第2アリーナの上空はすでに混戦の様相を呈していた。
アリーナのバリアを破壊した蟲――無人機と同じ機体が、増援を含めて10機出現していたからだ。
だが代表候補生達もその程度で慌てたりはしない。
蒼の機体、【ブルー・ティアーズ】を駆るセシリアの操作に従いブルー・ティアーズの背部スラスターが分離、4機の遠隔無線誘導砲台が彼女の周りを浮遊している。
『撃ち落しなさいっ!』
複雑な機動を描いて、ティアーズ4機が無人機に向かって行く。
それに反応した蟲は、口のようにも見える機関からビームを放ち、ティアーズを狙う。
だが、その発射されたビームをクイックな機動でティアーズは躱す。
『甘いですわよっ!』
ビームでの迎撃行動を予測していたセシリアは、自身の予測が当たった事に薄く笑みを浮かべていた。
統夜は知らない事であったが、数日前に一夏とセシリアによるクラス代表を決定する試合が行われていたのだ。
試合結果だけ見ればセシリアは勝利したが、勝負としては決定的な一撃が決まる直前に一夏の白式のエネルギーが切れると言う結末であった。
その試合を通して一夏に惹かれたセシリアであったが、IS搭乗者としての自分に不甲斐無さを感じた。
現在のセシリアはティアーズを展開しつつの行動、所謂同時制御が出来ないのだ。
同時制御さえ出来れば、自身の戦闘にはさらに幅が出る。
そのため、立体パズルなどを用いてBT兵器に必要となる【空間認識能力】と【並列思考】を一から鍛えなおしている。
その成果によって未だ、同時制御は不可能だがティアーズをより精密に、より機敏に操作する事が可能になっていた。
同時制御も実現はそう遠くないと彼女は感じていた。
閑話休題
機敏な機動でビームを躱したティアーズから、反撃のレーザーが射出され、蟲の機体を貫く。
数条のレーザーに貫かれた蟲は機能を停止して落下して行く。
だがその行動に反応した蟲、2機がセシリアに向かってビーム発射口を向ける。
『っ!』
その行動に気づいたセシリアが回避行動に移るが、スラスターを兼ねたティアーズを切り離しているため、機動力は通常字よりも大幅に下がっている。
『セシリアっ!』
蟲と切り結んでいた一夏が友人の危機に叫ぶ。
一夏の叫びとともに行動を移した機体がいた。
『オルゴン・ライフル、Nモード起動っ!』
銀、赤、青特徴的なトリコロール。
簪が駆るベルゼバインだ。
その両マニピュレータに展開した大型狙撃ライフル【オルゴン・ライフル】
砲口に翡翠色の粒子が収束し、射撃可能状態に移行する。
『そこっ!』
敵機の機動を【集中】して予測し、トリガーを引く。
美しい翡翠色の高出力ビームがライフルから放たれて、蟲を側面から貫き、そのままもう1匹も同時に貫いた。
ベルゼバインの射撃に貫かれた2機は機能を停止し、1機は爆散し、もう1機は落下して行く。
それを確認したセシリアは安堵の息を漏らして、簪にオープンチャンネルを繋げる。
『感謝いたしますわ』
『大丈夫、それにまだ8機もいる……危ないっ!』
ベルゼバインのセンサーが下方で戦っている白式の戦闘を捉えた。
『このぉっ!!』
白式が自らの得物である【雪片弐型】を振り切る。
一機の蟲の触腕部分を切り落とすが、蟲は意にも介さずスラスターを全開にして白式にタックルを繰り出してきた。
『ぐあっ!?』
たまらず弾き飛ばされた一夏の白式であったが、姿勢制御が覚束ない。
簪やセシリアならば即座に【
それは戦場では致命的な隙を生む。
一夏を弾き飛ばした蟲はビーム発射口を彼に向けていたからだ。
『一夏さんっ!』
『織斑っ!』
セシリアは想い人である一夏を助けるために、簪は代表候補生として一夏を助けるためにそれぞれ得物を向けるが間に合わない。
