ISMD ~ムーンデュエラーズ~   作:バイル77

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第4話「月からの騎士」

???

 

王宮の様な荘厳な装飾が施された通路の先、玉座のようにも見える場所に一人の女性が座っている。

いや、年齢から見て少女と言ってもいい。

美しい水色の髪と装飾が施されたドレスが、高い身分のものだと理解させた。

そしてすぐ近くに厳格な雰囲気を漂わせる往年の男性が立っている。

 

その前に跪く緑髪の青年がいた。

 

 

「ジュア=ム・ダルービ」

 

「はっ!」

 

「今宵より、貴公は準騎士から騎士へ昇格する事となった。今後もより一層の活躍を期待している」

 

「ありがたきお言葉です、グ=ランドン様」

 

 

グ=ランドンと呼ばれた男性はジュア=ムの返答に頷いて下がる。

玉座に座っていた水色の長髪の少女が物憂げ表情を浮かべていたが、すぐさま切り替えたのかグ=ランドンに告げる。

 

 

「……グ=ランドン、作戦の現状はどのようになっていますか?」

 

「現在、侵攻作戦は皇女殿下の承認を残すのみです」

 

「……分かりました。シャナ=ミア・エテルナ・フューラの名の下に、作戦の実行を、許可します」

 

 

許可するの手前で一度言い淀んだシャナ=ミアであったが、すぐにその続きを告げる。

 

 

「承知しました」

 

「……グ=ランドン、グランティードの捜索のほうはどうですか?」

 

「はっ。それについてはよい報告が1つ。グランティードのオルゴンエナジーの波長を検知致しました。場所は地球、日本のIS学園との事です」

 

「……やはり彼らの手に渡っていたという事ですか」

 

 

グ=ランドンの背後で直立不動の体制を取っていた緑髪の女性が呟くように言う。

その横で同じく待機していた青年、アル=ヴァンが同僚でもある女性、フー=ルーの言葉に反応した。

 

 

「馬鹿なっ、あの機体はシューンの血を引く者か、皇家に連なる方のみが動かせるはずっ!」

 

「口を慎め、アル=ヴァン。シャナ=ミア様の御前だ」

 

「いいのです、アル=ヴァン。私もその点は気になっていましたから」

 

 

グ=ランドンが取り乱したアル=ヴァンに告げるが、それを弱々しく微笑みながらシャナ=ミアは遮る。

 

 

「何故、グランティードが稼働しているのか。それを確かめなさい。そのためならば、ラースエイレムの使用を許可します。ただし搭乗者については必ず捕虜とする事を厳命とします」

 

「畏まりました。皇女殿下」

 

 

グ=ランドンはそうシャナ=ミアに深く一礼すると、ジュア=ムとフー=ルーに振り返る。

 

 

「フー=ルー、そしてジュア=ム」

 

「「はっ」」

 

「貴様達はIS学園へ向かってもらう。IS学園の戦力把握が目的だが、可能ならば殲滅しろ。それとグランティードについては先ほど皇女殿下が申した通りだ。ラースエイレムも使用して構わない。確実にとらえろ」

 

「「はっ」」

 

 

フー=ル=とジュア=ムが返礼した後踵を返してその場所から出て行く。

その様子をシャナ=ミアは悲痛な表情で眺めていた。

 

――――――――――――――

夕方 IS学園 保健室

 

 

「はい、統夜君。お疲れ様」

 

 

制服を整えながら統夜は保険医に頭を下げる。

ISでの実践を終えた後、統夜、簪、一夏、セシリアは精密検査を受けていた。

全員に怪我はなかったが、学園としては生徒がISの試合ではない戦闘を行ったのだ。

ケアを含めた精密な検査は必須事項だ。

 

 

「特に問題はなかったわ。健康そのものよ」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「今日はゆっくりと疲れを癒してね、と言ってもまだ大浴場は使えなかったわね。マッサージをお勧めしておくわ」

 

「分かりました。それじゃ」

 

 

軽く会釈した後、統夜は保健室から退室する。

そんな彼を待っていたものがいた。

 

 

