SIDE 雪城ほのか
今日は不思議な出会いがあった、数日前にお家の倉の中でミップルを見つけた時もびっくりしたけど、それよりももっと驚いてしまった。
朝私が学院へと向かうときに歩いていたときに出会ったのは、何かを探している困り顔の男性。
白髪混じりの黒い髪を耳元まで伸ばした彼は、あろう事か道路の溝まで探し始めてしまった。
いくら探し物が大事なものでも、そんな探し方をしていたら周りに変な目で見られてしまう。
それとなく聡そうとした私は、この可哀想な男の人の大切なものを探すのを手伝おうと思った。
話している内に気が付いた、彼の心は私達とは違う、冷たい…悲しいものがあると。
見ていられなかった、溢れる哀愁というのか、彼から滲む悲しさは、私まで悲しくなってしまいそうな程強かったから。
手伝いましょうか、と聞いたときの彼の反応はとても面白く、目線をあちこちに移動させて挙動が不審すぎた。
人にいえない秘密を落としてしまったのだろうか、なら私は手伝うことが出来ない。
私はこの男の人とは他人、いくら放っておけない悲しさが出ていても、図々しく関わる権利は無いのだから。
手伝いを諦めて、探し方を注意しようとした頃に、彼は私に思いがけない事を聞いてきたのだった。
小さな生き物、それも普通じゃない生き物を知っているか…
私にはミップルという心当たりが有りすぎて、多分顔に出てしまっていたのだろう。
彼は表情を一転させて、鋭い目つきになって私を睨んできた。
怖かった、でも…ミップルの事を簡単に喋ってしまうのは、駄目だと解っている。
あの子は何かから終われてこの世界?へと逃げて来たらしいから。
もし、この男の人がそのミップルを追ってきた敵だったら、ミップルが傷つけられてしまう。
唾を飲み込んで気を引き締めた私は、そこで決めた。
私の態度から、男の人は私がミップルと通じていると感づいてしまった。
なら…私は確認だけしてから、逃げればいい。
探るように私を捉えて離さない目線を送る彼から逃げ切れる自身はない、そもそも大人と中学生では超えられない体力の壁がある。
だから、私はわかりずらく…でも事情を知っているのなら必ずわかるように質問をした。
「事情かどうかは知らないけど、その生き物は二人いるんだ」
ミップルはメップルというもう1人の妖精と一緒にいたのにはぐれてしまったらしい。
この回答に私は確信した、彼は敵か見方か解らないけれど、ミップルに関わる何かを知っているのだと…
でも、ミップルは私の家にいる、彼を案内するにしても、敵なら危険すぎる。
私は結論を先延ばしする事にして、学院へ行くと言い、放課後までに待って貰うという約束をつけた。
考えなければいけない、僅かな情報から彼が見方なのか敵なのか。
どちらにしても彼という人間を放置しておくことが、この上なくリスクが高いと気づいていた。
「そうか、なら放課後また…済まない急に押し掛けて失礼だった」
思った以上にあっさりと彼は納得してくれて、私は彼と別れて学院に向かった。
遅れた時間を取り戻しす為に少し走って校門へとたどり着くと、丁度予鈴が鳴った後だった。
つまりHLが始まるまで後10分という危ない時間帯。
それ程、私は彼との話に時間をかけてしまっていたのだろうか?
小走りに移動して下駄箱に行くと、3人の女の子達が並んで歩いている姿が目に入った。
目を引いたのは、3人ともがテニスのラケットの柄を伸ばしたようなラクロスというスポーツに使われる道具を持っていたから。
「ねえねえ、昨日の流れ星見た?」
一番左にいた赤茶色の髪を前で切りそろえた女の子が話し出す。
そう言えば最近、流れ星が多いと新聞にも書いてあったと思い返す。
「みたみた、凄かったよね~」
それに背の高めの後ろで髪を結んだ子が答え、話題は願い事は何にしたかという話に変わっていく。
私は特に興味もわかず、直ぐに教室へ向かおうとした、でも背の高めの子の言葉に足が止まってしまう。
「でも…流れ星って不吉の象徴でもあるんだって~」
意外に知識人なのか、彼女は少し眉をひそめる。
この流れ星が多い状況が何か、恐ろしいことの前触れではないのか?と言いたいのだろう。
…そんな考え方は寂しいな、考えた私はもう口に出していた。
「そんなこと無いわよ」
「…雪代さん?」
「流れ星って言うのは宇宙を漂っている小さな星屑なの、地球の重力に引っ張られて上空100kmくらいかで大気の摩擦で発光する事。
昔の人はそんな不思議な光景を見て流れ星に願い事を託したんだと思うの。
でもその方が不吉なことを考えるより、良いんじゃない?
