ISMD ~ムーンデュエラーズ~   作:バイル77

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第8話「誓いと覚醒」

翌日 食堂

 

 

先日の騒動での反省文10枚を午前中に書き終えた統夜は食堂のテーブルに座っていた。

なぜ彼がここにいるのかというと、昼食の為でもあるがほかに用件があるからだ。

 

 

「統夜、つれてきたぞー」

 

 

背後からの一夏の声に振り替える。

一夏に連れられ、セシリアを筆頭に鈴、シャルルといつもの面子。

そして一番最後には箒がいた。

昨日の今日であるためか、箒は統夜の顔を見て視線をそらしていた。

統夜が食堂にいる用件、それは彼女に関係する事であった。

 

それは――。

 

 

「篠ノ之さん、昨日はごめん」

 

 

椅子から立ち上がった統夜は箒に頭を下げる。

その様子に箒は目を見開いて驚いた。

 

 

「そっちにも色々と事情があるだろうに、自分の事しか見えてなかった……本当にごめん」

 

「あっ、別にその……そこまでしなくても、いい。それにこちらもすまなかった。それとだが本当に姉さんのことは知らないんだ。あと箒で構わない」

 

 

統夜の言葉に困惑しながらも、箒がそう返す。

それに苦笑しながら統夜は顔を上げた。

 

 

「ありがとう、なら俺も統夜でいいよ。改めてよろしくな、箒」

 

 

その後、一夏達も昼食を取りに行き、皆で昼食をとることになった。

 

 

「何かすっきりしたって感じじゃない、統夜?」

 

 

ラーメンのレンゲで統夜を指しつつ、鈴が尋ねた。

一夏と同じく中学から付き合いである鈴は統夜の雰囲気が少し変わったことに気が付いた。

どこか張りつめていた彼の雰囲気が、少し和らいでいたからだ。

 

 

「まぁ……そうなのかな、少しは気が楽になったんだ」

 

「へぇ、何があったの?」

 

 

シャルルが興味本位から統夜に尋ねる。

彼の言葉に、統夜の脳裏に昨晩の事が思い出される。

 

 

『大丈夫。たとえどんなことになっても、私は統夜のそばにいるから』

 

 

あの時の簪の言葉、彼女の柔らかい手、そしてそれに安らぎを感じた。

 

いや安らぎだけではない――

あの時確かに自分は――

 

昨晩の事を思い出したからか、少しだけ頬が朱色に染まった。

 

 

「べっ、別に何にもなかったって……うん」

 

 

鈴をはじめとした恋する乙女達は統夜の下手な誤魔化しを見逃さなかった。

 

 

「やはりあの噂は本当なのでは?」

 

 

セシリアが鈴や箒に耳打ちをする。

彼女が言う噂、それは紫雲統夜と更識簪は付き合っているのではないかという噂だ。

統夜が転入してからすでに数週間が経過しており、訓練も何度かこなしている。

その際には必ずと言っていいほど、彼女と一緒にいる。

4組のクラスメイトから流れた情報では幼い頃からの仲でもあるらしい。

 

 

「最初から怪しいとは思ってたけど、統夜も隅に置けないわねぇ」

 

 

鈴がニタニタと笑いながらセシリアの言葉に返す。

 

 

「くっ、統夜の様に好意に気づく神経の100分の一でもどこぞの唐変木にあれば……!」

 

「ホントそれよ」

 

「全くですわね」

 

 

3人はそう言って山盛りのご飯をかっ込んでいる一夏を見てため息をついた。

 

―――――――――――――

その日の夜

学生寮 宿直室

 

 

「千冬姉、きたよ」

 

「あぁ、入ってくれ、一夏」

 

 

私服姿の一夏を本日の業務が終了した千冬が出迎える。

 

 

「……話してくれるんだよな」

 

「……あぁ。座ってくれ」

 

 

フューリーと名乗る謎の一団の襲撃から数日が経った。

その一団の一人、【ジュア=ム・ダルービ】と名乗る青年から聞かされた事実。

ISが世界に兵器として広がる原因ともなった事件、通称【白騎士事件】の首謀者の1人が千冬である事。

 

襲撃の際に必ず伝えてくれると約束してくれた彼女から呼び出された。

一夏はこの呼び出しはその約束だろうと気づいていた。

 

