ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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フリーヒェンバッハ:さて、これより「補完」された記録の発表となります。この手稿は当初散逸しており様々な大学、学校等が協力してまとめられたものであったといえます。
9月1日の新解釈に基づく完全な記録です。
では、どうぞ


2. ホグワーツ急行 上り

そして迎えた9月1日

 予定ではモーテルから大勢の新入生たちと共に私は列車に乗るはずであったが、困ったことが起きた。駅までは新入生たちと(あまり話さずに)向かっていったのだが、私がカートから落ちた荷物を拾い上げている際に、先ほどまで目の前にいたグループが突如として消えたのだ。私は荷物をしまい終えると呆然として、汽車が発車してしまうという焦燥感にとらわれながら、困ってあたりを見回した。カートを回しながら番線を行ったり来たりする。どこかに、どこかに入口があるはずだ。だめだ、見つからない!一体どこなのだ?

 

 冗談じゃない。ついてそうそう、大使館の世話になるなんて !焦るばかり、過ぎていくだけの時間。されども9と4分の3番線は見つからない。大方どこかに隠されているのは間違いないのだが。それはどこなのか……。入学前早々から迷子という不名誉は避けたい。半ばパニックを起こしかけていると、そこに救世主ともいえる人々が現れた。私の目の前を一人の少女と魔法使いらしき人々が過ぎ去っていったのだ。あのローブとカートに積載された尋常ならぬ荷物から見るに間違いはあるまい。魔法使いだ。おもわず声をかけた。

 

 「失礼。ホグワーツに行かれる方とお見受けいたします。実は外国から来たのですが、どうも勝手がわからぬゆえ教えてください。番線はどちらにあるかご存知ですか?」

 

 すると、老紳士は娘と思しき少女と顔を見合わせて笑、何か早口で言って笑い私についてくるようにといった。着いたのはさっき私が経っていた場所であった。目の前に壁が見える。私はややあきれた。灯台下暗しとはこのことではないか。

確かに冷静に、考えるのであれば、目の前でいきなり消えるはずもない。目の前へ突撃したから、いないのだ。

 

「あの壁に向かって走り抜けていくと列車が待っています。遠いところからようこそ」

 

そういいながら老紳士の夫人は私に微笑みかけた。私は礼を言い、列車へと乗り込もうとした。すると、先ほどまでこの夫婦に連れ添っていた少女もついてきた。彼女もはじめてくるものなのだろう。やや緊張し、顔はこわばっていた。一緒にぶつかることを覚悟で壁に突撃をかけるとあっさりと壁を抜けた。その先には機関車が停車し、大勢の学生たちであふれていた。これがホグワーツの人々か……私はあっけにとられていると、隣にいた少女が荷物を重そうに運び出していた。反射的に手伝う。少女は礼を言い私に挨拶した。

 

「遠いところから来てくださった上に、いろいろと持ってくれてありがとうございます。私の名前はダフネ・グリーングラスと申します。よろしければお友達になりませんか?」

 

「いえいえ、いろいろと教えてくださいましたから当然のことをしたまでです。申し遅れました。わたくし、アドルフ・フォン・ピュックラーと申します。ドイツのハルツから来ました。フラウ・グリーングラース。あなたがよろしいのであればぜひ」

 

対する彼女のほうはやや驚いた後、笑みを浮かべて答えた。

 

「フォン・ピュックラー家の方ですか。お目にかかれて光栄です。どうぞよろしく」

 

すぐにうれしそうな笑みを浮かべて私のことを見た。感じのよさそうな明るい子。それが私の第一印象だった。

 

「そう格式張らずに。私のことはどうぞアドルフとお呼びください。仲良くしましょう」

 

目の前の少女は嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「ぜひ。ダフネと呼んでください」

 

後ろ手は彼女の両親がほほ笑んでいる。思わず礼をする。まもなく駅からは別れを告げる声や再会を願う声が響く。

 

「それでは、一緒に乗りますか」

 

「ええ」

 

私たちは荷物を抱えて同じコンパートメントへと入っていった。ほどなくしてガマガエルを連れた少年と、気の強そうな少女が入ってきた。外では帽子を振るもの、手を振る者たちが大勢いる。まもなく出発。列車は汽笛を鳴らす。

 

期待に満ちた親たち、応援する声がプラットホームにあふれかえる。それにこたえる子どもたち。興奮が私たちを、期待が私たちをとらえて離さなかった。誰もがこの時を歓迎していた。幼いころの期待への期待が私たちを支配していた。なんと平和で素晴らしいことか。ふと、外を見やるとダフネの両親たちも期待のまなざしで私たちを見ていた。あなた方に平穏あらんことを!

