ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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アグリッパ教授〈パリ大学及びボローニャ大学教授〉:はじめにおいて、この講演に来てくださいました各国学会の学者の皆様にまずは、感謝を送ります。
〈拍手〉
今回、欠けていた「手記」の部分が補完されましたため、改めて、この世界を物語る必要性が出てきました。序章における部分は確かに単調ではありますが、饒舌に、『何が、どうであり、その故は?』という大勢の我々歴史学者の疑問を解消しうるテクストであるということは請け合います。
少なくとも、1991年代におけるテクストの発見は今後とも、新たな発見をもたらし、私たちに新たな世界を見せることになるでしょう。

では、私たちは一人の読者としてこの記録を鑑賞しようではありませんか。

2050年9月1日 ドイツ ハイデルベルク大学 世界魔法史学会 国際シンポジウム
にて


0.1 トロイアの岸辺から

 今でも覚えている。列車の外から見える景色の中、今まで来ていた服を脱ぎ、真新しいローブに身を包み、ネクタイをつけて、どこへ行くのだろうという期待をもって、はじめて出会った人々と仲よく遊び、楽しみに胸躍らせたことを。 そして、列車が目的地に到着して、不思議な世界に来てしまったのだと、改めて強く思ったことを。 これから起こるという儀式が何なのかと思いながら、組み分け帽子の待っている場所へとゆっくりと大広間を歩いて行ったことを。あの時はとても幸せだった。 将来はとても遠くのことに思われ、この大きな城の中でずっと暮らしていく、そんな心をもって明るく歩みだしていったことを。だが、しかしてその時代は困難の極みにあったのだ。 恐るべき戦いの序章の中にいたのだ。 なんとも間が悪いときに入学したことを私は覚えている。 私の名前はアドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス、ドイツの生まれだ。 私の役目は、いわばこの物語の狂言回しといったところかもしれない。

 

 昔のことである1990年代、世に言う「帝王」の再来がひそかに始まる中、私はドイツからイギリスへと向かった。 イギリス。それはドイツの秩序立てられた世界とは真逆の混沌期に差し掛かる帝国の残影を連想させる世界である。あの時代が恐るべき時代であるとはあの時は知らなかった。 私はあまりにもものを知らなかったのだ。

 80年代後半期、当時、「死と絶望」がイギリスを襲い、飲み込み、支配し、ヨーロッパを絶望のど真ん中に叩き込む「帝王」の襲来するイギリスに対して、ドイツは強大な「力」に守られていたため、テロリズムによる《死》の心配はなかったし、幸いにして私は血族では両親はいなかったものの、安全な場所で暮らし、まあ幼い妹と非常に使い勝手の良い、優しいしもべ妖精〈彼については後述すべきか〉とドイツで暮らしていた。

 

 イギリスが恐怖に叩き込まれ、死喰い人たちによるつるし上げ、処刑が横行する中、私たちドイツ人たちは暗闇におびえることなく、いつものように、夕方まで遊んだし、夜は夜で何かにつけては遊ぶか、近所とパーティをしていた。 それくらいの差があったのだ。

 さて、こうしたことは周知のとおり、こうした恐怖からイギリスは解放された。 つまりは一人の少年が起こした奇跡によって、この「帝王」が消え去り、人々はようやく、安息を手に入れたのだ。 およそ、私たちには当時、あまり関係のないことではあったが。

 

 さて、「学校」からの招待が届いたのは入学の1年前であった。 当時ドイツの「学校」マインツ魔法高等師範学校並びにフランスのパリ高等魔法師範学校(のちのボーバトンと統合される)は《冷戦下》における緊張と硬直化ゆえ一部を除き大半が休業していた。魔法界でもしきりにソビエトをはじめとした脅威が唱えられていた。 あの当時、誰が東ドイツをはじめとしたあの赤い帝国が倒れると予想できたであろうか、そのため、各学校への入学試験、魔法学高等試験〈Abitur der Zauberei = Abi. d. Z〉は当時は先の見えぬ欧州事情の故、休止に追い込まれており、ドイツの魔法科学生は海外への出発。 特に、優秀な者たちは両親から最も高度な教育を受けられるイギリスへの渡航を求められていた。 周知のことであるが、冷戦は先行きがまるで見えず、戦争の手がいつまた欧州を飲み込むともしれなかった。

 皆必死であったのだ。

 