小さいテーブルにお茶を置いた後、千冬も座り込む。

そして沈黙が部屋を支配した。

だが一夏は千冬から話してくれるのを待った。

 

そして5分ほど経った頃、千冬が口を開いた。

 

 

「白騎士事件、結論から言うと私はあのジュア=ムという青年の言う通り、首謀者の一人だ」

 

 

いつもの教師としての彼女からは想像できないほど、その声は弱々しい。

 

 

「こんなことをいまさら言うのはただの言い訳にしかならないだろうが……当時、私には金が必要だった」

 

「……千冬姉」

 

「束に持ち掛けられたんだよ、白騎士に搭乗することで学生の身分じゃ手に入らないレベルの金が手に入るとな。願ったり叶ったりだった。私はどうでもいい、だがお前を飢え死にさせるわけにはいかない。だから白騎士に搭乗した」

 

 

当時を思い返すように瞳を閉じ、自嘲めいた笑みを浮かべる。

 

 

「当時はただお前だけが全てだった。お前さえ無事ならそれでいい。そんな短慮さが……悲劇につながったんだろうな。彼が発していた憎悪は並大抵のものじゃない。本当に身内を亡くしているんだろう。私のせいでな」

 

 

ジュア=ムの憎悪に溢れた目を思い出す千冬。

戦闘能力もさることながら、あの目には寒気を感じると共にある種の親近感を抱いた。

もし仮に一夏が何かの事件に巻き込まれて死亡し、その首謀者がのうのうと生きていたら。

自分も彼の様にその首謀者を憎悪するだろうと。

 

 

「……これが、白騎士事件の全てだ。遅くなってすまなかった」

 

 

そういって千冬はテーブルを退けて、一夏に頭を下げる。

一夏の返答は来ない。

 

 

(……当然だ、こんな姉、幻滅されて当たり前だ。いや、正確には……姉ですら……)

 

 

頭を下げたまま千冬はそう考えた。

そして数分が立ち、一夏が立ち上がる。

そのまま部屋を出ていくだろうと予想した千冬であったが、その予想は裏切られることになる。

自分を包み込む、暖かい腕に。

 

 

「いっ、一夏……っ!?」

 

 

一夏は無言で笑みを浮かべつつ、千冬をそっと抱きしめていた。

 

 

「ありがとう、千冬姉。教えてくれて」

 

 

一夏がまるで子供をあやす様に、優しく彼女に告げる。

 

 

「俺は千冬姉に守られ続けてたんだな。ありがとう」

 

「いっ、一夏……こんな私を、姉と……呼んでくれるのか……っ!」

 

「当たり前だろ、千冬姉は俺にとってただ一人の家族だよ。それに、俺だって千冬姉がそんなに追い詰められてることに気づかなかったんだ。ごめん、千冬姉」

 

「一夏……っ!」

 

「だからこれからは何かあったら、俺にも教えてほしいんだ。俺が千冬姉を守るなんて事まだ言えないけど、せめてそれくらいはさせてくれよ」

 

「……あぁ、そうさせてもらう。ありがとう、一夏」

 

 

堪えていた涙がこぼれる。

だがそんなことは気にならなかった。

 

それから30分経って、一夏は千冬と別れて自室を目指していた。

ちなみに一夏はシャルルと同室になっており、現状女生徒と同室は統夜だけの状況だ。

 

 

「少しは千冬姉、楽になれたかな」

 

 

先程の様子を思い出しながら、歩を進める。

そして次に思い浮かぶのは――

 

 

「ジュア=ム……負けられないな、やっぱり」

 

 

あの時手も足も出なかった相手を思い返す。

今の自分は弱い。だが最愛の家族を守るためには負けるわけにはいかないのだ。

 

 

「もっと強くならないと」

 

 

改めて一夏はそう心に誓った。

 

―――――――――――――

 

数日後 放課後 第2アリーナ

 

 

第2アリーナでは本日の授業を終えた生徒たちが、各々訓練に励んでいた。

その中には統夜や簪、一夏達の姿があった。

訓練機の貸出は予約制であるため、予約が取れなかった箒は少し離れた所でストレッチをしている。

 

そして今日は特別に、ISスーツ姿のカルヴィナの姿もあった。

国家代表候補生を含む生徒たちに特別指導を行うとの事で、学年外からも生徒が集まっている。

 

