ISMD ~ムーンデュエラーズ~   作:バイル77

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第1話「父と子、そして宿命」

弾と別れた統夜はまるで創作の中に出てくるような豪邸である自宅の門を開ける。

指紋認証で開かれた門をくぐって玄関に向かう。

 

住宅地の中でも一際豪邸であるのが紫雲家だ。

父であるセルドアは優れた技術者でありかなりの資産を持っているようで、その影響らしい。

 

家にいるのは統夜だけであった。

彼の母親である【紫雲柚木】は、統夜が5歳の時に逝去しておりセルドアが男手一つで育て上げたのだ。

 

 

「ただいま」

 

 

統夜は鞄をソファに放り投げ、そのまま座り込む。

それと同時に、懐の携帯からピロンと電子音が鳴った。

 

取り出して確認すると、父であるセルドア・紫雲名義で自身の口座に生活費が振り込まれたのだ。

その金額はかなりのもので、高校生ならば1月は遊び続けても余裕を持って生活できるレベルのものだ。

 

 

(金さえ渡しておけば、子供は勝手に育つ……そう思ってるんだろうさ、父さんは)

 

 

苦笑して携帯も放り投げる。

 

 

「……少し寝よう」

 

 

学生服のまま、別のソファに転がり瞳を閉じる。

弾の言うとおり、やはり少し疲れていたのか、すぐに睡魔が統夜を眠りに落としていった。

 

――――――――――――――――

 

――いつからか、よく同じ夢を見ていた。

 

――暗闇の中にぽつんと座り、祈るような仕草でこちらを見ている女の子の夢だ。

 

――とても綺麗で、とても悲しそうな瞳をした彼女は、いつもこう言う。

 

 

「許して……どうか許してください。私達は、再び禁忌に触れてしまった」

 

「災いを、この世界にもたらしてしまった……たとえ、それが定められた運命であったとしても、私達に咎がある」

 

「鍵となるのは、皇家の剣……あなたに、重荷を背負わせてしまうかもしれない私を……力なき、私を……許してください」

 

 

――目覚めると、いつも彼女の言葉を殆ど忘れてしまっている。

 

――覚えているのはただ、透き通るような髪の周りで、キラキラと輝く光の粒子と、悲しそうなその瞳だけ。

 

――――――――――――――――

 

「……またあの夢か」

 

 

少しだけ頭を振って統夜はソファから起き上がる。

時間を見ると大体30分ほど経過していた。

すでに日は沈みかけ、夕焼けが今を照らしていた。

 

そんな時であった。

――突如、爆発音が響いたのは。

 

 

「なっ、なんだっ!?」

 

 

振動と爆発音が睡魔にぼやける意識を覚醒させた。

原因を探るためにすぐさま庭に飛び出た。

 

 

「何か落ちてきたのか?庭が陥没してる……?」

 

 

統夜のつぶやき通り、庭には何かが落着したようなクレーターができていた。

恐る恐るクレーターの中心地を確認するとそこには、【緑色の蟲の様な機械】が存在していた。

 

 

「なっ、なんだよ、あれっ!?」

 

 

統夜の困惑の声にその機械が反応したのか、目にも見えるセンサーユニットで統夜を捉える。

 

 

「こっ、こっちにくるっ!?」

 

 

とっさに後ずさりして、駆けだす。

だがその蟲もクレーターから這い出して、統夜を追跡してきた。

その動きはまるで昆虫のそれであった。

そして速度は圧倒的に蟲のほうが速かった。

 

鈍く煌く触腕、まるで刃の様なそれが統夜の頭部を狙っている。

 

 

「うっ、うわああっ!?」

 

『オルゴン・ブラスターッ!』

 

 

力強い咆哮とともに、頭上から緑色の閃光が迸った。

 

 

「えっ!?」

 

 

まるでアニメや漫画に出てくるビームの様な光が蟲を飲み込んだのだ。

その閃光の中にまるで結晶体の様な物質が見えたのと同時に、蟲は光に耐え切れずに溶けていった。

 

 

「たっ、助かった……けど一体何が起こったんだよ……?」

 

 

統夜の安堵と困惑が入り混じった声に、答える声があった。

 

 

『無事か、統夜よ』

 

 

頭上を見上げるとそこには見知った、唯一の肉親である父【セルドア・紫雲】の姿があった。

まるでISの様な鎧を身に着けているが、彼を見間違えるはずがなかった。

 

 

「とう……さん……?」

 

『何とか間に合ったようだな……っ!』

 

 

セルドアが安堵して統夜のすぐそばに降下する。

同時に、つぅっと口元から赤い雫が垂れた。

 

 