 イギリスに行くにはほかの魔法学校に入学するのと異なり、きわめて難しい試験〈一般ヨーロッパ編入魔法高等試験〉の中でも上位に位置する、ヴァルプルガ・C1に10歳までの時点で合格する必要があった。 イギリス渡航チケットとなる英語によるこの試験は毎年、「亡命者」たちのおかげで苛烈を極めた。 試験内容は魔法薬学、倫理学、史学、医療学、呪文学、天文学等のホグワーツ1年生修了時のレベルの問題で、いずれも面接、実技、筆記によるものだった。 あまりの難しさから合格など夢のまた夢だとされていたが、私は9歳のころこれを受験した。 まず、受験にあたっては最善を尽くすべしとの信条であったので、当日までに覚えるべきこと、そして呪文をいくつかやってみた。 まず、よく古典において託宣を聞く武将よろしく、紅茶占いでどうなるかを占ってみた。結果は落ちるという最悪の結果を引いた。 思わず呆然としたが、見なかったことにして、占い学というものが極めて確実なものではないのだと無理やり理屈付けてどうにか心の平静を保った。 試験日前、会場となるマインツに私は到着した。会場には、私よりも年上の少年が二人、少女が四人だった。 さらには私よりも年下の子供たちが五人。 午前10時ちょうどに 試験が始まった。 一日目は英語による魔法史及び魔法式の構築についてで、試験官が当日目の前に設置された黒板にその場で即興のお題をかいた。 『魔法史』においては

「腐ったハーポの決めた倫理観及びそれについてのキリスト教からの承認論争」

 について約2時間かけて理屈付けをして英語で書いた。 今にして思うのは子どもたちが神学における清貧論争並みの難解な世界観を果たして理解できるか。 というレベルの問題ではあったが。 まあ、いい、歴史は極めて好きな科目だったので、理屈付けて書いてみた。内容としては今でも十分なものであったと思う。 ついでに言えばC1の中では魔法実践が個人的にはそれに次いで難しいものだと思う。

 

 次は簡単だった「日常生活で使えるとされる呪文3点を挙げて式、もしくは実践をして示すように」 知りうる限りの簡単な呪文の形成方法を書いて、実践をした。 私が取り上げたのは湯を沸かす呪文と包丁を動かす呪文、少しばかりのアクセントで呼び寄せの呪文(アクシオ)を使った。 いずれもうまくいった。思うにアクシオは結構難易度が高いので(その実、比較的使用していたが)これは加点対象になったのかもしれない。 それが終わると、1時間の昼食をはさんで(でも時刻はすでに午後2時)面接となった。試験の一切は英語で行われた。

 

「ミスター・ピュックラー。記録のため、フルネームで出身、年齢を」

 

「アドルフ・ゴットロープ・アウグストゥス・グラーフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス。ハルツ出身、9歳です」

 

 試験官は表情を変えないまま、メモを取っている。 病院にいるかのようだ。 右から、女性(大体50)、白髪をブロンドに染めた男性(眼鏡をかけ60くらい)を筆頭に二人の試験官が私を交互に見ながら、メモを取っている。 何も話していない時ですら手は動いている。

 

「なぜ、C1を志望されましたか?」

 

 ここだ。そう思う。注意を引く言葉を引き出して答える。シンプルに、インパクトのある文章で。

 

「 “興味”をもったので」

 

 それまで、ずっと万年筆で何かを書き込んでいた目の前の試験官は手を止めて私を見た。

 

 

「興味?」

 

 

 声色が変わった。明らかに私の言葉に引き付けられている。

 

「そうです。まず、外国における……」

 

 3点を約20分で冗談を交えつつ説明した。 試験官たちは当初の仮面をかぶったかのような対応から途中笑顔を見せながら、私に向き合って話を進めた。

 このような試験が3日間続いた。 難しいもの、そうでないものいろいろあったが、総じてためになる試験であったことは請け合ってもいい。 試験期間中約2人が半ばおかしくなって薬を投与される羽目になった以外は取り立てて何もなかった。 少なくとも、私も精神的に追い詰められたといったこと以外は。

 試験日最後の日、この日は「防衛呪文」についてのテストだった(余談だが、これは結構イギリスでも使えた)。

 

 楯の呪文や殺傷性の高い射撃呪文、武装解除呪文などの呪文だった。 私は粉砕呪文であるレダクトと射撃呪文フリペンド、盾の呪文を実践した。

 レダクトと唱えると突如として目の前の石膏像は完全に破壊された。 楯の呪文は試験官の発射するフリペンドを見事に防いだ。 しかし、冷静に考えるのであれば、石化呪文や踊る呪文(タラントラ)までを私の楯の呪文に唱えるのはわかるが、私にフリペンドを唱えて、(しかも頭を狙って発射された)がもしも当たったらどうするのだろう。 殺す気か? まあ、防ぐことができたから良しとしよう。フリペンドは予想だにしない結末を迎えた。石膏像を射抜くはずが、外れてタペストリーに見事に穴をあけた。私は装飾品が石膏像から大きく外れてあたったことに青ざめた。しかも、そのタペストリーはマインツ選帝侯の贈り物だったので、その時の私の恐怖は推して知るべし。まあ、修復呪文でどうにか修復したので、どうにかなかったものにしてもらえた。 明らかにマイナスには働いたであろうが。  

 

 試験官たちは私たちの労をねぎらった後、追って、入学許可証が届くだろうと私たちに告げた。

 