彼女が身に着けているISスーツは国家代表候補生達が身に着けているような身体が一部露出している様なデザインとは異なり、統夜が身に着けているISスーツと同様の全身を覆うタイプのものである。

 

 

『さて、誰か手伝ってくれないかしら?』

 

 

彼女が纏うISは全体的に装甲が薄い、いやそのほぼ全て空力カウルにも見える。

彼女が纏うISの名はアシュアリー・クロイツェルが開発した新型である【ベルゼルート】。

装甲などを極力減らし、運動性と機動性を両立した射撃機がコンセプトの機体。

簪が纏う【ベルゼバイン】の姉妹機にあたる機体だ。

最もロールアウトはベルゼルートのほうが早かったが、反応速度や機体追従性が高すぎるというあまりにピーキーなその性能から搭乗者が見つからなかったのだ。

 

 

『立候補しますわ』

 

『右に同じ』

 

 

カルヴィナの言葉に手を上げるのは、セシリアと鈴。

以前授業で2人で組んで教師である山田真耶にぼろ負けを喫してから連携行動の訓練を積んでいる2人。

相手はホワイト・リンクスと呼ばれ、世界最強のブリュンヒルデである織斑千冬と同レベルの搭乗者。

どこまで通じるか分からないが、全力を持って取り組むという闘志が溢れていた。

 

それを見たカルヴィナは薄く微笑んだ。

 

 

『いいわよ、軽く揉んであげるわ』

 

 

彼女のその一言がスタートとなり、模擬戦が開始された。

展開は一方的であった。

 

2対1であるのにも関わらず、カルヴィナが2人を圧倒していた。

高機動によって中距離を維持したままオルゴンライフルからオルゴンビームを放ち、2人をけん制。

隙を見せたほうに2丁のビームガン【ショートランチャー】から放たれるビームを雨のように浴びせかけてくるのだ。

 

高機動にも対応できるブルー・ティアーズと甲龍だが、それぞれの機体の特色であるBT兵器や衝撃砲は使う前に、ショートランチャーによって行動を制限されて使用できなかった。

そして2機のエネルギー切れで模擬戦は終了したのだった。

 

 

『中々動きはよかったわよ。ただそれぞれの第3世代武装を使う際に動きが止まるのはマイナスね。最低でも動きながら武装を展開できるようになりなさい。でないと的になるわ。後で2人の問題点はレポートにまとめてあげるわ、読むように』

 

 

息一つ乱さぬカルヴィナがそう告げて、エネルギー切れで降下していた2人に言う。

 

 

『くっ、やはり基本は大事という事ですわね……加えて同時制御を早く習得しなければっ!』

 

『悔しいけど先生の言う通りね。あー、もう、訓練の量増やすわっ!』

 

 

悔しさを隠さず言う2人だが顔に浮かぶのは笑顔だ。

まだまだ自分は強くなれるという確信があるからだ。

 

 

『さて、私はまだ余裕があるけど、他に誰かいるかしら?』

 

 

降下しいつのまにか大勢のギャラリーに溢れていた観客席を含めてカルヴィナが問う。

その瞬間、このアリーナ全てのISが上空に高速熱源を感知した。

そして轟音と共に、アリーナのシールドバリアを叩き割った存在が土煙を払いながら現れた。

 

 

全長は10m程の人型機械、否、前傾姿勢と両手を使って自重を支えている点はまるで類人猿の様でもあった。

突然の事態に生徒達は当然混乱し、パニックに陥る。

 

それを撃ち払うのは――

 

 

『こっちよ、アンノウンっ!』

 

 

オルゴンライフルを巨人兵器に向けて放ったベルゼルート、カルヴィナであった。

放たれたオルゴンビームは巨人兵器に直撃し、表面の装甲を焦がす。

巨人兵器はうっとおしそうに前腕を動かしてベルゼルートを攻撃するが、その程度を貰うほど呆けているカルヴィナではない。

踊るように回避して、追撃のビームを放つ。

 

 

『チッ、効果が薄い……何してるのっ、早く避難しなさいっ!』

 

 

カルヴィナの苛立ちの混じった声と共に、ISを纏っている一夏や代表候補生達が纏っていない生徒達の避難誘導を開始する。

そんな中、現れた巨人兵器を睨む者がいた。

それは統夜であった。

 

 

(あれはフューリーじゃないっ!きっとあれは……っ!)

