時を経て再び   作:鞠藻

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第二章 夜一の思い

この修練場も夜一と浦原が地下を掘り霊圧遮断の結界を張って作り上げた秘密の場所なのだ。

 

普段、霊圧を抑えていても訓練を開始すればある程度、霊圧を開放しなければならない。

 

そうなった時、(ホロウ)や憐椛の力を利用しようとする輩に狙われる恐れがある為、結界を何重にもかけてある。

 

 

「憐椛も、もう12歳かぁ~。時が経つのは早いもんじゃのぅ」

 

 

一通りの修行を終え、力尽きた憐椛は夜一の膝枕で睡眠中。

 

 

「そうっスねぇ~。」

 

 

二人はしみじみと憐椛の寝顔を眺める。

 

 

「憐椛さんの存在を瀞霊廷が知ったら、どうなるんスかねぇ」

 

 

「解らん。一度剥奪した冠位を戻すとは思えんし、憐椛だけを瀞霊廷に連れて行かれる可能性は大きいじゃろうなぁ。」

 

 

「そうっスよね。無理矢理にでも死神にして、存分にその力を利用しようとするでしょうね。」

 

 

この世に生を受けて、まだ12年。

 

あどけなさが残る少女の寝顔は琴吹家に起きた不幸な出来事など微塵も感じさせない。

 

大人の欲望が満ちた世界に舞い降りた天使のような少女。

 

 

「なぁ、喜助。」

 

 

「はぃ。」

 

 

「儂はな、憐椛には伸び伸びと生きて欲しいんじゃ。何者にも縛られずにの」

 

 

そう語った夜一の顔は真剣そのもので、いつものような冗談を言えるような状況では無かった。

 

夜一の切なる願いがヒシヒシと伝わってくる。

 

 

「その為に夜一さんと二人で護ってるんじゃないっスかぁ」

 

 

そう、琴吹家が瀞霊廷を追放されてから間もなく、夜一と浦原は心配になり3日かけて探し当てた。

 

瀞霊廷で何不自由無く暮らしてきた琴吹家の者達が、琉魂街での生活に馴染めるとは思えなかった。

 

当時、四大貴族の中で四楓院家だけが琴吹家追放を反対した。

 

初代当主のような力を手に入れられなくても上級貴族としての任はしっかり果たしている・・・・・と。

 

だが、四楓院家だけが異を唱える形となり多数決で追放という結果となったのだ。

 

夜一は自分の力不足を痛感した、そしてこの先自分の力で琴吹家を護って行こうと決めたのだ。

 

そんな矢先、琴吹家の奥方の妊娠が発覚し、予定より2ヶ月早く憐椛が産まれてきた。

 

出産に立ち会った夜一は我が事のように喜んだ。

 

ただ、不安もあった。

 

追放した後に、『やっぱり戻って来い』などと、プライドの高い四十六室や四大貴族の者達が言うハズが無い。

 

ひょっとしたら、この子だけを奪いに来るのではないか・・・・・?

 

そんな不安に襲われた夜一は、即座に浦原と森の中の地面を掘り地中の家を作り上げ、隅から隅まで結界を張り巡らせたのだ。

 

それから誰にも悟られる事無く12年。

 

日々の修行で憐椛はメキメキと力を付け、すでに始解が出来るまでになっている。

 

 

 

斬魄刀の名前は『神々の刃』。

 

 

 

初代当主だった琴吹翠蓮(ことぶきすいれん)が使っていた斬魄刀だ。

 

初代当主と同じ性別で、強い霊圧を持ち、この斬魄刀。

 

それだけで、瀞霊廷の者に知られれば大きな騒ぎとなるだろう。

 

 

「瀞霊廷は琴吹家の力だけを欲した。初代当主の様な力を・・・。ところが、どういう訳か翠蓮さんが亡くなった後は男児しか産まれず、力を受け継ぐ女児が産まれて来なかった。」

 

 

「痺れを切らした者達は、期待を裏切った琴吹家に冠位剥奪の上、瀞霊廷を追放・・・酷い話しじゃ。」

 

 

「琴吹家にあった高価な家具や屋敷はどうなったんスか?」

 

 

「全て売り払われ、そのお金は全て死神育成の為に真央霊術院に寄付されたそうじゃ。」

 

 

「酷いじゃないっスかぁー。琴吹家の財産ですよぉ?琴吹家の者に返金するべきでしょう。」

 

 

「瀞霊廷にとって期待を裏切られたという気持ちが大きかったんじゃろう。その代償のつもりなんじゃろうが・・・・・儂は今でも納得しとらん。」

 

 

ふと自分の膝枕で眠る憐椛の顔を見ながら『この子がもう少し早く産まれていたらどうなっていただろう?』と考えた。

 

琴吹家はこれまで通り上級貴族としての地位を守れていただろう。

 

だが、それとは逆に憐椛は厳しい訓練を受け死神になる以外の道は選ばせて貰えなかったに違いない。

 

夜一自身、産まれた時から道は決まっていた。

 

お家のため自分自身を鍛え上げ、その名にふさわしくあろうとした。

 

四楓院家初の女当主という事とまだ若いというだけで色眼鏡で見られ、琴吹家の件でも意見など通して貰えなかった悔しさは未だにシコリとして残っている。

 

憐椛も同じ思いをしていたかも知れない。

 

それを思えば、追放されて自由に暮らしていた方が良いのかも知れない。

 

今、修行をつけているのは死神にする為ではない。

 

力の抑え方と使い方、そして今後に(ホロウ)に襲われて危ない目に合った時、自分の身は自分で守れるようにするためなのだ。

 

夜一の知る全ての《(ざん)》《(けん)》《(そう)》《()》を憐椛に教え込むつもりでいる。

 

それらを会得した憐椛がその後、どの道を選ぶかは本人に任せる事にしてあるが決して後悔しないで欲しいと切に願うばかりだ。

 

まだ汚れを知らぬ少女の寝顔を見ながら夜一は優しく頭を撫でた。

 

 

「・・・・・ん。」

 

 

「おっと。憐椛さんが起きたみたいっスねぇ」

 

 

「そうじゃな。そろそろ帰るとするか。」

 

 

目を擦りながら起き上がった憐椛を立たせ、3人揃って瞬歩で競いながら帰路についた。

 

1位:夜一、2位:浦原、3位:憐椛。まだまだ二人には敵いそうにない憐椛だった。

 

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