 

しばしの別れを。

 

けれども思うときがある。これほどまでに仲が良くとも、あの儀式を経ると人は二つの種類に分かれてしまうのだということに。

 

あの時私はそれに気が付くことはできなかった。

列車はなだらかな田園地帯を抜けていた。両親たちや親族たちからのお祝いの言葉や見送りの言葉を受けた嬉しさが余韻を残す中、汽車内には大勢の声で満ち溢れていた。“君はどこから来たの?”“わたしはね……”といった友人たちの成立していく会話。その中においてこのコンパートメントも例外ではなかった。しばらく間は私は、ロンドンで買ったⅯ・アトウッドの傑作の一つ、『THE HANDMAID'S TALE』を読んでいたが、やがてページをめくるのをやめて(内容が不気味になってきたのもある)、目の前の読書をする少女にまず私は自己紹介をした。

 

「初めまして、ドイツから来ましたアドルフ・フォン・ピュックラーと申します。あなたは?」

 

少女はこちらを見つめると本を閉じた『魔法薬学』と書いてある本だった。もうすでに予習をしているのか。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー。イギリスへようこそ」

 

なんとなく、不安であり、かつ自信に満ちた顔をしている。

 

「ほう、ハーマイオニーとおっしゃいましたな。すると、ギリシア神話になじみのある名前ですね」

 

「ええ、そうですよ。あなたはひょっとしてドイツでも上位の貴族では?ピュックラーといえばあの有名な旅行家の家系のはずですね。当てて見せましょう。ご先祖はムスカウ公園の設立者では?」

 

私は驚いた。目の前の少女の観察眼は極めて確かなものだ。ではこちらも少しばかり驚かせてみますか。

「その通りです。ではこちらもあなたのことを少しばかり当ててみます。ご両親はおそらくマグルでお父様のほうは医者、ことによると歯医者では?それと、フランスに親せきがいらっしゃいますか?」

 

マグルというのはまあ、グレンジャーという名前自体が魔法界では耳にしたことのない名前で消去法に従って導き出した。最初の両親の職業は簡単だ。まず、ギリシア語系統もしくはラテン語系統の名前を付けるのは今や一部の知識人たち。つまりこうした「古典」に親しんだ人々と相場が決まっている。このふるまいから推察するに、中流の上といったところか。父親の職業は医療系で歯医者と思った。フランスの親せきについても簡単でaのアクセントが若干だが上がっている。また、身のこなしから大体そうでなくとも外国語に通じている。

 

「え、ええ。そう。観察力があるのね」

 

ぎこちなく向こうも応答する。フラウ・グレンジャーはやや驚いた顔をしたがすぐにその目はやや尊敬を含んだものとなった。

 

「それは光栄です。ちなみにピュックラーといえばほかに何をあなたは連想します?」

 

これにも興味があった。

 

「――アイス。アイスクリーム。三色のアイスクリームでしょうか」

 

そうです。ご名答。チョコレート、イチゴ、バニラの三層からなるピュックラーアイスです。

 

「あたりです。けれども、あなたは最初に公園のほうを思い浮かんだ。ちょっと意外でしたな」

 

私は微笑みを浮かべて彼女を見た。

 

「確かにアイスは思いつかなった」

 

なるほどといった顔をする。

 

「まあ、ご先祖様も、自分の名前が旅行家や造園家ではなくアイスクリームになるとは思いもよらなかった様でしょうけどもね。あのおじいさんは今や、三色アイス」

 

そこから彼女はピュックラー=ムスカウ侯爵のがっしりとした顔つきから三色アイスに変わってしまう過程を連想したらしい。微笑む。

隣ではダフネが少年と――ネビルというらしい 何事かをしきりに話し合っていた。だいぶ楽しそうである。

私はフラウ・グレンジャーとたわいもない2,3の魔法に関する話をしたのちに、どのような教育があるのか楽しみだといったことを話し合った。向学心に燃えるものとして彼女は良きライバルとなりうることであろう。

事実その通りとなった。

 

