ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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クロックマン:さて、メインの世界です。世での記録も雄弁ですが、
(笑い)
「彼」の記録もこれに匹敵するものです。


8. 魔法薬学

 木曜日の夜

 おそらくは初となるグリフィンドール寮との合同授業が行われることで、談話室はもちきりであった。大方、寮監は我々を贔屓するであろうとの、見方が優勢であった。

 実際それを恥じることもなく、大まっぴらに口にする者もいた(お察しのこととは思われるがマルフォイやザビニである)。

 

 私としてはある程度はひいきされるはずであるが、それ以上はひいきされないと考えた。

 実に明快な理由だ。人は失敗するが、そこから学び取る生き物であるとはよく言ったもので、不出来なものがそばにいれば、そこから学び取り、人は失敗しない。

 フェルプスの話では、しばし事故が起きると聞く。それもグリフィンドール寮のほうが圧倒的に。とすれば、『魔法薬学』の授業において、私たちの特徴、つまりは冷静に物事を見つめ、判断を下し、失敗しないという性格が妙実に生かされる授業であって、よく視点を合わせれば、それはひいきというよりもむしろ、寮の特性に合いすぎた授業だったといえるはずである。失敗をよく起こすグリフィンドール。それを分析するスリザリン。はた目から見ればひいきだが、私たちは物事からその特徴を学び取っているに過ぎない。

 実際それは正しいことであった。

 

 セブルス・スネイプ教授。育ちすぎた蝙蝠のような姿の黒いローブを常にまとった細身で長身の人物。そういえば、入学式の際か朝食の席、夕食の席でしか、私は彼を見ていない。謎の人物だな。

 改めてそう思いレポートの誤字脱字を確かめ、確認をしていると、話しかけてくるのがいた。顔をあげるとザビニがいた。

 

「アドルフ。お前は、なにをやっているんだい?」

 そうのんきにザビニが質問してきた。顔にはこの明らかに「勉強好き」を馬鹿にする表情が浮かんでいた。ちょうどいい。

 

「変身術のレポートですよ。確か、明日提出だったはずですが。お済ですかな?」

 

 私の言葉に、一瞬、沈黙が寮を支配した。その後、ちょっとした恐慌状態にスリザリン寮は陥った。ザビニは声にならない声をあげて、あわてて寝室へ戻り、レポートを書き上げにかかり、パーキンソンとブルストロードはダフネとポートランドに助けを求めた。ダフネは冷静な面持ちのまま、友人二人にこう宣告した。

「助けることはできないよ。課題だから、自分の力でやらないと」

 

 こういったところは、彼女は厳しいのだなと一人で納得した。

 一方の宣告された側はダフネから離れてレインに頼った。レインはお人好しな性格と半純血という点を弱みとされて強制的にレポートを手伝わされていた。

 その様子を見たダフネはため息をついて、教科書の4ページと7ページを参考にして書くといいと告げて、自分の部屋へ行ってレポートの書き方の参考にするようにといった。ポートランドも手伝いにかかり、ティッロ(妹)はすきを見て寝室へ逃げた。翌日、逃走者ティッロはポートランドの冷たい視線にさらされていた。

 

 ユリアナ・ジョゼフィンは半分まで終わったレポートを仕上げるだけになっていたのであまりこうした喧騒とは無縁だった。一方ジョゼフィンの友人エミリア・コックマンは、真っ青な顔をしてレポートを見ていたが、終わっていることに安堵して、ジョゼフィンの手伝いにあたった。

 

 ちょっとしたパニックを起こしているスリザリン1年生たちはフェルプスに一喝され、落ち着いて冷静にレポートを仕上げ始めた。

 

「もし、この失態で寮から減点されてみろ。君たちを僕は許さんぞ。すぐにやれ!」

 その瞳には静かな怒りが浮かんでいた。監督生が初めて怒ったという事態は、右往左往していた恐慌状態の生徒たちを落ち着かせるには十分だった(それほど恐ろしいわけでもあるが)。皆が落ち着いた頃、マクヴェイもやってきて、あきれた顔で周りに宣言する。

 

「レポートが終わらん奴はここに集まれ。二年生、三年生で何もすることがないものはこの連中を手伝え」

 

 任せてくれとばかりにミリア・ローソン(2年生)がはせ参じる。それに従って課題の終わったスリザリン生が集まってくる。ソファーがどけられ大きな長机と椅子が置かれそこに終わらなかった人々が座らされた。

 