だが、一夏にビームは届かなかった。
『オルゴン・ブラスターっ!!』
緑色の閃光、高出力ビームが下方から迸り、蟲を飲み込んだのだ。
蟲の装甲がビームによって融解していくのと同時に、機能不全が起こったのか行動を停止させる。
『統夜っ!』
『一夏っ、コイツは俺がっ!』
グランティードを駆る統夜が、頭頂部の天使の輪にも見える機関から【オルゴン・ブラスター】を放ち、一夏を救ったのだ。
一夏に通信を送った統夜が、そのままの加速で行動を停止させた蟲へと向かう。
グランティードの両マニピュレータには翡翠色の粒子、オルゴン粒子が収束していた。
『フィンガー・クリーブッ!』
蟲の装甲を容易く、グランティードの貫手が貫く。
そして2度の連撃の後、両マニピュレータには翡翠色の結晶が現れる。
この結晶の名は【オルゴナイト】、オルゴン粒子を収束して物質化した結晶体だ。
『これで終わりだぁっ!』
叫びとともに、渾身のオルゴナイトの貫手を叩き込む。
叩き込まれた蟲は無残な残骸へと姿を変えて、落下して行く。
『サンキュー、統夜、助かったよ』
『ああっ、でもまだ沢山いるっ』
ビームが数条グランティードと白式に向かうが、散開して回避。
そしてグランティードにベルゼバインが寄り添う。
『統夜、大丈夫?』
『ああ、大丈夫。やれる』
少し心配そうな表情の簪が尋ね、統夜がそう返す。
統夜の答えがただの虚勢である事くらいは見抜ける。
父親であるセルドアの最後の相手はこの無人機達だ。
まだ気持ちの整理も付いていないはずだ。
ならば自分のやる事は決まっている。
彼を支える事が更識としても、個人としても自分がやる事だ。
『分かった、なら一緒に……っ、この熱源反応……っ!?』
ベルゼバインのハイパーセンサーが上空に熱源を捉える。
簪の言葉に統夜全員が上空を見上げる。
上空にはいつの間にか、現在戦っている無人機と同型の蟲が存在していた。
だがその機体色は他が緑であるのに【赤色】であった。
『あれは同じ蟲でしょうか?色は異なっていますが……』
『赤色ってどっかのアニメじゃないんだから……』
一夏とセシリアがそう告げた瞬間であった。
赤色の蟲がISの瞬時加速めいた加速でこちらに突っ込んできたのだ。
『避けてっ!』
蟲の一挙一動に【集中】していた簪がそれに反応できた。
咄嗟にオルゴン・ライフルをNモードで放つ。
蟲はスラスターを噴かせてオルゴンビームを回避して、その速度は大きく低下する。
その隙に簪たちは一旦散開する。
『他の蟲よりも速いっ!』
『うん、出力も多分上……所謂指揮官仕様な感じかな、そこっ!』
オルゴン・ライフルで蟲を狙うが、クイックな反応で回避されてしまう。
統夜もオルゴン・ブラスターを放つが、蟲は射線を読んでいるのか回避されてしまった。
一夏とセシリアも別れて射撃武装で蟲を狙う。
もっとも一夏の白式には射撃武装が搭載されていない為、セシリアがスナイパーライフル【スターライトMK-Ⅲ】で蟲を狙っている。
だがその攻撃すらも回避されてしまう。
『くっ、当たらないっ』
『動きが緑色のとはまるで違う……それに……っ!』
セシリアからの攻撃を意に介さず、赤色の蟲は統夜と簪の2人に向かってくる。
ライフルを放ちながら統夜と共に後退する。
オルゴンビームをかなりの頻度で撃っているため、機体のエネルギーはすでに7割となっている。
『させませんわっ、ティアーズっ!』
一夏に守られながら、セシリアはティアーズを展開する。
流石に、全方位からのレーザーは直進したままでは回避できないのか、赤の蟲は一旦距離を取る。
代わりに緑色の蟲がセシリア達に向かっていく。
(この機体、もしかしてグランティードを……となると、やっぱりこの襲撃は……篠ノ之束の!)
