ふたりはプリキュア ダークサイド仮   作:スマート

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悪王の使者で悲しむ

あの家庭教師の出来事から2日後、結局美墨の勉強嫌いを完全には克服させられなかった。

 

約1時間、長くても1時間半が彼女の集中力の限界らしい。

 

机に突っ伏してショートした頭を抱える姿は、同情するものがあったが、俺としてもプライドがあるので、はいそうですかと休ませる訳にはいかない。

 

昨日は夜遅くまで勉強を教えていたということで、両親に夕食をご馳走になってしまった。

 

弟も居たようで、美墨と共に勉強を教えてくれという話が両親から持ち上がると、如何にも嫌そうに首を振るのだった。

 

「ふうっ、今日は此処まで…それじゃ僕はそろそろ帰るよ」

 

夕食をそう何度もご馳走になるわけにはいかないので、今日は少し早めに勉強を終える。

 

ノルマはこなしていたので、明日の勉強が増えると言うこともない。

 

「ありがとうございますっ、えっと…今日は食べていかないんですか?」

 

開いていたノートを閉じて、勉強が終わった開放感に息を付く美墨は、活発さ溢れる笑みで俺に聞いてきた。

 

元気いっぱいな彼女のテンションには、少し気後れするというか疲れるときがある。

 

「いや、今日は止めておくよ、君のご両親にも悪いしね。

そうそう、今日やった勉強は今度の授業で絶対にやると思うから、予習しておくように」

 

そういい残して机から離れて、部屋の扉を開ける。

 

ここ2日間で美墨の部屋に入るのも随分と慣れてしまったものだ。

 

「ありがとうございました!」

 

玄関先に出て帰ろうときびすを返すと、後ろから大きな声で美墨が礼を言ってきた。

 

だから近所迷惑と言うか、前回の俺の災難も含めて、もっと気を使って欲しい。

 

これでまた警察に連れて行かれそうになったら悲しすぎて溶けて消えてしまいそうだ。

 

礼には手を振って答え、家に戻ると安売りの時に買い溜めしておいた卵を二つ掴んでフライパンに入れた。

 

目玉焼きと冷凍しておいたおにぎりが今日の夕飯、アルバイト生活の大学生は食生活にも制限をかけなければいけないのだ。

 

「お兄さん内場呼守であってますか?」

 

リビングに皿を持って行き、醤油とソースを手に持ってどちらをかけるか悩んでいると、後ろから高い少年のような声が聞こえてきた。

 

この俺の家には、一人暮らしで誰にも居候を許した覚えはない。

 

にも関わらず少年の声が聞こえるというのは、不法侵入だろうか、近頃のガキはエチケットさえも無いのか。

 

不信に思うよりも不快に思った俺は、後ろを振り返って、不法侵入者の顔を拝んでやった。

 

「ああ、僕が内場呼守だけど、君は誰だい?

チャイムも押さずに勝手に人の家に入ってくるのは犯罪だと習わなかったのかな

 

異様に白い肌をした、濃い緑色の髪を耳を覆う長さで切っている少年は、俺の話をうるさそうにしかめっ面をして聞いていた。

 

細い切れ長の目は、何かを狙う獣の目に見えなくもない。

 

普通のどこにでも行る少年とは違うという独特な雰囲気が彼から漏れ出していた。

 

オレンジ色のTシャツと黒い短パンは、その威圧感を相殺しているような、酷く滑稽なものだった。

 

「私は、キリヤ…内場さん、ジャァクキング…ドツクゾーンのボスがあなたを待っています」

 

薄ら笑いを浮かべたキリヤと名乗った少年は、俺に向かって手を差し伸べた。

 

来いと言うことらしい。

 

とうとうマスターのいう光の園への進行が始まるのだろう。

 

面白い、だが、俺が従うことを決めたのはマスターのみ、いくらジャァクキングと言うのが強くても、俺は絶対に従わない。

 

…それに、こんな小さな少年の躾がなっていない所のボスになど会っても何も得られるものはないだろう。

 

「嫌だね」

 

「えっ…何故ですか?」

 

俺がキリヤの手を押し返してしまうと、ここへ来て初めて戸惑ったように目を見開いた。

 

彼としては、俺は直ぐに手を取ってジャァクキングの元へと行くと考えていたのだろう。

 

「ジャァクキング様を裏切ると言うのですか?」

 

俺から一歩距離をとると殺気を溢れさせ、柔術のような構えをとる。

 

返答次第では殺すという警告のつもり何だろうが、生憎マナーのなっていない人にそんな警告をされても俺は痛くも痒くもないのだ。

 

「いや、俺は最初からそんな奴には従っていない。

俺が従うこのはデッドキングダムのマスターただ1人。

その意向に添って俺は動き、光の園を攻める…」

 

「つまり…ジャァクキング様には利害様一致で光の園を共に進行するということですか?」

 

「理解が早くで助かる、キリヤ君…だからさっさと光の園へ連れていけ」

 

こんな小さな少年の殺気に俺の20年培ってきた哀愁漂う殺気が効かないはずがない。

 

じっと相手の目を見つめ、全てを見透かさんとするような余裕の笑みを顔に浮かべられればそれはもう、威圧以外の何者でもない。

 

キリヤは俺の態度に一瞬ひるんだ後、舌打ちして指を鳴らし、人間1人サイズの扉を召喚した。

 

硬い扉のはずなのに、風に揺れるカーテンのような不安定な形を見せる扉。

薄い紫色のその扉は、通る人をあざ笑っているかのような不気味な気配が漂っていた。

 

「これが光の園への通路…内場さん、あなたは人間だ、人間がこの闇の力が宿ったものを使ったとき、二度とあなたは人へ戻れない。

 

それでも良いというのなら、通ってください、ジャァクキング様を蔑ろにしたあなたの命など、私にはとるに足らないものです」

 

キリヤの白い腕が扉のドアノブに伸びって、軽い音とともに扉は向こう側へと通じる口を開けた。

 

黒い歪み、墨汁に波紋が広がったような黒さの所為で先を見ることが出来ない。

 

人間を捨てることになる、そう聞かされても特に考えることはない。

 

そもそも人生の未来を諦めている時点で、俺は人間を捨てているのだ。

 

そして人を止めるというのは、死ではなく生まれ変わりにも等しい現象であろう。

 

俺は沸き立つ好奇心と光の園というまだ見ぬ場所への期待を胸に込めて、ゆっくりとその扉を潜っていった。

 

「…内場呼守、人間の癖に絶望とも言える人外への転生に心が揺らがないなんて、変わった奴だな」

 

 

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