ダフネ・グリーングラスの視点

初めて目の前にいる少年を見た時の私の印象は金髪、青い目、度の強そうなフチなし眼鏡、確かな知性を帯びた顔であったと思う。身長は160㎝以上あって、背が高く、すべてを常に見下ろす不気味な印象を受けた。やや年には似合わない低めの声で番線を尋ねられた時、ようやく私は目の前の人物が少年であって「学校」へ行く同学年だとわかった。低い声の理由はすぐに分かった。彼がドイツ圏のr 音を低めに発音するからである。そして、番線を教えられた時の彼の顔は間違いなく少年の顔であり、どこにも「お高い」という性格はみじんもなかった。名前を聞いて驚いた。

ピュックラー家、フュルスト《侯爵》・フォン・ピュックラー家。聖28族とは一線を画すドイツ魔法貴族の一つ。

 

けれども彼は名前を名乗っただけで何一つ飾らず、荷物までも持ってくれたうえ、何かと助けてくれた。気さくないい人だった。

 

私が生まれたのはグリーングラス家、比較的高齢の両親のもとに私は生まれた。比較的高齢といえばマグルの友人は驚くのだが、純血の濃くなった血のため、子が生まれにくいというのは実はそう珍しいことではない。また両親の見合いの選定が難航したというのも私が生まれたのが遅い原因だったともいえる。それ故、私は(のちに生まれた妹とともに)とてもかわいがられた。純血を保つ一族の一つとして、栄ある聖28族の血を保つものとして。

 

聖28族に生まれたというのは大変名誉なことである。だが、一方でそれは非常に息が詰まることであった。まず極度のヒエラルキーが存在することである。この栄あるとされる聖28族にもヒエラルキーは存在し、ブラック家の大半がアズカバンに投獄されている今、ブラック家は消滅したようなもので、代わりに頂点に立ったのはマルフォイ家。その家を聖28族の頂点として私たちは従わざるを得なかった。閉塞感にあふれ、誰もが“楽しみ”という仮面をつけて開かれる茶会は子どもであった私を大変苦しめるものであった。仮面をかぶったうえで周りの家とお付き合いをして、お見合い候補となるべき人物を選定することを孕んでいたからである。「純血」を維持しうるためのお見合いと茶会。将来はすでに決められているようなもので、自由がないのだ。仲のいい人物を挙げなさいと言われてもそれはできない。心の底から友人と呼べるものがいるのかどうかそれすら怪しい。茶会が終わって家路に変えるころが、一番心が安らいだことをいまだに覚えている。仮面と家柄が重要視される。とてもだが、幼い私にとっては難しすぎることだ。

 

しかし、幸いなことに両親は私が目に見えて疲労していたせいか、あまり茶会に連れていくことはなかった。どうしても連れていかねばならないときは本当に、すまないという顔をして連れて行ってくれた。この“感情”のない茶会において、理解してくれるもの、両親がいるということは、とても重要なことであった。「家柄」でしか、私を見ようとしない周りの純血の人々に対して、私にとって、「家」というのは唯一のそうしたレッテルから逃れることのできる場所だったのだ。そして、私は本の世界にあるもう一つの魔法界、つまり、ヨーロッパにおいても比較的異色ともいえるドイツの魔法界の持つ、実力主義世界にとてもあこがれた。グリンデルバルト無き今、明らかに血などには頓着しない、もう一つの世界。本の中でしか見たことない世界、それにあこがれた。

けれども、いずれはそうした安住の場所を私は出なくてはならない。しかしてそれはすぐに来た。ホグワーツへの入学である。また、家柄でしか私を見る者はいないのだろうか?そう思うと苦しくなる。そして、ある時に読んだことのある詩句を思い出す。意味は分からないけれどもこの言葉のみはきっと私の希望となりうるはず。

 

“Vixi et quem dederat cursum Fortuna peregi, et nunc magna mei sub terras ibit imago.”

意味こそは分からない。けれども、その言語の持ちうる響きはきっと希望につながるはず。

 

Vixi et quem dederat cursum Fortuna peregi, et nunc magna mei sub terras ibit imago. 

