ハリー・ポッターとスリザリンの代理人   作:Farben.AG

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フリーヒェンバッハ:さて、皆様。いよいよ授業という当時のカリキュラムを見ることとなります。
飽きられた方もいらっしゃいましょうし、
(笑い)
そもそもの本題はここからなのです。


6. Aller Anfang ist schwer

 アドルフ・フォン・ピュックラーの手記

 私はダフネとともに朝食の席に座ると、寮監のスネイプ教授が配る時間割を見た。

 予習が済んでいるのは……。天文学、魔法薬学ぐらいなもの。残りはすべて実習が占める。

 まず、好きな教科をあげてみよう。最初に天文学。“天文学は星を見守る”とは中世自由7科目のモットーだが、星を見て観測をすることは個人的な趣味で昔からこの学問は好きだったので大丈夫そうだ。

 魔法薬学に関しては、留学前にも、その前からも変わった薬を作り出すことや、理論づけによる概念といったことが好きだったので即応できる。それに、これは3年からの選択科目だが、ロジックに基づく数占いや、言語の別の側面を見せるルーン文字などもできる。

 しかし、ここにきて自分の得意なものを挙げよ、といわれれば、全てが理論形式に基づくもので、現実に、魔法を行使するという実践系は壊滅に等しいほどない。これは致命的だ。

 ざっと時間割を見た限りでは魔術を行使するものがその二分の一を占める。困ったことだ。単位は大丈夫か?それともう一つ、まいったことがある。魔術関連ではないのだが。やはりイギリスに来てから起きたことだ。

 

 名前だ。私の名前。

 Adolf Gottlob Augustus von Pückler Burghaus という名前が私の場合スペリング上表記されるが、大概の人物は、名前にある、特にウムラウトは発音しづらいのか、フォン・ピュックラー (von Pückler) ではなく、フォン・プックラー (von Puckler) と発音するのもいた。私の名前としては特徴的な ü の発音に慣れてはいただきたいのだが。発音するときのイメージとしてはラテン語の長母音のūに近いであろう。まあ、よかろう。もはや、ここイギリスでは慣れたことだ。幸いなことに、私の名前のほうはアドルフか、口語のほうでピュックラーと覚えられているのでここ、ホグワーツではこうした問題に出くわすことはめったにない(一部例外を除くが)。

 

 どうにもまいってしまうのは、この学校では友人にも話したことはないが、たまに呼ばれる三番目の名前アウグストゥスはしばし、オーガスタスと発音される。このアウグストゥスの名前には比較的誇りがあり、とくにラテン語に重きを置くはずであるイギリスでは間違えられることはないはずなのだが、なぜか、大概の人物はオーガスタスと呼ぶことが多かった覚えがある。全員イギリス式で発音するのだ。最初のころはほぼ全員から、オーガスタスと呼ばれていた。

 いずれにしても、もうほぼなれたことで半ばあきらめている。なので、この三番目の名前はあまり言わないことにしている。あきらめは肝心だ。そして、その種を作らないことも。

 何事もはじめては難しい。とは万国共通の事象で、私の場合、『魔法』という根本概念が致命的にヒットした。ついでに自分の名前というアイデンティティまで。思わず頭を抱えたくなる。

 

 しかし、まあ、名前に関しては仲間が見つけられそうだ。世界は広い。何事も似た悩みを抱える者はいるものだ。宴会の席において、フェルプスに相談すると、マグヌセンという人物が同じ問題を抱えているとフェルプスが教えてくれた。

 私と同じアウグストゥスの名前を持つ人物か。たぶん、北欧かドイツ方面だろうなあ。とりあえず、魔法(実践)についてはなんとかせねば。攻撃ならばどうにかできるが。

 

 そんなとりとめもないことを考えながら、改めて、日程の上で時間割を見る。今日の1・2限は『魔法史』3・4限は『呪文学』、5・6限が『変身術』となっていた。フェルプスの話によれば『呪文学』は概説であって、それほど難しくはない。しかし、『変身術』はその限りではないそうで、これはある意味で懸案ともいえた。

