御早う御座います。私都築と申します。私の職場とも言えるこちらの大屋敷。その主である雪ノ下家に執事として従事し、長い年月が経ちます。
最近は、昔よりも時間の流れが早く感じてしまいます。私が幼少期の頃は時間が経つ事が早いと感じることも多くありましたが、逆に遅いと感じることも勿論ありました。前者は友人と娯楽に興じていた時間など。後者は勉学に勤しんでいる時間や、遠足の前日の夜などでしょうか。楽しい時間というのは直ぐに過ぎてしまいます。逆に自らが気乗りしないこととなると時間の経過が遅く感じてしまう。そして不思議なことに近い未来に自らが待ち望んでいる物事を迎えるまでの時間も長く感じてしまうのです。
私は人生などあっという間に感じてここまで生きてきましたが、幼少の頃のそういった近い未来を楽しみにしているあの時間を何歳になっても感じることができれば、私の人生ももっと充実した物となっていたのかも知れません。旦那様と奥様は勿論の事、私は陽乃様と雪乃様にも仕える身。従者では御座いますが、遥かに生きている身として、御二人にそういったことを教えることができれば、才能ある御二人ならば更に素晴らしい淑女となる事と思います。そして陰ながら支えることが出来れば、執事冥利に尽きると言うものです。
先程、自分の人生はもっと充実していたかもしれないと言いましたが、今の生活に不満がある訳ではありません。あくまで仮定の話でしかありません。それに、私は執事という職務に誇りを持っております。
今日も雪ノ下家のため、邁進して行きます。
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執事の朝は早い。
朝の五時に起床し、これから始まる業務のため素早く身支度を済ませ、皆様より先に朝食を摂ります。食は活力となります。さあ、旦那様達の朝食の準備が滞りなく進んでいるか確認に行きましょう。
五時半。調理場にて、コックとメイドたちによる朝食の準備が問題無く行えているか確認です。もはや、業務の内の一つなので体に染み込んでおります。
先日、私が休暇を頂いた時、職業病でしょうか、時間通りに調理場に確認に来てしまいました。自らの部屋に戻る途中、その日は早起きしていたらしい陽乃様に見つかりお叱りを受けました。陽乃様の私を気遣うようなお言葉、私の為に、うっ、思い出しただけで涙が・・・。まだ小学生になられたばかりだと言うのに・・・。陽乃様、あの時は有難う御座います。執事が心配されてしまうとは、私もまだまだです。・・・っと、問題無く朝食の準備が完了したようですね。
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六時。主である雪ノ下家の皆様を起こします。旦那様とお嬢様方は問題無く起きてくれます。・・・残りは一人ですか。
扉をノック。返事がありません。まあそれは仕方ありません。睡眠中にノックをされても気付かないものです。最近の苦労もありますので、いっそのこと千本ノックでもしてやりたい相手ではありますが、そこは執事である私です。血が滲み出るまで拳を握り耐えます。
都築「奥様、御早う御座います。朝食の準備が出来ております」
雫乃「・・・チッ」
ちょ、おま、舌打ちしたんか今。なんたる非道。
・・・っとまあ、初めの頃は思っておりました。しかし奥様は低血圧なのです。朝はとても弱い。故にこのような態度となってしまうのです。決して私がババアと口が滑ってしまった日以降このような態度をとられるようになったわけではありません。ええ、決して。
むしろお互いを嫌っているわけですから、それは気が合っていると言えます。そう、相思相愛レベルです。
・・・少しトイレと向き合って来ます。うぷっ・・・。
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七時半、旦那様に本日の予定をお伝えします。
旦那様は私以外にも専属の執事がいますので、送迎などの業務はその執事が行います。しかし一日の予定を確認する作業は長年私が務めております。もはや誰にも譲る気は無いのです。
旦那様、行ってらっしゃいませ。
私は陽乃様を小学校に、そして雪乃様を幼稚園に送ります。私はこの時間を気に入っています。御二人の成長していくであろう一日の始まりを送り届けているような気持ちになります故。さて、今日は御二人にとってどのような日になるのでしょうか。
雫乃「ふふ、二人とも、今日もたくさん色んなものを見て、感じて、学ぶのよ?」
・・・なぜこの方が同乗しているのでしょうか。旦那様と会社に行く筈ですが・・・。会社のほうはどうしたのでしょう。