 ここにきて、スリザリンの「勉強」という意味での格差は浮き彫りとなった。ダフネやポートランド、レイン、ティッロ兄妹、マルフォイ(なんだかんだ言ってやることはしっかりとやる)、ノットといった、すでにレポートを終えていた人々は全員が、終わらなかった連中、クラッブとゴイル(のちに常習犯に昇格する)、ザビニ、セルウィンを手伝う羽目になった。

 

「ですから、この式ではこの呪文は成立しないのですよ。爆破呪文になってしまう」

 ヘンリー・クラウンがザビニの羊皮紙を見て、厳しく添削をする。隣にはロバートソンが控えており、『変身術入門』と授業で取ったノートを見比べながら、これはダメ、あれはいいと指示を出す。

 

「はい、次!」

 マーティン・アンカーマン(3年生)がパーキンソンのレポートを確認し、不備がないことを確認して、次のブルストロードのレポートを確認する。

 穏やかな表情はすぐにあきれ顔になった。

 

「公式は教科書のままとノートをそのまま見たのを書き写しただけじゃないか!教授は絶対に減点するぞ。工夫を加えなさい。すぐに、やり直し!」

 

 一方、私のほうにもクラッブが来ている。私と共に彼を手伝うのはクラウン。

「これなんて読むの……」

 

 おい、冗談だろう?「計算」と「代入」が読めないのか。君は本当に英国人か。説明が必要なのか。

 あきれつつも回答する。そして、彼は常に質問した。スチュアートも助けに入る。あまりにもものを知らない彼に対して、スチュアートと私は逐一、疑問にぶつかるたびに彼の『単語的な問題』に対処する羽目になった。

 スチュアートも最初は手伝っていたが、やがてあきれ果てて、離脱した。一方の私は取り残され、この嘆かわしい事態に一人で対処する羽目になった。

 ジョン・スチュアート。あとで何かおごりなさい。

 

 こうして夜の時間はこの日、予習復習という学生の仕事ではなく、「相手を手伝う」という慈善活動に切り替わった。

 翌朝はさすがに疲れもたまって6時30分に起きた。ティッロとマルフォイも起きていたので、洗面所でこの『課題をやっていない連中が存在している』という実に素晴らしい状況を毒づきつつも、朝食を終え、『変身術』の時間へ向かった。

 

 1・2限の『変身術』の時間はレポートと、その応用の理論による質疑応答で、レポートで昨日のうちに仕上げた徹夜組は完全にボロが出た。幸いなことにロバートソン、ノット、クラウンとマルフォイのコンビが掩護射撃を行い、どうにか失点は免れたが、その日の昼食会場に移動するころにはそういった不届きな人々は冷たい目で見られ、すっかり小さくなっていた。

 

 昼食の席において、魔法薬学の時間において私は念のため、聞かれそうな項目に徹底的に頭に叩き込み、応答質問についてもメモを取っていた。ダフネ自身も状況を確認し、気づかれないように、人目を忍んでノートを見返していた。私の眼にはしかと、彼女が一瞬教科書を見るのが見えていたが。

 

 半ば、周りはあきれた様子であったが、フェルプスは私のことを褒め、レポートの失態を言うと、周りはあわてて先ほど書店で買ったばかり、と思いたくなるようなきれいすぎる教科書を開いた。

 

 さて、来るべき3・4限目である。私たちはゆっくりと移動した。途中、迷う。どうもこの学校の道は慣れることがない。ここまで教室が離れているとなると、自宅ですら迷う私には――極めて厳しい。そう思いながら、仲間たちとともに降りていく。ダフネ、マルフォイ、私の三人は同じ席に陣取った。先頭である。誰も座らなかったということと、何よりも、授業は前で受けたほうがいいというのが共通した考えであった。

 

 地下牢教室は妙に冷たく、重たい空気が流れていた。これから教鞭を執るであろう人物の性格を示しているようだ、という輩もいたが、私が思うにこれらの重要な薬品類を保管するにはこれほどうってつけのものはない。よってなんらこの空気に不思議は無い。そう結論付けて中央の教壇を見つめる。教壇はこれからあらわれる人物のために椅子を空けていた。坐するものを待つ、静謐さのみが支配する教壇。対照的な生徒たち。ちょっと静かにしたほうがいいのではないか?見つかったら……。

 すると、扉が荒々しくあけられた。皆さま、われらが寮監です。

 セブルス・スネイプ教授は大量の書類と、何らかの教材をもって入ってきた。いつもと変わらずに、成長しすぎた蝙蝠を連想させる姿である。書類を教授は机の上に置くと出欠用のボードを取り出した。それだけの行為であったにもかかわらず。

