ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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フリートバッハ教授こと研究主任:
始まりというものは、常に朝日がある場所から始まるとされています。
実際、このテクストにおけましても、同様に朝を最初の基準ととらえております。それ故、我々はここに一つの解釈を見出すことができます。つまり、この人物のテクストにおいても古代神話などの『神々の世界』に見られますように、「朝」は始まりであり、「光」はそれを装飾する記号ととらえることができるのかもしれません。
さる民族の伝承によれば人は一日のうちに「死」と「生」を体験すると聞いたことがあります。つまりは、「朝」はこの人物にとって「生まれること」なのであり「夜」はミンコフスキーがいみじくも言ったように、「死ぬこと」、フロイトにおけるタナトスと解釈できるでしょう。
〈拍手〉


5. Der erste Morgen

 月曜日

 翌朝、朝日の代わりに湖底から差し込む淡い光の下、私は目を覚ました。はじめてのホグワーツで迎える朝。眼鏡をすぐにかけて時刻を確認する。午前5時。私は大急ぎでシャワーを浴び、歯を磨き、顔を洗って、髪を七三になでつけるというおめかしを行った後、新品のローブにそでを通し、クリーニングのかかったネクタイをきつく結び、文房具入れに教材、書類カバン、万年筆に似たデザインのシャープペンシル、羽ペンをもって談話室まで下りていき今週からおこなわれる、であろう授業についての予習と、備え付けのお湯の出る蛇口からドイツから持参してきたコーヒーを淹れて飲んだ。そして、頭に叩き込むべきことを確認して、各寮生に配布される書類カバンに教科書と羊皮紙とノートを入れて、談話室に置かれている魔法についての手引書と照らし合わせる形である程度まで予習すると、眼鏡をふき、コーヒーをもう一度淹れなおした。そしてコップに注ごうとしたところ、いきなり、後ろから声が聞こえた。

 

「コーヒーを飲んでいるの?」

 

 驚いて、思わずカップを取り落としそうになってしまうのだが、この声がダフネの声だと気が付き後ろを振り返った。

 

「ええ、一杯いかがです?」

 

「もちろん」

 

 そう言って私は備え付けのカップにコーヒーを注いで勧めた。彼女はゆっくりと飲み、おいしいとほめてくれた。

 

「ドイツのコーヒーです。どうもここのものはあまり口に合わないようでして」

 

「そうですか。まあイギリスは紅茶の国だからね。ドイツのようにコーヒーをあまり重視しませんよ」

 

「しかし、ドイツ人の多くにとって、コーヒーは実質的な生命線です」

 実際、日常にそれは深く同化している。バッハのコーヒーカンタータにも見られるように。

 

「へえ、そうなんだ。じゃあ、コーヒーがなければ朝は始まらないのですね」

 ええ、まったくその通り。

 

「おっしゃる通りで」

 

 そういいながら、カップを持つ彼女の座っていた場所を見ると、先ほどまで使っていた机には書類カバン、羽ペン、教科書、ノートが置かれている。彼女も予習をしていたようだ。現に書き込みが行われている教科書が少しこちらに見えている。いつも思うのだが、私の周りというものは非常に向学精神あふれる者たちにあふれている気がする。なかなかライバルは多そうだ。裏を返せばそれだけ切磋琢磨しうるものたちで満ちているということにもなる。狭きによりて、高みを登らん。

 

「予習をしていらしたのですか?」

 

「ええ、なかなか覚えることもありますし、それに少しでも点数を稼いで寮に貢献したいのです。あなたは?」

 

「私も同様です。ぜひとも、寮に貢献せねばならない。学生でできる限りのことを私たちはせねばならない」

 

 そんなことを話しつつ、互いに自習をしていると、時刻はすっかり午前6:30となった。私は万年筆とシャープペンシルを文房具入れに入れようとした。すると、ダフネは万年筆を見て、それは何かと尋ねてきた。私はこれについて、羽ペンよりも重宝している存在であり、かつ簡単に消すことのできるインクを使用しているのだということ。そして、ドイツではこうしたものを頻繁に活用するのだということを伝えた。彼女はなるほどという顔をして興味深そうにそれを眺めた。そうこうするうちに寮生たちがまもなく起きてくる時間となって来たので私たちはカバンをもって、肌寒い地下牢の外へと出て階段を上った。私は不注意の故、一度落下しそうにはなったものの、どうにかダフネに助けてもらった以外、あまり事件らしき事件は起きないまま、大広間へと出た。生徒の数は少なかった。 

 

 ダフネ・グリーングラスの視点

 