雫乃「今日は私はオフです。予定はきちんと把握しておきなさい」
心を読まれました。とうとう奥様はエスパーになってしまわれたのか。
雪乃「だから今日はお母さんがお弁当を作ってくれたのね」
雫乃「ふふ、そういうことよ」
そう言い雪乃様の頭を撫でる。
・・・おいおい、奥様や、あなた私が起こすまで寝ていたではありませんか。弁当だってメイドが作ってたの都築見てたんだぞ?ほう、さてはこのババア、雪乃様に渡す時に自分が作ったって言いやがったな?恐ろしい方だ。
あっ、睨まれた。そういえばエスパーでございました。
陽乃「いいなあ雪乃ちゃん。小学校は給食だからなあ」
雫乃「ふふ、陽乃、あなたも遠足の時は腕によりをかけて作るわ。だからそれまでは我慢してね?」
陽乃「はーい」
・・・何でしょう。素晴らしい親子愛のはずが、うちのメイドが踏み台にされた気分でございます。
・・・まあ、奥様も忙しい身です。雪乃様たちになるべく寂しい思いをさせまいとする親心からの嘘なのかもしれません。御二人のための嘘ならば、この都築、墓場まで持って行きます。奥様は我が子には優しいのです。我が子には。
・・・奥様、バックミラー越しに睨まないでください。
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陽乃様を送り終え、雪乃様の幼稚園に到着しました。園内まで奥様が雪乃様と手を繋ぎ歩いて行くので私は車の側で待機しております。
・・・おかしいですね。園内に入られて時間が経ちますが、なかなか奥様が帰ってきません。何かあったのでしょうか。心配なので様子を見に行きましょう。心の中では悪態をつきますが、身も心も雪ノ下家のために尽くすことを誓った身。奥様にもしものことがあってはならないのです。
奏「うふふ、はちまんくん、今日もチャーミングね♪」
凛「ちょっとかなで、はちまんとはあたしが話してるんだからジャマしないでよ」
加蓮「は、はちまんくん、今日の遊び時間、あたしとおままごとしようよ。テレビで見たシーンでやってみたいのがあるから・・・」
八幡「お、おい、そんな一気に喋るなよ・・・」
雫乃「・・・」
・・・何でしょう、この光景は。もはや奥様が覇気を出していることには驚きません。このようなもの日常茶飯事となっています。それよりも八幡様が女児三名に囲まれています。御三方とも、完全に八幡様にホの字の模様。最近の幼稚園児はこんなに進んでいるのですか。
雪乃「ひ、ひきがやくん。おはよう」
雪乃様も参戦してしまいました。うう、目の前が歪んで見えます。それは奥様の出す熱気故の蜉蝣なのか、はたまた奥様が時空を歪めているのかは定かではありません。しかし一つ言えることは、私脂汗が止まりません。
八幡「ん?お、おお、雪ノ下か、おはよう」
雪乃「! ふ、ふふ、私にあいさつされることをありがたく思いなさい」
八幡「朝から相変わらずだなお前は・・・」
雫乃「・・・八幡君だったかしら?その子はお前という名前ではないわよ?」
え?嘘やろ?闘るんか?また幼稚園児と闘るんか?挨拶した時きちんと苗字で言ってたではありませんか。奥様、どうかここは見逃してあげてください・・・。大人気のう御座います。
八幡「え?は、はい?」
雪乃「お母さん・・・?」
都築「は、八幡様、どうかお気になさらず。さあ、奥様、我々は屋敷に戻りましょう」
雫乃「黙りなさい都築。給料を全ておかきに変えるわよ」
都築「解せぬ」
雫乃「八幡君、この子には雪乃というちゃんとした名前があるのよ?お前ではなく、雪乃と呼んで貰えるかしら?」
そう言いニコリと笑う奥様は、まるで蛇のようでした。
八幡「は、はい、わかりました?」
雪乃「も、もう、お母さん!そんなこと言わなくていいわよ!都築さん!早く連れていって!」
都築「か、かしこまりました!」
雫乃「ちょ、まだ話は終わってないわよ都築!ああ、雪乃!雪乃〜!」
急いで奥様を抱えて車を目指し走ります。奥様、暴れないでください。腰が砕けそうです。
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やっと屋敷に生還できました。今日は朝から疲れます・・・。八幡様、先程の奥様の無礼、どうかお許しください。
・・・まだ正午にもなってないのですか。時が過ぎるのが早く感じるなどと思っていたそばからこのような日になるとは。ここ数日で一番時が流れるのが遅く感じられます。
はあ。午後からも奥様は屋敷に居るのか。何も問題が起きなければいいのですが・・・。
雫乃「都築、例の件なのだけれど、本日は一時間後に行うわよ」
都築「は、はい奥様」