「2月6日。学校の選定が終了いたします。その際にふくろう便で通知いたします。この中でも最も優秀な方にイギリス行きが。そうでなければアメリカ、もしくはスペインとなるでしょう。では、お元気で」

 

 そして、間もなく年の変わるころ、2月6日。

 ミュンヒェンには雪が降っていた。 私はピュックラー=ムスカウの屋敷の中で風邪の妹を見守りながら、ずっとそばに座っていた。 時折、妹――ヴォルフラーメは苦しそうに咳をした。 だいぶやられているな。そう思う。 水差しで水を口に含ませて様子を見る。

 困ったことに、屋敷しもべのビューローは買い物だ。 この分だとまだかかる。 そう思いながら妹の様子を見ていると、買い物から帰ってきた祖父の怒鳴り声が聞こえた。

 

「いったいなんだ!このふくろうは。いてぇ!」

 

 外を見ると、黒いロングコートをつけ、赤いマフラーを巻いた長身の老人――私の祖父、ヴィルヘルムがしきりに怒鳴っている。

 何事だ?

 

「どうしました?」

 

 彼はふくろうに頭をつかまれているのだ。 山高帽に爪は食い込んでいるようで、やや帽子はずれている。

 ふくろうが来たのは突然のことだったらしい。 というのも、カバンが散乱しているから。 雪の上にカバンとものが散らかっている。祖父は顔を真っ赤にして怒っている。ついには長い紳士傘を振り回しながら、手紙を私に渡す。

 

「ああ、アドルフ。君宛だ。きっと望みのところにはいれるぞ。だからあっち行けっての!魔法を行使されたいか!あ!?」

 その言葉は効果てきめんだった。 ふくろうはおびえてどこかへ去っていった。 二度と来るなと叫ぶ祖父を玄関先に残して、妹の部屋でこれを開封する。 防水性の封筒から一通の羊皮紙になる蠟で封をされた手紙が出てくる。

 

         発 ベルリン ドイツ外務省・魔法部及び内務省・郵政局

         宛先 フォン・ピュックラー=ブルクハウス邸

          バイエルン ミュンヒェン ザールガッセ通82-09

          アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス殿

 はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと手紙を開封する。

 

              ヴァルプルガC1通知証書

 ドイツ国民の名において、アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス殿。貴殿をヴァルプルガC1に合格したこと及び、国費によるイギリス渡航を認めます。貴殿に対しては優秀な成績をおさめられることを期待いたします。

                 署名

 外務省 外務大臣 オスカール・フィッシャー

 魔法外務省・国際振興部・部長 フリードリヒ・ツー・ホーエンローエ=ホーホベルク

 

 合格だ!私はすぐに祖父にその旨を伝えた。祖父は大喜びで私を持ち上げてくれた。 そして、忘れるところだった。 2月6日、この日は私の誕生日だった。入学と誕生日を兼ねてのお祝いが祖父とやや治りかかってきたヴォルフラーメ、しもべ妖精との間で行われた。

 

 シカ肉のロースト、レンズマメのスープあるいはえんどう豆、鮭のムニエル、コーヒー、最後はザッハトルテとブラッドオレンジジュースとワインのシャーベットが出される。

 

 どの料理も滋養に富み、味付けは上品だった。 お祝いということで、祖父はかねてから私のほしがっていた本を二冊手渡してくれる。 妹も寝たままであったが、おめでとうと、ささやかな誕生日の歌をプレゼントしてくれた。 シンプルだがとても素晴らしい贈り物だ。 今でもその光景はありありと目に浮かぶ。 笑顔の祖父と、ヴォルフラーメ。

 この日は記念すべき日となった。 屋敷にいる誰もが喜んでいた。 そして、近所にもそれは伝わった。 近所の人々も皆私の家に来て祝福してくれた。友人のパウルは私にジャガイモ1kgとチーズをたくさん送ってくれた(彼の家は食料品店なのだ)。 別の友人は万年筆用のインク。紫色と青色の落ち着いた色彩のインクをプレゼントしてくれた。隣近所のエンベルク夫妻は自家製のケーキを。誰もがそれぞれのものを持ち寄って、私の家でパーティを行った。にぎやかに夜が過ぎていく。 初めは4人から今は30人へと。イギリスのしかるべき最高学府への編入が認められた。 というニュースは久しぶりのことで、称賛すべきことであったらしい。夜はゆっくりと、けれども面白く過ぎていった。 

 そして、翌日から努力の日々が始まった。

 




ひとまず、1話となりました。コンピューターがまだ使い慣れていない…。
なお、ヴァルプルガC1は留学生たちには絶対に必要な試験証明書です。渡航にあたってはヴァルプルガC1が英語における難関へとの進学を定めている設定でドイツ魔法外務省とイギリス魔法省との(国家間留学生プロジェクト)として扱われ、試験内容はホグワーツの1年生にほぼ匹敵する内容を行います。

タイトルを変えました。モデルは、アエネーイスの書き出しです。
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