「あ、統夜。終わったんだ」

 

 

それは簪であった。

 

 

「待っててくれたのか。ごめん」

 

「ううん。そんなに待ってないから大丈夫」

 

「そうか……あっ、身体は大丈夫だよな?」

 

 

統夜は検査を受けている間、気になっていた事を尋ねる。

グランティードに簪はベルゼバインごと取り込まれたのだ。

ここ数週間で身に着けたISの知識では、そんな機能は聞いたこともなかったからだ。

 

統夜の質問に首を縦に振りながら簪は言う。

 

 

「うん、別にどこも悪くないかな。グランティードの中っていうのかな暖かくて気持ちよかったよ」

 

「そうなのか……まあ、とにかくよかった」

 

 

自分のISであるグランティードから何か悪い影響を受けているかもしれないとも考えていたがその様子はなく、統夜は胸をなでおろした。

 

 

「統夜、今日は疲れたでしょ」

 

「まぁな、まさか初日からこんなことになるなんて思わなかった。けどそれを言うなら簪もだろ」

 

「うん……あ、そうだ、荷解き」

 

 

それにひきつった笑みを浮かべながら統夜はため息をついた。

 

 

「あぁ、忘れてたよ。やらないとな」

 

「私も手伝う。そのあと食堂に案内するから」

 

「……そういえば俺の部屋ってどこなんだ」

 

 

思い出したように統夜が呟くと、簪が答えた。

 

 

「あれ、聞いてなかった?私と同じ部室だよ?」

 

「……え?」

 

 

彼女の言葉に疑問と驚愕の混ざった声を統夜は抑えられなかった。

 

10分後 学生寮

 

 

IS学園は全寮制の学園であり、敷地内には学生寮が存在している。

その学生寮も内装は1流ホテルと遜色ない立派なものであり、日々の学業の疲れを快適に癒せていた。

 

さてそんな学生寮の一室、ある部屋の前に統夜と簪がいた。

今日の襲撃の為、かなり体力を消耗していた統夜であったがここにきてさらにげんなりとしていた。

部屋の扉を簪が扉を開け、統夜に尋ねる。

 

 

「統夜、どうかしたの?」

 

「え、あっ、ごめん。本当にここ、俺の部屋なんだよな?」

 

「うん、何でもお姉ちゃんとお父様が色々と調整したらしいけど……」

 

(いいのかよ、男女一緒の部屋って……)

 

 

幼い頃からの仲とはいえこの部屋割りはまずいんじゃないかと考えた統夜だが、もう決まってしまったものはしょうがない。

 

 

「仕方ないか。荷物ってあるのか?」

 

「うん、運び込まれてるよ。荷解き手伝うよ」

 

「殆ど着替えとかだけだけど……ん?」

 

 

扉を開けた簪の背後に動く人影があった。

その人影が、学生寮の通路の光に照らされ詳細が明らかになる。

 

 

「おかえりなさい、統夜くーん。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも……タ・ワ・シ?」

 

 

動いた人影は、簪にどこか似た水色の髪の美少女であった。

それだけならまだよかった。

 

何故ならば、今の彼女の格好は所謂【裸エプロン】と言う奴だ。

しかも彼女のプロポーションはモデルと比較しても遜色ない。

 

しっかりとくびれた腰に、エプロン越しに存在を強調している豊かな果実。

エプロンがギリギリで隠しているが今にも零れそうである。

何故か両手にはタワシを握っているが。

 

その光景が飛び込んできた統夜は即座に目を逸らした。

簪は顔を真っ赤にしながらその少女に詰め寄る。

 

 

「おっ、お姉ちゃんっ!なんて格好してるのっ!?」

 

 

簪が目の前の裸エプロンの少女に叫ぶ。

 

 

「久しぶりに統夜君に会えるんだもん、インパクトはあるでしょ?それに水着は着てるわよ?」

 

「そっ、そういう問題じゃなくてっ!」

 

 

ひらりとエプロンを捲ると確かに、水着を着ていた。

それをちらりと横目で確認した統夜は、ため息をつきながら視線を戻す。

 

 

