ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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ウィトワーテルスランド大学西洋文化学教授:セレツェ・ングロアエ
この章においては、ナイトハルト・フォン・ロイエンタールという詩人が取り上げられております。フォン・ロイエンタールは「目の保養」(原文:Die Ougenwide)をはじめとした中高ドイツ語の詩人であり、彼の詩については多くの学者たちが今なお研究しています。その後取り上げることになりますが、「彼」の日誌ではよくこの詩の引用が行われます。中高ドイツ語の美しさを心得ていたのでしょう。その響きは21世紀の今でも垣間見ることができます。

さて、皆様
一つ、興味深いことですが、我々は過去を思い出すことはできます。
しかし、未来を思い出すことはできないのです。
これこそ、不思議と心得るべきことなのかもしれません。
〈拍手〉


13. 人それぞれ

不釣り合いな二人というと教員らしくないと怒られるだろう。

そう、ミネルバ・マクゴナガルは思う。

その二人というのは毎朝七時に現れるスリザリン生のことで、一人は眼鏡をかけた背の高いそれ以外は、これといって特徴のない少年。アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス。典型的な秀才で、何事にも真剣に取り組む留学生。妙に英語がうまい。もう一人はダフネ・グリーングラス。同じくスリザリン生である。彼女も真面目な人物であり粘り強く教科に取り組む。言ってしまえばグレンジャーと似たような生徒である。二人ともブロンドであるがグリーングラスのほうが、光沢がある髪をしている。なおかつ、グリーングラスは整った顔つきだが、フォン・ピュックラー=ブルクハウスは普通の顔つきだ。いや、普通よりも下といったところか。

だから不釣り合いな二人組だった。

実際のところはわからないが、二人がよく行動しているところを見るに、二人は友人なのだろう。必ず同じ時間に、この広間が開く時間には制服を隙もなく着こなし、カバンを持って歩いている。フォン・ピュックラーも普段の彼からは想像することもできない笑顔を浮かべて話している。グリーングラスのほうも屈託のない笑顔を浮かべて何かを話し合っている。会話の内容は時折聞こえてくる、『アグリッパの三段論法』や『トリスタンとイゾルデ』から推察しうるに勉強の話であろう。料理が並べられるまでそのようなことを話し合っている。そこにシルヴィア・レイン、ウンベルト・ティッロといった人々が混じっていき輪は大きくなっていく。そして、勉強好きの集団ができる。

勉強好きといえば、ハーマイオニー・グレンジャーが彼女の寮では有名だったが、裏を返せば、彼女と後数えるだけしかないということで、今年のグリフィンドールは分が悪い。相手となるスリザリンには勉学に励み、評判のいい生徒が大勢いる。さらにここに、もともと才能にあふれるマルフォイが加わったのであれば、到底勉強面で勝てるものがいない。また、スリザリンが寮杯を獲得しうる可能性が大きくなってきた。私はそんなたわいもないことを考えて、目の前で席に着く上級生たちを見る。誰もが食事を待っている。ウィーズリーの双子が今日も何かやらかしそうな話をしている。さて、今日も1日が始まる。

 

アドルフ・フォン・ピュックラーの視点

昨日のひと騒動から生まれた今の状況は特筆すべきなのかもしれない。ポッターが新しい選手になったのだ。そして、遠目からしかわからないが、箒が送られてきたようだ。マクゴナガル教授のお墨付きといった様子で彼は実に嬉しそうだった。箒を見に行ったレインに聞くとニンバス2000という最新の箒の一つだそうだ。

「とってもいい乗り心地で、無敵だよ!」

 

とレインは嬉しそうに話していた。レインはグリフィンドールのパチルとは親しい間柄なのですぐに見せてもらえたそうだ。

一方で嬉しそうではないのもいる。目に見えて。

 

それは、スリザリンのクィディッチチームだった。彼らには障害ができたようなものだからだ。そのほか、純血派閥と思しき人々も(彼らはテーブルの後方部に座っている傾向にある)。

また、ほかのスリザリン生たちも。たとえばマルフォイもそうだった。彼は選手になることをあこがれていたからなおさらだろう。それ以前にかなり憔悴しきっている気がする。ダフネもそうだった。

