ハリー・ポッターとスリザリンの代理人 作:Farben.AG
:スライドにご注目を。この奇妙なる文章は、かつては英語と呼ばれたものでありました。
スライド HWÆT We Gar-Dena in gear-dagun þeod-cyninga þrym gefrunon,
hu þa æþelingas ellen fremedon. 【BEOWULF 1-3】
そして、何よりも重要なことが一つあります。それは正書体というものであります。歴史上ではやや古いですがドイツでは接続詞dass =daß, vergesslich =vergeßlich と書き記していた時代がありました。ましてや過去など、簡単な例では皆様もご存知の通り、j i の起源は同じであり、ヨハネスと書き記す場合、Ioannes Johanes と古文書では表記ゆれを引き起こしておりますし、信じがたいかもしれませんが、合字œ æ などをはじめとした英語がパネルにおけるベーオウルフでは用いられています。あまりにも形が違いすぎるゆえに古典英語などはネイティブにすら読めません。ドイツ語もスペイン語も当時の古典の解読は困難です。「彼」も然りと言えることでしょう。我々は言葉の海を、はるかなる海を渡る者です。ひとまず、『今のところ』は、このドイツ語で書かれている文章を旅しようではありませんか。
〈拍手〉
いくつかのパズルに関する記事を私は見てみる。そう言った掲載されるパズルは論理的で隙のない構造をしていた。簡単なものであっても何らかの「文法」のように無意識ながらも絶対的なルールに支配されていた。
ああ、これはどうだろう。
腕を組み、図書館に行きいくつか本を借りる。本は何でもよかった。ひとまず、何か、参考となるものが私には必要だった。およそ数回にわたって図書館を行き来する。借りた本はマルクス・アウレリウス・アントニヌスの『自省録』、アル・ヌーランの『神秘の炎』、日刊預言者新聞の1945年の記事もしくはベンノ・フォン・アルチンボルンディの『森と人』。魔法界のものではハインリヒ・コルネリウス・アグリッパの『不可視の世界』、イブン・ウレーナ『ゴブリンの錬成技術~不可能の領域』やマイスター・エックハルト『主と魔法』などだった。さすがはホグワーツ。世界的にも貴重な本も多くある(特にマイスター・エックハルトは破門され、その資料の大半は散逸してしまった)。
次に借りた本を開いてみると難解な書体の海が広がっていた。
イギリスの本は主として(特に大戦前の本は)エドワードガーディアン体あるいはフラクトゥールと先ほどの書体がくっついたようなイングリッシュゴシック体で印刷、もしくは製造されていることが多く、正直言ってロマン体になれているこちらとしては読みにくい。しかし、まあ、これも文化の違いというものだろう。そのほかとしては書籍によってはいまだにhathやthouを使っているものがあることだろうか。さて、ひとまず参考になりそうな本を集めて読み終えると、早速、持ち前のややこしい頭でパズルを作ってみる。言葉遊びを交えつつ。婉曲的な言い回し、メタファーに満ちた文章、それまでに読んだ本の知識の総動員。
“私は諸君らがこの素晴らしさを全員が理解できるものではないと思っている”
という教授の言葉を思い出しつつ。そう、まさにすべてはあの言葉の通りなのだ。誰もが理解できるものではなく、限られた、ひそかな楽しみを共有する友人が私には必要だったし、教えあうにもそうしたことで連帯を保ち仲間意識を築き上げるのだ。ちょっとした秘密結社を作った気分でいる子供たちを連想したまえ、私が求めるのはまさにあのような友人たち、仲間たちだった。そういった者たちとこの勉強という世界を通じて、様々な発見を目にすることができるようになった瞬間。その時こそ、
論理的にパズルを作成する。変身術の宿題をかたづけながら、妖精の魔法の宿題をかたづけながら、ゆっくりと、着実に作っていく。組み分けの歌を思い出しつつも。
“いかなるつてによりても、汝はあらまほしき友を得よう”
そんなこんなで3日間かけて結果的に完成したパズルであるが、残念なことにどうやってこのパズルを広めて部員を募集するべきかがわからなかった。困ったときは、年上に相談だ。
早速談話室で話に乗ってくれそうな人物を探す。まず、ワリントンなる人物に会ったが、そもそも私の話を理解しているのかすら、怪しいのでやめた(後年、スリザリンチームに「能」を求めるなとフレデリックが話していたが、まあその通りだったわけだ)。
狭き門より入れ(表題)
前半
脈絡のない英語の文章が12の文章(番号はついている)にわたって展開する。
無論、古典的な英文なので読めない(私も読めない)。
※なお、後述のルールに従うため、不規則で文章自体に意味を見出すことは無意味なのでおすすめはしない。
凡例 スリザリン寮
一番目 神についてウィリアムのオッカムがまとめた文章
二番目 光についての神話論
三番目 日刊預言者新聞の記事(ドイツとの経済戦争がテーマだったと記憶している)
四番目~十二番目にわたって吟遊詩人ビートルについての文章(一切古典英語 なお使用した文章は初期近代英語に準拠)
後半部 ヒント(これはどの寮も共通)
でもこれだけでは、道はわからない。光が必要だ。だから解くべきことを教えよう。あなたがまず何をするのかを。
最初にロゴスを教えよう。
In the beginning was the Word, and the Word was with God, and the Word was God.
