ふたりはプリキュア ダークサイド仮   作:スマート

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悲壮の騎手で悲しむ

「これは…」

 

指の一本一本まで精巧に作り込まれた鎧は、手を動かすという動作も何の負担もなく出来る。

 

重さを感じないと言っていい、この鎧は俺自身であり、俺が作り出した感情が固まったものなのだ。

 

悲しいという感情を体外に押し出したからか、外部からの刺激を鎧が遮断しているのかはわからないが、頭はすっきりとして冷静になっていた。

 

あの塗りつぶされそうな悲しさも、多少は余韻として残っているものの、今は別にどうということはない。

 

だが、俺にはしなければならないことがある。

 

俺を包むこの鎧が、光の園へ対する俺の悲しさなのだとすれば、ミップルという妖精を傷つけた奴がドツクゾーンなのならば。

 

俺は行かなければならない、冷静に一時の感情の高ぶりに左右される事なく出した結論がそれだ。

 

悲しむと言うことがどれだけ辛く苦しいことなのかを知っている俺にとって、無闇に人を悲しませる奴は憎く見える。

 

善悪云々は鎧に吸い込まれたかのようにどうでもよくなってしまった。

 

俺は俺のやりたいようにやる、それだけだ。

 

「鎧よ、今だけで良い…奴らを倒す力を貸してくれ」

 

返事はなかった、だが呼びかけに答えるように鎧から大量のエネルギーが流れ込んでくるような感覚がある。

 

しゃがみこみ足に力を入れて思いっきりのばし跳躍すると、山を見た。

 

比喩ではない、本当に遠くにそびえる綺麗な雪をかぶった山脈を見たのだ。

窪地にいる俺に跳躍したくらいで山など見ることが出来ない筈だった。

 

普通なら…俺はもう普通じゃない。

 

黒い鎧は、俺の感情から出るエネルギーは凄まじい、一度の跳躍ですべてを見渡せるほどに高く飛び上がることが出来たのだから。

 

マスターが言っていた悲しみを貯めておけと言うのは、これを見越しての言葉だったのだろうか。

 

だとすれば、俺はマスターを少し甘く見ていたのかもしれない。

 

今度会った機会にでも謝っておこう。

「ドツクゾーンの集団は、あっちか」

飛び上がった勢いが徐々に消えていくが、落ちそうになることはなかった。

鎧は空の上で停止して浮いていたのだ。

 

空気を踏み締めるという表現が合うだろう、空の上にいるにも関わらず地面を歩いているのと何ら変わらない安定感がある。

 

本当に人外の領域に入ってしまった事を実感しつつ、ドツクゾーンが行る場所へと空を蹴って向かう。

 

「見えてきた」

 

燃え上がる妖精の家々、逃げ惑う可愛らしい妖精達を嫌らしい笑みをした、黒い男達が追いかけ回す光景。

 

唇を噛みすぎて血が滲んできた、拳を握りしめる度に、金属が軋む音が聞こえる。

 

「ヘヘヘッ、サッサト、プリズムストーン、ノ、在処ヲ教エロヨ!」

 

「や、やめっ…て、そんな…のしら…」

 

黒い男達は捕まえた妖精に拷問まがいの暴力を振るい、プリズムストーンのありかを探すという方法をとっている。

 

一度捕まったら最後、真実も嘘も関係なく呼吸出来なくなるまで徹底的にいたぶられるのだ。

 

黒い男達は、遊んでいるんだ、妖精が泣き事切れる様子を見て喜んでいるんだ。

 

ズキリと胸が痛んだ、頭を捕まれ涙を流す妖精の顔が俺の顔と重なって見えた。

 

昔、虐められていた時の、悲しくて悔しくて辛かったときの顔だ。

 

抵抗しようにも相手との力量差が大きく、そして人数において負けているので痛みを受け入れるしかなかった俺の顔だ。

 

「やめ…ろ」

 

頬を伝う涙は、来るはずがないと理解していても助けを求めている。

 

それがどうしようもない程、ありありと理解できる自分がもどかしく、悲しくなった。

 

マスターは光の園の幸せ嫌いだと言った、…これは幸せじゃない不幸でもない。

 

死にゆく者にはそのどちらも感じることは出来ない。

 

これを見て、第三者は感じるだろう、悲しいと、悲しいと思うだろう。

 

もう止めてくれ、これ以上俺以外に悲しさを広めようとしないでくれ!

 

「クヒヒッ」

 

黒い男達の中で今まさに妖精に止めを刺さんと手を振り上げた者がいた。

 

「消えろ…」そう感じたとき、変化は内側から染み出すように起こった。

 

背中から何か細長いものが出てきたと思ったら、それは黒い紐になり妖精を追いかけていたドツクゾーンの黒い男の胴を貫いたのだ。

 

「アガッ」

 

何が起こったのか分からない男は、痛みに顔をゆがめ次に自分の胴に突き刺さった細く、それでいて鋭い黒い紐を見て…動かなくなった。

 

男にしてみれば突然上空から伸びてきた紐が自分に向かってきたくらいにしか現状を把握できていなかっただろう。

 

それ程までに俺の背から出た紐は速かったし、普通、小動物でもなしに空を注意しておくという事はしない。

 

動かなくなった男に刺さったままだった紐、このままだと身動きが取れないので抜こうと紐を握ると、俺の意志に従うように紐は勝手に抜けてしまう。

 

そして紐はしばらく中を漂った後、掃除機のコンセントのごとく俺の背へと戻って消えた。

 

「あれも、鎧の力なのか?」

 

バランスを失った男は体制を崩し地面へと倒れる。

 

止めを刺されそうだった妖精は、目を閉じてじっと耐えていたが、何時まで経っても自分に痛みが来ないのを不思議に思い目を開けたようだ。

 

息をせずに倒れていた男を見て驚愕の悲鳴をあげる妖精、そして次に空を見て俺の姿に息をのむ声が伝わってきた。

 

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