 

 会場にはダフネと4,5人の上級生たちが書類やら本、参考書を読んでいて、中央に置かれた皿は空っぽである。食事までまだ時間はある。そう判断した。

 予習を踏まえたうえで臨むか。私はそう思って、外に出て、中庭で念のために浮遊呪文の確認を行った。ドイツ語のほうであったが。

 

「クラビトゥーアー〈浮遊せよ〉」

 

 ここで疑問に思われる方々もいると思うので付け加えておくと、ウィンガーディアム・レヴィオーサはドイツ人の私にはアクセント上の問題で目標物を破壊。もしくは消失、などのわけのわからないトラブルを招いていた。ノリでどうしてもヴィンガーデアム・レフィオーサと発音するつまりWとVの発音がドイツ語に則っているという欠点があったので、まあ、ラテン語に則った簡単な術を使ったまでである。

 

 弱い術ではあるが、物体を浮かせる能力はある。術は成功し、私の手帳は見事に浮き上がり(ここまではよかった) なんと、大広間まで自動的に行ってしまった。私の予定が!慌てて後を追う。広間に戻ると、今度は大勢の生徒でごった返していた。食事が始まったのだ。これは、取るのに一苦労だ。

 

 二三人の眼に私の手帳が飛翔する様子がうつる。手帳はあさましく食にたかるクラッブ、ゴイルの頭上を飛び越え、ハッフルパフの生徒たちの頭上を飛んでいく。寮監があっけにとられて私の手帳を目で追う。

 さて、クラビトゥーアーには物体を浮かせるという能力だけではない。その能力には続きがある。

 術を行使された物体は空中を浮遊したのち、鳥になるのだ。そういったわけなので、必死になって、私は予定表を追いかけた。

 まずい、翼が生えかかっている。もう少しで鳥になる!幸いなことに、手帳はレイブンクロー生の上級生にとってもらった。渡してくれた少女ははにかみながらも、気を付けるようにと注意した。

 

 手帳は危うくどっかに行くところであった。浮遊する手帳はある程度(いや、かなりか)目立ったらしく幾人かは私のほうを見て、やや笑った表情を見せていた。

 フェルプスはしばし呆気にとられていたが、やがて、手帳をおさめ、トーストを細かくちぎって口に入れようとする私に向かって、驚きといたずら心の同居した目で見つめて私に話しかけてきた。

 

「今の呪文はなかなか良かったな。どこで覚えた?」

 

「昨日呪文の練習をしましたので」

 

 彼は納得した様子でもあったが、すぐに注意する顔をした。

 

「君はなかなかの才能があるな。今年の寮杯は期待できそうだ。ぜひ頑張りたまえ。それとだが……あまり、大広間のような場所で魔法を使うなよ。教授陣営のお覚えが悪くなる」

 

「心得ておきます」

 

「頼んだ」

 

 私はそう答えると、自分のカバンの置かれた場所に座り、ソーセージとベーコン、ジャガイモをゆでたものをとってゆっくりと食事をした。これが終わると、隣に座っていた上級生とたわいもない学校生活の諸注意、変わった場所などを聞いた。なんでもほしいものをかなえてくれる部屋が、この学校の8階にあるそうだ。それは教授陣営も把握していない「必要の部屋」?というらしい(事実上お目にかかるのはそれから数週間後のことであったが)

 私の右隣りにはマルフォイが座っており、昨日列車内で会った、ポッターがどうのと話している。あれは相当根に持っておるな。目の前ではミリセントとダフネが「茶会」のことを話している。はた目から見ると仲がよさそうに見える(実際は仮面をかぶっているというのがマルフォイの談であったが)。そのほかでは五年生と思しき人物はOWLに対するテスト対策で今にも発狂しそうなほどの勢いで授業内容を、うわごとかと見間違うほど繰り返していた。その内容というのはどうも魔法史における諸問題であって、彼の口から発せられる言葉というのはまともな魔法史研究家であっても知りうることがないほど高度なものであったが。