「……久しぶりでも相変わらずだな、刀奈姉ちゃん」

 

「そう呼ばれるのもホント久々ね、統夜君」

 

 

統夜が刀奈と呼んだ少女の名は【更識刀奈】

簪の実の姉であり、統夜にとっては簪と同じく幼い頃からの仲である。

 

 

「でもどうしてここに?」

 

「2人とも、今日のアレのせいで疲れてるでしょ?だから荷解きの手伝いに。それに統夜君にも久しぶりに会いたかったしね」

 

 

ささっと裸エプロン姿から早着替えを披露して、制服に着替える。

彼女の制服のリボンの色は上級生を示す黄色だ。

刀奈は統夜と簪よりも1つ年上なのだ。

 

 

「ありがとう、刀奈姉ちゃん」

 

「くぅ~、簪ちゃんからも言われて統夜君からも……私今日死んでもいいかも」

 

 

いつの間にか手に持っていた扇子を広げると、そこには【本望】と表示されていた。

 

 

「……むぅ、統夜、荷解きするんでしょ」

 

 

その様子を少し面白くなさそうな表情で簪が告げる。

 

 

「あっ、ああ、そうだった。それじゃ荷解きしよう」

 

「うん」

 

 

簪の言葉に圧されて、統夜は苦笑しながら荷解きを開始した。

この後当然ながら、刀奈がちょっかいを出したのは割愛しよう。

 

 

――――――――――――――

同刻 IS学園地下

 

 

特殊な権限を持つ者しか入室できないIS学園の地下に、2人の人影があった。

織斑千冬と山田真耶だ。

 

作戦室のモニターには先の襲撃の際の戦闘記録が映し出されており、その映像の主役は襲ってきた蟲ではなく、統夜の駆るグランティードであった。

ちょうど、簪とベルゼバインをグランティードが取り込んだ箇所を繰り返し流している。

 

そしてメンテナンスベッドに鎮座しているIS【グランティード】

 

統夜から預かり、検査を行っていたがその結果は散々なものだった。

なにしろ最新のIS関連の設備を誇るIS学園でも、詳細は不明としか言えないのだ。

まるで機体そのものに拒絶されているかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、ほぼすべての解析機能が役に立たないのだ。

 

 

「……なんなんだ、この機体は」

 

「ブラックボックスの塊、としか言えないです。辛うじてわかるのは武装周りに使用されている粒子が特殊なものくらいですよ」

 

「アシュアリーからの回答は?」

 

 

グランティードは表向きはアシュアリー・クロイツェルが開発した新型機として扱われている。

そのため、千冬はアシュアリーに情報提供を望んだのだ。

だが、それに真耶は首を横に振る。

 

 

「駄目ですね。アシュアリーの回答は、更識さんを取り込んだ機能については仕様の一点張りで……こんな機能は見たこともありません。人間を量子化して取り込むISだなんて」

 

「……わかった。ありがとう」

 

 

重厚な鎧にも見えるグランティードをじっと睨むように千冬は目を細める。

ただの機体ではないのははっきりしたが、その詳細が分からないというのが云えもしない焦燥感を煽った。

 

 

(良くないことが起こらなければいいが……)

 

 

嫌な予感を千冬は感じていた。

 

 

――――――――――――――

翌日 IS学園 学生寮

 

 

「ん?」

 

 

授業を終え、自室に戻ろうと学生寮に戻ってきた統夜。

その統夜の視界に、見覚えのあるツインテールの少女が映ったのだ。

 

 

(あれは……鈴?)