『簪、もしかしてアイツは……俺を狙ってるのか?』
統夜からプライベートチャンネルの通信が届く。
プライベートチャンネルならば、一夏やセシリア、その他の部外者に傍受される可能性はない。
そのため、統夜の問いに頷いて答える。
『……多分、そうだと思う』
『この機体を、グランティードを狙ってるのか……篠ノ之束』
統夜が顔を顰めながら、言う。
彼女の父である16代目【更識楯無】の蔵人曰く、オルゴン・クラウドを搭載した男性でも動かせるISだと言う。
だが、本当にそれだけなのか。
かの天災が態々ここまでして狙う機体。何か自分の知らない事が隠されているのではないか。
そう簪が思考した瞬間であった。
グランティードの胸部ユニットが武装ではない、温かな翡翠色の光を放ち始めたのは。
『なっ、なんだっ!?』
統夜の困惑の声、そしてその光が簪のベルゼバインに伸び、包んで行く。
『えっ、えっ!?』
ベルゼバインの機体と共に、簪の身体が美しい緑の粒子に溶ける様に消え、球体となってグランティードの胸部に取り込まれた。
それは以前の、統夜が経験した事象と同じであった。
『なっ、グランティードに!?』
グランティードに取り込まれた彼女の様子に統夜は驚愕の声を出す。
グランティードから溢れた光に取り込まれた簪であったが、うっすらと透ける様にも見える彼女はグランティードの、統夜の隣で浮いている。
『だっ、大丈夫なのか?』
『うん。身体に違和感はないよ、ただ……』
『ただ?』
『なんだろう、凄く暖かくて心地いいの……誰かに包まれてるみたいな、そんな感じ』
(俺の……あの時と同じだ。それに一人の時よりもグランティードの出力が上がってる?)
グランティードの出力が明らかに自分一人だけの時よりも高いのだ。
まるでこれが本来のグランティードだとでもいうかのように。
『これがグランティードの力……っ!?』
『……統夜、今ならグランティードの武装、全部使えるはず』
『何でわかるんだ?』
『サイト……ロン?よくわからないけど、機体から流れ込んできたの。その制御方法、サイトロン・サイティングにオルゴン・マテリアライゼーション……そもそもグランティードは複座というか複数人で乗り込む機体……みたい』
簪の回答に疑問の声を上げようとした瞬間であった。
統夜の頭にイメージが流れ込んできた。
サイトロンと言う素粒子との交感と情報伝達、グランティードに使われている【サイトロン・コントロール】と言うインターフェースが統夜と簪に情報を伝えて着ていたのだ。
グランティードの胸部から発射される翡翠色の高出力ビーム。
かつて父であるセルドアが無人機に向かって放ったもの。
そして胸部ユニットから展開される円錐状の結晶体。
その結晶体をドリルのように使って破壊するマニューバ。
同じくセルドアが使用したグランティード最大の攻撃。
『っ、オルゴン・スレイブに……オルゴナイト・バスター……?』
流れ込んできた武装の名称を、統夜は困惑しながら呟いた。
『統夜にも?』
『ああ……くそ、何なんだよ、この機体は、訳分からない事が多すぎるんだよっ』
思わず毒づいてしまった統夜であった、センサーが蟲の接近を告げる。
緑の蟲が一夏達のほうに向かい、自分達のほうには赤い蟲が接近してきている。
『統夜っ』
『……分かってるよ!』
『うんっ、今のグランティードなら……っ!』
グランティードが向かってくる赤い蟲に向かってスラスターを噴かすと同時に通信を繋げる。
通信先は一夏とセシリアだ。
『一夏、オルコット、この赤い奴は俺がっ!2人は緑の蟲を頼むっ!』
『統夜っ!?』
『紫雲さんっ!?』
突然の連絡に驚愕の表情を浮かべている2人を尻目に、グランティードは目前に迫った蟲と相対する。
加速して突っ込んできた赤い蟲と組み付く。
大きさとしてはISとほぼ互角である機体同士が組み付いたのだ、拮抗状態になるかと思われた。
だが、蟲は一方的にグランティードに押し返されている。
そもそもシールドバリアで弾き返されており、触腕はグランティードまで届いていなかった。
『統夜、フィンガー・クリーブでっ!』
『分かったっ、フィンガー・クリーブッ!』
緑色の美しい粒子をまき散らしながら、グランティードはフィンガー・クリーブで蟲を弾き飛ばす。
続けて、脚部ブレードがグランティードと融合した簪の操作によって射出され、円盤が構成される。
それを統夜はマニピュレータで掴む。
『ソーサー、簪っ!』
『うん、コントロールは私がっ!』
『ああっ、いけぇっ!』
グランティードがソーサーを放る。
同時にスラスターを全開まで稼働、その重厚な姿からは想像できない速度で蟲に向かう。
ソーサーが蟲の装甲を切り刻み、体勢を崩させる。