〈はじめに言葉があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった〉
二つ目に
言葉なくしては何もつくられない。あなたが見つけたいのであれば、言葉を作ろう。
三つ目に
物事は始まりに注目すればいい。はじめは大きい。
従うものは小さくとも、大きいものもいる。
従うのならば、大きいものを選んで。
四つ目に
順番は大切に。常に順番を意識して。最初に見つけたものは形ができるまで手放してはいけない。初めの文には1つが次の文には2つがある。あとはあなた次第。
注意していただきたいのはこの文章のカギとなるのは最初の助言である。一般に、昔の聖書においては「言葉」は大文字から始まった。
これを念頭に入れたうえで三つ目を見てみれば、「はじめは大きい」「大きいものを見つけなさい」と続く。
ここで大文字を四番目の指示に従って、順番通りに並べていく。各文章、一単語ずつは構成できるほどの大文字があるので、この通りにして英単語を組み立てる。順番はこの状況下でも重要になってくる。大文字を最初の文や登場人物通りにこの12の文章から抜き出して、二番目のヒントのとおり、言葉を作ってみる。そしてできた英単語を並べると
談話室にて夜九時から 隅のほうに
なお、ウムラウトや古典お得意の合字(a e などに分解)、þ“ソーン“(Pで統一)などは使わないものとした(これを印刷するための機具がないのも大きいが)。それと、vとuはあまりにもあいまいなのは言うまでもないだろう。たとえば、我が家のモットー、Gott war das Wort. Vnd jn jm war das Leben (Und in ihm war das Leben. ) 〈言葉は神にして、言葉の中に命あり〉 とあるが、これは「新しい」ドイツ語による聖書の一節で(それにしても変わっているが)先ほど書いたとおり、vと u、 jと iはあまりにも曖昧な使われ方をしていた。使った文献も同じ。そのため、いくつかの文はパズルを作るうえでいくつかを入れ替えた。つまりは正書体(ð=d)に直したのである。疑問に思うのなら、チョーサーを、ベーオウルフを読むがいい。もしくは『吟遊詩人』の宮廷版を。いたるところに、古き英語は残っている。さらには名詞に性がある。その見事な格変化を見て、あなた方は古英語と今の英語がほとんど異なる存在であると銘記なさることであろう。さらには、私の母語のドイツ語だってそうだ。ナイトハルト・フォン・ロイエンタールをもしくはゴットフリート・フォン・シュトラースブルクの文献をあたるがよい。おそらくは世界観ががらりと変わるはずだ。
まあ、どうでもいい話だ。とりあえずのところは、イギリス魔法界の文献で使えるものが、基本的に古典が多かった。という奇妙な事実を押さえてくださるのであればそれで構わない。
もう一つ、興味深い例を載せるとしよう。一般的に文中における大文字のHeやErは神を指し示すが、当時のイギリス魔法界ではこの当時大文字で表記されるのは「死」についてが、神に変わって表記されていた。奇妙な関係代名詞。
The Death eech(each)....... Then He hath ye......といったように。
よって文章は必然と暗くなった(それこそ、ヨハネがいみじくも世の終わりをうたったように)。校正に関してはだいぶ時間を要した。一週間後、四つの寮のポスターが出そろった。
マグヌセンはいくつかのチェックをしたのちに満足げにうなずく。
「これぐらいだろうな。よし、では掲示のための印刷にかかるとしよう」
「しかし、印刷用の器具はどうするのです?」
うぶな質問というものだ。考え見よ。あまりにも多くの道具を持ち、そして、それを使いこなしている者たちがいるではないか。
もしこの世界に悪がなかったら、それはもはやこの世界ではない。とは有名なある学者の言葉だが、このウィットにとんだ双子はなかなか魅力的な悪だった。ああ、そうそう。世に言われるフィルチ管理人への徹底的なテロ攻撃以外でも有名だった。例えば糞爆弾を各教室に設置して爆破すること、もしくはマクゴナガル教授のオフィスをふくろうで襲撃すること、スネイプ教授の魔法薬学の時間に薬品を秘密裏に爆破させること。挙げればきりはなかろう。
おかげで彼と付き合うものはよくマークの対象になるそうだが、監視を今のところずっとすり抜けている。そして、このことも重要なのだが、二人はなぜか私のことを気に入っているのだった(このことに気づくのはそれからずっと後なのだが)。
むろん、この時、つまり今、私がカバンを持ってグリフィンドール寮の前にマグヌセンとともに立っているときは知る由もない。入るには合言葉が必要だった。それがわからず私たちはずっと立っている。
「ああ、合言葉は…君、何だったかな?
