ふたりはプリキュア ダークサイド仮   作:スマート

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家庭教師で悲しむ

次の日、俺は隣の家に居る1人の家庭教師を待っている子供の家のチャイムを押していた。

 

家と言ってもアパートという一つ集団なので、あまり気負う必要は無いのだが、人好き合いが余り得意と言う方でない俺としては緊張してしまう。

 

そんな俺がどういう経緯で家庭教師に選ばれたのかと言えば、この家の子供が学校へ通っている途中に俺にぶつかってきたのだ。

 

部活動の帰りだったのか、疲れていたのかはわからないが、急いで家に帰ろうとしていた子供の持っていた、網目のついた細いテニスラケットのようなものが俺の顔面を捉えて、そのままぶつかってきたのだ。

 

子共…中学生にしては早めの速度での体当たりじみたアタックだったので、尻餅をついてしまったのだ。

 

今思い返しても恥ずかしい。

 

中学生に突っ込まれて尻餅をつく大学生と言う図は、もう動画サイトに投稿しても良いほど笑いがとれる光景だったことだろう。

 

そして痛む尻と顔を抑えて立ち上がると、その子供が申し訳無さそうな顔で謝ってくる。

 

其処までは恥ずかしい思いを無くせば、どこにでもある平凡な日常風景と言っても良い。

 

問題というか本題はそこからだった。

 

家に来いと言うのだ、いやその子供の気持ちになって考えれば、其処まで俺は細そうに見えたのか。

 

怪我…というか打撲を治すために、子供の気がすまないという気持ちを晴らすために、渋々家に向かったのだった。

 

そこで俺の家が隣だという奇妙な偶然につながり、俺が大学生だという理由から勉強嫌いの子供の家庭教師をやってくれないかと、こうなったのだ。

 

「はあっ」

 

チャイムをならすのも気落ちしてしまう。

 

何が悲しくて女子中学生の家に大学生の男子が行かなくてはならないのだろうか。

 

子供の名前は美墨なぎさ、ベローネ学院というなんとも変な名前の学院の女子中等部に在籍しているらしい。

 

スポーツが万能でラクロス部というものに入っているという。

 

ぶつかったとき俺の顔面に当たったあれは、恐らくラクロスで使われるものだと推測する。

 

スポーツが出来て勉強が出来ないのは、その集中力がスポーツの方へ行きすぎているからだろう。

 

まあ、そう言うことは彼女の両親も言っていることだろうし、俺がとやかく言うことではないが。

 

別に俺は中学生の女子を異性として見ているわけではない。

 

だが、俺としては初めての女子の家訪問は同級生で居て欲しかった。

 

そうなのだ、俺は人生20年生きてきて女子の家に行ったことがない。

 

いとこ、親戚の家を入れればギリギリセーフだが、他の同級生はこういうイベントは小学校時代にこなしている。

 

悲しい、悲し過ぎる…

 

「早く出てきて欲しいな」

 

さっきからチャイムを鳴らしているのに一向に出てきてくれる気配がない。

 

中に誰も居ないのかチャイムの音が部屋で虚しく反響するのが聞こえてくる。

 

悲しみで世界が歪みそうな気分だ、これがマスターのいうエネルギーという奴だろうか。

 

いっちょ漫画でよくあるレーザービームでも打ってみようかと思ったが、こんな所でそんな事をすれば痛い人だ。

 

公衆の面前で「はあっ!」なんてやった日には社会的に死ねるだろう。

 

出るともわからないレーザービームを出すよりもまず、しなければならないことがある筈だ。

 

留守なら留守で何か家に報告が来ていないかと、自分の家に戻りかけたとき、慌ただしく駆けてくる足音が耳に聞こえてきた。

 

革靴が廊下の平べったい床を踏む度になる高い音が、段々と近づいてくる。

 

「す、す、すいませーん!」

 

ずざあっとスライディングを決めて、茶髪の物体は俺の前へと滑り込みを決めた。

 

スポーツ万能と言うのも納得がいく、野球では重宝するだろう見事な滑りを見せてくれたのは、件の子供。

 

俺にぶつかり、その後どうしてか家庭教師をやる切っ掛けにして対象である美墨なぎさだった。

 

「はあっ、はあっ、まにあった~」

 

急いで走ってきたのか肩で息をしている彼女は、ベローネ学院独特の赤に近い色のブレザーと青いスカートが少し汚れていた。

 

肩に背負ったサブバックは、振り回しでもしたのか服以上に泥が付いている。

 

勉強嫌いでも家庭教師としてわざわざ来る俺の事を覚えていてくれたのか、その気持ちは素直に有り難い。

 

だが、安心している彼女に俺がいえることと言えば…

 

「アウト」

 

「うえっ!?」

 

床に両手をついてしゃがみこみ息を整えていた美墨に、非情な言葉を投げたと思う。

 

しかし、考えてみて欲しい。

 

人を家に呼んでおいて、家にいないという暴挙を果たして許してしまって良いものかを。

 

家庭教師として呼ばれている以上、学業以外の規律面もしっかり強制していかないと意味がない。

 

勉強が良くできても嫌な奴は腐るほど居る。

 

エリート思考の排他的主義者に始まり、頭の良いとされる人間は殆どが馬鹿を人間と見ないのだ。

 

っと話がそれたが、俺が言いたいのはこの美墨にそんなエリート思考の悲しい人間になって欲しくないと言うことなのだ。

 

スポーツ好きと言うからその可能性は低いだろうが、もしも勉強の楽しさに目覚めたとき変わった世界観に周りを蹴落とすような奴になって欲しくない。

 

だから俺はマナー違反を注意することにした。

 

「人を呼んで来て貰う時に、家にいないのはどういう了見かな?」

 

「あのっ…」

 

美墨は顔を上げるが、何か言い訳を探しているのか目を俺と会わせようとしない。

 

安心するな、俺は心を鬼にしてお前に言い訳などさせてやらない。

 

何事も誠心誠意謝ってから言い訳とはするものだ。

 

 

 

「お前が学校へ行って部活動や学業で遅くなったというのだろう。

 

それは見たらわかる、だが僕との待ち合わせが合ったのに関わらず学業はともかく部活動をするというのはどうだろう。

 

いや、大会が明日にでも差し迫っているという理由なんかが合ったとしてもだ。

 

僕にその旨を報告して時間なり、日時なりをずらす事をしなかったという点において、お前は会社で言えばクビになるような事をしているのだと言うことをわかって貰おうか」

 

あれ、何か言い過ぎた気がする。

 

思った事をそのまま言っただけだが、如何せん中学生に会社の事を持ち出すのは早すぎたか。

 

「す、すいませんでした…」

 

少し涙目になっているのを見るに言い過ぎだったようだ、次からは上手くしよう…反省。

 

「いや、理解してくれたのなら良い。

次からはこんな事をしないと約束してくれるのなら、僕は許そう」

 

しゃがんで肩を優しくたたき、手を持ってそっと美墨を立たせる。

 

涙目はまだ直っていなかったが、俺の言いたいことは伝わったようで笑顔で約束してくれた。

 

大きい声で指切りげんまんをされ、アパートの住人の注意を引きそうになったのは余談である。

 

 

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