 

 

そう、中学からの友人である鳳鈴音だ。

中学2年の時に中国に戻ってしまった彼女だが、当時とあまり変わっていないように見える。

 

 

(そういえば、2組に転入する生徒がいるって言ってたな。それが鈴なのか)

 

 

4組のクラスメイトの話を思い出した統夜。

そんな統夜に鈴も気づいたのか、視線が合った。

 

 

「……統夜?」

 

「久しぶり、鈴」

 

「久しぶりね。そういえばあんた、2人目だったわね」

 

 

統夜にそうぎこちなく笑みを返す鈴。

統夜の記憶の中の鈴はもっと明るい雰囲気の少女であり、何かあったと統夜は気づいた。

 

 

「……何かあったのか?」

 

 

よくみると彼女の目は赤く、先ほどまで泣いていたようにも見える。

それを隠そうとした鈴であったが、思いついたように統夜の手を取る。

 

 

「統夜、少し付き合って」

 

「ちょっ、おっ、おいっ!?」

 

 

有無を言わさず統夜を引っ張っていき、鈴は自室に統夜を引き入れる。

彼女の部屋の相方はまだ帰ってきてはいなかった。

 

 

「……ごめん、統夜。少し話聞いてもらえる?」

 

「まぁ、いいけど……もしかして、一夏か?」

 

「そうなのよっ、あの唐変木っ!私との約束を勘違いしてたのよっ!」

 

 

少し頬を主色に染めた鈴が怒りをまき散らしながら言う。

だいたい予測していた通りの反応だ。

 

 

「約束?」

 

 

鈴の愚痴混じりの話を統夜は聞いていく。

なんでも鈴は転校する直前に一夏にとある約束をしたとの事だ。

その約束は――

 

 

「【毎日酢豚を作ってあげる】……か」

 

 

日本でもポピュラーな告白の【毎日味噌汁を作ってあげる】の改変だ。

回りくどいが意味は通じる。しかし伝えた相手が悪い、いや悪すぎた。

 

 

「それを【奢ってあげる】に間違えて覚えていたか……一夏らしいな」

 

「一世一代の告白だったのにぃ!」

 

「そりゃ確かにそうかもしれないけど……あの一夏だぞ。回りくどすぎたんじゃないか?」

 

「うっ……でっ、でも、それしか思いつかなかったのよっ!」

 

 

半ばやけくそ気味の鈴が叫ぶ。

 

 

「そして怒って宣戦布告したと」

 

「そうよ。あの唐変木はクラス対抗戦でぼこぼこにしてやるのよっ!」

 

「そっ、そうか……まぁ、ほどほどにな」

 

「統夜は出ないの?」

 

「あぁ」

 

「ふーん。ま、誰が出ても私が勝つけどね」

 

 

自信満々にそう告げる鈴に統夜は苦笑している。

そんな彼に少しすっきりしたような顔で鈴は言った。

 

 

「ありがと。少しすっきりしたわ」

 

「ならよかった」

 

 

その後中学での思い出話等雑談した後、別れた統夜は自室に戻った。

そして時間は流れ、クラス代表戦 当日

 

 

本日の対戦カードは1組VS2組、その後に3組VS4組。

 

そして2人いる男性搭乗者の内の1人と中国代表候補生が戦うとの事で注目度は例年に比べて高い。

観客席には1年生の他にも、2年生、3年生の姿も多くみられた。

その中には簪の姉、刀奈の姿もあった。

 

 

「統夜君、背伸びたわよねぇ」

 

「刀奈姉ちゃん、近い。近いって」

 

「お姉ちゃん、近い、近いから」

 

 

伸びた身長を自身と比べる様に統夜に近づいた刀奈を簪が引き離す。

 

 

「あら、簪ちゃんはこの後試合でしょ?ここにいていいのー?」

 

「だっ、大丈夫。だから離れてって……!」

 

 

からかうように笑う刀奈に顔を赤くして簪が返す。

統夜はその間に挟まれて苦笑している。

 

 

「両手に花だね、あれ」

 

「そうだねー、付け入るスキがない……っ!」

 

 

4組の女生徒2人がその様子を見ながらつぶやいた。

そんな中アリーナを見ると、1組代表である一夏の【白式】と2組代表の鈴が駆る【甲龍】がピットから射出されてきた。

 

いよいよ始まる代表戦。

観客が盛り上がるであろう試合に期待を膨らませていた時だった。

 

 

『オルゴン・マテリアライゼーションッ!!』

 

 

男性の声が響き、展開されたシールドバリアを破砕して爆発が起こる。

 

 

突然の自体に、観客達の視線はその声の元に集まる。

 