 

私は数少ないが喜ぶほうだった。同学年としてこれほどいいこともないだろう。箒を操って見事な技量で思い出し玉を手に入れたポッターは本当に英雄のように見えている。その周りにいるグリフィンドール生たちもうれしそうだった。ああいった友人がほしいものだ。はた目から見てとてもうらやましいと思った。私のほうにもダフネ、ウンベルト、レイン、マルフォイなどがいるが、彼らほど物事を謳歌できるほど自由な精神の持ち主ではない。私は彼らを羨望の目で見つめながら鞄を持って移動する。私もまた彼の見事さに嫉妬する一人だ。

グリフィンドールの歓声を背にして、彼らが喜びへとひた走る中、つまらない魔法史に向けて私は歩いていく。

 

魔法薬学の時間

アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウスは実に変わっている。あまり触れあおうとはしないグリフィンドール寮の生徒ネビル・ロングボトムと良くかかわっていることである。実際今、彼は手早く正確に薬を調合し、早めに終わらせて周りを視察しにやってくる。フォン・ピュックラーはネビルのそばで足を止めて、しきりにああだ、こうだと薬の調合法の手ほどきを行いうまく薬を調合させていた。

 

「そうそう、落ち着いて、ゆっくりと火をおとして、杖を……」

 

杖の扱いにはなれていないネビルをうまく教えて、呪文をうまく成功させて。薬を完成させる。フォン・ピュックラーは薬の完成を注意深く見守り、満足そうにうなずく。

 

「色もいいですね。ではフラスコに移して提出を」

ネビルの調合が終わると、ほかの苦闘している生徒たちの薬の状態を見にやってくる。そして、完成させた薬の入ったフラスコに名前を書いて提出させる。スネイプ教授はその薬を見分し、アドルフの加わった班ごとにスリザリンに点数を1点ずつ加算していく。露骨な身内贔屓だと陰でいうものもいたが、実際のところ先輩方は大概が減点を食らうか、罰則を受けていたことを考えるに、この代は比較的まともともいえるかもしれない。裏を返せばそれだけ理不尽だったとも言えなくはないが。

 

アドルフ・フォン・ピュックラーの視点

私は今、フラスコに入った薬品を眺めている。翡翠色をしている薬品だ。時折、透明さが姿を見せ、目を楽しませる。今日もひとまずうまくいったことについて感謝しつつ私はフラスコを提出する。

 

「うまくいったか?」

そう聞くのはパートナーだったノットの声。

「ええ、たぶん。あの色ならば」

 

目の前にあるフラスコには相変わらず緑色が踊っている。

 

薬の明るい緑色は私の好みの色だ。夏の日に当てられて透き通った緑色を思い起こさせる色であり、何よりもちょうど私たちのシンボルカラーだからだ。

Jade green〈翡翠色〉は最近おぼえた言葉だ。

 

ロングボトムがフラスコに入った薬品を提出するころ、授業が終了し、それぞれは帰るべき寮へと戻っていく。金曜日はこうして終わりを迎える。

また、明日からは土曜日が始まる。単調な日々が始まるのだ。眼鏡を拭いて寮の部屋へと戻ってき、すぐさまかばんを開いて書類を出す。

目の前にある書類は合計で12枚4組。

 

一つ目は校内での魔法薬学の実験の許可についての書類。これについてはすでにC1の内容を超えつつある魔法薬学の予習において必要なものだった。幸いにしてスネイプ教授はスリザリンならば容易に許可印をくれることであろう。

 

二つ目は前述の書類の補足であり、これもなくてはならない。実験室を借りるための書類である。

 

三つ目の書類はそれをさらに許可するための書類で、完全なる宣誓書であり、校則と注意点がつらつらと書かれている。そして、校内で使われる魔法の実践許可証でもある。二つ目と三つ目に関していえば、これらを寮監に提出しさえすれば今後7年間は、とんだ事故でも起こさない限り、更新する必要はないとされているので大丈夫だろう。

 

四つ目は、魔法を練習できる巨大教室の使用許可証。これが一番分厚くたぶんもっとも無駄な書類。

 

