「…ではあなたはこれくらいの小さなぬいぐるみのような生き物を探しているんですね?」
矢張り真実を言っても信用してもらえそうになかったので、むしろふざけていると怒られそうだったので、俺は妖精の特徴だけを彼女に話すことにした。
人型でなかっただけ、○○に似た生物…という聞き方が出来る。
彼女はウサギかそれに類するものの何かを俺が探していると思ってくれたようだ。
…妖精って一体何なのだろう、俺には不思議な生き物だと言うことしかわからない。
乙女チックな表現をするなら、光の力が意識を持った奇跡の生き物…なのだろうか。
「あの、そう言う生き物なら私見たことあるかもしれません…」
何やらとても言いにくそうに、言葉を選んで話す女の子。
大方、可愛い小動物を近所出見つけて遊んでいたら、飼い主がいた!?
という心境なのだろう。
安心しろ、そういう普通の小動物を探しているわけではない、と言ってあげたいが、それをしてしまうとなら何を探しているのかという話題に戻ってしまう。
腕組みをしてひとしきりその問題に唸っていた俺は、一応確認はしておいた方が良いと思い直し女の子にその生き物が目撃された場所を聞いてみた。
「それが、その…私の家なんですよ、ですからえっと」
「失礼、内場、呼守だこの辺に住んでいる大学生で、ある子の家庭教師をしている」
「あ、私は雪城ほのかと言います、あのその生き物の事なんですけど、何か事情って知ってますか?」
お互いに名前を名乗ってから、雪城は何か意味深な事を聞いてきた。
回答次第では俺に生き物を会わせないと言うような、回りくどくそれでいて有無を言わせない質問。
事情、この場合はその小動物は何かしらの事情を持っていて、飼い主ならばそれとわかるかと試しているのかとも思った。
だが、その推測はおそらく間違っている。
これは確証はない、俺の変な直感がそう言っているだけだ。
雪城ほのかは、何かを知っていてそれを俺に隠している、重要で重大な光の園に関わる何かを…
「事情かどうかは知らないけど、その生き物は何でも2人いるんだ。
2人でいて、ある石を持っている」
これだけ言えば、事情とやらを知っている人間には伝わるだろう。
案の定、雪城の顔が驚愕に染まり俺の手を握ってきた。
「教えてください、あなたはメップルを知っているんですか?」
雪城は黒だったようだ、いやイメージでいえば白なのだが、これは比喩である。
妖精の名前、それも俺が光の園で唯一名前を聞くことが出来た妖精の名を知っている。
偶然という線も少なからずあるが、余りにも共通点が多すぎるのだ。
「ああ、知っている。クイーンの願いを受けたその2人の妖精の事は」
だから俺は全てを話した、俺の鎧や悲しみが出た部分は省いて、クイーンとの約束の部分だけを掻い摘んで。
俺の話を聞き終えた雪城は、肩の荷が降りたすっきりとした表情で笑い、俺に放課後同じ場所で待っているようにと約束をして学校へと歩いていった。
俺と違い、用事を理由に学業をサボったりしないところは、優等生だなと実感する。
俺も昔はこんな風に真面目に学校生活を送っていれば…いや無理か。
あの子には虐められている気配が無い、そもそもの意味から俺とは違う所にいるのだ。
「放課後までどうやって時間つぶそうか、その辺をぶらぶらと散歩でもしようかな」
腕時計をつけていないので、一度どこかのコンビニによって時間を見てみようとした。
また暫くあたりをうろついて居ると、今度はコンビニではなく大きなデパートの前に出てしまった。
7階までありそうな巨大な建造物は、不敵に俺を見下ろしている。
セールをやっているのか、安売りと大きくかかれた紙が至る所に張られていた。
「丁度良いな、買い物していくか」
一人暮らしだからと言って、良いことは一つもない。
食生活をきちんと管理しておかなければ、あっと言う間に財産を使い切ってしまう。
カップラーメンで事を済まそうとするのは一人暮らし初心者のやることだ、あれは一つでも十分値が張る。
1食だけカップラーメンに頼るのなら出費も少ないが、毎日となると頭が痛くなる計算だ。
だからこそ俺は、デパートの食品売場で安売り品を探し、「多い、安い、新鮮」の三拍子揃った食材を探していく。
献立は決めてから行くのではなく、その時の安い野菜で決まる。
「ふむ、今日はナスが安いのか、それなら麻婆茄子にしようか」
茄子が袋に詰められて5本で80円、安売りと言っても破格の値段である。
俺以外にもその貴重さを知っている人は居るようで、献立を考えるわずがな時間でも茄子は、その数を減らしていった。
バーゲンセールは戦場だという言葉を聞いたことがないだろうか、野菜の大安売りも例外ではない。
安く鮮度の良い野菜を見分ける鷹の目を持つ主婦は、素早く獲物をかっさらっていくのだ。
気付けば茄子は最後の一袋にまで減っていて、これはまずいと思い、慌てて茄子の袋を掴んだ。
だが、茄子は動かなかった、否…俺とほぼ同時に茄子の袋を掴んだ奴が居たのだ。
「……」
睨み合う俺と、金髪の男性…
中年と呼べる年の男は、黒いスーツを着て如何にも仕事帰りに立ち寄ったという体である。
ワックスを塗っているのか、ただでさえ短い髪は小さくまとまって蛍光灯の光を反射している。
この人も一人暮らしか、もしくは奥さんが怖いのか。
「あの、どうぞ…」
金髪の男から漂う哀愁に負けて、俺は折角手に取った野菜を手放したが、後悔はしていなかった。
にこやかに笑った男の雰囲気がとても嬉しそうで、どうでも良くなってしまったからだ。
人から礼を言われることが、これほど暖かく感じるのは、クイーンのお陰なのか、それとも俺自身の変化なのか。
「すいませんね、ありがとう。
こうでもしてセール品を狙わないと、給料が少ないからね…
昔は結構良い管理職だったんだけど、あの5人がどうもねじゃまをしてくれちゃって…」
茄子を大事そうに抱き締めながら、金髪の男はいそいそとレジへと向かっていった。
目が狐のようにつり上がった独特の雰囲気を持つ彼も、仕事で苦労しているのか。
最近就職率が下がってきたと話題になっていたが、目の前にその事例を見て俺は、漠然とした将来に不安を覚えるのだった。
「マスターなら、人を悲しくさせるあの人ならこの世界を変えてくれるのだろうか…」