 

紅い、まるで血の様に紅い機体が上空に存在している。

その搭乗者の顔も見える。

 

その顔は誰がどう見ても男性のものであった。

そしてフードの上に鎧を纏ったようにも見える機体が紅の機体周囲に出現した。

 

 

「あれは……っ!?」

 

「男性が乗ってるよね……?」

 

「ええ、見間違えじゃないわ。赤い方は男が乗ってる……いや、それだけじゃないわね。同じような機体に乗ってる連中はほぼ男性ね」

 

 

簪の言葉に刀奈が返す。

瞬間、アリーナはパニックに包まれた。

突然現れた謎の機体、シールドバリアも破壊されているのだ。

 

アリーナにすでに安全な場所はない。

 

周囲を確認した刀奈はいち早く指示を出す。

 

 

「統夜君、簪ちゃん。二人で皆の避難を。私は彼らの相手をするわ」

 

 

いつもとは違う真剣な表情の刀奈。

それに統夜は少しだけ気圧された。

 

 

「……刀奈姉ちゃん」

 

「大丈夫よ、お姉さんを信じなさいな。統夜君、簪ちゃん、皆の避難を」

 

「分かった、お姉ちゃん」

 

「分かったよ。グランティードを起動させるよ」

 

 

グランティードを身にまとった統夜と、ベルゼバインを身にまとった簪。

 

そして刀奈も自分のISを起動させる。

【霧纏の淑女】を身にまとった瞬間であった。

グランティードの胸部から温かな翡翠色の光が刀奈と【霧纏の淑女】に伸び、包み込んだのだ。

 

 

『えっ?』

 

 

刀奈の呆けたような声と共に、彼女が光に融け、その光をグランティードは胸部に取り込んだ。

先の襲撃の際に簪を取り込んだ時と全く同じ現象が起こったのだ。

 

 

『なっ!?』

 

『お姉ちゃんっ!?』

 

 

統夜と簪が驚愕の声を上げると同時に、半透明の刀奈がISスーツ姿でグランティードの真横に出現した。

グランティードの横で浮いている刀奈は、自分の様子を確かめた後統夜に視線を向ける。

 

 

『……統夜君?』

 

『えっ、いや、俺のせいじゃなくてっ、グランティードが勝手に!』

 

 

刀奈からの視線を受けた統夜が抗議の声を上げる。

それに冗談よ、と返した刀奈であったがすでに冷静さを取り戻したようだ。

 

それと同時に自身の頭に流れ込んでくる情報、サイトロンによる情報伝達が彼女にも起こった。

 

 

『っ、これは……グランティードの機能が、分かる?……あれ、でも分離ができない?』

 

 

サイトロンから流れ込んできた情報によると、分離はいつでも可能であるはずなのに、なぜか刀奈の意志では分離ができない。

 

それに簪が疑問の声を出した。

 

 

『なんでだろう、私の時は分離もできたのに』

 

 

少し考えたように瞳を閉じた刀奈が統夜に視線を向ける。

それは申し訳なさを多分に含んでいた。

 

 

『……統夜君、私はサポートするわ。だから……』

 

『……分かってるよ、刀奈姉ちゃん。俺が行く』

 

 

統夜がそう答えると、刀奈は弱々しく笑みを浮かべた。

 

 

『……ごめんね』

 

『いや、謝るのはこっちのほうだよ。こんなわけわからない機体のせいでこういう時動かなきゃならない刀奈姉ちゃんに迷惑かけちゃって』

 

『それじゃお互い様ね。簪ちゃん、避難は1人だけでも大丈夫よね?』

 

『うん。私は皆の避難を、終わったら援護するから』

 

 

そういってベルゼバインを纏った簪はスラスターを吹かせて機体を上昇させる。

 

 

『統夜君』

 

『ああ。行くぞ、グランティード』

 

 

グランティードもその背部から翡翠色の粒子を溢れさせながら上昇していく。

 

――――――――――――――

 

 

『あれは……グランティードっ!?』

 

『玉座機が起動しているっ!?』

 