自習用の実験室を借りることは問題なくできそうだった。さらに言えば、実験に必要な薬品材料保管庫への出入りについては自由そのものだったので、これも問題ない。一方で魔法の実践に必要な部屋の確保はOWL試験で恐慌状態に陥った先輩方の先約のせいで、これから当分は不可能という事態になっていたので、まあ見送るとしよう。

 

必要事項を三枚の紙にそれぞれ丁寧に書き込んでいく。そして、校則には違反しない旨を宣誓して。サインをする。遅れてきたウンベルトもまたサインをする(彼もC1のイタリア組だった)。彼は先ほどまで、誰かと話していたらしくすぐに口を開きたがった。こうなると大体彼は止まらないので、私は彼にしゃべらせる。

 

「書類は準備できたかい?おやどうも。そうだ、面白い話がある。前任の闇の魔術に対する防衛学の教授についてだがね」

「なんと?」

ウンベルトは目を細める。

 

「前任の教授は社会的に極めてまずい奴だったらしい。人格が崩壊しているとか何とかですぐに暴力をふるったそうだ。本当ならばこの時点で首だろうな。ところが、奴は外面だけは立派で同僚たちに生徒相手に暴力をふるっているということはおくびにも出さなかった」

「どうやってばれたので?」

彼は人差し指を挙げる。ウェイターを呼び止めるときにやるようなしぐさで。

 

「簡単さ。誰かが告発したそうだ。生徒だそうなのだが……告発は単純な彼の所業に対する簡潔な羊皮紙と、不思議なことに写真と、性癖について詳しく書かれた紙、そのほかもろもろの動かぬ証拠たちを、日刊預言者新聞に売りつけた。報酬はわからないが、だいぶ頂いたようだ。いずれにしても、それでその教授はあっさりと首になった。理事会が懲戒に処したそうだ」

彼はここで言葉を区切り、備え付けの水を飲む。

 

「まあ、何はともあれだ、われらがクィレルもそうなるのではないのかと僕は思うね」

まだ、クィレル教授の一件を引きずっているのだろうか。まあ、いずれにしても私はこの場をすぐに切り上げる必要がある。

 

「そう期待するところに申し訳ないですが、こちらにサインを」

彼を黙らせるために、話を切り上げるために書類をおく。

 

「これ全部!これ全部にサインするのか!」

 

ウンベルトはあまりの書類の多さに閉口した。私だって書類を書きたいわけではない。というのもだが、賢いあなた方はすでに、こうした書類たちというのは実に無駄だと分かっておられるだろう。別にこんなことをしなくても、魔法はどこでも練習・実践できるのだ。魔法薬も然り。では、なぜ必要か。理由は実に簡単で留学生たちというのは、要するに模範的に行動せねばならないので、これを書く必要があるのだ。

 

「それで……ウンベルト。変身術用の書類にサインを。それと宣誓の印を」

そう言って書類に必要な部分に書き足すように催促する。

 

「わかった。アドルフ」

 

変身術についていえばフリットウィック教授の取り仕切る『実践クラブ』の行われる教室で行えば問題はない。クラブそのものは不定期だが大体毎週日曜日と土曜日に開催されている。そこに参加するような形ならば温厚な教授のことだ。認めてくれるだろう。

 

「そういえば、ようやく寮生たちをファーストネームで呼ぶことができるようになったな」

ウンベルト・ティッロはそう言いながら書類に必要なサインと書き加えを行う。彼が言っているのは今日、魔法薬学の時間の際にノットに対して、セオドールといったことだろう。

 

「やっぱり難しいものがあるのかい?ドイツ式の名前の呼び方と英語式の名前の読み方は?」

彼は細かい文字を見るときに使う(乱視なのだ)眼鏡をかけながらそういう。

 

「ええ。実に難しいです。たとえば、セオドールとかピーターの発音は間違えるのが怖いので最近まで姓のほうで呼んでいましたね」

私はそう言いながら書き込む欄を示す。特に私の場合は相手の名前を覚えるときサインをもらったり、表記したりしてから覚えるので発音する時、紙に書いた文字を発音するようにして、言ってしまう。そのため、ドイツ語と共通するピーター、セオドール、オーガスタス(原文Peter, Theodor, Augustus)はよく間違えた。日記(つまり、この手記)はずっとノットだ。Theodorなどドイツはおろかほかの国でもはいて捨てるほどいる。