 その隣には四年生ですでにOWL対策に励む者もいる。

 

「勉強熱心なのはいいことだ。しかし、アルバート。あまりにも君は勉強に集中しすぎだし、ハッキリ言ってそんなに根を詰めると倒れるぞ」

 

 アルバート・ワトソンはその分厚い参考書越しにフェルプスをじろりと見て、再び目を落とした。

 

「後輩がいるんだ。君みたいな真面目な奴だよ」

 

 しかし、彼は反応せずにまた、参考書に目を落とした。なんとなくアビトゥーアを控えた友人たちを彷彿とさせるほどその姿はやつれていた。

 

「ワトソンさんはいつもあのような姿なのですかな?」

 

「いや、普段はああではないんだが、ひとたび学ぶことになるとなんというべきか没頭しすぎて周りを見なくなるんだ」

 

 監督生の隣に座っていたエミール・アイザック・フレデリック(5年生)がそう私に釈明した。

 

「そしてだ。驚くべきことに、私も彼も4年生なのだ。ああ、そう。カール・アウグストゥス・マグヌセンだ」

 

 アルバート・ワトソンの隣に座っていた眼鏡をかけた人物がそう言って、私に挨拶をした。いま、カール・アウグストゥス・マグヌセンと名乗ったな?

 

「アドルフ・フォン・ピュックラー=ブルクハウスと申します。アドルフ、ないしはピュックラーと。ところで、失礼ながら、あなたがマグヌセン先輩ですか」

 向こうは笑みを浮かべた。

 

「そうだ。アウグストゥスなのにオーガスタス、とか言われているマグヌセンだ。フェルプスからは聞いている。君のような同じ名前を持っているものに会えてうれしいよ。スリザリンにようこそ」

 

 抜け目のなさそうな顔をしているが、私には優しく応対してくれた。

 

「ぼくが思うに、君の真面目さ、一心不乱に取り組む姿勢はレイブンクローだと思うな。とてもスリザリンらしくはない」

 

 マグヌセンはワトソンにそう言うと、自身もルーン文字における参考書を取り出して読み始めた。両方とも似ている気がするが。

 

「彼らは似ている。そう思わんかい?」

 

 案の定、フェルプスはそう言って笑いかけた。そして彼自身も紅茶を飲み干すと、やはり教科書を取り出した。一連のこうした先輩方のあいさつが終わると、それまで、何も話さなかった少年。名前はザビニが私に話しかけてきた。

 

「なぜここに来た?」

 

 油断のない目で私を見る。半ば不安で高慢な節がある。苦手なタイプだな。そう即座に判断する。

 

「残念ながら、私でもわからないのですよ」

 

 私はそう答え、トマトスープを飲み、ゆで卵とパンを食べ、紅茶を飲み干した。紅茶の葉は良質で、深い味わいだった。

 

「ところで1限の魔法史はどのような教科なのです?」

 

 別席にいた1年生つまりは同輩のギルバート・ニクソンがそう上級生に質問した。聞かれた上級生は苦笑いを浮かべた。

 

「のっけから魔法史か……。あれは一言でいうのであれば“死んだ学門”だな様々な意味で。少なくとも、この学校で後悔することはないが、唯一後悔するのはあれくらいなものだな」

 

「まるでもって賛成だね」

 

 フレデリックがそう言って、眼鏡を押し上げて私たちに向かって笑いかけた。

 

「君たちはその点ついていないな。まあ、楽しみたまえ。それと……」

 

 彼は私に向き直った。目は真剣そのもの。

「アドルフ・フォン・ピュックラー君。君には期待している。今見た君の呪文の実力を考えるに、君の頑張りならば、1年の主席としては1年ぶりのスリザリンになる。どうか寮杯獲得とともに達成したまえよ」