『まさか、そんな馬鹿なことがっ、地球人がグランティードを起動させるなど……っ!?』

 

 

同一デザインのISに搭乗している男性達が、現れたグランティードに驚愕の言葉を漏らす。

彼らの名は従士、そして纏っているISはそれぞれ【リュンピー】、【ドナ・リュンピー】、【ガンジャール】。

ドナ・リュンピーとガンジャールが4機ずつ、リュンピーだけが5機いる。

 

 

『狼狽えるな、従士達』

 

 

だが、そんな彼らを凛とした一声で制した女性がいた。

顔に独特な模様の戦化粧を施した緑髪の女性。

一目見て女傑だとわかるほどの威圧感とその中に確かに女性を感じさせるたたずまい。

 

翡翠色のIS【ラフトクランズ・ファウネア】を纏ったフー=ルーがそこにいた。

 

 

『フー=ルー様っ!』

 

『信じられないのも判る。だが我らは誇り高いフューリア聖騎士団。玉座機が地球人の手にあるのならば我らの手で奪還せよっ!これは誉れ高き戦であるっ!』

 

 

彼女の一声で明らかに士気が高まった。

そして紅いIS【ラフトクランズ】を身にまとったジュア=ムがフー=ルーの隣に現れた。

先程シールドバリアを破壊したのは彼の機体だ。

 

 

『ジュア=ム、騎士としての初陣。期待していますわ』

 

『はい。私はグランティード以外の機体を相手にします』

 

『ええ。グランティードは私が』

 

『はっ』

 

 

従士達が駆るリュンピーとドナ・リュンピーは降下を開始し、それに続いてフー=ルーとジュア=ムも降下していく。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

降り注ぐオルゴンビームを回避しながら、統夜は舌打ちする。

濃い弾幕に、何発か貰ってしまい少々エネルギーが減っている。

だがまだまだグランティードのエネルギーには余裕があった。

 

 

(ISに乗ってから数週間でここまでの戦闘機動が可能だなんて……統夜君は……天才ね)

 

 

融合している国家代表の刀奈からしても、成長スピードは異常に感じた。

そんな統夜は、搭乗機であるグランティードにある違和感を感じていた。

 

 

(簪の時と違って機体の出力上昇は少ないのか?)

 

 

簪が融合したグランティードと、今刀奈が融合しているグランティードには明確な差があった。

【オルゴン・スレイブ】と【オルゴナイト・バスター】が使用可能になっているのは共通している。

 

だが簪と融合したグランティードは機体の出力が大幅に上昇していた。

加えてシールドバリアだけで蟲を押し返す程にバリアの出力も増大していた。

 

しかし刀奈が融合した今のグランティードは機体出力自体は上がっているのだが、比較すると差は歴然であった。

おそらくバリアの出力もそう変わってはいないだろう。

 

 

『玉座機を返してもらうぞ、地球人っ!』

 

 

1機のリュンピーを駆る従士が、オルゴンのビームソードを展開しながら、グランティードの上方から迫る。

 

咄嗟にAMBACで姿勢制御を行った統夜はそれにカウンターを合わせて見せた。

頭部の天使の輪にも見えるヘッドパーツに粒子が集まり、やがてそれは熱量を持った光線となる。

 

 

『オルゴン・ブラスターっ!』

 

 

統夜の咆哮と共に、オルゴン・ブラスターが発射された。

だが、その威力は以前のものとはけた違いであった。

 

ISの全長をも超える極太のオルゴンビームがリュンピーを襲ったのだ。

当然、リュンピーはそんな攻撃を避けられずに、ブラスターに飲み込まれた。

 

 

『うおぉぉぉぉっ!?』

 

 

リュンピーの【絶対防御】が発動。

だがそれでも機体各所の装甲はほぼ吹き飛ばされてしまった。

そして、リュンピーの姿が消えていく。

数秒もしない間に、リュンピーは完全に姿を消してしまった。

 

 

『……消えた?』

 

 

その様子を怪訝な顔で刀奈は観察していが、統夜は別の事で驚愕していた。

 

 

(ぶっ、武器の出力が……ブラスターがこんな高出力にっ!?)