 先ほどまでしゃべっていたものが――

 一斉に口をつぐむ。

 

「では出席をとる」

 

 不思議な威厳に包まれる中、出席は滞りなく進んだ。スリザリン寮の生徒たちはよどみなく名前が読み上げられた。グリフィンドールも途中まではそうだった。しかし、ポッターの前を読み上げた後、彼は恨みとも妬みともつかない笑いを浮かべた。

 

「ああ、左様、ポッター、われらが新しい―― スターだね(celebrity)

 

 ほんのわずかな瞬間だが、教授は陰湿な笑いを浮かべた。グリフィンドールの席にぞっとする空気が流れる。それ以外は順調に出席をとった。出席がとり終わったことを確認すると彼は口を開いた。大方演説であろう。

 

「このクラスでは魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」

 

 温かみの感じられない言葉とどこかこの科目に陶酔する様子、さらには低く甘い声で演説は続く。言葉の一つ一つに重みがあり、この時点で大半がこの空気に飲まれている。声自体はブツブツと単調に発せられているというのにもかかわらず、人を引き付ける何かが彼にはあった。マクゴナガル教授が厳正さに持って人を静かにさせるのであれば、彼はその注意を引くような声に魅力があったといえるであろう。

 

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げた事はやらん。そこでこれでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力。心を惑わせ感覚を狂わせる魔力。諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し死にさえ蓋をする方法である ――ただし我輩がこれまでに教えて来たウスノロたちより…諸君がまだましであればの話だが」

 

 そこで言葉を切り、陰険な目であたりを見回す。ここで終わりだろうか。すっかり静まり返った教室の中、そう思っていると赤毛のウィーズリーとポッターが何か目配せをしている。それを教授が見逃すはずもなかった。

 

「ポッター!」

 

 いきなりの大声に周りはぎくりとする。名前を呼ばれた本人は飛び上がりそうな様子だ。いやな予感がする。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

 呼ばれた本人はあわてた様子で隣のウィーズリーに助けを求める合図を送った。おそらくこの問題は答えるのが難しいというよりもこの年代ではほぼ不可能だ。

 

「わかりません」

 彼は正直に答えた。それでよろしい。わかったほうがおかしい(ちなみにC1では普通に教養問題で出た)。だが、教授は薄い笑みを浮かべた。

「ああ、まったく- 有名なだけではどうにもならんようだ」

 あざ笑う教授の隣には一本の手が伸びている。まさか……見間違いか?いや間違いがない。グレンジャー、まさかわかるのか?教授にも彼女の挙手する腕は映ったらしいが、 それを教授は無視。

 

「ポッター、ではもう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら――」

 

 この時点で私は隣に座るダフネを見た。ダフネも視線を私に合わせてすっかりわからないという顔をしている。『魔法の薬草ときのこ千種』の片隅に乗っていた程度だったから無理もない。クラッブとゴイル、マルフォイ、パーキンソンはポッターの失敗を笑っている。マルフォイを除いて君たち三人はこの問題がわかるのかな?

 

「わかりません」

 再びその声が聞こえる。ポッター。それで当然だ。無知は許される。だが、グレンジャーの手は上がったままだ。あの自信に満ちた目から見るに本当に理解しているようだ。それをいないかのように無視して教授は言葉をつぐ。

 

「クラスに来る前に教科書を開いて読んでみようとは思わなかったわけだな。え?ポッター?」

 

 教授は意地悪く話した(一方で複雑そうな声が入っている気もした。やや目をそらしてもいた)。

 

「では、モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何だね?」

 うん。これはわかるな。だが、一年の後期だが。今はわかる人間はパッと見る限りでグレンジャーだけか。彼女はついに我慢の限界に達した模様で、椅子から立ち上がった。宣誓をする兵士のように見える。

 一方で教授はポッターの顔を見つめて、お分かりか?そう言った顔を教授はした。後年によく思うのだが、ポッターのことを責めるように話す教授であるが、冷静にその言葉に留意するのであれば、おそらく、あの時、すでに(あれほどよく言われるように)名は体を現すということわざ通りの人物だったのだ。

 セブルス。ラテン語で荒々しく、もしくは厳しいという意味の言葉。教授はお見事に名前の通り、ポッターを取り扱った。

 

「わかりません」

 

 妙に落ち着いた声で彼は応対した。さらに余計な一言も付け加えて。

 

「ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみてはいかがでしょうか?」

 