「私は知りませんよ」
「ああ……いや、君の後ろだ」
そう言って彼は後ろを指す。私は振り返る。見覚えのないグリフィンドール生がたっていた。上級生であることはあの様子から見るに間違いなく、人種は黒人、性別は女性。見た印象からして利発で勤勉、さらにはクィディッチをしているのだろう。両手にやや膨れた箒を持つときにつくタコがある。ついでに言えば、ローブから少しだけ見える脚には筋肉がついているのが分かった。髪をしっかりと束ねて背は高い。
「カール。ここまで何をしに来たの?」
そういってやや試すような口調でマグヌセンに言った。マグヌセンのほうは笑みを浮かべて彼女を見た。
「アンジェリーナ。ぜひ、開けてくれ。『お二方』に用がある」
それを聞くとアンジェリーナという少女は面白そうな顔をした。多分、二人はこう言った会話から見て親しい間柄なのだろう。
「ああ、フレッドとジョージのことね。ちょっと待っていて」
アンジェリーナは『豚の鼻』という合言葉を言ってグリフィンドールの塔に続く扉を開けた。それと同時に光が、それも天然の太陽の光が私たちを包み込んだ。スリザリンの人工的な静かな光とは違って、そこには確かに、「聖」もしくは「生」を併せ持った光が存在していた。いかにも健康的ではないか。そういったわけで私たちはこの塔の扉を開けてゆっくりと入っていく。
アンジェリーナは男子寮のほうへと歩いて行った。どたどたという騒がしい足音がしてそっくりな顔をした二人の少年が出てくる(一方のアンジェリーナは女子寮のほうへと行ってしまった。いつか話してみたいものだ)。
「久しぶりだ。君たちに合わせたい少年がいる。フレッド。ジョージ」
見たことのある顔だった。それはロナルド・ウィーズリーについてタイピングされたファイルを見たときに登場した顔で。ウィーズリー家の双子だった。写真で見た時からそっくりだとは思ってはいたが、現物はここまでそっくりとは。これこそ、不思議ととらえるべきこと。
「初めましてだな。スリザリンでここに入ったのは君が二人目だ」
左側の少年がそういった。二人とも赤毛だった。フレッドとジョージのうちどちらだろうか。
「紹介しよう。アドルフ、アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウス。ドイツ出身の勤勉な生徒だ。まあ、あまり警戒するな」
そう言って彼は微笑んだ。
「彼は私によく似ている」
そう言って私の目をじっと見た。私が話す番だ。どことなく緊張を覚えながら二人を見る。燃える……までとはいかないがなかなか目立つ赤毛だった。よくよく観察するのであれば、思慮深く見える右側と今にも話さんとする左側に分かれている。
よし、まずは右側から話すとしよう。
「あー、初めまして。アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウスと申します。スリザリン寮の一年生です。あなた方は?」
左側のほうが笑みを浮かべて私を見た。
「はじめまして。僕の名前はジョージ、ジョージ・ウィーズリーだ。面白そうなことは歓迎だ」
続いて右側のほうが握手を求める。
「左に同じく、ウィーズリー家のフレッドだよ。昨日フィルチがかんかんになっていたと思うけど…」
あ、三階の教室が吹き飛んだ事件か。あの瞬間は覚えている
「……それをやったのは……」
「ほかならぬ僕たちだ。よろしくアドルフ!マグヌセンさんの紹介ならば安心だ。いたずらとあらば任せてくれ給えよ」
「えー、こちらこそよろしくお願いします」
さて、とマグヌセンが口を開いた。午後二時、窓から光が入り込み彼はまるで説教台に立つ牧師のようだった。
「さて、お二方よ。今日、君たちにアドルフを会わせたのはほかでもない。あることをしてもらおうと思ってね」
そう言って私の描いたポスターの原型を見せる。
「これを内密にコピーしてほしい。お代は私が払う」
「魔法よりも印刷機のほうが向いていますね……。フィルチのいる場所に印刷機があったような」
「では襲撃してくれ」
「簡単に言いますね。しかし……」
そう、思案気な顔でポスターを見てジョージ(おそらく)が言う。
「まずはやってみますよ!面白そうだ。一年生なのに、面白いやつを連れてきましたね」
「代金はどれくらいかね?」
「銅貨三枚で」
先払いか?後払いか?
