時を経て再び   作:鞠藻

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第四章 奪われたもの

 引越しの当日、少しずつまとめておいた荷物を外へと運び出し、夜一と浦原が来るのを一家揃って待った。

 

だが、言っていた刻限を過ぎても二人は姿を現さない。

 

待ちくたびれて眠くなった憐椛は地面に座り込み、頭で舟を漕いでいると夜一が瞬歩で姿を現した。

 

だが様子がおかしい、夜一のこんな顔は初めて見た。

 

切羽詰まったような表情で辺りを気にしている様子。

 

 

「事情は後で話す。とにかく憐椛、お主は儂と一緒に来い。」

 

 

言い終わらぬ内に憐椛の手を引き、再び瞬歩で移動を始めた。

 

 

「夜一さん、どうかしたんですか?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

憐椛の質問にも答える事無く、ひたすら瞬歩で移動を続ける夜一。

 

嫌な予感がした。

 

家族は大丈夫だろうか?浦原が来て一緒に移動を開始しているだろうか?

 

もし移動しているとすれば、夜一が自分だけを連れて行く必要は無い。

 

 

では何故・・・・・。

 

 

そこまで考えた所で、やっと夜一が動きを止めた。

 

ふと見ると、どこかの崖の上に立っており、夜一はずっと遠くを目を細めて見ている。

 

その視線を辿れば・・・・・先程憐椛が居た場所。

 

そこには、小さくてよく見えないが両親と兄2人であろう人影が見える。

 

どうやら、浦原はまだ来ておらず家族達は待ち続けているようだ。

 

 

「スマン・・・。」

 

 

小さな声で謝罪の言葉を口にした夜一にビックリして顔を見てみると、普段は快活で憐椛の前ではいつも笑っていた夜一が目に涙を溜め下唇を噛み締めていた。

 

 

「よる・・いち・・さ・・・ん?」

 

 

「お主の存在がバレたんじゃ。じゃが、お主をあやつらに引き渡す訳にはいかん・・・。約束じゃからの」

 

 

「それは・・・どういう・・・」

 

 

夜一の言葉に更に不安を募らせた憐椛は、『まさかっ!』っと思い、もう一度家族のいる方を見ると、黒い着物を身に纏った人達に囲まれている。

 

夜一や浦原も着ている黒い着物《死覇装》、死神だ。

 

次の瞬間、誰かが倒れこむのが見える。

 

よく見てみると・・・。

 

 

「父様っ!?」

 

 

倒れ込んだのは父だと解った憐椛はすぐに向かおうとしたが夜一に止められる。

 

 

「行ってはならん。お主の気持ちも解るが、お主を行かせる訳にイカンのじゃ。解ってくれ、憐椛。」

 

 

そう言って、夜一は憐椛に当て身を食らわせ眠らせた。

 

 

 

 どれくらい眠っていたのだろう?

 

憐椛が目を覚ますと、今まで住み慣れていた自宅とは違い木材で出来た建物の中で寝かされていた。

 

ふと隙間から灯りが漏れてる事に気が付き近寄って見ると、夜一と浦原の話し声が聞こえてくる。

 

あの夜と似たような光景だ。

 

あの時は父と母も居た。

 

憐椛は何かに胸を鷲掴みにされたような感覚に陥り、激しい動悸と息切れで苦しくなった。

 

 

 

 

「憐椛、起きたのか?」

 

 

そう声を掛けながら襖を開けた夜一が憐椛の様子に驚き、抱き起こす。

 

 

「どうした!?苦しいのか?どこが苦しい?」

 

 

「憐椛さんっ!?」

 

 

浦原も駆け寄って来て憐椛の異常な息遣いに気が付いた。

 

 

「過呼吸ですね。ちょっと待って下さい。確か・・・・・あった!」

 

 

そう言って浦原が懐から取り出したのは、憐椛にあげようと思って買っていた金平糖の袋だった。

 

中に入っている金平糖を別の器に入れると、袋だけを持って来て憐椛の口と鼻を塞ぐように当てる。

 

 

「憐椛さん、ゆっくりと息を吐いて吸ってを繰り返して下さい。ゆっくりですよ。」

 

 

浦原に言われた通り、袋の中でゆっくりと呼吸をしていると少しずつ楽になって行くのが解った。

 

呼吸が落ち着いた事に気が付いたのか、浦原は袋を憐椛の口元から離した。

 

 

「大丈夫か?憐椛。」

 

 

額に大粒の汗をかき、目には涙が溜まり虚ろ。

 

とても大丈夫とは言い難い状態ではあるが、憐椛にはマズやらなければならない事があった。

 

 

「私の家族は・・・・・。父と母と兄達は・・・・・。」

 

 

そう、家族の安否の確認だ。

 

最後に見たのは父が倒れる姿。

 

遠目だった事から、実はあれは父では無く別の人だったのではないか?自分の見間違いじゃないか?っと思おうとしていた。

 

だが帰って来た答えは憐椛の期待を大きく裏切った。

 

 

「私が行った時には・・・・・。」

 

 

その言葉だけで全てを察した憐椛は立ち上がり爪が食い込み出血する程、拳を強く握り締めた。

 

 

「私たち家族は、夜一さんと喜助さんとの約束通り午前中に荷物を外に出し、お二人が来るのを待ちました。どうして約束の刻限に来てくれなかったのですか?どうしてあの時、私の手だけを引いてあの場から離れたのですか?どうして・・・どうして・・・ウッ」

 

 

責めても仕方がない事くらい憐椛にも解っていた。

 

二人が簡単に約束を破る人達ではない事くらい解っていた。

 

恐らく瀞霊廷で何かあり、その対処をしていて遅れたのだと予想は付く。

 

けど、今は怒りと悲しみをぶつける場所が無く、その矛先が夜一と浦原に向いている。

 

その事に気が付いている二人は何も言わず、ただ憐椛が落ち着くの黙って待っていた。

 

しばらくして、落ち着きを取り戻した憐椛は泣き腫らした目を二人に向け、小さく頭を下げた。

 

 

 

「スミマセン・・・」

 

 

憐椛の言葉に二人は驚いたように目を見開く。

 

産まれてまだ12年しか生きていない子供だというのに取り乱した自分を恥じ、謝罪の言葉を口にする。

 

普通の子なら、恥ずかしいと思う事があっても謝罪の言葉まで口に出来るものではない。

 

ましてや、自分の家族を失った直後に・・・・・。

 

まだまだ責められてもおかしくはないし、責められる覚悟も出来ていた。

 

何を言われても、全て甘んじて受けるつもりでいた二人にとって、この憐椛の行動は逆に二人の目頭を熱くさせた。

 

 

 

 

「儂らも、すまなんだ。」

 

 

「すみません」

 

 

目に涙を溜め、心底申し訳無さそうに謝る夜一と浦原の手を取った憐椛は、その手をそのまま胸へと持って行き、

 

 

「ココに・・・家族はココに居ますから。」

 

 

そう言って、また静かに涙を流した。

 

その日は、泣き疲れて眠ってしまった憐椛の側を二人共離れる事は無かった。

 

 

「なぁ、喜助よ。」

 

 

「はぃ。」

 

 

「儂らは、憐椛に何がしてやれる?」

 

 

「そうっスねぇ・・・。時間が許す限り一緒に居てあげる事じゃないっスか?まだまだ大人の愛情が必要な年頃っス、私らがご両親に変わって注いであげれば良いんじゃないっスかねぇ」

 

 

「そうじゃな。」

 

 

例の如く、夜一の膝枕でぐっすりと眠る憐椛を見つめながら今後の決意を固めた。

 

 

 

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