 妙に丁寧な口調である。グリフィンドール側から何人か笑い声が上がった。慇懃無礼を地でいく回答に対して、教授は不快そうに見えた。

 

 さて、目の前では小声でスリザリン生たちが笑っている。わからん分際でひとを笑う行為は感心しないな。私は冷静を装いながら尋ねた。私は声を低くして言った。皮肉を込めて。

 

「恐れながら。ミス・パーキンソン、ミスター・マルフォイ。この問題がお解りだとでも?」

 

 二人は黙った。すまん許せ。二人とも。君がちょうど私の声の掛けやすい距離にいたからだよ。それにつられてスリザリン生は一斉に笑うのをやめた。この静けさは周りを驚かせた。“スリザリンの笑いをおさめた”その様子にグリフィンドール側から私に注目の視線が集まる。なまじ、よく通る声と背が高いからただでさえも目立つのだが。

 一方のグリフィンドール席では、スネイプ教授がグレンジャーに向き直った。なにを言うのか?

 

「座りなさい」

 座らせるのか。教授の声に、命じられたグレンジャーはしぶしぶ座った。

 そして、マルフォイは私のほうに目配せをした。何か来るぞという合図だ。しかして、スネイプ教授は私に向き直った。

 

「全く、嘆かわしい。では、フォン・ピュックラー=ブルクハウス。ドイツから来た誉れ高き学生よ。君は答えることができるかな?」

 

 まいったことに私に番が回ってきた。仕方がない。

 

「額面通りの内容程度でしかご回答できませんが」

 教授は面白いという顔をした。どこか期待している顔だ。

 

「かまわない。言ってみたまえ」

 

 私は咳払いをした。のどが緊張のあまり乾いていた。

 

「では、最初の質問に回答いたしますと、アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギをまぜ、催眠豆の汁、カノコソウの根等を混ぜ、調合いたしますと『生ける屍の水薬』というものが出来上がります。この薬効は飲んだ人間を半永久的に、眠り続させるものであります。つまり、読んで字のごとく生ける屍のごとき状態になるのです。しかしながら、調合においては極めて複雑な過程を要するため大体6年生、7年生など上級生の時点でようやく調合ができるようになります」

 

 やや、話す口を止めて周りを見る。グリフィンドールもスリザリンも皆が私のことに注目していた。人目は嫌いだ。あまり周り考えないようにして、スネイプ教授のみを見つめて話す。

 

「あー……ベゾアール石に関しましては山羊の胃の中で見つかりますが、極めて珍しいとされております。その効能は毒消しで大体の毒には効くものであるとされています。最後のものは…同じものですね。ただ名前が違うだけです。ほかの言い方をするならばアコナイト。一般にはトリカブトとも言います。ですので“違いは存在しない”というのが答えになります」

 

 周りの目線は私のことをやや見直した顔で見つめる。そうでないのもあったが。

 

「その通りだ。何か質問はあるかね?フォン・ピュックラー」

 

 ある。トンネルのように真っ暗な瞳を見つめて答える。

 

「一つございます。“服用量がその毒”を作るとよく聞くのですが、それはまことですか?同じ材料であっても別の薬を作ることはできるのでしょうか?」

 

 “お前はいったい何を言っているのだ”という周りの空気が冷たくなる中私は低めの声でそう話した。教授はうれしさを伴った顔で答える〈もっとも周りは気が付かないが〉。

 

「ああ、出来るとも。微妙な調整によって無限の可能性を常に見せ続けるのがこの学問の特徴だ。フォン・ピュックラー。あとで教えてさし上げよう。君の見事な答え方と向学心を評してスリザリンに16点与える」

 

 安堵するスリザリンの学生たち。それを射殺さんばかりに睨むグリフィンドール生たち。大方ひいきだと思っておられるのだろう。しかし、皆様。なぜ一部を除きメモをおとりになられないのですか?同じことを教授も思ったらしい。

 

「ところで諸君。あれほど学ぶべきことがあったというのになぜメモを取っていないのだ?」

 

 そう言ってイスに深く掛ける。羽ペンを動かす音が周りを包み込む。その音の中、教授はよく通る声で宣告する。

 

「ポッター。君のその不遜な態度にグリフィンドール1点減点」

 

 怯えた顔でそれを聞くポッター。憎たらしそうに見るウィーズリー。慌てて羽ペンを動かす学生たち。私はやや遅ればせながらもノートをとった。マルフォイもパーキンソンも私のことをほめる。少し光栄に思いながらも、ええと答える。ダフネは次に何が起きるのか気になると話していた。確かにそれは気になることだ。教科書を開けとの指示があり、該当のページをめくる。“おできを治す薬”とある。なかなか、思春期の方々には使えそうではないか?