 

「ありがとう。そうだねえ。セオドールはドイツ語でテオドール、ピーターはペーターだし。何よりも君がよく組むレイブンクローのアンソニーはアントニーだ…そうそう、ここはどうする?」

そう言って彼は実験許可のサイン欄を示す。

 

「ああ、寮監のサイン欄ですので大丈夫です。それよりも次のページを。そう、そこ空欄になっている場所」

 

書きながらウンベルトは続ける。

 

「しかし、不思議な話ではあるな。君。ダフネだけは最初から必ず間違えずにファーストネームで呼ぶだろう?あれはなぜだい」

「ああ、彼女の名前はよく神話の本に載っていた月桂樹のニンフ、ダフネーに由来するので読めるのです。あなたのお父さんがよく書かれている神話と記号に登場するでしょう?」

「そうだな」

ティッロはなるほどといった顔をした。ちなみにだが、ティッロ兄妹のほうは最初からファーストネームで呼ぶことにしている。両方とも姓が一緒だからだ。

 

 

「ダフネね。君がレウキッポスか」

「笑えませんよ。ウンベルト。それはイタリア人の君のほうではないですかな」

 

と言いつつ私は笑みを浮かべるのだが。レウキッポスになることはまんざらでもない。

 

「いや、槍で最後に刺し殺されるのは、君たちゲルマン人の本懐だろう。ラテン人の僕はそれを詩にする。アエネイスに並ぶ作品にして見せようじゃないか。何はともあれ、君がこうしてファーストネームで読めるようになったことは大いなる進歩だ」

「どうも。名作にしてください。それこそ、神曲のような。ちなみに日記のほうは、基本ファミリーネームです。ダフネとか一部例外は除きますが」

「僕の妹にかけていないかね?」

 

日誌でダフネと今つけることが多いのも実に簡単。彼女のファミリーネームはグリーングラス(Greengrass)だが、書いているとgreenとgrünが混同して、ドイツの友人のファミリーネームであるグリューネグラス(Grünegrass)と書くことが度々あるので混同を避けるためにダフネとつけている。ちなみにグリューネグラスは男性だ。ロベルト・グリューネグラス。私がグルントシューレのころに古典(ラテン語)を担当していた。

さて、話を戻そう。今、私たちは三枚目の書類に取り掛かっている。

 

「そうそう、ダフネで思い出したのだが、聖28族は基本的に神話の名前からとられているよね。そのせいか、なじみのある名前が多いな。特にめったにお目にかかれないが、ブラック家は実に面白い名前が多い。星座だそうだ」

そう言って彼はペンを進める。

 

「マルフォイ家もそうだな。もうすでに死んでしまったがアブラクサス・マルフォイの名前もいいと思う」

アブラクサスの死はヨーロッパにおいて名門貴族の当主の死として大々的に報道されたので覚えている。

 

「発音しやすいですねえ」

むろん前提にあるのは古典の素養だが。神曲と聞いてベアトリーチェとすぐに結びつける彼も、私もまた古典を愛している。

 

「そういえば、発音といえば一応悩みがあるね。ところで……この書類はこれでいいのかな?」

「ええ、大丈夫です。それは?」

 

四枚目の書類を彼に渡しながら聞く。

 

「英語を話しているときによく感じるのはHの発音だな。未だに教科書を読むときHから始まる単語は母音のほうを読むからな。“びょういん”(ホスピタル)……?僕はよく“ひょういん”(オスピタル)と発音するんだよねえ」

 

それ以外にもJはイタリア語にはないので彼は困っているというのはよく知っている。

「ああ、イタリア語はHを発音しませんからねえ。じゃあ、あとはここにサインして終わりです。土曜日の夕方あるいは昼頃には許可が下りるでしょう」

 

「よし、終わりだ。それじゃあ、スネイプ教授のところに出してくるよ」

わかったと言ってティッロは書類をしまう。そして、ドアの前でカバンをもって私を見る。

「……ああ、そうだ。君に聞きたいのだが、なぜドラコはマルフォイと呼んでいるのだね?」

 