「今日中にやります。大体20枚刷ることにしましょう」
「では、明日の朝、中庭で」
そう言って彼は双子に笑みを浮かべて握手をした。光が差し込む中だったので見事なコントラストをなしており、白くややくたびれたシャツに赤を基調としたネクタイを着けた双子と真っ黒なビロードのローブをつけたマグヌセンの姿は対照的で光の加減でレンブラントの絵画のようになっていた。あまり掃除していない場所から降りる埃も相まってやや幻想的な光景ではある。
「今後ともごひいきに」
「もちろん。行くぞ。アドルフ」
鞄を持ってグリフィンドールの談話室を出ていく。入れ替わりにパールヴァティ・パチルがブラウン(だっただろうか)とともにおしゃべりをしながら入ってきた。二人は一瞬驚いた顔をしたが、私が会釈すると、二人ともお辞儀を返した。ネクタイとローブの色が違うだけではないか。それを二人は心得たと見える。ちなみにパールヴァティはその時、じゃ香に近い柔らかく甘いにおいをまとっていた。香水ではなく、自然なほうの香りだった。
「あのいたずら好きの二人は本当に大丈夫なのですか?」
歩きながらそんなことを聞く。
「心配するな。彼らの腕は確かなものだ。ボルテスとヒューナーのようなバカではない」
あそこまで行ったら相当なものだが、ひとまず、先輩の言だ。したがって損はあるまい。
翌日の午前十時
コーヒーを入れていると、マグヌセンが笑みを浮かべて大量の紙束を持ってきた。彼は渡されたカップに満足げに口をつけると、サンプル品を見せた。
「できたぞ」
出来は実にいいもので文言を変えて参加したくなるようなデザインのものや、ぶどうの蔓、ヤドリギを正確に描いて引き込まれるようなものもあった。
そして、それからわずか十分後、大広間に怒り心頭となったフィルチ管理人が掲示板に、
“印刷所が勝手に使われる。さらに三階の教室に耐えがたいにおいが蔓延し到底使えない!”
と書かれたものを掲示した。
そういったことの後、スリザリン寮に夜の二時、掲示板にポスターを張る。それと同時刻(だと聞いている)、フレッドとジョージはグリフィンドール寮の掲示板に大勢が寝てしまった後ポスターを張った。男子寮のほうに対しての文言は「勇気のあるものはこれを見るべし」とあからさまにあおって掲示をなしたらしい(その後の反応を鑑みるに)。
「しかし、ほかの二つは?」
「今にわかるさ。明日の放課後、ハッフルパフまで行くことだ」
マグヌセンは眼鏡をふきながら答えた。
月曜日、ハッフルパフ寮の前でカバンを抱えて待っていると(当然奇異の目で見られた)、マグヌセン…ではなく、とび色の目に黒い肌の上級生がやってきた。おそらくはマグヌセンの紹介なのだろう。
「ああ、君がアドルフかい?そうか。初めまして。僕はザカリウス・シュミット」
そう目の前の人物はやわらかい声で自己紹介した。こちらも自分の名前を名乗りハッフルパフ用のポスターを見せる。彼は興味深そうにポスターを見ていた。アナグマをあしらったポスターとその下に並ぶ文章(ハッフルパフ寮のものはヘルガ・ハッフルパフの愛したもの、関係のある文章になっていた)から
「カールからは聞いていたが、面白そうだ。“マルクス・アウレリウスにいわく、物事の根幹を探れ。君たちにはその能力がある”か。確かに僕らの特徴は勤勉性だな」
「そして、素晴らしいまでに正直であるとも伺っております。むろん、尊敬の意を示してです」
「わかっているとも、だからこそ、あの勤勉な皇帝マルクス・アウレリウスを使った。そうかな」
「ええ、もちろんです」
天にいますわれらが父よ。私はうそをつきました。単純にその言葉の響きが良いと思って使ったまでのことです。一方そんなこととはつゆも知らないザカリウスは機嫌がよろしい(いや、たぶん知っていても機嫌はよかったのだろう。そんな気がする)。
「いいことだ」
「光栄です。ザカリウス」