 スリザリン。私の両親も親戚もその大半が出身の寮。いやな噂はよく知っている。私はどの寮に行くべきなのだろう。出発する前、お父さんが私に言ってくれたことを思い出す。“お前はどの寮に行っても構わない。私たちは確かにスリザリンだ。けれども、もし、ダフネがスリザリンでもなくとも、私は誇りに思うだろう。だから、後悔しないで。どこに行っても、お前が本当に楽しんでくれれば、私にとっては十分だ”そう言ってくれた。私はどうしよう。組み分けのことを、眠る前に父に聞くと面白そうに“秘密だよ”といってそのまま、私は眠りについた。私の好きな言葉たちとともに。

 夢は見なかったが、目覚めはよかった。そのまま、朝食をとって、駅まで行って、そして、アドルフに会った。そして、森番の操るボートに乗ってホグワーツを訪れた。

 

 何もかもが初めてだった。

 

 そして、組み分けの時、“それはお楽しみだよ” といっていた父の言葉を思い出しながら、広間を歩いた。大勢の人で広間は当たり前だけれどもあふれかえっていた。それぞれの寮のネクタイ、ローブをつけている。アドルフは隣で面白いものを見るような目つきであたりを見回している。帽子たちが私たちの目の前で歌を歌った。

 スリザリンは最後のほうだったけれども、歌の一文が私の心の中にずっと残った“君はもしかして、真の友を得る”。本当の友達を得られるなんて、もしそれがかなうのであれば、それに勝る喜びはきっとないはず。そして、組み分けの順番はあっという間に来た。

 

「スリザリンを」そう私は願った。

 “君はもしかして、真の友を得る”のならば。私はスリザリンへ行きたい。本当の友達など少ないのだから。だから、私はスリザリンに行きたい。組み分け帽子は確かに私の心を読んだらしい。

 

「ほう、これは面白い。友を求めるためにスリザリンに行くというのか。君には、ハッフルパフの温厚さ、忍耐のある賢さがある。それでもなお、行くのならば……君は確かに真の友を得るだろう。スリザリン!」

 

 一斉にスリザリンの席上から拍手が聞こえる。席へ行くと、監督生のウィルヘルミーナ・アドラーが握手をした。

 

「ようこそ。グリーングラス家のダフネ・グリーングラスだね。ウィルヘルミーナ・アドラーです。ウィルヘルミーナと呼んでください」

 

 物腰の柔らかい黒髪の女性が私に握手をする。私も握手を返した。席に着くと、別の人間が座っている。帽子は着々と組み分けを進めていた。Ⅼ行の最後であるステラ・ラベルがレイブンクローへ組み分けされる。Ⅿ行へと組み分けは差し掛かる。神経質そうな、いや、むしろおびえた様子であるアーニー・マクミランがハッフルパフへと組み分けされる。続くステラ・ミューゼルがレイブンクローへ。

ぼうっとそれを見ていると、肩をたたかれたので振り返った。ドラコが笑みを浮かべて座っていた。

 

「ようこそ。ダフネ。歓迎するよ。君ならば会えると思っていた」

 

「こちらこそ。会えてとてもうれしいよ」

 

 彼は少し嬉しそうにした後、仲間のスリザリンが来るたびに拍手を送り、握手と自己紹介をしていた。人脈を作るのがうまいなあと思って、組み分けを私は見続けた。

 

 ポッターが目の前でちょうど組み分けをされているところだった。どこに行くのだろうか。そう思っているとなかなか決まらないようだ。こういったことはあまりないらしく、周りもざわざわと彼について話し合った。スリザリンにぜひ。という声やグリフィンドールが彼をとるにふさわしいという声もあった。思わず、そばにいたドラコに聞くと彼はそっけなくつぶやいた。

 

「英雄はどうせ、グリフィンドールだろうな。かたくなにスリザリンを固辞したし」

 

 パンジーにも聞いてみると同じ答えだった。グリフィンドールか。ドラコやパンジーの思った通り、帽子はグリフィンドールと叫んだ。次に呼ばれたのはフレデリカ・ポートランドという少女だった。黒髪に緑色の目をしている少女だった。

 

「スリザリン!」

 

 今度は、帽子は即決した。P列では最後のほうに、汽車で会った友人の名前が呼ばれた。

 

「フォン・ピュックラー=ブルクハウス。アドルフ」

 