彼は書類を持ったまま私にそう尋ねた。私は肩をすくめた。実に簡単な話だ。

「言葉の響きに古典的フランス語が入っているからですよ。言葉のリズムで人の名前を呼ぶことが好きなのです」

 

「古典ねえ……では、“不正”という意味と知ってのことかい?」

彼は笑みを浮かべている。そう言えば、彼の父コジモは記号論学者だった。彼もまた、古典フランス語の素養もあるのだろう。古典に囲まれて生活する……うらやましい限りだ。

 

「ええ」

「変わり者だね。君は」

彼は私の目を見て微笑んだ。

 

「それじゃあ、日曜日のころに実験をやるとしよう。C1組として頑張ろうじゃないか」

そう言って書類をもって彼はドアを開け、談話室の喧騒の中へと入っていく。

ドアが閉まり、再び私は一人、静かな空間に座っている。

私は再び魔法史に取り組む。一般的に魔法史の時間は睡眠時間と化しているのはもはや自明の理だが、私は少なくともずっと起きてメモを取っている。必要とされたメモは羊皮紙に書かれており、あとはそれらをまとめてノートに記すだけとなっていた。内容は条約・法律についてが主である。

 

条約としては、すでにこの日誌に示している『シュウィーツの魔法使いと神聖ローマ帝国の不可侵条約』を代表格としている帝国都市あるいは都市と〈帝国〉のかかわりによる条約その歴史的背景を学ぶ。条規もしくは『1637年における狼人間の行動綱領』などの諸国の合意内容があげられる。これらを学ぶために私たちは様々な世界を旅する羽目になる。ある時は戦争真っただ中のガリアにおける魔法分布とそれに付随するゲルマン人とラテン人たちの不可侵条約であり、ある時はヴィクトリア朝時代のイギリス魔法省とドイツ魔法省の染料輸出における条約、関税障壁といったように難解なものが多く、授業の進捗状況たるや早すぎて、つまらなすぎる。

 

おまけに、魔法で書きなぐられるチョークはこういった〈つまらない〉ときには極めて饒舌で、私たちはしばし時空を飛び越える羽目になる。

 

つまりはギリシアでは奴隷を使用することによって作られる魔法をハーポの『発明品』以後禁止する条約を各ポリスは結び、時代はローマへと入り、ハルポニウスがティベリウス帝(彼はそこまで長生きしたのだ!)と謁見し、ゲルマニクスとともにゲルマニアを駆け巡る。

 

狼人間とフン族の軍勢はオットー大帝を悩ませ、フリードリヒ・バルバロッサが司祭ヨハネの国(プレスター・ジョン)を探すための皇帝勅書を神聖ローマ帝国魔法尚書におくり。スロベニア出身の私の一族の祖先、ウィッテギリウス・アドソ・フォン・ダ・ピュレクス(長い)がはるばるアフリカまで行き、ペルシアの魔法使いたちはビザンツ帝国と交易する書簡をやり取りし、関税に関する条約を結ぶ。

条約の内容の難しさたるや、もはや法学である。

 

さらにことを難しくさせているのは、時系列が入り乱れていることにある。どれくらい入り乱れているかといえば、そのわずか二か月後を見ればいいだろう。

 

二か月後、私たちの授業は突如として、中世を飛び越え、時代は二十世紀(!)に入り、いきなりドイツ帝国は崩壊。雪辱を晴らすべくドイツ魔法界とヒトラーはタブーを犯して、タッグを組み、ヨーロッパ魔法界を仰天させる。スターリンは殺戮しまくって、恐れをなしたロシアの魔法使いが亡命。それを受け入れるかどうかの魔法会議が臨時で開催されるところで終わり、時代は再び、中世ヨーロッパになるといったようになかなかのものである。

 

そんなわけで、紀元前から近代を私たちは走り回った。歴史好きのレインすらあまりの突飛さゆえに、その難解さと内容把握に頭を抱える羽目になっていた。留学生で言葉のハンデがある者たちにはなおさらだった。

 

さらには月例テストも漏れなくついてくるのだ。母語者すら悲鳴を上げる授業だ。私たち留学生にとってもはやビンズ教授は不倶戴天の敵と言えた。

 

 

=================

 

