朽木家で過ごすようになった憐椛は最初こそ部屋から出ようとしなかったが、白哉が根気よく襖越しに話し掛けている内に少しずつ話しをするようになって来ていた。
そんな中、夜一と浦原が朽木家へ訪れ久々に修行を付けてくれると言う事で憐椛は喜んで2人に付いて行く。
白哉は夜一が苦手な為、断ろうとしたがしっかりと捕まって連行された。
「この化け猫・・・。私は一人でも修行出来ると言うのに・・・。」
無理矢理連れて来られた事に不満をぶつけ、ブツブツと文句をいう白哉の頭を押さえ込む夜一。
「はっはっは。この儂から逃げようなんぞ100万年早いわ。」
「まぁ、来て損は無いと思いますよぉ~。これから凄い物をお見せしますからぁ~」
浦原の言葉の意味が解らず、首を傾げている白哉をよそに夜一は憐椛の前に立つ。
そして始まった修行、その様子を見て白哉は目を見張った。
隠密機動総司令官である夜一と良い勝負だ。
最初は夜一が手を抜いているのかと思ったが、今度は浦原も加わり2人がかりでの憐椛への攻撃。
それを軽々避けると、どこからともなく憐椛の手に斬魄刀が握られる。
(何っ!?今、どこから出した?ココに来る時も、戦い始めた時も何も手にしていなかったではないか。)
速さに関しては白哉も散々夜一に鍛えられている事もあって自信がある。
そんな白哉の目でも追いつけない程の速さで斬魄刀を出し、攻撃を仕掛ける憐椛。
その様子を見ている白哉の横に銀嶺を含め数名の死神が降り立った。
「話しには聞いておったが、まさかこれ程とは・・・」
「お祖父様っ!」
「よく見ておくのじゃ、あの斬魄刀を扱える者の計り知れぬ力の一端を。」
「総隊長殿っ!」
祖父銀嶺と総隊長の他にも各隊の隊長クラスの死神達も真剣な面持ちで3人の戦闘を見守っている。
それを知ってか知らずか、夜一、浦原、憐椛の3人は剣を交えつつ攻防を繰り広げていた。
そこで、浦原は自慢の斬魄刀・紅姫を始解し攻撃を始める。
「憐椛。始解して戦うんじゃ。喜助の紅姫を甘く見てはイカン」
夜一の言葉に憐椛は一度2人から距離を取り、斬魄刀を空高く突き上げる。
「一対となりて我が下へ集え!」
解合の言葉と共に空に変化が起きた。
突然現れた色とりどりの星達が渦を巻きながら憐椛の斬魄刀に吸い込まれていく。
「十二天将」
始解した憐椛の斬魄刀を目にした者は全員言葉を失った。
「なっ・・・!?」
「・・・消えた・・・じゃと?」
そう、始解したハズの憐椛の斬魄刀は見事に視界から消えてしまっていた。
それでも憐椛は斬魄刀を持っているかの如く、構えたまま体勢を崩していない。
「始解が失敗したのか・・・?」
「あほぅ。ように見てみぃ、何か握っとるやろ」
「平子隊長。見えるんですか?」
「見えてへんわ。せやけど、しっかり何かを握って構えとるやろぅ。俺らにとって斬魄刀は命と同じや、始解に失敗して斬魄刀が消えたんやったら、構えるだけの精神的余裕なんかあらへん。」
「確かに・・・・・じゃ、あれは一体・・・」
「目に見えてへんだけや。」
「・・・・・はぁ?」
「せやから!透明になったっちゅう事やろ。解かれボケ!」
「ひぃ!・・・す、すみません!」
そんなやり取りを聞きながら白哉の目はひたすら憐椛に注がれる。
自分より年下の小柄な女の子が護廷十三隊の隊長2人を相手にまったく負けていない。
その上、初代当主と同じ斬魄刀を持ち始解にまで至っている。
そこに至るまでどれ程の修行を積んだのだろう?いくら夜一と浦原から指導を受けていたとは言え、本人のやる気と努力が無ければ始解までは至らない。
家族を失い天涯孤独となった少女が琉魂街で一人で生活するだけでも大変な事だ。
もちろん生活の面でも夜一と浦原からの援助はあったに違いないが一緒に暮らしていた訳ではない。
一人になった時、泣いたりしたんじゃないだろうか?寂しかったのではないか?
夜一と浦原が瀞霊廷に帰って行く後ろ姿をどんな思いで見送っていたのだろう?
そんな事を考えていると、遠くで戦っている憐椛の斬魄刀に変化が起きた。
先程まで透明だった斬魄刀が突然、炎を纏った鞭のよな物に変形?したのだ。
それはまるで蛇の如く自由自在にシナり、夜一と浦原の動きを先読みして行く手を阻む。
浦原の紅姫から放たれた攻撃を今度は大きな炎の鳥に変形して弾く。
夜一の攻撃を岩のような盾で受けた後、盾は砕け砂嵐を巻き起こし一瞬視界を奪ったかと思えば、槍に変化していた。
槍の先からは風が吹き荒れているようで、その風を利用して周辺の砂や小石を2人目掛けて飛ばす。
2人は憐椛への警戒を怠らず距離を置いて一旦攻撃を止める。
「斬魄刀本来の力を手に入れておったか。」
「前とは比べ物になりませんねぇ。こちらも本気で行かないと負けちゃいますぅ」
結構余裕な2人。
「喜助。一気に仕掛けるぞ!」
「行きましょう!」
浦原の紅姫の攻撃、夜一の鬼道が一度に憐椛目掛けて飛んできた。
すると槍が水になり憐椛を包み込むように球体に変化して防御。
そして、球体になった水が今度は氷に代わり大きな音と共に弾け飛び、氷柱状に尖った大量の氷が2人を襲ったところで決着がついた。
初めて斬魄刀の真の力を使い霊圧を大きく消費した憐椛がその場に倒れたのだ。
「憐椛(さん)!」
2人は憐椛に駆け寄り抱き上げると、すぅすぅと寝息を立てている事に気づき笑いが漏れる。
「全く・・・。今日はこのくらいにしておくかのぉ。」
「そうっスねぇ。」
夜一が憐椛を抱え瞬歩で総隊長達の居る崖に登ってくると白哉が駆け寄って来る。
「憐椛は大丈夫なのか?」
「何じゃ?白哉防。そんなに憐椛が心配かぁ?」
夜一の意味ありげな視線と言い方に白哉が顔を真っ赤にして言葉に詰まった。
「憐椛殿はうちで預かっておる娘だからの。白哉にとっては妹も同然じゃ、心配しない訳が無いであろう。」
祖父のフォローの言葉にコクコクと頷く白哉を見て、夜一は『はっはっは』っと笑いながら去って行った。