 

「篠ノ之束の無人機……っ!」

 

 

今まで襲ってきた蟲型とは完全に異なる形状だが、こんなものを作れる人間がほかにいるとは思えない。

待機形態のグランティードを握り締めつつ、起動させる。

 

すると、今までターゲットをベルゼルートに絞っていた巨人兵器はまるで引き寄せられるように、統夜のグランティードにその前腕を振り上げて飛び掛かった。

 

 

『っ!』

 

 

咄嗟の瞬時加速でその攻撃をかわしたグランティードが上空へ昇る。

 

 

『統夜っ!』

 

 

攻撃を回避したグランティードを、視界に捉えた簪のベルゼバインが彼に寄り添う。

整備室にいた彼女だが、室内の生徒の数が少なかったのが幸いし避難誘導はすでに完了していた。

 

 

『あれって……無人機だよね』

 

『……おそらくそうだろう』

 

『え?』

 

 

統夜の口調が違うことに気づいた簪。

彼の顔つきも普段とは異なり、まるで別人の様な佇まいだ。

姉である刀奈が言っていた統夜の変貌、それが今回も起こっていた。

 

 

『統夜、簪っ、2人とも無事ねっ?』

 

 

スラスターを吹かせて2機に合流するカルヴィナのベルゼルート。

 

 

『いきなり矛先を変えたってことは、狙いはアンタね、統夜?』

 

『あぁ、奴の狙いはこの機体、グランティードだろう』

 

 

雰囲気が変わっていることにカルヴィナもこの時点で気づいた。

だが今はそこに拘っている場合ではない。

 

 

『……アンタは引きなさい。これでも一応教師よ、あの程度なら1人でも問題ないわ』

 

『いや、手伝おう、カルヴィナ教官。その機体の最大武装は強力だが、オルゴン粒子のチャージとマテリアライゼーションに時間がかかるはずだ』

 

『っ、何でアンタ、ベルゼルートの武装の事……っ!?』

 

 

統夜の指摘の通り、ベルゼルート最大の攻撃手段である武装は強力であるが、欠点も残っている。

だがベルゼルート自体見せたのは今日が初めてであり、彼には何も教えていなかったはず。

だというのに、まるであらかじめ知っているかのように指摘してきた彼を疑惑の表情で見つめる。

 

 

『っ、来るぞっ!』

 

 

統夜の叫びと共に機体が高エネルギーを検知。

巨人兵器の頭部から2条の高出力レーザーが発射され、こちらを狙ってきた。

 

瞬時加速を用いて散開する3機。

上方に回避したグランティードの胸部ユニットにオルゴン粒子が集う。

 

 

『オルゴン・スレイヴっ!』

 

 

統夜の咆哮と共に太いオルゴンビームが発射され、巨人兵器に向かい直撃した。

しかし、蟲型とは異なり堅牢なのか、表面装甲が融解するのみでありまだ活動を続けている。

 

 

(オルゴン・スレイヴでもあの程度か……ならばオルゴナイト・バスターでっ!)

 

『簪っ!』

 

『分かったっ!』

 

 

統夜の叫びに頷き、左方に回避していた簪はオルゴンライフルを牽制目的で放ちつつ、グランティードに向かう。

その目的は機体との、グランティードとの融合だ。

グランティードは融合した人物によって機体の能力を変化させる特性がある。

簪の場合は機体出力とバリア性能の大幅上昇。

刀奈の場合は、武装出力の大幅上昇。

 

オルゴン・スレイブにも耐えきった巨人兵器と言えども融合した後のグランティードならばと簪は考えていた。

 

余談だが、今回の場合ならば刀奈のほうが適している。

だが現在彼女は行方不明の蔵人に変わり更識本家に戻っているため学園にはいないのだ。

 

 

あと少しでグランティードの元にたどり着ける。

だがオルゴン・スレイブによる反撃の後も頭部レーザーでグランティードを狙っていた巨人兵器は突如として、簪のベルゼバインに矛先を変えた。

 

 

『きゃぁっ!?』

 

 

レーザーはシールドバリアとベルゼバインの装甲が弾いた。

だが衝撃までは抑えきれなかった。

そもそもがIS以上の巨体が相手であり、出力が違った。

 

 

アリーナの外壁に叩きつけられてしまったベルゼバイン。

追撃の為、巨人兵器はその前腕を振り上げる。

 

