だいぶ空の移動にも慣れてきた、飛ぶと言うより空中を弾丸のように進んでいると言った方が良い。
鎧が勝手に自分の意志を反映して、移動したい方向へと向きを変えてくれる。
風の抵抗は受けるが、鎧がその殆どをカバーしているのであって無いようなものだった。
ただ、段々と移動速度が上がっていくごとに摩擦熱で中身が暖まっていくのは、勘弁して欲しい。
汗が目に滲んできて、泣いてもいないのに涙が出てきそうになった。
まだ気配の場所につきそうもないので、視線を下にずらすと黒い男達がまた妖精を襲っている場面だった。
移動速度を緩めるのも摩擦的にしずらいので、紐を伸ばして一瞬で全員を串刺しにする。
速度が上がっている事も相まって、紐の突貫力は予想以上に凄まじく、貫いた男達は消滅を待たずに爆散した。
「少し、やりすぎたな」
もちろんこの台詞は、黒い男達に向けたものではなく、爆散という非常にトラウマになりかねない光景を見せてしまった妖精に向けてである。
悪人に対しての同情など、微塵も持ち合わせてはいない。
「待て、此処から先は我がジャァクキング様がクイーンと交渉なされているので通すことは出来ない」
あと少しで気配の場所に着くという時、急に視界へと大きな影が現れて、飛行の邪魔をした。
「誰だ、お前は」
ジャァクキングを様付けする事から、ドツクゾーンの手のものだと言うことは解る。
だが俺が先程から見ていたような、黒い人型をしたものに目と口が付いたような男達と姿が全く違うのだ。
一言でいえば、歌舞伎。
白い髪を頭に盛り上げ、目元にある赤い隈取りは、どこかの演芸者を想像させる。
肩が尖っているマントを着て、黒いタイツのようなものを来ている所は、この男が完全な歌舞伎好きではないことが伺いしれる。
まあ、着物を着ていたら動きづらいというのも理由の一つかもしれない。
「私は、ジャァクキング様のダークファイブの一人、ピーサード…今は此処の門番と言ったところだ」
なる程、ダークファイブ…よくわからないが歌舞伎男の口振りからして幹部と言った所か。
ファイブという数字からコイツ以外に4人いるという計算になる。
厄介だな。
確かに鎧の力で押し切ることも出来るかもしれない、だがあくまでも俺の目的は、この先にいる悲しみを背負う者を護ることだ。
強行突破でコイツを巻ける自信はあるが、ダークファイブは門番だと言っていた。
だとすれば、歌舞伎男を巻いても後から4人が同じ役目で現れれば、俺も全てからは逃げ切れない。
それに俺は、鎧の力を完全に理解してはいない、意識的に使えることが出来たとは言っても、まだ無意識に頼っている部分がある。
不安定な力に依存しすぎるといつか痛い目に遭う、これは持論だが信頼できる。
逃げるか戦うか、迷った末に俺は歌舞伎男から距離をとり、紫色の炎を放って目くらましに使い、反対方向へと逃げ出した。
「むっ、逃げるか、だが私は門番追うことは許されない」
紫色の炎によって、多少身体が煤けたものの無傷のピーサードは、俺が居なくなっているのを見て歯痒そうに呟いた。
予想通り、ピーサードは俺を深追いはして来なかった。
この事実を確認したかった、奴は門番門…いまは通路だが、それを護ることを仕事にしている。
今は、とか言っていたのが心残りだが、事態は急を要する。
ピーサードは、俺がどこか遠くへ逃げ出したと思っているようだが、実際は少し違う。
俺は、下にあるまばらに生えている木々の裏へ身を隠している。
ピーサードからは、俺の姿は見えないが、下から上は遮蔽物が少ないのでよく見ることが出来た。
奴は俺が居ないことを確認すると、すぐに自分の持ち場へと帰って行った。
持ち場といっても、そう遠く離れたものではないらしく数距離離れた場所で立ち止まり、立ち止まった。
「空中を飛んできたから見つかっただけか、ピーサードとか言うのは俺の気配に気が付いているわけではないのか」
俺
のように悲しみを気配として感じ取るとは言わないまでも、生物の気配を察知できる人が居てもおかしくない。
と言うか、化け物集団のドツクゾーンに常識を当てはめることが、そもそも間違っている。
ピーサードが気配か視覚のどちらに頼っているか見極めたかったのだが、俺が逃げ出したと思ったあたり前者のようだった。
見た目よりは実力は低いのかもしれない、これならば強行突破でなく奴を消し去ることも出来るかもしれない。
「そっと接近して紐で貫くか、炎で焼くか」
紫色の炎が奴に全くと言っていいほど効いていなかったのは辛い。
目くらましとして使ったとは言っても、多少は攻撃力も込められていた。
少し火傷してくれれば程度に思っていたが、まさか無傷とは…流石ダークファイブというところなのか。
木に身を隠していきながらそっと前へと進み出す。
奴を倒す明確な手段が思いつかない限り、二度目の接触は避けた方が良いと考えたからだ。
ここで俺が倒れたりすれば、護れるものも護れなくなる。