その言葉が私のすべて。神様、きっと良き終わりをこの小さなものに与えてください。幸に満ちたるよき終わりを。悲しむものに幸あれ。きっとそんな意味。

 

時々イギリスの「学校」に外国の学生たちがやってくることがある。でも、それはどこか本当に遠い世界の気がしていた。彼に会うまでは、うれしい誤算があった、今年、こうして目の前にいるのは間違いなくおとぎ話でしか聞いたことのない、ドイツ(外国)の魔法使いであり、閉塞気味の私たちに何か風を吹き込む気がした。

 

神様、彼と同じ寮になりますように!私は黒いローブをつけ鏡に映った自分を見た、ボタンをしっかりとかけ、リボンを結べば、優等生感を演出できるなと打算的に考えた。

ダフネは制服のネクタイをしっかりと結び、ローブを着て、最後に確認をして、コンパートメントへと戻っていった。

 

アドルフ・フォン・ピュックラーの視点

まもなく列車は中盤に差し掛かりつつあった。私たちは互いに着替えのための部屋に移動し、制服をつけ、再びコンパートメントに集合することとした。扉を開け、私たちは着替えるために別々の道を進んだ。

 

今、思い返せば、あの時、誰もヒキガエルを気にかけなかった。まあ、逃げ出すわけでもなかろう。

 

私は眼鏡をふいて、着替えた自分を見た。うん、はじめてにしてはなかなかいいではないか。何よりも重要なのは私が服に着られてはいないということだ。シュナイダー店主の満足顔が頭に浮かぶようではないか。そう思いながら、コンパートメントへと戻った。コンパートメント内にはグレンジャーとグリーングラス、おや、ロングボトム殿は?

 

ハーマイオニーは目の前の少年を思わず凝視した。というのもだがピュックラーの姿は学生というよりも昔テレビで見たことのある裁判官のようになっていたからだ。

 

彼の大人びた雰囲気からもそれは容易に把握できる。裁判官のようになっている彼はあたりを見回した後、ロングボトムは?と尋ねた。ここで私たちは彼とヒキガエルがいないことに気が付いた。

 

「ヒキガエルが逃げたから探しに行ったのか?」

 

「たぶんそうでは」

 

「それでは彼を探さねば」

 

私たちはコンパートメントから二手に分かれて、探すこととした。すると、彼がいた。他のコンパートメントに草の根運動的に聞いて回っていた。邪魔するのはどうも忍びないので、それが終わるまで、待っている。

 

「ヒキガエル見ていないかい?そう……ありがとう」

 

よほど焦っているのか、私が真後ろにいることにも気が付いていない様子であったが、そのコンパートメントのドアを閉めると、そこで振り返って私と目が合った。

やあ、と私は言って、協力しに来たことをつたえる。するとびっくりしていた彼の顔は笑顔を浮かべた。優しく芯が強い人柄かもしれない。と私は思う。

 

「ここにはいないようですね。こちらへ、後部へ行きましょう」

 

私はついてくるようにと合図をした。

こうしてヒキガエルを探すこととなった。やり口は半ば、草の根運動のきらいはあったがそれでも、最後尾まで来る頃にはいくつかの有力な証言を得ることはできていた。ほどなくして、ヒキガエルを私は見つけ、ネビルに手渡した。その帰り、私はダフネ、グレンジャーが立ち往生して居るのを見つけた。理由は簡単だ。目の前で何事かを少年5人組と話し合っているためだ。何か口論になっているようだ。私はネビルに待機するように言い、そちらへ向かった。やがて、その内容が苛烈さを極めていると気が付いた。どうやら、眼鏡をかけた少年は、赤毛の少年と組み、プラチナブロンドとその太った取り巻きの少年方と入る寮云々でもめているらしく、それが故で、ダフネとグレンジャーは先に進めないようであった。進めないのは物理的にいかんせん目の前の太った方々のおかげであるが、私は思わず声をかけた。

 

「失礼。通していただけないだろうか」

 

ここで、一斉に五人は私を見た。私の身長は断っておくが比較的高めで、大体この五人を見下ろすくらいはある。

「君は?」

巨人二方の先頭にいるプラチナブロンドの少年が私に尋ねる。育ちのよさそうな少年だ。やや、ずる賢そうだが、半面優しい一面を備えていると見える。

 

「これは失礼を。ドイツから来たアドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウスと申します。通ってもよろしいでしょうか?」

 

実際に通りにくいのだ。何か喧嘩らしきことが目の前では起きているし、通ろうとしても、目の前の二人がいるせいで精神的にも物理的にも圧迫感を受ける。

 

「今、話し合い中だ。あとにしてくれ」

 

プラチナブロンドの少年がそう答える。

 

「おっと失礼。それは知りませんでしたな。しかし、失礼ながら、名前を聞かれたからにはあなたも答えるべきかと存じます。あなたのお名前は?」

こうした場合は相手の礼儀に訴えると、相手はおのずと返事を返す。案の定、少年は青白い顔を少し紅潮させた。

 