 そう思う。化粧品にも使えるかもしれない。そんな余計なことも考えながら、材料を調合する。一歩間違えばそれこそ取り返しのつかない事態を招くのが魔法薬の工程である。簡単な道のもとにも悪魔は潜んでいる。

 

 慎重に……そう思いながら、工程をくどいほど確認してメンバーを組む。誰がいいか……ダフネと目が合う。彼女はうなずく。私たちはグループを組んで調合し、慎重に熱を見極め(病的なまでに集中していた)、完成させた。教授はその薬を見て出来具合をほめた。

 周りは、スリザリンでも例外なく酷評された。先輩方の言う通り、ある一点を除いてはまあまあ公平に厳しい。私に次いで早く終わったノットとポートランドのペアは牙の煎じ方が甘いといわれた。よく粉末状になっていないのだ。と教授は言い、しっかりと注意をするようにと続けた。

 

 それにしても、どうすれば、あそこまで魔法薬の調合過程がわかるのだろう。ノットの薬と私の薬はパッと見た限り、いやじっと見ても薬の調合過程がわからないというのに。こうした点では、私は彼のことを尊敬するばかりだ。

 しかし、初歩とはいえどもこれは、常にパートナーに注意を払うのは、神経質な私には堪える授業だな……そう思う。カバンに教材を片付け、薬を黒板に書かれたとおりにフラスコに注いで名前を書き、とりあえず終わる。今日も運がよかった。

 

 一足先に終わった私たちは、周りのできない班を見て回れとの指示を受けて見まわる。

 

「寮に関係なくともよろしいですか?」

 

「かまわん」

 大体うまくやっている。そう思っていると私はとんでもない光景を目撃した。ロングボトムが火からおろしていない煮え立つ大鍋に、山嵐の針を入れようとしている。

 まずい!

 母語で“シュトップ!”と叫び、あっけにとられる周りを後目に、ロングボトムの手を止めさせる。

 

「な、なんだい?」

 

「すぐに、それを入れるのをやめなさい。鍋が割れて大けがを負いますよ。火からおろして、そう。そんなふうに。そこに投入して」

 

 彼はおっかなびっくりの様子で私の指示通りに材料を投入する。

 

「いいね。よくできていると思う。いいかい?簡単な薬でも過程を間違えれば大惨事だ。例えば、これは間違うと鍋が割れて、おできのできる薬が君に降りかかって、君の顔は腫れ上がるのですよ。今後は注意しなさい」

 

 スネイプ教授はそんな私を見ていたが、ロングボトムのグループが作った薬を確かめる。

「よくできている。フォン・ピュックラー。注意による惨事を防いだことにより4点スリザリンに与える。諸君。工程を間違うな。恐るべき事故を呼ぶ。しっかりと注意して作れ。各人はフラスコに入れてこれを提出するように。以上だ」

 

 ポッターいびりは一回のみにとどまったことに不満を持つスリザリンを後目にグリフィンドールの大半の生徒がフラスコに薬を入れて、協力したメンバーの名前を書き提出していく。時計を見る。

 

 早いもので、もう金曜日はこれで終了である。出ていこうとするグリフィンドール、スリザリン生たち出口で鉢合わせし、嫌みな形で互いを(無言で)侮辱しあいながら出ていく。その列にロングボトムも加わろうとする。私は彼を呼び止めた。怯えて振り向く。

 

「ちょっと話がある。何も取って食おうというわけではありませんよ。そんなに怖がらず」

 

 ダフネも立ち止まって私のことを見ている。私はダフネに行くようにといい、一方、スネイプ教授は、先に研究室に行くといって、出ていった。地下牢教室には私と彼の二人だけが残された。

 

「まずは、久しぶりですね。お元気にしていたかな?」

 

 彼はおびえた様子でうなずいた。

「授業にはついていけてはいるかい?その様子だと違うようだ。ならば、一緒に勉強しませんか?」

 

 彼は驚いた様子で私を見た。

「あまりプレッシャーを感じずに取り組むことが大事ですよ。特にこの授業についてはその手の圧力を感じるとますますうまくできない」

 

 今にしても思うのだがいったいどの口がそれを言えたというのか……。こうして思い返すだけでも恥ずかしくなる。

 