テスト用紙の上ではギリシアでファルドクレス学派のハーポ(腐ったハーポ)が弁証法による物質の第四体(錬金術の基礎)の可能性を示唆。その過程で『発明品』を作って、そのえげつなさに怒り狂って奴隷が反乱、慌てた重装歩兵と魔法使いたちが奴隷と衝突。ティベリウスはハルポニウスにゲルマンの魔法を調査するように命じて、ゲルマニクスとともに出陣。

時代は突如として中世に入り、ロジャー・ベーコンが錬金術について興味を向けたかと思えば、イタリアのジェノワにいる三人の魔法使いたちは自動速記羽ペンの基礎となるものを開発。スフォルツァ家と手を組んで大儲け。

 

これが今月に行われたテスト用紙一枚の内容である。ご覧の通りの時系列を無視したカオスな答案を月一で書く羽目になる。

 

条約や綱領、条規、法律の難しさは私たちに悲鳴を上げさせた。昨日の自習の際にはクラウンが問題の解けなさにおかしくなり、インクを暖炉に投げ込むことになった。

いわく

“1637年の事態なんて知ったことか!今じゃ無効だよ!”とのことである。私たちは同感しつつ、ひとまずクラウンをなだめた。

もっとも1637年の出来事や諸外国との条約の詳細などはその難しさのゆえに、一年生には出されず、代わりに二年生の復習試験に出されるとのことである。そして、我々は結局のところ、逃れられないという結論に至る。

つまりは、こういった難しいことはこのセメスター中に理解したほうがいいとのことだ。

 

魔法史で平均的に三回目の授業で、抜き打ちテストが出される。との情報がスリザリン内部には飛び交っていた。事実先週日曜日に開催された勉強会では『1613年』をはじめとした難解なものは、一年生においては重要な案件ではないと歴史の得意なジェマ・ファーレイが教えながら私たちにそう言った。

つまり、一年生たちはこの風変わりな歴史的政治学と外交について書くのは大まかな内容であっても良かったのだ(もっとも、それは学期末だけの話であって、今のところはある程度おぼえておいたほうがいいに越したことはない)。それは時折、板書される(この時のチョークは基本的に元気のない書き方だった)発明についても同じことだった。自動速記羽ペンや自動でかき混ぜる大鍋の発明といった日常生活になじみのあるものが基本的に、出題傾向が高いと上級生たちは口をそろえて証言していた。

 

ところが、それは繰り返すようだが期末テストのみの話だった。授業のテストに関していえばこの限りではないのだった。この前の授業の際に出された問題は明らかに、ある条約の締結理由とその効果、結果、内容を幅広く論述するものであり、まさに学生にとっては地獄と言えた。レインの言葉を借りるならば、テストと授業は教授のイカレ具合を示唆するといっても過言ではないのだった。

 

「先生は歴史には何ら魅力を見出していないじゃない!何が歴史よ!あんな教授!ヒストリア(歴史)に載る価値もないわ、ヒステラ(子宮)に戻るなり、ヒステリアでも起こすなりして……」

「ああ、レイン……それ以上はよしたほうがいいかと(教授が見ています)。まあ、君が言うようにヒステラに戻ることについては土台賛成ですが」

 

そもそも物語(ヒストリエ)をつまらない教授が語るだけテキストも無駄というものである。物語がいくら面白くとも、それを語るものが失格なのであればその瞬間、美しく彩られた世界はたちまちのうちにして無味乾燥な文字の世界(それこそ、名のみが残った世界)に埋没してしまうのだ。

 

そう言ったわけでひとまずこの無味乾燥な時間に戻ることにしよう。私は目の前のメモを見て頭を抱えつつ、まとめる。中世ヨーロッパでは中高ドイツ語の詩人ナイトハルト・フォン・ロイエンタールがイタリアの魔法使いコルネリウス・バッティスタと一緒に旅をしたことなどなどである。

 

「しかし、誰か、ビンズを追っ払ってくれないのか……」

 

目の前のメモにうんざりして私はそう呟く。結論から言えば、それは成功する。しかし、残念なことにそれまではだいぶ時を要することになった。

私はその日の夜をすべて、この教科に費やする羽目になる。

 

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