 

『簪ぃっ!!』

 

『援護するわっ、行きなさいっ!』

 

 

個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)によってグランティードが駆け、それをベルゼルートがオルゴンライフルで援護する。

 

 

『フィンガー・クリーブッ!』

 

 

両マニピュレータにオルゴナイトが生成され、そのままの速度を保ったまま巨人兵器に貫手を繰り出す。

 

 

『うぉぉぉぉっ!!』

 

 

個別連続瞬時加速によって得られた莫大な加速が上乗せされた一撃に加え、巨人兵器はオルゴンライフルで体勢を崩されていた。

いかにIS以上の巨体とはいえ弾き飛ばすことは難しくはなかった。

 

 

『無事かっ!?』

 

『うっ、うん……機体も大丈夫、ごめんね、統夜。足引っ張って……』

 

 

そういって彼女は申し訳なさそうに顔を伏せた。

元々簪は自分に自信を持つことが苦手な性格であり、その為自己の評価を低くしがちでもある。

 

 

『そんなことないっ!』

 

 

学生寮から抜け出したあの時、自分を支えてくれた彼女がそんな顔をしているのは見たくない。

 

 

『あの時、簪が俺を支えてくれたっ!あの時の手は本当に暖かったんだっ!君がいなきゃ私は折れていたんだっ!そんな君が足手まといだなんて、言わないでくれっ!』

 

 

捲し立てる様に、統夜が叫ぶ。

途中、感情が高ぶっている為か口調がいつもの彼のものと変化したものが入り混じっている。

しかし統夜は無視して続ける。

 

 

『私が……俺は君を守りたいって、守るんだって決めたんだっ!大切な人である君だけを、守りたいんだっ!俺だけの意志でっ!』

 

 

自分の心に溢れている気持ちを、そう簪に告げた。

統夜の口調が再度変わり、いつもの彼のものに変化した。

グランティードを起動させた後あやふやであった意識も、はっきりと自分だけのものと自覚できている。

 

 

『とっ、統夜……っ!』

 

 

彼の言葉にこんな状況だというのに顔が熱くなる。

 

 

『力を貸してくれるか、簪?』

 

『うんっ!』

 

 

笑顔を浮かべた簪のベルゼバインにグランティードから翡翠色の光が伸びる。

そしてベルゼバインと簪が光に融け、その光をグランティードが取り込んだ。

その瞬間、ドクンと何かが脈動しグランティードの機体各部から光が溢れる。

 

簪と融合しているグランティードの機体出力が今まで以上に高まっている。

そしてコンソールに現れた表示。

それは音声認識のコードであった。

サイトロンによってこのコードが意味する機能を2人は理解していた。

 

そして叫ぶ。

 

 

『バスカー・モード……起動っ!』

 

 

統夜の叫びと同時に、彼の頭部を覆うように装甲が展開される。

その形状はまるで【神話】の神の様に荘厳なものであった。

肩部や脚部のフレームは露出展開し、より一層強く輝くオルゴンの光。

そしてまるで騎士の様にオルゴン粒子が背部に集まり、【オルゴンフィールドマント】を形成する。

 

 

『凄い、これがバスカー・モードっ、グランティードの本当の力……っ!』

 

 

機体と融合している簪は今のグランティードを素肌で感じることができている。

通常時のグランティードとは比較にならないほどのオルゴンエナジー。

 

 

グランティードの胸部ユニットが迫上がる。

そして胸部ユニットから柄の様な持ち手が現れた。

ユニットを掴み上げると、オルゴン粒子が収束していく。

 

 

『『オルゴン・マテリアライゼーションっ!』』

 

 

二つの声が重なり、オルゴナイトが生成されていく。

ユニットから延びるオルゴナイトの結晶。

まるで剣の様にも槍のようでもあり、今のグランティードの様相と併せてまるで荘厳な騎士の様に見えた。

 

そして変化はグランティードだけではなかった。

 

 

『出力が上昇したっ!?マテリアライゼーションも……これならばっ!』

 

 

バスカー・モードの発動と同じくしてカルヴィナの駆るベルゼルートも同じように出力が上昇していた。

流石にバスカー・モードというリミッター解除が発動したグランティードとは比べるまでもないが、通常時とは雲泥の差だ。

 

 

