一方憐椛は精神世界で十二天将に見守られながら修行をしていた。
各神それぞれの持つ力と憐椛の精神力を融合させて技に変える特訓を続け、もはや時間の流れなど感じる事も無い。
「はぁ・・はぁ・・・」
貴人:『主様、一旦休憩を取って下さい。』
憐椛の額には大粒の汗が流れ、最早立っているのがやっとの状態だった。
それもそのはず、憐椛を中心として十二天将が円となり囲み、一人ずつ技を憐椛にぶつけて行く。
それを一つ残らず避けきれば終わり、一度でも当たってしまえば又1人目からやり直しという過酷な修行だ。
これを乗り越えられなければ次への段階へと進めなくなるのだ。
次への段階とは、死神世界で言われている【卍解】。
死神になる気が無いなら、覚える必要もない物。
だが、力を持って産まれて来た上、今や瀞霊廷に身柄を拘束されている憐椛にとって逃げるにしても戦うにしても卍解の力は必要になるのだ。
憐椛の家族を無下に扱い、あまつさえ命まで奪った死神や四十六室へ復讐を誓った。
絶対に習得してみせる!
「・・・まだいける」
天后:『主様、これ以上のご無理はお辞めください。精神世界とは言え、肉体にも影響があります。これ以上ご無理なさると精神崩壊と共に肉体も終わってしまいます。』
天后のその言葉で憐椛の頭は一旦冷静さを取り戻した。
ここで終わっては困る、復讐が終わるまでは・・・。
「スミマセン・・・」
騰虵:『それにしても、随分進めるようになったじゃないか。この分だと完全制覇まで後少しだ。』
青龍:『うむ。さすが翠蓮の力を引き継ぐ者。』
大陰:『容姿もどことなく翠蓮と似ておる。』
休憩に入ってから、みんな憐椛を囲み雑談に花を咲かせ始めたお陰で、先程までのピリピリした緊張感がほぐれた。
そこで、憐椛はずっと気になっていた事を口にする。
「あの。翠蓮さんってどんな人だったんですか?」
憐椛の言葉に、全員が顔を見合わせ困惑しているように見えた。
聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと思い後悔し始めた憐椛は目を伏せた。
天空:『あの方は、他人にも自分にも厳しい方でしたわぁ。そして、私達十二天将にもね。』
静まり返った場に天空の声が響いた。
それを、きっかけに十二天将達はそれぞれ翠蓮について思い思い口にし始めたのだ。
白虎:『人使いが荒いというか、神使いが荒いというか・・・はぁ・・・』
朱雀:『俺なんて職務放棄した事もあるくらいだぜ。』
神が職務放棄って・・・。
勾陳:『確かに無茶な事を言う奴ではあったな。その分実力もあった。』
玄武:『うむ。』
六合:『我は戦いを望まぬ故、呼ばれる事も少なかった。』
大裳:『私は、あの方は苦手でした。。。』
最後に何という爆弾発言。
ここは突っ込むべきか、スルーするべきか悩む憐椛だった。
貴人:『翠蓮様は人一倍感情豊かな方でしたから人付き合いと言いますか、神付き合いは余り上手とは言えませんでしたね。』
それはつまり、喜怒哀楽が激しいという事らしい。
「でも、それは皆さんが翠蓮さんを選んだ結果という事では・・・」
今、とてつもなく失礼な事を言ってしまった気がする。
「・・・す、すみません」
すかさず、失礼な発言を詫び頭を下げる憐椛。
その頭をガシッと掴まれてしまい、頭を上げる事が出来なくなってしまった。
朱雀:『俺達は、人を見て選ぶのでは無く資質を見るんだ。相手がどんな奴だろうと俺達を扱えるだけの資質があれば従うしかねぇ。』
その言い方だと嫌々やってましたって言ってるようなものですよね・・・。
六合:『翠蓮亡き後、我らは今度こそ付き従うに相応しい主が現れるのを待った。』
騰虵:『俺らは神と言えど、主が現れなければ存在価値は無い。』
騰虵の言葉で憐椛はハッ!となった。
家族の事があってから、産まれてきた自分を酷く恨んだ。
夜一や浦原には心配を掛けたくなくて、普段通りの憐椛を演じていたものの、心の中はドス黒い物が渦巻いていた。
毎日毎日『産まれて来なければ良かった』そんな事ばかり思い、瀞霊廷に連れて来られてからは復讐をしてから自ら命を立とうと決めていた。
でも、ここに居る十二天将達は翠蓮が死んでから憐椛が産まれるまでの1500年間、ずっと待ち続けていたのだ。
やっと主が現れたと思ったら、わずか十数年で閉店ガラガラなんて・・・主に恵まれ無さ過ぎる。
今、卍解会得の為にみんなが協力してくれているのに、それが全部復讐の為で最終的には主である私も死にますなんて知ったらどう思うだろうか?
玄武:『主よ。斬魄刀とは主との精神の繋がり。主が何を思い、何をしたいのか把握している。』
白虎:『お前の好きにしろ。俺達は最後まで側に居る。』
朱雀:『俺らはお前を主と決めたのだ。お前の気が晴れるなら思うようにやってくれて構わん。』
天后:『心配には及びません。一緒に居る期間など関係無いのです。再び主様に会えただけで十分なのです。』
貴人:『翠蓮様亡き後、私達はある誓いを立てました。次に主様が現れ、亡くなる時が来れば私達十二天将も主様と共に天に戻ろうと。』
その言葉に衝撃を受けた憐椛は何も考えられず、十二天将の顔を一人一人見回した。
それぞれ、何かスッキリしたような顔をしていれば、目を伏せ黙って会話を聞いている者も居る。
青龍:『憐椛。お前の心の傷は俺達が癒してやる。心の穴は俺達が埋めてやる。それでも足りないと言うならお前を楽に死なせてやる。そして、俺達は死んでからもずっと一緒に居てやる。』
自然と涙が零れた。
それを見た十二天将達は頭を撫でたり、背中を赤子をあやす手つきでトントンしたり、肩に手を置いたりと憐椛を優しく慰めたてくれた。
騰虵:『今まで、よく耐えた。』
六合:『我が主は幼くとも強い心根の持ち主、故に我らも貴方に惹かれた。出会えて良かった。』
決壊したダムの如く涙は溢れ今まで我慢していた分、全てを曝け出すかの様に泣きじゃくった憐椛は、その後スッキリした気分で修行を再開し、見事卍解を会得する事が出来たのだった。