 

 

大幅な出力の増加だ。

簪の時も武器の出力は上がっていたが、ここまでではなかった。

そして、統夜は気づく。

 

 

(まさか、グランティードは簪の時は機体の出力の大幅上昇(・・・・・・・・・・・・・・)で、刀奈姉ちゃんの場合は武器の出力が上がる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のかっ!?)

 

 

グランティードの力に驚愕していた統夜の耳に届く声。

 

 

『っ!?統夜君、危ないっ!』

 

『っ!?』

 

 

グランティードと融合して、サイトロンとセンサーの影響を強く受ける刀奈だからこそ、気づけた。

こちらを狙っている敵がいると、【直感】したのだ。

刀奈の叫びに反応した統夜は咄嗟に瞬時加速で横方向に加速して、迫るビームを回避した。

 

 

『私の射撃を避ける……やるわね』

 

 

高機動を維持しながら、統夜に向かってくる機体。

オルゴンソードライフルから精密な射撃を繰り出すラフトクランズ・ファウネアはグランティードを前に一度機動を停止した。

 

 

『グランティードを駆る少年、そしてお嬢さん。君たちの相手は私よ』

 

『っ、私の事が見えてる……?』

 

『ええ。まさか地球人である貴方達がグランティードを動かせるだなんてね。しかも機体とのオルゴンエクストラクターを介した融合もできている。グランティードをどうやって弄ったのかしらね』

 

 

フー=ルーは静かにそういうが、明らかに怒気を孕んでいる。

感じるのは殺気。

まるで見えない銃口を額に押し付けられているような、圧倒的な殺気。

統夜の頬に冷や汗が流れ、融合してる刀奈も同じであった。

 

 

(……彼女、只者じゃないわね。佇まいからして違いすぎる……っ!)

 

『その機体は我等にとっては最も特別な機体。力ずくで、奪還させてもらいましょう』

 

『……いきなり武力で仕掛けてきて何だっていうんだよっ!』

 

 

オルゴンソードライフルから発射されるオルゴンビームを躱しつつ、統夜が毒づく。

狙いが正確でフェイントも混ぜられているため、回避できたのは最初の数発だけで、残りはすべて直撃している。

技量に筆舌しがたいほどの差があることは明白だ。

 

 

『くっ、そぉっ!』

 

 

グランティードのエネルギーにはまだ余裕がある。

だが、このままではいずれエネルギーが尽きて行動不能になるのは目に見えている。

ならば一撃に賭けるしかない、今のグランティードでのオルゴナイト・バスターならば一撃で相手を行動不能に出来るはずだ。

幸い機体に融合している刀奈の技量は高い、彼女のサポートを貰えれば一撃に賭ける事も可能だ。

 

脚部よりクラッシュソーサーを展開し、握りつつ融合している刀奈へ統夜は告げる。

 

 

『刀奈姉ちゃんっ、このままだとジリ貧だっ、一気に決めるっ!』

 

『……ええ、分かったわ。サイティングとソーサーは任せてっ!』

 

『あぁっ!行けぇっ!』

 

 

クラッシュソーサーを放り投げ、グランティードは瞬時加速で加速。

 

 

(……一撃に賭ける気?甘いわね)

 

 

正面から受けて立つこともできる。

だが、今のフー=ルーの任務はグランティードの奪還と搭乗者の捕獲だ。

ならばより確実な手を使う。

 

ラフトクランズに装備されている機能ならばそれが可能だ。

クラッシュソーサーと加速するグランティードが迫る。

 

 

『残念だけど、それは届かないわ』

 

 

ディスプレイが展開され、認証コードが奔る。

するとラフトクランズの胸部に光が溢れる。

音声認識機能の為、叫ぶ。

 

 

『ラースエイレム、起動っ!』

 

 

その瞬間、誇張表現ではなく世界が止まった(・・・・・・・)

 

 

色が抜け落ちたように周囲の空間は灰色に染まっている。

自機に迫るグランティードとクラッシュソーサーは時間が止まったかのように静止している。

統夜達の他にも簪や一夏、避難している生徒達も静止していた。

 