 次にアドルフが呼ばれた。長身の男子が、黒カバンを持ったまま、帽子のあるほうへ足取りを確かに歩いていく。そして、カバンを置いて、帽子をかぶせられる。彼はどこに行くのだろう。勘ではあの優しさではハッフルパフの秀才か、確かな知識からレイブンクローの典型的な生徒を思い浮かべた。でも、もし寮が違ったのであっても友人でいてほしい。とてもスリザリン生らしからぬことを思った。だって、数少ない友人の一人なのだから。そう思ってると、組み分けの声がなかなか聞こえない。見ると、アドルフはしきりに帽子と何かを話し合っている。腕組をしている。しばし考えては、質問をしているようだ。その様子は聞こえない。時間は刻々と過ぎていく。

 さすがに長い。そう感じた各寮の先輩たちが話し合っている。スリザリンの席上でも、監督生のバッジをつけ、眼鏡をかけた人物が、隣の眼鏡をかけている友人たちと話し合っている。難しい顔をしている。「組み分け困難者が二人?」そんな声がその友人たちから聞こえた。レイブンクローもハッフルパフも彼の様子を眺めている。やがて、喧騒から我に返ったグリフィンドールも彼に注目をした。明らかにポッターよりも長い。どの寮も彼に注目した。その間もずっと何かを帽子と話し合っていたが、ようやく納得したらしい。彼はうなずいた。帽子は面白そうに彼に語り掛けた後。

 

「スリザリン!」

 

 と叫んだ。先ほどまで話していた監督生とその周りの人々が一斉に拍手をする。ハッフルパフ席からも温かい拍手が、やがてレイブンクローからグリフィンドールからも拍手が聞こえる。アドルフが来た!私も心の底から喜び、“ようこそ!”といって、拍手をした。ドラコも驚いた様子だったが、やはり喜んで拍手をした。彼にとってよき人であることを願うばかりだ。

 アドルフはカバンをもって監督生と握手をした。意外とその様子はほかの生徒が、監督生と比べてあまり威厳がないのに比べて、様になっていた。組み分けは順当に進み、どの生徒も本当に心から各寮から歓迎されていた。

 

 レイブンクローに選ばれれば、その寮から熱狂的な拍手と歓迎の嵐が吹き荒れたし。グリフィンドールからは喝采と口笛による歓迎が、ハッフルパフからは温かく優しいまなざしとともに、称賛と喜ぶ声。歓迎する太った修道士が見えた。そして、スリザリンからは抜け目のなさそうな眼鏡をかけた三人組とウィルヘルミーナの拍手を筆頭に歓迎する様子が見えていた。アドルフも拍手を送っていた。けれども、どの寮に行く生徒たちにも拍手をしていた。そして、それは彼の隣に座るあの三人組も一緒だった。一人は監督生のバッジをつけていた。そして、アドルフが選ばれてから二人目の人物が組み分けされるときに、監督生は向き直って、フェルプスだと名乗った。彼は話をつづけた。

 

「どの寮に生徒が行こうとも、私たちは拍手をして迎えようではないか」

 

 意外な言葉だったけれども、何となく、いい言葉にも聞こえた。だから、私たちもそれに合わせて誰かが、私たち以外の寮に行ってもなお、拍手をした。

 

 何人はこれに抵抗するそぶりを見せていたが(後で、ウィルヘルミーナに聞いてみると、クィディッチのチームらしい)大半は拍手で迎えた。もちろん、私たちの寮に選ばれたものが来たときはもっと大きな拍手で迎えたけれども。こうした形で大勢の新入生たちがやってくる。それぞれの寮に。

 少しばかりの不安と期待をもって。歩みを迎えられて初めて確かにしていきながらも。

 しばらくして、最後となるブレーズ・ザビニがスリザリンに組み分けされてから、校長先生の不思議な掛け声とともに宴会が始まった。

 料理は皆しっかりとそして細やかに味付けされていた。例えば、カモ肉のローストは飽きのこないようなさっぱりとした味わいに、少しこってりとした獣脂で作られていたし、フレンチフライの塩加減は絶妙だった。隠元豆と人参のソテーは固くなく、かといって柔らかすぎずちょうどいい食感に火が通されていて、優しい素材の味わいがした。

 

 どれもこれもおいしい。と思って食べていると、ダフネと呼ばれたので振り返った。パンジー・パーキンソンとミリセント・ブルストロードがいた。二人とも知り合いだ。

 

「元気だった?間違いなくあなたならスリザリン寮だと思っていたよ。ほかの寮に行くなんてありえない」

 彼女らなりに私のことを気遣ってはいる。ここまではいい。

 

「それで、誰にアタックするのがいい?」

 はじまった……。

 

