
「あ、あのっ!せ、先輩!
わ、私のこと、、覚えて、ます、か?」
「……………あぁ。覚えてる…」
不安そうに瞳を揺らしながら私に問いかける、目の前の少女。
名も知らぬ人物で終わるはずの少女が、まさか数少ない知り合いの知り合いでこうして事故の翌日に会うとは……
こんなこと考えたことがなかった…
「ほ、本当ですかっ!?」
「……………本当だ…」
今度はキラキラと瞳を輝かせて、こちらを見上げる目の前の少女。
この少女の瞳は忙しなく変化しているようだ。
そんな分かりやすい素直な性格をしているからこそ、こんなにも目の前の少女の翡翠色の瞳に惹き付けられるのだろうか。
チラリと横を見る。
蘭は呆れたように少女を見ていて、モカはニヤニヤとこの光景を見ていた。
そんな二人の様子が目に入る。
____________モヤッ。
…………ん?
モヤッ?
何かモヤッとしたものが胸に生まれた。
何かが引っ掛かるこの光景。
しかし今の私には何が引っ掛かるのか、分からなかった。
勘に関してはそれなりに鋭いと自負しているが、だからといって胸を張れるほど鋭いわけでもない。
とりあえず気のせいということにしておき、このモヤモヤをスルーすることにした。
「あ、あの、な、名前……っ!!
な、名前を教えていただけませんかっ!」
「っ!?」
思わず、目を見開く。
………………地味に衝撃的な発言だ…
「ひーちゃんってば、来栖先輩の名前を知らないなんて、どんな学校生活を送ってきたの~?」
「えっ!?」
モカは元から少女が私の名前を知らないことを知っていたようで、余裕を持ったからかい顔でそう言った。
……………まぁ、普通にこの学校で生活してたら、私の名前を一度や二度聞いたことくらいあるだろう。
「…………ひまり、流石にそれは…」
「えっ!?えぇっ!?ど、どういうことっ!?」
蘭はこの事を知らなかったようで、ちょっと少女に対して引き気味になっている。
………不本意だが、それほど私の名前は認知度があり、影響力のある名前だった。
「………………来栖 琉生…」
目の前の少女に若干呆れながら、そっと吐き出すように名前を言った。
その途端、戸惑い気味だった顔がパァアっと晴れ渡るように明るくなっていった。
………………子犬みたいだな…
「る、るるるる琉生先輩っ!!
って、よ、呼んでも、い、いい、です、か?」
「…………………別に良いけど…」
私のことを下の名前で呼びたいなんて、しかもほぼ初対面でとか、とんだ物好きもいたもんだな……
この少女も昨日会った秋風 咲羅のように変わり者のようだ。
……………昨日は珍しく新しい知り合いが出来た日だが、その知り合いがどちらも変わり者とは、昨日の私は変わり者に好かれる魔法でもかけられていたのかもしれない…
「そ、そのっ、わ、私は上原 ひまりですっ。
き、昨日は、その、す、すいませんでした。
え、えっと、わ、私のことは、ひ、ひまりと呼んでくれたら嬉しいです!
よ、よろしくお願いしますっ!」
「………………ん。よろしく…」
翡翠色の瞳をさ迷わせながら自己紹介をする少女………否、ひまり。
ぶっきらぼうになってしまう私を特に気にせず、照れたような嬉しそうなそんな表情で見ている。
そんな私達を見て、呆れたように大きなため息を吐く、蘭。
そして最初から最後までずっと私達をニヤニヤと見つめていた、モカ。
そんな後輩だらけな空間で私は変わっていくであろう日常を受け入れることにした。