「ザック。僕の愛称で呼んでくれ」
「あ、では光栄です。ザック」
ひとまず、波風を立てずにそう答える。ほかに何が言えようぞ。
「とりあえず、もしメンバーができれば図書館で会いたいと思います。十月下旬から募集を始めたいです。十一月の上旬にはポスターはそちらのほうで撤去してください。申し訳ないですが」
「なぜ、期限が必要なのかな?」
「これ以上の時間を与えると、わかる人が増えてきますので」
「選ばれたものが必要か。よし、わかった。引き受けよう」
そういって気前よく返事
をした、ザカリウス・シュミットはゆっくりと寮に入っていく。独特のハッフルパフリズム(そうだと後から聞いた)をたたいて。
クラブで陽気な客が、ステップを踏むようにして。
そうそう、もう一つこの場に書くことを忘れていたので追記する必要がある。ザカリウス…ヨハネの誕生を聞いた祝福されし、イスラエルの祭祀。そのありがたい名前を先ほどまで話していた上級生は持っていた。それこそザカリアのように真摯に聞いてくれた。
ところが(賢いあなた方はご存知の通りだが)、もう一人、その祝福された名前を持ちものの見事にこのハッフルパフらしくない狡猾な(しかし、この視点もまたステレオタイプなのだろうが)少年に出くわすことになる。そう遠くない話だ。
レイブンクローはフリットウィック教授が協力してくれた。何かと生徒に優しい人物だ。もちろんと引き受けてくれた。そして、彼は忘れることなくこう付け加えた。
「マグヌセン君からは聞いています。面白いことを考えますね。ミスター・ピュックラー=ブルクハウス」
ここにきてもマグヌセン。ポスターを撤去する人図書館に集まるようになっていると教授には伝える。それにしても、マグヌセン、彼の影響力はどれほどなのだ。名前の通り偉大なるもの(マグヌス)ではないか。まさかだとは思うがあのタイプライターを使って脅迫とか個人情報を暴くなりして相手を操縦しているのではないだろうか。もしくはそれぞれの持つ弱みを利用して付け入る…。いやしかしだ、ここは人の善意を信ずるべきだ。われらがアウグストゥスに祝福あれ。
さて、肝心の問題はこうしたことがうまくいくかという話だ。万が一にも誰も解かないことになれば私の計画は(計画?)崩壊することになる。まあ、順境には楽しみ、逆境には考えればいいだけの話なのかもしれない。もし、失敗したとしても古英語の世界やパズルの独特の世界をあるき、いろいろと経験できたからよいではないか。
こうしたことで10月は瞬く間に過ぎていった。パズルはゆっくりとだが、解読されているようだった。というのもだが、掲示が始まってから大広間や自習室にこのコピーを持った者たちが解く作業に取り掛かっていたからだ。
私がロングボトムと勉強をする間、話し合うグリフィンドール生などがポスターの小さいコピーをしきりに眺めたり、レイブンクロー生が似たようなポスターを眺めて、頭を抱えたりするのを見るに、だいぶ多くの人々が取り組んでいるようだった。
それが、ポスターが掲示されてからつい一日経った頃だった。良い兆候だ。
そして、時間はポスターの総動員からちょうど一週間後の金曜日の放課後。
「変わったパズルが掲示されたなアドルフ」
ウンベルトはそう言って、再び魔法薬学の教科書に目を落とした。
今、私たちは自習教室で魔法薬学の予習をしている。周りが羽ペンを動かす中、私たちのいる場所には大勢の薬品を抱えた生徒たちが薬の調整をしている。一年生は私たちだけで、残りはOWLを控えた四年生たち、五年生たちだった。やや浮いてはいるが、予約できたのは幸いなことだ。本来ならば、私たちが立っている場所にはグリフィンドールのだれかが予約をしていたのだが、スネイプ教授の世に言われるスリザリンびいき(単に私たちがうまく動いているだけに過ぎないと思うのだが)のおかげで自習教室を使って魔法薬学を予習することが可能になったのだ。