「父さんっ、怪我して……っ!?なんなんだよ、あのバケモノはっ!それにそれ……ISなのか、なんで父さんが動かせ……っ!?」

 

 

そこまでセルドアに伝えると同時に、統夜は絶句した。

なぜならば頭上に先ほどの蟲と同型の機体が6機どこからともなく現れたからだ。

 

それぞれが触腕を構えてすでに臨戦態勢に見える。

 

 

『……統夜よ、聞きたいことはたくさんあるだろう。だが今は私に力を貸してくれ』

 

「力って、俺に何ができるっていうんだよっ!」

 

『この機体、グランティードに触れるだけでいい。急ぐのだ、統夜っ!』

 

 

父の叱責にも近い言葉に、ビクンと震えながら父の纏っている機体【グランティード】の装甲に統夜は手を置く。

 

その瞬間、グランティードから情報が頭に流れ込んでくる。

【PIC】、【シールドエネルギー】、【絶対防御】、【オルゴン】、【オルゴンクラウド】【サイトロン】etc。

そして統夜の身体が緑の美しい粒子にとける様に消え、球体になってグランティードの胸部に取り込まれた。

 

 

『なっ、何が起こったんだ!?』

 

 

自身に起こった事象に困惑した統夜の声が響く。

現在の彼はグランティードの真横に、意識だけで浮かんでいるような状態だ。

それを視認できるセルドアは物憂げな表情を浮かべた。

 

 

(やはり、統夜にもサイトロンへの適性が……グランティード単騎での【バスカーモード】まで可能か、因果なものだ)

 

 

セルドア単体の状態よりもさらに出力が高まったグランティードのスラスターに光が灯る。

全身にみなぎる【気迫】はその機体出力をより高める様に燃え上っている。

 

 

『行くぞ、統夜よ!父の最後の戦い、その目に焼き付けよっ!』

 

『うっ、うわぁぁあ!?』

 

 

凄まじい速度で加速したグランティードの右マニピュレータに翡翠色の美しい光の粒子が収束していく。

そして一瞬で粒子は結晶となり、グランディーとの右マニピュレータを覆う。

 

 

『フィンガー・クリーブッ!』

 

 

蟲の体を構成している金属を容易く貫いたオルゴン粒子の貫手。

蟲からマニピュレータを抜くと同時に、無傷な蟲にそれを放り投げる。

 

 

同時に胸部ユニットに粒子が収束。

 

 

『オルゴン・スレイブ、いけぇいっ!』

 

 

先ほど蟲を撃破したブラスターよりも強力な、【必中】の一撃。

胸部から発射された翡翠色の閃光が蟲4機を飲み込んだ。

菱形の様な粒子の結晶が蟲達を貫いて、先ほどフィンガー・クリーブで破壊した蟲を起爆剤に、爆発が起こる。

 

 

『……凄い……っ』

 

 

幼いころから父であるセルドアはとても屈強な体をして居ることは知っていた。

何かスポーツや特殊な職業についていたのかと聞いた時、彼が困ったように笑うのを覚えていた。

今のセルドアはまるでおとぎ話に出てくるような【騎士】の様にも見えた。

 

 

『残り1機っ!ならばっ!』

 

 

グランティードの脚部のブレードが切り離されて、合体。

円盤じょうに形成されたそれがマニピュレータに収まる。

セルドアは機体の出力を全開にしつつ、放る。

 

回転しつつ、蟲の体を削り取っていく【クラッシュ・ソーサー】

そしてそれだけでは終わらない。

 

 

『まだだっ!』

 

 

グランティードが加速して、その重厚な腕で蟲をつかみ上げる。

同時に胸部ユニットから円錐状の結晶体が出現し、結晶体はまるでドリルの様に回転を始めた。

 

 

『オルゴナイト・バスターッ!!』

 

 

その結晶体をつかみ上げた蟲に押し付ける。

金属が結晶体に容易く削り取られ、グランティードのマニピュレータに込められた力によって蟲の身体に次々と亀裂が生じていく。

 

 

『砕けるがいいっ!』

 

 

すでに死に体になった蟲に一際強くドリルを押し込んでから放り投げる。

当然耐えられるわけもなく、蟲は爆散した。

 

 

『やっ、やったのか……?』

 

『ああ、そのようだ……』

 

 

センサーには他の機影はなし。

それを確認したセルドアの身体から力が抜けていく。

 

同時に【グランティード】から統夜が分離して実体化した。

 

 

「とっ、父さんっ!?」

 

『……限界か、だが役目は果たせた……』

 

 

グランティード本体も光に包まれる。

セルドアの身体から分離するとともに、【深紅の宝玉がはめ込まれたペンダント】の様に変化して、統夜の手の中に現れた。

 

 

「父さんっ、その怪我っ、そんな怪我でっ!?」

 