 

 そう言って笑い、そういった話を私たちは聞いている間に食事会は終わり、私たちはカバンを持って教室へ移動した。

 

 1・2限の魔法史において、私はザビニともに席に着席して教授が来るのを待った。

 教授は予想もしないところから現れた。黒板である。そこから浮き出るかのようにして現れたのである。ああ、ゴーストか。こりゃ死んでいるな。そうザビニが反応した。カスバート・ビンズ。あれほど面白く教養の世界であるはずの歴史を、かくもつまらなくする愚者としての天才。彼の講義は開始10分から起きているのは私とダフネ、かろうじて意識を保つマルフォイ、私の隣に座ったばっかりに眠ろうとするたび、私に小突かれ、眠るに眠れないザビニの四人になった。なるほど。いろんな意味で死んではいるな。御救いを。そう思いつつ、羊皮紙に教授の内容をメモするのではなく、自分なりの解釈と教授の考え、かねてからの書き込みを頼りにして進める。こうして大体ほぼ合計90分は生徒の睡眠時間に費やされたといえる。終わったころには学問を馬鹿にするのに十分な不埒なこの輩の件は十分にダンブルドアに直訴すべきに値すると私は考える始末であった。クラスが終わると寝不足気味になっているザビニがやや怒った様子で私に話しかけてきた。

 

「なぜ眠らせてくれないんだい?」

 

 理由は簡単だ。私は向き直って答えた。

 

「といいますのも、舟をこがれると集中できませんので。今後、私の隣に立つようであれば……誰であっても強制的に起こすことでしょうな。では、よい日を」

 

 それだけの理由で?そう訴えるザビニを私は無視してカバンをもって大広間へ消えていった。

 スリザリンの昼食会場は主に二つの人種に分類されうる様相を呈していた。つまりは、眠気に耐えてまでノートをとっていた少数派と眠気に屈服し十二分に睡眠をとってすっきりとした集団である。私はあのビンズ教授の声のおかげでだいぶ頭が“ぐわん、ぐわん”と鐘が鳴り続けているかのようで、目の前に置かれたローストビーフとポンフリッツ、ズッキーニのソテーに口をつける気にはならなかったが、ここで朝食時は口を開かなかったワトソンが私に助言をした。

 

「何か口に入れろ。次の時間ではもっとエネルギーを使うぞ」

 

 私は言われるがまま、口に食材を押し込んだ。味も良かったおかげであまり苦にはならなかったが、十分に食べることはできなかった。というのもフォークとナイフを大体4回動かすころには時間だ!との声が聞こえ、私はもう一度カバンをもって別の教室に移動せねばならなかったのだ。途中五人が迷ってしまい、マルフォイと私は脱落者を見つける羽目になったが。

 

 本当に魔法を使う授業、実践的なフィリウス・フリットウィック教授の最初の授業は、多くの学生たちにとって事実上の1限であった。私たち生徒一同は食事を終えるとカバンを持って、教室に移動した。初めての授業はどのように行われるのだろうか。それにはきわめて関心があった。教授は極めて小柄な人物であり、私たちが席に着くころにはおびただしい数の本の上に立って、私たちと、極力(身長の関係上も含めて)対等な形で話すべく、努力したのち、授業についての演説を行った。

 

「皆様『妖精の魔法』の講座へようこそ!この授業はいわば呪文学の入門です。そのため、この授業ではよく杖を使います。そして魔法を使います例えばこのように」

 

 そう言って教授は杖を一振りして花束を座っている私たちの前に出現させた。青と紫のヤグルマギクの花束、チョコレートが生徒たちに配られる。私たちは思わず息をのんだ。

 

 なんだかおもしろそうな人だ。 という点で私たちの考えは一致した。

 