『オートリミッター、カットッ!イミッション・スリット開放っ!スラスター展開っ!』

 

元々装甲の薄いベルゼルートだが、カルヴィナの操作により各部が展開され、展開された箇所からはオルゴン粒子が放出されていく。

 

 

『出力、マキシマムッ!』

 

 

ショートランチャー2丁を放り投げると、自動変形機能により、ショートランチャーがオルゴンライフルの上部と下部に接続された。

そして銃口も一部可変する。

銃底部分を引き絞り、まるで弓を引き絞るように構えたベルゼルート。

銃口に収束していくオルゴンの粒子は、次第に結晶体となっていく。

 

 

『マテリアライゼーションっ!』

 

 

巨大な鏃の様にも見えるオルゴナイトが形成され、機体各部、スラスターからはオルゴン粒子が溢れている。

 

 

グランティードとベルゼルートそれぞれが武装を展開し終えたと同時に、巨人兵器は起き上がり体勢を立て直した。だが遅すぎる。

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

グランティードが構えたオルゴンランスは高速回転しながら、巨人兵器の装甲を飴細工の様に削り取っていく。

そして幾度の斬撃を叩き込み、再度体制を崩した巨人兵器へスラスターを吹かせてグランティードは突っ込む。

 

 

『テンペスト・ランサーッ!!』

 

 

高速回転するオルゴンランスを突き刺し、そのままオルゴナイトをへし折り巨人兵器を蹴り飛ばし離脱する。

同時に上空から降り注ぐ巨大なオルゴナイトの塊。

 

 

『アブソリュート、シュートッ!!』

 

 

ベルゼルートがグランティードの離脱と共に最大武装であるオルゴンライフルAモードを発動させ、放ったのだ。

オルゴナイト塊は巨人兵器の全長よりも小さいが、傷つき体勢を崩した相手に受け止められるものではなかった。

 

轟音を響かせながら巨人兵器はオルゴナイトに押しつぶされ、突き刺さったオルゴナイトと放たれたオルゴナイト両方に秘められたエネルギーが解放された影響で発生した爆発に呑まれ、爆散した。

 

―――――――――――――

???

 

 

「……すご、何あれ」

 

 

篠ノ之束は暗い一室で今まで空間投影ディスプレイに映し出されていた映像にそう声を漏らした。

巨人兵器からの映像は、機体が破壊されたため途切れていた。

 

 

「凄いっ、あれがフューリーのっ、連中のっ、最強の機体っ!ラフトクランズなんて目じゃないくらいっ!あははははっ!!!」

 

 

ディスプレイを消してそのまま、飛び出していく。

 

 

「ほしいっ、知りたいっ、グランティードっ、君はなんて素晴らしいんだよっ!絶対に手に入れて見せるっ!」

 

 

狂喜の声を上げる彼女を止める人間はここにはいない。

 

―――――――――――――

その日の夜 学生寮 統夜の部屋前

 

放課後に発生した巨人兵器襲撃事件について、統夜達は教員であるカルヴィナに連れられて事情聴取を受けていた。

襲撃の際の状況を根掘り葉掘り聴かれたため、戦闘後の疲労と併せて統夜は疲弊していた。

巨人兵器との戦闘については、カルヴィナがその場におり、やむを得ない状況であったと弁護があった為、厳重注意にとどまっていた。

これには内心統夜は歓喜していた。反省文はもうこりごりだ。

 

 

「やっ、やっと解放された……」

 

 

ヨロヨロと鞄を持った統夜が自室前に到着する。

するとそこには2人の少女がいた。

 

 

「あ、統夜、お疲れ様」

 

「あ、とーやんだー」

 

 

疲弊した統夜を出迎えたのは簪ともう1人、丈が余りまくっている制服を身に着けた美少女【布仏本音】であった。

 

 

「簪に本音も……」

 

 

統夜は本音とは顔見知りである。

幼い頃から更識の家に預けられることが多かったため、更識家に使える布仏家の彼女とも交流があったのだ。

 

 

「うん、お疲れみたいだねー?」

 

「あぁ、結構疲れた……けどまぁ、夕飯は食べないとな」

 

「ご飯は大事だよー、あと30ぷーん!」

 

 

事情聴取に時間を取られていたため、すでに食堂が閉まるまであまり猶予はない。

 

 

「そうだね、統夜行こう?」

 