 

本来は白を基調としたセルドアの服だが、今は逆に白い部分を探すのが難しいほどに赤く、血に染まっていた。

 

 

「父さん、すぐに救急車をっ!」

 

 

統夜はそう言うがセルドアは薄く笑みを浮かべてそれを制す。

そしてその大きな手で統夜の頬に触れる。

その手つきは慈しむ様な仕草であった。

 

 

「なあ……統夜……お前が……生まれた日のこと……お前を……初めて抱き上げた時の、あの重み……産声……今でも……よく覚えて……いるよ……あんな……小さ……な……」

 

 

セルドアの手が統夜の頬から離れ、落ちる。

 

 

「……父さん?父さんっ!?」

 

 

セルドアの身体を揺する。

しかし彼が目を覚ますことはない。

 

 

「父さんっ、嘘だろっ、目を開けてくれよっ!わけわからないんだよっ!ねぇっ!」

 

 

自然と涙が溢れてくる。

だが父の死という事実は変わらない。

 

 

「父さぁぁぁんっ!!!」

 

 

統夜の絶叫が、戦闘の跡が残る自宅に響いた。

 

 

―――――――――――――――

統夜の絶叫が響くのと同時に紫雲家に到着した人間が、2人いた。

 

2人が纏っているのはISだ。

だが片方は男性であった。

 

 

『間に合わなかったか……エ=セルダ・シューン、いやセルドア。見事な最期でした』

 

 

その男性は先ほどセルドアが通信していた人間であった。

黒髪の男性の名前は【更識蔵人】。

セルドアの遺体を抱いて泣く統夜を上空数10mから見下ろして、悲痛な表情を浮かべていた。

 

彼が纏う機体は、セルドアが戦ったアル=ヴァンの【ラフトクランズ・アウルン】に近いが頭部センサーが異なっている。

また両マニピュレータと脚部には近接戦闘用のブレードが装備されており、装甲も大部分が紫の機体であった。

 

 

『グランティードは彼を……統夜君を選んだか』

 

『お父様、彼は……統夜をどうするつもりですか?』

 

『安心しなさい、簪。統夜君は保護するよ、彼はセルドアの残した希望だからね』

 

『……はい』

 

 

簪と呼ばれた水色の髪の眼鏡をかけた少女【更識簪】は安堵の息と笑みを漏らした。

彼女が身にまとっているのはISだ。

その名前は【ベルゼバイン】。

現在国産量産機のシェアを握っている【打鉄】を超えるために【アシュアリー・クロツェル】が開発した試作型のISだ。

幾分か彼女の嗜好が組み込まれているためか、機体色は銀、赤、青主体に変更されていた。

 

 

『刀奈からの連絡は?』

 

『お姉ちゃんからはすでにIS学園へ連絡を取っているらしいです』

 

『そうか……やはりそうするしかないか』

 

 

蔵人が物憂げな表情になり、グランティードが破壊した蟲の残骸に目をやる。

 

 

『強硬派の計画はすでに始まりかけているというのに……こんなもので地球をかき乱すか、篠ノ之束』

 

『お父様はその……あの蟲みたいな機械を知っているんですか?』

 

『……ああ。だが今は統夜君の保護だ。簪、彼を頼めるかね?』

 

『あっ、はい。分かってます』

 

『頼むよ』

 

 

簪のベルゼバインが降下して、統夜に向かっていく。

 

 

(フューリーだけではなく、篠ノ之束まで動き出したか。せめてクストウェルを奪取できていれば……いや、あれを乗りこなせるのは私を含めた禁士と一部の騎士だけ。今は統夜君とセルドアの遺体だ。他の人間にセルドアを渡すわけにはいかない)

 

 

それを追って蔵人の駆る機体【ラフトクランズ・クロウディア】が降下していく。

 

 

―――――――――――――――

???

 

 

「ちぇっ、失敗か」

 

 

ウサギ耳の美女がそう呟いて目の前の空間投影ディスプレイを消す。

消す瞬間のそれに映っていたのは、グランティードの戦闘映像。

 

 

「せっかくオリジナルを奪える機会だったのになぁ。英雄様はホントしつこいね。さっさと消えればいいのに……ま、次の機会があるかな」

 

 

面白そうに呟いた女性は笑みを浮かべる。

 

 

「【紫雲統夜】君……しうん、シューン。なるほどねぇ……面白くなるねぇ」

 

 

そう呟いた女性は立ち上がって闇に消えていった。

 




続いちゃいました。
不定期ですが、よろしくお願いします。

統夜がトーヤじゃないから姫様は……うん(白目


次回予告

第2話「それぞれの理由」


『くっそおおおっ!やれっていうなら、やってやるさっ!』

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