「まずは皆さん。ご入学おめでとうございます。皆さま。楽しんでいきましょう。つまらない授業であってはなりません。すべては面白くなくては」

 

 そう言って教授は教科書を開くように指示した。

 彼の教え方は模範的教師そのもので、わからないところがあれば、それを、丁寧に冗談を交えつつ、落ち着いて魔法を展開させ、多くの生徒たちを成功へと導いた。わかりやすさと面白さがモットーだと聞いたことがあるが、それは大当たりだったといえるだろう。

 

「では、君の番です」

 

 私は杖を振って、目標物を移動させる呪文を成功させた。ところが、予想外の結果も巻き起こした。つまり、ある程度完成されていた呪文は近くにあったグラスに入っていた水をラム酒に変えたのだ。私はやや呆然とした。この呪文に、このような効果が付随していたのか?

 フリットウィック教授は驚いた顔をしてグラスを見ていたが、やがて満面の笑みを浮かべて私をほめた。

 

「すばらしい!フォン・ピュックラー君。この呪文はこの効果も持ち得るのですよ。けれども、その力を引き出すことは大人ですら難しい。けれども君はやってのけた!これを評してスリザリンに10点」

 

 拍手が巻き起こる。私はやや顔を赤らめた。褒められることにはなれていない。

 

「それと、お菓子をどうぞ。おめでとう」

 

 教授はお菓子の入った袋を渡した。周りの生徒たちも成功するたびにお菓子や称賛の言葉を与えていた。素敵な先生ではないか。

 

 誰もが喜んで授業を受けていた。こうして妖精の魔法の時間はめでたく幕を閉じた。たぶん、今後とも我々はこの授業を楽しんでいくことであろう。それに、次の厳格極まりない時間を考えるとこの授業はこの曜日で最も面白いものであるといえた。

 授業が終わると私たちは教授に別れを告げた。教授も親切な顔で私たちを送り出していった。

 

「素敵な方ですね」

 

 私はそうダフネに言った。するとダフネの隣にいたマルフォイがやや笑いつつ私に言った。

「父上によれば昔は決闘好きで知られたそうだよ。今でこそ丸くなっているがね」

 

「えっ」

 

 今日一番の驚きである。彼が昔は好戦的だったとは。時間があそこまで人を変えてしまうのは奇妙なことである。

「今からは想像もできませんね」

「まあね」

 

 そうこうはなしているうちに私たちは『変身術』の教室にたどり着いた。マクゴナガル教授は背筋をピンと伸ばして立っていた。私たちは先頭の列に陣取った。

 

「『変身術』の授業です。間違いありませんね?」

 

 私たちはうなずいた。この人物に逆らってはならないと、本能的にそう感じる。しかして、それは正しい。

「いかなる寮にも、同様に言っていることですが、この授業は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で、もっとも複雑かつ危険なものの一つです。それ故、生半可な気持ちで臨むものに、この授業で与えられる知識を私は授けるつもりはありません。もし、この中でそう言った嘆かわしいものがいれば、私はそうしたものを出ていかせ、二度と受けることができないようにしましょう。助言ではありません。警告です」

 

 “学べ、さもなくば、去れ” という言葉を地でいく人物だ。クラスの全員がそう確信し、目配せで注意するようにと伝える。

「しかし、この学問を修めた暁には、世に言う奇跡は可能となるでしょう。例えば、このように」

 

 そう言って教授は教授たちの腰かける椅子を杖で少したたいて見せた。椅子は少しばかり身じろぎした後、つがいのフラミンゴになった。フラミンゴは私たちを見て、一礼をした。そして、教授が杖を再び降ると、元の椅子に戻った。ほんの数秒の出来事だったが、インパクトは十分だった。見事な手際に全員が思わずくぎ付けになる。拍手も起きた。

 私は茫然と見ていたが、おそらく、ああしたことを平然とやってのけるには間違いなく、長年の努力もしくは膨大な魔力が必要だと思った。しかしてそれは正しい。

 

「魔法の神髄の一つゆえにこれは難しいのです。その真理に到達するには、険しい山を登らねばなりません。まずは、その一歩を踏み出すとしましょう」

 

 そう言って教授は黒板を示した。チョークが自動的に動いて最後の式を書ききるところだった。正面から見て、絶句した。

 黒板には膨大な数の公式と、その理論への理屈付けが書かれている。まさか、あれを書き取るのか?

