闇の勧誘
闇の勧誘
「…ここは、どこだ?」
確か俺はアルバイトへ向かう途中に見つけた、最近話題の美少女のフィギュアを見つけて…
フリルがついた3人組のアイドルのような人形が浮かべる笑顔にだんだん腹が立ってきて…
気がつくと真っ暗な世界に一人たたずんでいたのだ。
見渡す限り一筋の光も見えない、自分が目を閉じているのかも疑いたくなる完璧な闇。
こんな所が地球上に有るのだろうか、だがどことなくこの場所が心地よく思う自分もいた。
全てを塗りつぶしてくれそうな黒は、眩しすぎる光よりは、まだ見ることが出きる。
小学校、中学校、高校、と虐めに合いしたいことも出来ず、誰も助けてくれなかった人生に比べれば、闇もまた明るく見える。
自分にとって闇、つまり何者も見えない場所は自信の抱える心にのみあると俺は考えている。
中二病を語っているのではない、誰にもみせられない意味での闇、忌みなる意味だ。
「そんなお前に、頼みがある」
そんな過去を考えていた時、不意にどこからかノイズで聞き取りづらい声が聞こえてきた。
拡声器でしゃべっているかのような、遠くから聞こえる声は、何故か聞かなければならない気がした。
「誰なんだ、お前は…此処は何処なんだ!」
「此処はデッドキングダム、悲しみより生まれし闇が集う場所。
我が輩は、[マスター]この世界全てを悲しみに染めるものだ…」
そう言った声は、どことなく哀愁を帯びていて、聞いている方も悲しくなりそうだった。
だが、いくら俺が現実逃避をしていたとは言ってもこんな与太話を信じる訳がない。
確かにこの暗闇の世界は、今の所説明出来ないものではあるが、それとこれとは別だ。
デッドキングダム、マスター、だと?
俺をからかうのもいい加減にしてほしい、大方どこかで俺の反応を見て楽しんでいるのだろう。
「いや遠慮しておきます、下手なセールスには僕は引っかかりたくないんで」
対人用の一人称は僕、無闇に敵を作らずに生きる術の一つだ。
頭を下げて如何にもゴマをすっていますと言うように俺が、笑いながら断ると、今度は声の主は面白そうに鼻で笑ったのだ。
別に俺の笑い声に乗せられては笑ったという感じではない、俺の態度を見て笑ったという風だった。
「ハハハッ、其処まで卑屈な人間も珍しいな、実に悲しいよ。
だが、その自分の抱える悲しみをそのままにしておいては良くない」
声の主は一回の拒絶で諦める人間ではないらしい、声は悲しそうなのに、態度は傲慢といった、ちぐはぐな話術で俺を落とそうとする。
まあ、落としたところでこの声の主と何をするのか、という話であるが、怪しい話には乗らないに限る。
「内場 呼守(うちば こもる)…」
「なっ、何で俺の名前を」
「ハハハッ、素が出たな。
名前など知っているよ、当然のことだ、我がデッドキングダムに勧誘するのならば必要な情報は抑えていないとな」
どうやら予め俺の情報を調べてきた上でのコンタクトらしい、相手の態度を考えると既に住所や親戚関係までも把握していると見ても良いだろう。
この勧誘とかいうのは、適当にやっているのでなく本気の交渉と言うことだ。
「お前は、俺に何をして欲しいんだ、内容によるぞ、それと真面目に答えてもらおうか」
「ふむ、お前…いや内場君にはある世界を悲しませて欲しいのだ」
「はあ?」
こいつは何を言っているんだ、悲しませるだと?
世界というのは国ということかもしれないが、悲しませるというのが理解できない。
俺個人に出きる悲しみを生むことと言えば、誰かの嫌がることをするとかしかない。
それでは規模が世界ではないだろうし、ならばサイバーテロと考えたが普通の大学を出た俺にインターネットの特別な知識はない。
「なら無理だな、俺はお前の言う悲しみだとかを世界にばらまくことは出来ない、物理的に無理だ」
と言うか誰にも一個人では実行不可能な事だろう。
それに俺は莫大な資産を持っている御曹司の息子と言うわけでもない。
何かを期待しているようだが、俺は殺しとか言う足が着きやすい手段を軽々しくとれるような人間でもないのだ。
「それにな、そんな風に姿を見せないのが人にものを頼むときの態度かって言うんだよ。
何かを頼むときは、相手の目を見てお願いしますって言うのが筋じゃないのか?」
「ハハハッ、実に悲しいな君はこんな時にまで自分の理想を他人に押しつけるとは…
良かろう、見せてやる、驚くなよ我が輩の姿に」
声に急にノイズが消えて、どこから喋っているか実体がつかめ始めた。
拡声器で離すのをやめた声の主が一歩ずつ近づいてくる音が、前から聞こえてくる。
「フハッ、闇は良い我が輩の悲しい姿を見えなくしてくれる。
…だが、勧誘に置いては邪魔になるようだ、消えろ!」
風を聞る音が聞こえ闇だと思われていた前に僅かな光が射し込め、巨大な鎧を来た大男の姿が浮かび上がった。
「これは…」
有り得ない、鎧の大きさもそうだが、一番有り得ないのが顔を含めた身体の大きさ。
ロボット、サイボーグというSFに類するような強靭な金属加工をされた肉体は、黒く怪しく光っている。
俺は夢を見ているのか、夢ならば納得がいかないものはないが、どうしても今この光景が夢とは思えない。
有り得なくて、非現実的過ぎるのだが、それが有り得ていると思う心の矛盾。
「どうだ、我が輩が嘘をついているわけではないということがお前にもわかっただろう?」
「あ、ああ…」
こんな姿を見せられてしまったら、信じるしかない。
トリックや催眠術では説明がつかないところにこのマスターという男は立っているのだ。
「もう一度聞く、ある世界を悲しみに沈める計画をやってくれるかい?」
ろくな事のない人生だった俺は、またどうせ下らない毎日を送るのだろう。
食って、寝て、起きて、そして死んでいくという平凡…それ以下の暮らしをしていくのだ。
…なら、世界を悲しみに沈めるという計画に乗ってやっても良いんじゃないか?
どうせ死ぬなら、良いことでも悪いことでもやって間違いは無いはずだ。
それに世界という規模でも、この男となら出きる。
そんな漠然とした確信がこの男から湧き出ているのだ、世界を悲しませる。
大いに結構!
「良いぞ、乗ってやる…どこへなりとも俺を連れて行ってくれ」
これが俺と、後に世界を大混乱に陥れるデッドキングダム、マスターとの初めての出会いだった。