「そこで提案なのですが、今週の土曜日に自習教室に集まって一緒に勉強しませんか?あなたのできるところできないところ諸々を改善するために」

 

 彼は喜びに満ちた様子でうなずいた。共に学んだほうが互いのためだし、何よりも、コンパートメントで会った仲間以外とも仲良くしていきたいではないか。

 これはその第一歩。共に学ぼうという約束をしたのちに私は寮監のいる部屋へと向かった。

 

「失礼遅くなりました。教授」

 そう言ってノックをして開けると、書類と古そうな写本、貴重そうなガラス瓶に入った植物、動物などが並べられ、教授は執務机に積みあがった書類の山から私を迎えた。

 

「かまわん。座れ」

 

 私は保管庫の冷たいソファーに腰かけた。魔法でポットとカップ、ソーサーが出され、湿気た葉から入れられた紅茶が出される。礼をしてそれに口をつける(古い)。 そう思った。味にはあまり頓着しないのだろうか?教授は書類に囲まれた椅子に腰かけて私のほうを眺めていた。手元には作成中の書類がある。

 

「紅茶ありがとうございます。さて、質問である魔法薬なのですが、調合を変えるだけや材料を別のものに変えるだけでまるで違ったものを作ることができるのでしょうか?」

 

 教授はしばらく黙って羽ペンを動かしていたが、やがて手を止めて私に向き直った。

 

「そうだ。例えば、ポリジュース薬などもそうだな。一般には今日習った『おできを治す薬』も別の薬草から作ることができる。量によって無限の可能性を得るのがこの学問の特徴だとはさっきも言ったとおりだが、簡単な素材からも少しばかり調合を変える程度で……恐るべき薬が出来上がる。例えば『幸福薬』はこの工程自体には膨大な時間、たえざる注意を必要とするが、これと全く同じ材料でやや調合を変え、かき混ぜ方を変えるだけで『元気爆発薬』もしくは、ある程度調整、別の材料を加えるだけで『安らぎの水薬』が調合できる。その逆もしかりだ。……もっとも、一般にはこの方法は知られていないが」

 

 なるほどといった顔をして私はメモを取る。薬の工程、必要材料はすべてが今、私たちが使用できる素材で構成可能だったのだ。いかに難しい魔法薬ともいえども簡単な素材から(七面倒な工程は除く)完成されうるのだ。

 私は感心しきって彼を見た。教授は話している間ずっと、羽ペンを動かし続けていたがどちらも一向にとまる様子はなかった。これが終わると教授は私のことを覗き込むようにして、何か不安はないかと尋ねてきた。

「ありません。教授」

 

 するとスネイプ教授は羽ペンを止めて口を開いた。

 

「フォン・ピュックラー。去年においては、君のように才能にあふれる魔法使いは少ない。特にその中においても比較的多数派は魔法薬学を軽んじる傾向にある。しかし、どうも君はその逆にいるようだ。知識を重んずるもの。だが、今日、調合をしていてる様子を見て気が付いたのだが君はどうも作るときにストレスと不安を感じているようだな。失敗による事故か何かを恐れる様子だ。何かトラウマでもあるのか?」

 

 見抜いていたのか。驚きつつも私は答える。

「いえ、トラウマはございませんが、いかんせん神経質なたちですので。どうも調合の際には気が張るのです」

 

 教授は私の言葉を、目を細めて聞いていたが私が話し終わると、何やら、机から瓶を取り出した。だが、それをすぐにしまった。代わりに私に目を合わせて低く甘い声で話した(嫌味ではなく、本当にそうなのだ)。

 

「賢明なるアドルフよ。君のような人物は毎年大勢いる。そうしたものたちに、何度も言っていることだが、君は様々な才能を持っている。だから、ゆっくりと物事を考え、肩の力を抜いて取り組みなさい。それと、今後ともほかの寮との合同授業の際にほかの生徒を手助けした場合には。助けた分だけ1点ずつさし上げよう。以上だ」

 

 助言をもらったことに喜びつつ、私は感謝の言葉を述べて、立ち上がった。

「失礼いたします」

 

「よい日を」

 そう教授は書類の山から応じた。

 

 魔法薬学を嫌うグリフィンドール生が多いことも私は知っている。それに、多くの者たちがこの教授を嫌うのも知っている。

 だが、もし、この教授がローマ帝国の人物であったとすれば、キケロのごとく雄弁にこう言ってのけることであろう。

 

「Damnant quod non intellegunt. 〈彼らは理解しえぬことを非難するのみ〉」

 あの、最初のころの演説のようにだ。

 

 

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