【ラースエイレム】

 

特殊なフィールドを展開し、限定された空間内の時間の流れを極限まで鈍化させ、実質的に時間を停止させる装置。

それがラフトクランズは装備されている。

統夜達の時間は停止しており、この空間の中ではラースエイレムを起動させた機体しか動けない。

 

 

『グランティードの奪還はこれで完了ね』

 

 

フー=ルーがオルゴンソードライフルを振り上げる。

数瞬の後、グランティードへと叩き込まれる一撃――のはずであった。

 

だが、その一撃は振り下ろされなかった。

なぜならば、静止していたはずのクラッシュソーサーが動き出し、彼女を襲ったからだ。

 

 

『なっ!?』

 

 

フー=ルーがグランティードから距離を取る。

襲い掛かったソーサーをソードライフルで弾き飛ばす。

 

静止した空間が強烈な光を放ち、グランティードを中心に再度動き出していく。

 

 

『そんな馬鹿なっ、ラースエイレムは起動したはずっ!?』

 

 

色が戻り、音が戻る。

ラースエイレムの特殊フィールド【ステイシスフィールド】が解除された証拠だ。

 

 

『……ラースエイレム・キャンセラーだ、フー=ルー』

 

『何を言って……っ!?』

 

『今のグランティードに貴様たちのラースエイレムは通じんぞっ!』

 

 

突如、統夜の口調が変わり、まるで歴戦の戦士の様に鋭い視線を彼はフー=ルーに向ける。

 

 

『とっ、統夜君っ、どうしたのっ!?』

 

 

困惑の声を刀奈は漏らすが、彼はまるで諭すように刀奈へ指示を出した。

 

 

『刀奈、サイティングは任せる。奴は私がやる……頼めるな?』

 

『はっ、はいっ』

 

 

その変貌に驚愕しつつも刀奈が答える。

年下の統夜の変貌に胸が高鳴るが、今はそれを無理やり抑え込んで彼の指示に従う。

 

急速に上昇し、フー=ルーに向かって胸部ユニットから溢れる翡翠の光を解き放つ。

 

 

『【オルゴン・スレイヴ】っ!』

 

『っ!?』

 

 

間一髪で回避に成功したフー=ルーの頬に冷や汗が流れた。

 

咆哮と共に発射された極太のビームは、アリーナを覆っていたバリアシステムをまるで飴細工の様に突き破って、空へと延びていく。

簪と融合していたグランティードでもこの威力は出せない。

刀奈と融合している今のグランティードだからできるのだ。

 

そして、グランティードの攻勢はまだ終わらない。

 

 

『【フィンガー・クリーブ】っ!』

 

 

貫手に集ったオルゴン粒子が結晶化して、翡翠の刃となる。

その一撃をオルゴンソードライフルを展開して、ラフトクランズ・ファウネアが受け止める。

 

 

『ぐっ、まさかグランティードをここまでっ!』

 

『フー=ルーよ、今の私達を止められると思うなっ!』

 

 

オルゴンソードライフル毎、機体を弾き飛ばす。

 

 

(まるで人が変わったように……っ、まさか、今の彼には、前搭乗者のエ=セルダ様の記憶がっ!?)

 

 

フィンガー・クリーブの連撃を辛うじていなしていくフー=ルーであったが、次第に捌ききれずに数発直撃を受けてしまう。

 

 

『ぐぅっ!』

 

『貴様達の思い通りにはさせんっ!』

 

 

ラフトクランズの装甲を削り飛ばしてアリーナ外壁へ叩きつけ、とどめの一撃のために加速した。

 

 




紫雲統夜 レベル10→12
精神コマンド
必中
不屈
???
???
???

更識刀奈 レベル15
精神コマンド
直感
集中
???
???
???

ここのジュア=ムは綺麗なジュの字。
OGMDで家族思いな描写が加わって救いたかった。

第5話「かつての罪」

『テメェの姉貴が俺の弟を……アドゥ=ムを殺したんだよ!白騎士事件を起こしたテメェの姉貴がなぁっ!!』

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