ここまで体勢を崩したのならば、後の攻撃は全て【必中】といっても良い。
『行けるよ、統夜っ!』
『うおおおおおっ!』
加速したまま、グランティードは蟲を掴み急降下。
地上に押し付けそのまま引き摺る。
無理やり引き摺られる蟲の装甲は見るも無残なありさまとなっている。
『まだだっ!』
グランティードの胸部からオルゴンの結晶が円錐状に構成される。
そして高速回転を始めた結晶体を蟲に押し付ける。
蟲の合金製の装甲がまるで飴細工の様に砕け散っていく。
『オルゴナイト・バスターッ、砕けろぉおお!』
気合の咆哮とともに、結晶体を押し付けた後、放る。
結晶体が砕け、威力に耐え切れなかった蟲を巻き込んで爆発が起こる。
その爆発にまきこまれた蟲の機体はスクラップと化して辺りに散らばっていく。
頭上を確認すると、敵の蟲の数は残り3機まで減っていた。
それに伴い、セシリアと一夏の機体のエネルギーも相応に減っていた。
特に一夏の方はもうエネルギーが尽きる寸前だ。
『これでっ、一掃するっ!一夏、オルコット、射線から外れてくれっ!』
繋がったままだったチャンネルでそう告げると、白式とブルー・ティアーズが射線から外れた。
それを確認した簪が告げる。
『サイトロン・サイティング……いけるよっ!』
『ああ、行くぞっ!』
グランティードの胸部ユニットにオルゴン粒子の光が集まる。
最大まで出力を高めたエネルギーを一気に開放する。
『オルゴン・スレイブッ!』
統夜の咆哮と共に、オルゴン・ブラスターとは比べ物にならない出力のビームが発射された。
その高出力ビームに飲まれた蟲3機は見る見るうちにその身体を融解させていく。
そしてオルゴン・スレイブの照射が終わる事には、その残骸は一片も残っていなかった。
『……終わった』
『うん、終わったね』
機体のセンサーを直接見るような感覚で周囲に敵機がいない事確認した簪が呟く。
『って、簪、グランティードから離れる事は出来るか?』
簪がグランティードと融合したままだった事を思い出した統夜が簪に尋ねる。
『うん、ちょっと待ってね……』
半透明であった簪の身体が取り込まれたときと同じ翡翠色の光に包まれて消える。
そして胸部ユニットから光が溢れて、自機の横で実体化していく。
光が消えると、そこにはベルゼバインを纏った簪が立っていた。
『うん、分離できたね』
『……よかった』
ほっと胸を撫で下ろす統夜であったが、グランティードが簪の融合している時よりも大幅に出力を下げている事に気づいた。
(これって……さっき流れ込んできたグランティードは複座式の機体って言うのは正しいのか)
『とりあえず、一旦ピットまで戻ろう?』
『……ああ、分かった。一夏達もいいか?』
『ああ、てか更識さん、今までどこにいたんだ?』
『いえ、先程の光……私の目が確かなら、紫雲さんの機体から光が溢れた瞬間、更識さんが現れたように見えましたが……』
一夏とセシリアが急に現れた簪に疑問の声を上げる。
『とにかく、まずは帰還しないと……織斑先生がこっち見てるよ?』
『げぇっ、あれは相当怒ってる時の千冬姉だ……』
Bピットに視線を移すと、そこには青筋を浮かべてこちらを凝視している千冬が立っている。
『……あれはヤバイな、確か中学の時1回みたことあるけど』
『ああ、ヤバイヤバイ……統夜、何とかならないかなぁ?』
『……まあ、甘んじて受けるしかないだろ、覚悟決めないと』
統夜の返答に盛大に一夏はため息をついたのだった。
―――――――――――――――
???
「あれがとーや君の力かぁ、特別にチューンした機体だったのに、圧倒されちゃったなぁ」
目の前の空間投影ディスプレイに映るのはグランティードの戦闘映像。
注目しているのはグランティードから溢れた翡翠の光が簪とベルゼバインを取り込んだ映像。
「……これ、取り込んだ後、明らかに出力上がってるよね。この前は詳細なデータが取れなかったけど、グランティードには、オリジナルにはこんな機能があるの?」
ウサギ耳の美女がそう呟いてディスプレイを凝視している。
「ははっ、凄い、流石オリジナル、未知の技術の宝庫だよ。待っててね、絶対に君は私のものにして見せるから……!」
そう呟いた女性の目には狂喜の色が浮かんでいた。
紫雲統夜 レベル5→10
精神コマンド
必中
不屈 ←NEW
???
???
???
更識簪 レベル8→10
精神コマンド
集中
努力 ←NEW
???
???
???
OGMD、グランティードに3人娘の誰を乗せてました?
私はメルア一択でした。いや決してブルンバストを期待したわけじゃなくてですね(ry
第4話「月からの騎士」
『ラースエイレム、起動っ!』