「やっぱり、マルフォイがいいでしょ!ドラコとは私仲がいいもの。この前、フランスの別荘にまで連れて行ってもらったし。パーティも一緒だったのよ。そうよね。ダフネ?」

 

「う……うん。そうだね。パンジー」

 

 ずっとこの話題に「茶会」の際も付き合わされている。結婚相手についての願望を彼女から聞かされ続けて、私がそれに合わせる返事をするといった形で、私たちは会話する。返事をする以外、私に何ができるだろう?あこがれる人もいないし。

 ああ、でも、尊敬する人はいるかも。そして、仲の良くなりそうな人もいる。

 

「……と思うのよ。間違いなく、ドラコは私のものね」

 

「へえ。そうなんだ。とてもいいね」

 

 無表情に、作り笑いを浮かべて、そう私は応じる。あのパーティは覚えている。聖28族の一般的なセレモニーで何ら建設的なものではないものだった。同伴のアストリアはすっかり疲れ切ってしまったし、私も典型的な“良き純血”という仮面をかぶり続けたせいで、まいってしまい寝込んだという素晴らしい思い出のあるパーティだった。それに両親の心労を考えると頭が上がらない……。

 いずれにしても、もうこうした話は飽きた。早くこうした場所から抜け出さねば。

 

「でしょう?それでね、ミリセント……」

 

 私は応対しつつ、こうしたことからの逃げ道を探す。幸いなことに、対象はミリセントに向いた。絶好のチャンスだ。抜け出せる。私はゆっくりとだが、話をうまく抜け出し始めた。

 

「失礼ですが、先輩。初めての授業においてはどのようなことが行われるのでしょう?」

 

 間合いを見て、新入生の一人フレデリカ・ポートランドとウィルヘルミーナに話しかけてみる。ウィルヘルミーナはすぐに応じてくれた。さすがは監督生だけあって、落ち着いた物腰で物事を話してくれる。

 

「初めての授業では、そうですね。主として、基礎についての実習を行います。例えば、呪文学の概説では、物体を移動させる魔法を行います」

 

 あの…と、隣にいたポートランドが質問をする。“それは難しいのでしょうか?”と。

 

「人によります。基本的にはしっかりと集中して、先生の話を聞いたものが呪文を扱えることになるのですから。ああ、それと、才能のある人物は変わったことも起こすでしょうねえ。なお、難しいのは『変身術』と『魔法薬学』。変身術はそもそも無機物を有機物へ、あるいはその逆を。これは本当に難しい。それに、『魔法薬学』は常に事故が起こる。それと先生。寮監のスネイプ先生は極めて厳格ですから、えこひいきなど信じないように」

 

 その言葉を聞いて思わず青くなる。終わったら、急いで予習をしよう。安心などできない。私は彼女の話を聞き終わるころにはそう思っていた。ああ、でも幸いなことに、学ぶことは好きだ。先生に気に入られるといいけれど。

 そうして過ごすうちに宴会はお開きとなり、私たちは各々の寮へと移動した。寮はとてもきれいな内装で、思わず目を奪われていると、男子生徒のほうの監督生、フリードリヒ・フェルプスが私たちのほうへと歓迎のあいさつをした。

 学んだことは結束、つまりは友人を大事にしなさいということだった。彼は純血らしいが、そうしたことはおくびにも出さずに、話していた。

 今いる友人あるいは今後友人となる人を大切にし、そして、歩みなさい。なにがあっても協力を絶やさずに常に頑張り続けるもの。そのような者こそ。真のスリザリン生たる存在。と演説をした。喝采が巻き起こる。これがスリザリン寮か。

 喝采とともに、私は理解する。今、こうして寮に振り分けられたということに。明日から、別の世界が幕開けるということに。

 私はゆっくりと息を吐いて、新入生を歓迎するために垂らされた蛇の紋章を見る。

 フレデリカがふとつぶやいた。“Ubi concordia, ibi victoria ね”と。どういう意味だろうと聞いてみると彼女はこう答える。〈団結あるところには勝利在り〉という意味ですよ。と。

 団結あるところには勝利在り。ならば、歩んでいこう。仲良く。ともに。

 

 ここが、私たちの家。スリザリン寮。 私たちは一つの家族。

 

 部屋割りはパンジー、シルヴィア・レイン、私、フレデリカ・ポートランドだった。聖28族は私たち二人だけども、明日からは仲間だ。だから、私は血筋を気にせずに(パンジーは違ったが)話しかけたのちに、眠りにつこうと服を脱いでロッカーにかけ、自分のベッドを見た。