こうした点で、スリザリンに入れたことをひとまず喜ぼうではないか。
「そのようで」
さて、パズルを設置した当人としては、もともとうそをつきにくい体質なので“変わったパズルが設置された”という話題を変える必要が出てくる。
「カサゴの粉末は規定通りですか?」
ひとまず目についたカサゴの粉末について言ってみる。実際、量はやや多めに見えた。
「ああ、念のため測ってくれ」
秤にかけている間(見立て通り1グラムほど余計だった)、私は必要なメモを書き足し、もう一つの材料をすりつぶすように伝える。
「しかし、教室を借りるのも時間がかかりましたね」
いくらひいきとはいえ、かれこれ一週間以上はかかっている。
「いくら試験対策とはいえども、ずいぶんかかったな」
それだけフクロウは大切なのだろうとウンベルトはつぶやいた。私も同意する。
「留学生だから融通がきいたのかと……鍋に入れます」
「……そうだね」
鍋に入れている間やや時間が空くので交代で見る。
「そういえば、ベアトリーチェは?」
「ああ、あいつはクランと一緒に図書館で調べものだ。それよりも…」
ウンベルトは私の隣を指さした。
「どうもアドルフ」
シルヴィア・レインがダフネとともに魔法史を片付けていた。『ヨーロッパにおける屋敷しもべの服装』とのことだった。レインは面白そうに資料を読んでいる(ダフネは反対に顔をしかめている)。そして、私たちが火を落とすころ、口を開いた。
「今ね、ドイツの屋敷しもべとイタリアの屋敷しもべについて調べているけど面白いね。オランダとドイツ、イタリアは燕尾服をつけるんだね」
ああ、よく質問に挙がることだ。
「見栄の問題です」
私は肩をすくめた。そう、ドイツ、オランダ、ロシア(今や魔法使いはいない)とイタリアは屋敷しもべに必ず服を着させる。それは決まって燕尾服であることが多い。近代にいたるまでの一時的な機関の間には多くの屋敷しもべが燕尾服、あるいはそれに準じるものを身に着けていた。
目の前でレインはページをめくりながら、言葉を継ぐ。
「もともとはスフォルツァ家が着させたそうだね」
そう言って彼女は図鑑に載っている当時の正装を見せる。ヴェネツィア共和国では当時屋敷しもべにいかに豪華な服を着せ、仕えさせるかでその家のステータスが明らかになったため、イタリアでは屋敷しもべと言ったら必ず服を着させた。
「やがて、二流国家のオランダに、そして三流にすらならないドイツ、ロシアにも広まった。大国に追いつこうと必死にヴェネツィアをまねたこの三国に制服文化が生まれたのは面白いね。本当に、ビンズは何でこういったことを取り上げないのか……」
私は興味深く聞いていたが、すぐにそれはさえぎられる。
「アドルフ!助けて!」
振り向くと、薬をこぼしそうになっているウンベルトがいた。先ほどまで笑みを浮かべていた私の顔はすぐに凍り付き鍋を落とさないように助ける羽目になった。
「薬品はこぼれましたか?」
「いや、今は大丈夫だ。じゃあ、戻すぞ、一、二、三」
鍋は定位置についた。
「なぜこんなことに?」
「鍋がずれていた」
大事に至らなかったのが何よりも幸いなことだ。この薬が人の手に触れた場合、強い腐食性によって手がただれるからだ。ウンベルトは杖を振って蓋を閉める。
「あとは5分待つ…だよな?」
ええ、とうなずく。
「完成すれば…この図鑑に載っているように青い薬品になるはずです。ひとまず、フラスコに入れてスネイプ教授に提出しましょう」
さて、あとは待つだけだ。誰かにいわく、“待つものにこそ、幸いあれ”とのことだ。時間が、私には時間が必要だ。
少なくともすべてがそうだ。
09.07.1991
09.10.1991.
10.11.1991.
02.06.1998
天と地には平和あれ。
もしよろしければ、感想と、パズルについてのご指摘をいくつか。三日後8時、ちょうどに再び作品を投稿いたします。