「そうだな。あ、鞄置いていくからちょっと待っててくれ」

 

 

部屋の扉を開けて、統夜は鞄を置くために部屋に入る。

それと同時に本音は何か思いついたようにニコっと笑いながら待ってる簪に言う。

 

 

「なら私先行くね、かんちゃん。席取っておくからねー」

 

「えっ、あっ、本音……行っちゃった」

 

 

簪の静止を待たずにトテテーと少々駆け足で本音は廊下を走って行ってしまった。

そして鞄を置いた統夜が部屋から出てきた。

 

 

「あれ、本音は?」

 

「先に行って席取っておくだって」

 

 

簪が苦笑しながら言うが、本音の心づかいがありがたかった。

そもそも夕食にしては遅い時間なのだから、席は空いているはず。

彼女は統夜と簪が2人きりになれるように気を使ったのだ。

彼女は簪が統夜を想っている事を知っていた。

 

そしてせっかく2人きりになれたのだ。

簪には確かめたい事があった。

 

 

「……ねぇ、統夜、少しだけいい?」

 

「ん、いいけど……どうした?」

 

「えっとね……その……さっき、グランティードに乗っていた時に言ってくれたことなんだけど……」

 

「っ」

 

「大切な……人って……その、どういう意味なのかなって……っ!」

 

 

精いっぱいの勇気を振り絞った彼女の言葉。

今の関係が壊れるかもしれない、だけど知りたい。

彼女の勇気を振り絞った言葉に統夜も顔を赤くした。

 

 

「簪っ、えっと……なら部屋で話さないかっ?」

 

「うっ、うん」

 

 

互いに赤面しつつ、部屋に入る。

完全防音の寮室だが、しっかりと鍵をかけて。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

互いに赤面して向かい合って数分、深呼吸しながら統夜から口を開いた。

 

 

「こっ、この前さ、学生寮から抜け出した事があっただろ」

 

「うん」

 

「あの時、簪が言ってくれた言葉が……本当に嬉しかった。あの時、手を握ってくれた事がとても嬉しかった」

 

 

一度深呼吸して統夜が続ける。

 

 

「今日の事件の時に、君を心から守りたいって思った……そう思ったら気づいたんだ。簪が今までずっと当たり前みたく傍にいてくれた事に。それは俺も同じで……君がそばにいてくれたから俺は……っ!」

 

「うっ、うん」

 

「えっと、だからその……大切な人って言葉の意味は……っ!」

 

 

バクバクと心臓が脈打つのが耳の内側から聞こえる。

だが感じたこと、思ったことここまで来たら引き返せない。

 

 

「俺は……俺は、君が、好き……なんだよ」

 

 

少しだけどもりながら、統夜は確かに自分の言葉で気持ちを伝えた。

その言葉を聞いて、簪の瞳からは涙がこぼれたが、それは悲しみの涙ではない。

彼女は笑顔を浮かべながら、答える。

 

 

「私も統夜の事、好きだよ」

 

 

彼女からの返答に心臓が飛び上がるほどの歓喜の感情が心に溢れた。

 

 

「ほっ、本当にっ?いっ、いつから?」

 

「えっと、ずっ、ずっと前から……小学生くらいの時からかな」

 

「そっ、そんなに前から……そっか、そっか……ありがとう」

 

「うっ、うん」

 

 

互いにそんな上の空の様な返答をした後にぷっと吹き出して笑顔を浮かべる。

ひとしきり笑った後、深呼吸してから統夜は彼女に告げる。

 

 

「……じゃあ、これからもまたよろしくな」

 

「うん、よろしくね統夜」

 

 

簪の笑顔に統夜は久々に心の底からの笑顔を浮かべて、答えた。

 




紫雲統夜 レベル14→21
精神コマンド
必中
不屈
加速
気合→NEW
???

更識簪 レベル14→20
精神コマンド
集中
努力 
直感
祝福→NEW
???

カルヴィナ・クーランジュ レベル30→32
精神コマンド
集中
狙撃
必中
熱血
???

某なにがしではグランティードの中の人のことを純愛ハーレム神とか言ってて噴きました。
今作では簪ルートになりました。

姫様「は?」
刀奈(白目)

次回予告

第9話「Knights of the Fury」


(……許せ、カリン)

『我が剣には、もう1つの姿があるっ!!』



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