 

 羽ペンでは間に合うまい。そう思い、シャープペンシルを出し(スリザリン生は皆驚いたが教授も驚いた)これまでにないくらいのスピードで書き取った。そして、書いていたところ、発見があった。あきれるほど長い公式、理論は書き取るうちにその意味を見せていく。そうか、わかりやすくなっているのか。書き取るということを除けば、難しいことではなかった。単純に難しく、教科書ならば2、3行で済ますところを、わかりやすい言葉を用いているために、倍近い分量になるだけだ。教授の持つやさしさは各人によってさまざまだ。マクゴナガル教授の場合はこの論理と式に出る。

 案の定書き取りは早く、クラスで最初に終わった。隣ではダフネが黒板を時折見てはため息をついて後半に入っている。マルフォイも同じ様子。私は教科書と辞典を開いて公式を確認した。間違いはない。しばらくして全員の書き取りが終わった。教授はさっそくマッチ棒を各人のテーブルに取り出す。その瞬間、羊皮紙に書き取った公式の意味を再び思い出す。内容を簡潔にまとめれば

 ―― 物体AをBに変換する。とすれば、実践か。

 

「では皆さま、このマッチ棒を針に変えていただけますか?」

 

 思った通りだった。その言葉とともに、周りが一斉に杖を取り出して、書き取りに疲れた連中も、嬉々として、呪文を試みる。私も杖を取り出す。頭で式を組み立て、集中する。どうするべきなのかは頭に思い浮かぶ。

 やってみよう。失敗してもいいだろう。はじめてのことはいつも難しいのだから。私はそう思って呪文を唱えた。すると、杖はどことなく、喜んだ様子だった。その瞬間、一瞬にしてマッチ棒は銀色の針に変わった。

 おお、やったぞ。私はひとりで少しばかり喜んだ。そして、周りが見ていなかったので、試しに針のとがっていない部分に呪文を唱えて真鍮製の針穴を作ってみた。銀と金の色の割合がとてもいい。と自己満足をしているところ、教授がやってきて驚いた顔で私を見た。まずいことをやっただろうか。装飾を施すなどといった指導内容は入っていなかったので、怒りを買ったかもしれない。出過ぎた真似をしてしまったと、内心、青ざめていると反応はその逆だった。

 

「すばらしい!」

 

 あれ、意外といい反応だ。

 

「針に装飾を付けるなど今まで数えるほどしかいませんでした。スリザリンに15点。ミスター・ピュックラー、頑張って下さい」

 

 その後も授業は続いたが、どうも周りは針に変えることは最後までできなかったようだ。あのダフネもマルフォイもできないのだから、きっと私は運がよかったのだ。とにかく、『変身術』の時間はスリザリンに15点加点という幸先のいいスタートを切った。

 今のところ、私はついている。

 

 やがて、時間となり、教授は私たちに対して、教科書を参考に、〈変身術についての論理付けによる応用〉というレポートを課す。

 皆が寮へと移動する。月曜日はこれで終わり。こうして、初めてとなる授業が終了する。レポートは今週の金曜日にある『変身術』の時間に提出とのことだった。初の課題にして、結構な量である。閉口しつつも、談話室で片付けようと思いながら、合言葉を言って中へ入っていった。

 緑色の柔らかい光が私を包み込んだ。ただいま。

 

 




 タイトルの Aller Anfang ist schwer とは『物事の初めは常に難しい』という意味のことわざです。
 去年の春を思い出します。
 
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