「僕の名前はドラコ・マルフォイ。聖28族のマルフォイ家のものだ。知っているだろう?」

 

「イギリス魔法貴族との付き合いは生憎ないもので。申し訳ございません」

 

相手はやや驚いたそぶりを見せた。そして、少しばかり考えるようにして私に向かってこう言った。

「フォン・ピュックラー=ブルクハウス家か。一応、イギリスまではるばる来てくれたことには感謝しよう」

 

そう言って、彼はヒキガエルを抱えたロングボトムを見た。

 

「それと忠告してやる。付き合う家は選ぶべきだよ」

 

この少年、まさか、ロングボトムを侮辱したのか?だとしたら、立場はわからせるべきだ。こうした人間は極めて、矮小だ。しかし、彼の場合は自分の家庭環境から、そう発言したのであろう。しかし、コンパートメントで一度会ったとはいえども、仲の良くなった友人を侮辱されたようなことは人としてまず、許すことができない。それにだ、聖28族のマルフォイ家はいくら長い歴史を持つとはいえども、我が家よりも歴史は浅い(記憶によればだが)。とすれば、取るべき手段は一つ。

 

「ほう?プロイセン貴族への侮辱と受け取ってもよろしいかな?」

 

その瞬間、険悪な空気が流れるが、さすがにピュックラー=ブルクハウス家という「家柄」は効果があったらしい。ピュックラー=ブルクハウス家は純然たる純血の家であり、かつその歴史などはきわめて古い。むろん、こうした情報はこのような些細な時にしか役に立たないものだが。

 

よく言うではないか。家柄がものをいうわけがない。と。

ところが、イギリスではこれは些細ではないようだ。なんと、マルフォイは「すまない」と口にしたのだ。謝罪だ。しかし、それは「貴族」というレッテルへの謝罪の可能性がある。とすれば、私も抗弁すべし。ロングボトムへの侮辱は忘れない。

 

「謝罪を受け入れます」

 

相手は少し、ほっとした顔をした。それに対して、私は

しかしながら(However)と言葉をつけくわえる。マルフォイはぎょっとした顔をした。

 

「忠告どうもありがとう。礼儀としてこちらも忠告せねばなりますまい」

 

眼鏡越しに少しばかりの動揺が見える(こうしたことはきっと初めてなのだろう)マルフォイをじっと見ながら言葉をつぐ。

 

「マルフォイ殿、今後、些細なことに固執すれば、大局を見失いますよ。私の忠告として受け取っていただきたい。まあ、いずれにしましても同じ寮になるのかもしれませんし、和解の印としてひとまず握手を」

 

フォン・ピュックラーはそう言って、握手を求めた。混乱し、やや驚いたような表情をしつつも、目の前の少年は握手をした。その途端、取り巻き二人組がさっと、歩調を合わせるようにして退く。

 

これに伴って、フォン・ピュックラーは後ろに立っていた三人を呼んだ。フォン・ピュックラーは先にコンパートメントに向かった。

ハーマイオニーとネビルの二人は後に続いたが、ダフネだけは残った。マルフォイのほうも気が付き驚いた顔をした。

すると、ダフネのほうはマルフォイに挨拶をした。

「久しぶり」

どことなく嬉しそうだ。

 

「こっちもだね。同じ寮になることを祈っているよ」

 

二人とも、大方行く寮は決まったようなものではあるが。それでも、万が一ということもありえる。

 

「私も。元気にしていた?」

 

ダフネは少し嬉しそうな様子で話す。

「うん、おかげさまで、この前の茶会以降会っていなかったからね。元気そうでよかった」

 

そう話すマルフォイの声もどことなく弾んでいる。旧友にあったようなうれしさだ。お互いに、頑張ろうなどと軽く話したのちに、ところで、と彼は付け加えた。

 

「変わったやつだな。君が今、一緒にいるのは」

 

マルフォイの見る先にはフォン・ピュックラーが先頭へと歩いていく姿が映っている(ずいぶん、前のほうにいるので、その影はほぼ小さくなっている)。

確かに変わっている。そうダフネは思う。けれども、いい人だ。だからこう返した。

「そうかな。意外とそうではないかもしれないよ?」

 

「そうかい?」

 