奥様が本日は休暇だからでしょうか。いつもは夜に行っている缶蹴りの鍛練を昼に繰り上げられてしまいました。奥様はこれまでの人生で他者に負けたことがないそうです。だから余程八幡様に負けた自分が許せなかったのでしょう。
・・・こう毎回駆り出されては私の老体がもちません。適当に負けて、満足させて終わらせましょう。
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〜公園〜
雫乃「都築見っけ!缶踏んだ!」
都築「見つかってしまいましたか、流石です、奥様」
場所は代わり公園です。奥様の特訓に協力しています。毎回毎回大真面目に見っけ!缶踏んだ!と言われてはジワジワきますが必死に耐えます。
都築「奥様、私から見て、もう奥様は缶蹴りにおいて右に出る者は居ない程の腕前となっております。もう私が協力できることは無いように思います。さあ、体調を万全にする必要があります。来たる決戦のために、今日のところは屋敷に戻り英気を養いましょう」
我ながらナイスです。奥様をヨイショし、尚且つ体を心配するという紳士を演じる。ふっ、負けを知りたいですね。屋敷に戻り昼寝でもしましょうか。
雫乃「待ちなさい都築」
奥様の底冷えするような声が地響きのように私に届く。
都築「な、なんでしょうか奥様」
雫乃「私はまだ自分のレベルに満足していないわ。彼に勝つためにはまだ力が必要なの。大丈夫、まだ体力は残っているわ。それに、あなたもなんだか今日はいつもよりも本気を出していないように見えたわ。まだまだ体力は有り余っているでしょう?」
ニヤリとこちらを見る。ば、ばれている。この方のこういう洞察力が苦手なのです・・・。ど、どうか御手柔らかに・・・。
〜一時間後〜
雫乃「都築!まだ動けるでしょう!はやく隠れなさい!」
都築「ぜえ、ぜえ。おえっ・・・」
あれから私は本気を出しましたが、一回も奥様に勝てません。お世辞抜きに、奥様は缶蹴りが強くなっているのです。このままでは私が死んでしまいます。
雫乃「いい加減にしなさい!いつまでもヘタレ込んでいないで頂戴!これでは練習にならないでしょう!」
都築「ぜえ、ぜえ、どないせえっちゅーねん・・・」
なぜ私は白昼堂々、家主と缶蹴りでバトルをしなければならないのだ。まあ確かに?私はバトラー(butler)ですけれど?上手いこと言ってる場合ではありません。
その後さすがに自らの死が頭をよぎった私は、隠れた振りをして屋敷に涙目で走って帰ったのでした。
奥様が帰ってきた時の閻魔のような形相はこれからも忘れることは無いでしょう。奥様が帰宅後約二時間、正座で叱られる老執事がそこにはいました。というか私でした。
後に雪ノ下家の使用人の間で噂となった「都築、缶蹴りブッチ事件」とはこのことです。
ああ、もう執事辞めたい・・・。
おわり
〜おまけ1〜
(都築が雫乃を連れ帰った直後)
八幡「・・・何ていうか、お前の母ちゃん、パワフルだな・・・」
雪乃「いつもは違うのだけれど・・・。さっきはうちのお母さんがごめんなさい」
八幡「い、いや気にしてねえからいいって」
雪乃「そ、そう?ならいいのだけれど。・・・けれど、お母さんが言ったとおり、私には雪乃という名前があるのよ?」
八幡「ん?お、おお。そうだな」
雪乃「む。雪乃という名前があるのよ?」
八幡「わかってるって」
雪乃「仕方ないから、名前で呼ぶことを許可するわ、ひきがやくん?」
奏「あら、私のことも奏って呼んでくれるかしら、はちまんくん?♪」
凛「はちまん、あたしもりんって呼んでよ」
八幡「だから、一気に喋るなって・・・。恥ずかしいからやめとくわ・・・」
加蓮「・・・あたしとは遊びだったの?はちまんくん」
八幡「北条、お前は全然話の内容が違うし、ドラマに影響され過ぎだ」
おわり
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〜おまけ2〜
はあ、これまで大変な日々でしたが、やっと給料日です。この日のために生きてます。そしてこれからも生きていけます。
と思っていたのですが、何故振り込まれて居ないのでしょうか。
疑問が残ったまま自室に戻ると、無数のダンボール箱が置かれていました。何でしょうか。なにも頼んだ覚えはありませんが・・・。
恐る恐る開けてみると、
・・・中には大量のおかきが入っておりました。
おわり
今回も見ていただきありがとうございました。
次回からは小学生編に入ろうかなと思っています。
ママのんは缶蹴りを特訓していますので、いずれ八幡と決着をつけるつもりです。その辺はまた番外編という形でどこかで投稿したいと思います。
小学生編以降で出してほしいデレステキャラや俺ガイルキャラなどいたら気軽に言って頂けると嬉しいです。