 鉄製のラベルに、ラテン語でFortuna amicos parat, inopia amicos probat と書いてあった。シルヴィアがこれを見て、いい意味の言葉だねという。どういう意味なの?と聞くと彼女はこう答える。

「都合のいい時に友は来る、苦しいときに友は試される。という意味。だから、演説のとおりね」

 

 逆境の時に、私は友を支えられるだろうか。そう思って寝間着に着替え、ベッドに入る。眠る前に、アドルフに渡した小包について思う。彼は“あれ”を気に入ってくれただろうか?そうだったらうれしいのだけれども。

 おやすみなさい。

 

 私はゆっくりと眠りの世界へと歩いて行った。優しい暗さが私を包み込んでいった。

 

 翌朝

 朝早く起き、周りが寝ている中、私は一人、自分のローブに着替える。同室のパンジー、ミリセントはまだ寝ている。その静けさの中、支度をして書類カバンをもって談話室に行く。淡い光の下、今後の復習をする。なんとなく、勉強をしているとどこから香ばしい、いい香りがする。私はその匂いのする方角を見た。アドルフがコーヒーを淹れているのだ。彼もどうやらこれから始まる勉強へ集中するために起きたらしい。ちょっといたずらをする子供のようにそっと声をかける。案の定彼は驚き、カップを取り落としそうになったが、いつも通り、平生を装ってコーヒーを勧めてくれた。しかし、あの時の驚きぶりといったら、普段の冷静を保つ彼からは想像もできない姿であった。なかなか、かわいい姿ではないかとは思う。それに庇護欲もそそられる。しかし、本人の前ではとてもいうことなどできないが……。備え付けのカップをもってきてコーヒーを注いでもらう。いい香りが談話室に立ち込める。

 

「どうぞ」

 

 言葉に甘える形でコーヒーに口をつける。そのコーヒーはコクがあって苦みのきいた、とてもいいコーヒーだった。その後、紅茶こそはイギリスではあるがコーヒーはドイツであって、ここイギリスでは彼のお眼鏡にかなうコーヒーはないのだという、ちょっとした(彼にはそうでもないのかも)悩みを打ち明けるとともに、彼は教科書を広げて読み始めた。

 彼も予習をするのだ。そう思うと予習をするのが一人ではなかったことにちょっとした安堵を覚える。“真の友を得る”帽子の言ったとおりか。

 

 すでに教科書には私など足元にも及ばないほどの、膨大な書き込み、疑問に思う場所に符号をつけていた。彼は恥ずかしく思ったらしくすぐにそれを閉じたが。

 知識に富んだその様子、あふれ出る、洗練された言葉といい、まったく傑作な人だ。そこで気が付いたのだが、彼は、珍しいことにマグルの文房具を使っている。

 ところが、彼によれば、こういったことは、ドイツでは珍しいことではないそうだ。そこまでイギリスとドイツは違うのかと私なりに納得していると、彼はところで、と言って話を続けた。ここ、イギリスにおいてはどうも勝手が違うようだから秘密にしていただけないか?ということであった、お安い御用である。友人の頼みを聞くのも、それを助けるのも私の役目に他ならないのだから。さて、今日から学生としての人生が始まる。しっかりしようと私は自分に言い聞かせる。上には上が常にいるのだから。そう思っていると、間もなく朝食の時間となりつつあった。私たちは早めに外に出て、風を感じながら大広間を目指した。柔らかい光があたりを包んでいる。光は朝の方角から差し込む文字を照らし出す。どこか遠い国の言葉で書かれた文章が照らし出される。アドルフはそれを訳してくれた。

 

 “明けの明星はわれらを祝福するいと高き守護者なれば、われらはその御子を愛すべし”

 

 と書いてあるそうだ。いわゆる、地母神に関する記述であり、ローマ帝国時代のルシフェル云々にかかわる話だと彼は説明した。なるほどと思っていると、アドルフは文章を訳すのに夢中なあまり手すりから落下しそうになる。慌てて彼の手を追って落ちないようにする。青ざめた表情で彼は、丁重に礼をしたのち私とともに大広間へと入っていった。人はまばらで、目の前の教員席だけが埋まっていた。教授たちが座り、四つの寮の寮監たちは日程表を配っていた。

 




Ubi concordia, ibi victoria 団結あるところには勝利在り という意味のラテン語として紹介されていますが、個人的にはチームプレーのスリザリンは「純血」というよりも、このことわざのとおりだなあと思ったので載せました。
そう言ったわけで
ホグワーツはじめての朝です。
誤字報告及び感想ありがとうございます。授業は次回からです。
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