「そうだと思うよ。きっと。そろそろ行くよ。またあとでね」

なんとなく、もっと嬉しそうな様子で、彼女は一人、コンパートメントへと戻っていった。

 

アドルフ・フォン・ピュックラーの視点

 

さて、先ほどのこともあり、私の第一印象は非常に芳しくないのがドラコ・マルフォイであったが、しかしながらのちに友人になったということを鑑みるに人生とはよくわからないともいえよう。だが、冷静になれば、思うのである。彼の固執する家柄による、純血思想というのはおそらく、才能を消失しつつある、私たち純血者の最後のあがきにして「砦」に他ならないのではないのかと。特に魔法界における純然たるアクロポリスを作り上げたイギリスでは無理もないのかもしれない。人は仮面をかぶる生き物とはよく言ったものだ。いわばマルフォイ自身がその良き演者であったのは、言うまでもないであろう。実際それは正しいことであったし、彼はその実、不安定だが、優しい心持の少年であった。そのことに気が付くのはそれから間もなくのことだった。

 

しかし、この時点での心象は半ば最悪でもあり、複雑な顔をして私はコンパートメントに戻った。遅れて、ダフネがコンパートメントに入ってくる。

 

「あれがマルフォイ家ですか。なかなか、かたい家柄ですね」

 

私はそう言って戻ってきたダフネに話を振った。彼女の先ほどの言葉が正しいのであれば、私の見識は間違っていなかったことになる。

 

「ええ、一応、ブラック家がほぼない今ではあれがイギリスの上位に位置する家だね。古くからある家だよ。とても厳しい家柄かも。あっ、でもドラコは優しいよ」

 

慌ててそう付け加えるダフネ。

 

「一応ね。絶対に血筋はものを言わないと考えるけど」

 

そうグレンジャーが話に入ってきた。

 

「まあ、あの家はあまり評判が良くないよ」

 

そうロングボトムがおぼつかない口ぶりで言った。聖28族。ブラック家を筆頭とする一族か。待てよ。

 

「そういえばグリーングラスという家柄も確か聖28族ですな」

 

私は手札を確認しながら彼女に尋ねた。

 

「その通り」

 

やや嫌な様子で彼女は答えた。家柄、純血、あまりドイツでは耳にしない言葉だが。でも、ダフネは別のようだが。

 

「世界は広い。人も様々ですね」

 

私はそう言って、トランプを配った。ちょっとしたカードゲームをするというわけだ。それに、この問題は何となく根深く、重い気がしたのでアイスブレイクのようなものとした。

 

シンプルながらも、ゲームは白熱した。ロングボトムは今までのおろおろした様子が嘘のように、冷静に自分の手札を、勘定して、カードを繰り出したし、グレンジャーは見た目通りの賢さでカードを理詰めで進めた。ダフネは半ば幸運と理性によってカードをしばし核心のつくところに置いた。私はまあ、半々の割合で的確に冷静に、と集中して、相手の弱みを突く手を繰り出した。たがいにひかないまま、ゲームは続いた。

 

しばらくすると、車内販売がやってきたので私たちはめいめい、好きなものを買い、それを食べながら、カードゲームを続けた。やがてそれにも飽きたころ、あと5分で到着するとのアナウンスがあり、5分後、定時通りに列車は駅に停車した。腕時計を見る。7時30分 もう夜か……。

一斉に生徒たちが降車していくので私たちもそれに倣い、スーツケース等の荷物を預け〈これらは学校専属のしもべ妖精が行うとのことである〉、外に降りた。あたりはすっかり真っ暗で私たちは暗闇を、道なき道とも呼べる細い道を通って(ダフネはしばしば転びそうになって私が助け起こした) 開けた場所へ出た。ランタンの光がゆらゆらと揺れている。なぜ揺れているのだろう。

 

その答えはすぐに分かった。黒々した闇をたたえた湖が横たわっていて、その中でランタンを付けた小さなボートがたくさん揺れているのだ。

 




ちなみに、ダフネ・グリーングラスのモデルはM.アトウッドの傑作『侍女の物語』に登場するオブフレッドです。人柄についての記述が一切ないので、グリーングラス家のアストリアのリベラル的な見方に影響を及ぼした人と仮定して、こんな感じになりました。

なお、アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウスですが、第三帝国において食料大臣を務めていたヘルベルト・バッケSS大将にそっくりです。


感想お待ちしております。何なりと。ただ、優しめのコメントでお願いします。

追記
2月6日に一部、修正いたしました。
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