きっと良いことが起こるよ」
そう、私も今日は流れ星に願い事をしてみようかな、彼の正体がわかりますようにと。
「それじゃ…」
「おお、雪城さんて博学?」
教室に向かって歩き出した私の後ろからそんな言葉が聞こえてくる、悪目立ちしたかとも思ったがそうでもなかったみたいだった。
教室へと入ってしばらくするとHRが始まり、数学の授業が始まった。
「…じゃあこの問題、美墨、答えて見ろ」
「はっ、はいっ」
おかっぱ頭の細長い痩せ形の先生が指したのは、美墨と言う女の子だった。
妙にはきはきとした声に聞き覚えがあったので、声の主に方を向いてみると、彼女はさっき会った3人組の1人。
茶髪の髪をかき乱しながら必死に教科書と黒板を交互に見る彼女は、よほど動揺しているのか、汗までかいている。
「あれ…そう言えばここ内場さんに予習しとけって言われたとこじゃん…
うあああ、言うこと聞いとけば良かった~」
ぶつぶつ小さく良いながら美墨さんは、先生に恥ずかしそうに解けませんと答えた。
「なんだ美墨、こんな問題も解けんのか…」
呆れたように美墨さんを見る先生。
でも私は何か問題に違和感を感じていた、おかしい…あの問題の公式はどう頑張っても答えが出ないようになっている。
…いやいや、答えは出るのだけれど、出る答えは有り得ない。
「どうした美墨、もう2年生なんだから、解けでも良いはずだろう!」
「先生、その問題は解けません」
端的に先生の講義に抗議をしたつもりなのに、先生や美墨さんは私の言葉を誤解してしまったようだった。
「なんだ雪城、美墨の頭じゃこの問題は解けっこ無いって言うのか?」
こういう発想にたどり着く先生も意地が悪い、あと美墨さんまで口でカチンと言わなくても良いのに…
「いえ、その問題、答えがおかしくなります…実際は…の間違い出はないですか?」
「む…あ、そうだな、以後気をつけます」
指摘した場所を先生は教師用の教科書と比較して、失敗に気が付いたらしい。
私に対して頭を下げた先生は、直ぐに黒板に問題を書き直して、授業は再会された。
「あ、雪城さん、さっきは…どうも」
「いいえ~」
授業終わり、美墨さんがお礼を言ってくれたのが嬉しくて、私は照れ隠しで軽く会釈してその場から離れてしまった。
それから何事もなく他の授業も終わって、一段落付いた昼休み、事件は起きてしまった。
私の友人の3人と机を囲んでお弁当を食べていると見慣れない男の人が教室には行ってきた。
皆はイケメンだとか、見かけない先生だねと話していたけど、私には彼の顔は見覚えがあった。
今朝登校するときにあった、冷たい悲しそうな気配を漂わせている、妖精を探していた人。
その人があの時の格好のままに教室の入り口に立っていた。
「え、どうして…ここ学院内ですよ?」
先生の顔は大体知っているので、この人が先生だと言うことはない。
だからと言って教育実習の先生という可能性も無い、教育実習は今週ではなくもっと先にある予定だから。
じゃあ不法侵入?
「内場さん、どうして…ここ学校ですよ?」
「なになに、ほのかの知り合い?」
突然現れた美形の男性と私が繋がっているという事実に、私以外の女子生徒数人が興味を示した。
あまりこういうことで目立ちたくない、噂の種にされるのは嫌だ。
週に一回は男の人に告白される私は、変な噂が立たないように相手にも気を使ってやんわりと断っている。
「状況が変わった…」
そう言って私の手を取った内場さんは、真剣な顔でどこかを見据えているようだった。