数日間高熱にうなされて学校を休んだ。自室のベッドで安静にすることを余儀なくされた。心細い……。これも風邪によるものなのだろうか。そう思っていると、廊下から複数人の声がする。声はやがて私の部屋の前で鳴り止まり、ドアをノックした。
都築「雪乃様、お休みの所申し訳御座いません。御友人の方々がお見えになっております」
雪乃「……?……どうぞ」
何事か分からないまま入室を許可してしまった。
加蓮「やっほー雪乃」
奏「具合はどうかしら?」
奈緒「風邪だっていうから心配したぞー」
凛「ごめんね突然。皆でお見舞いに行こうってなってさ」
雪乃「あ……」
天井から声のする方へ目線を移すと、私の大事な友人達が立っていた。
雪乃「えっと……。どうして……」
凛「ふふっ、皆で雪乃のお見舞いに行こうってなったってさっき言ったじゃん」
雪乃「あ……。そ、そうね」
普段通りに働いてくれない頭を必死に働かせようとするが、やはり駄目みたいだ。
奏「うふ、風邪でいつもの調子じゃないみたいね」
奈緒「こんな雪乃中々みれないぞー!」
雪乃「も、もう……。奈緒さん、からかわないで……」
加蓮「そうだよ奈緒ー。あ、そうだ、はいこれ。果物とか買ってきたよ。食べれる時でいいから食べてね」
雪乃「ありがとう……」
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それから、皆で色々な話をした。学校の勉強。進路。こ、コイバナ?というものもした。あの四人はやはり比企谷君の事が好きなようだ。奈緒さんは友人としてらしいけれど。私の番になったが、恥ずかしくて言えなかった。風邪だからという理由で意地でも答えなかった。皆ニヤニヤと笑っていたが、気にしない。顔が熱いけれど、これも風邪ということで……気にしない……ことにする。
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凛「じゃあ、そろそろ帰るね」
奏「また学校で♪」
奈緒「急に来てごめんな。じゃあな!」
加蓮「雪乃、お大事にね」
雪乃「ええ。皆ありがとう」
……。
扉が閉まり、先程の賑やかさは消えてしまった。
自分の部屋に同じ歳の子が来るなんていつ以来だろう。小さい頃はお母さんが私を心配して知り合いの歳の近い子達を連れてくることはあったが、その時とはまるで違う感情に包まれる。友達はいなくていい。そう思っていた時期があった。勿論欲しいか欲しくないかで言えば欲しいとは思った。しかし一人で本を読んでいる方が楽しかったし、人付き合いが苦手なのは自分でも分かっていた。だから、相手に気を遣わせるくらいなら居なくていいと思っていた。そして小学校の時、完全に自分は一人なんだということを悟った。諦めた。しかし彼女達はそれを良しとしなかった。しないでいてくれた。私の大事な人達……
雪乃「……!」
そんな事を考えていると、頭痛に襲われた。何事かと思ったが、よく考えてみれば自分は体調不良だったことに気付く。先程まで見舞いに来てくれていたというのに。今日は本当に頭が働かない。そんな自分に呆れのような感情を抱きながら苦笑を浮かべる。
ふと、見舞いの品として受け取った果物を思い出し食べる。それは冷たかったが、胸の当たりが暖かくなった気がした。
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〜数日後〜
雪乃「休んだ間の勉強を取り戻さなきゃと思っていたけれど、あの内容だと大丈夫そうね」
すっかり体調が良くなった私は今日からまた学校に通えることになり、本日の授業全てを終えた。
雪乃「真っ直ぐ家に帰ってもいいのだけど、やっぱり図書館にでも行こうかしら……ん?」
あれは……佐久間さん……と、その先にいるのは……比企谷君?
まゆ「八幡さぁん聞きましたよぉ。思春期らしいですねえ。可愛いです。まゆを避けている理由が分かって安心しましたぁ。全く、照れ屋なんですから。ねえ、どうしてまだ逃げるんですかあ?ねえ……ねえ!!」
八幡「お、お前は何か洒落になんねえんだよお!!」
……あれは何かしら。言葉はよく聞こえないけれど、佐久間さんが比企谷君を追いかけているのは確かね。というより目の前で起きている事実だものね。……全くあの男は。自分の事を目立たないとか言ってる癖に思いっきり目立っているじゃない。女子生徒なんて軽く引いていることに二人は気付いていないのかしら。
そんなことより、止めるべきは佐久間さんね。飢えた獣のような目をしているわ。あの誑し谷君と言えど、困っているのならば手を差し伸べるべきよ。そう、これは手助け。決して最近自分とは話をしていないのに佐久間さんとはイチャついているのを邪魔したい訳ではない。
雪乃「佐久間さん、待ちなさい」
まゆ「?……雪乃ちゃん?……あぁ!八幡さん!待ってください!八幡さぁん!」
比企谷君はそのまま走り去って行った。一回もこちらを振り返らないってどれだけ必死なのよ。少しは私に気付きなさいよ。
まゆ「雪乃ちゃん?何か用ですかぁ?無ければまゆは八幡さんを捕ま……八幡さんとお話したいんですけど」
今、捕まえるって言いかけたわよね……。
雪乃「コホン。比企谷君が困っていたように見えたので佐久間さんを注意するために止めたのよ」
まゆ「あら、困っているだなんて。うふふ、そんなことないですよぉ。まゆは八幡さんに精一杯の愛を感じてほしいだけなんです」
雪乃「それでも暴走してしまうのは良くないのではないかしら?」
まゆ「ふふ、いつも暴言を浴びせてる雪乃ちゃんが言うんですかぁ?」
雪乃「ぐっ……」
やはりそこを突いてくるわよね……。
……佐久間まゆさん。小学校六年の時に奇跡的に私達全員が同じクラスになった時、佐久間さんも同じクラスだった。それ以来佐久間さんは比企谷君に物凄い勢いでアプローチをかけている。佐久間さん曰く、比企谷君と出会ったのは小学校五年の初めの頃らしい。そんな事など全く知らなかった私は、新しい女の子の登場に只々困惑したのを覚えている。
普段はとても優しくていい子なのだけれど、比企谷君絡みの事となると佐久間さんは暴走してしまうので、私は少し彼女を苦手としている……。自分の好意を明確に伝えることができる彼女を、私とは真逆の存在だと感じ、それが時々羨ましくも思うというのも理由の一つかもしれないけれど。
雪乃「わ、私の彼に言っていることは傍からすると暴言のように聞こえるかもしれないけれど、あれは……そう、挨拶のようなものよ。私と彼の意思疎通の手段なのよ」
まゆ「そんなコミュニケーション方法聞いたことないですよぉ。まゆは八幡さんの近くにいたいんです。八幡さんは色々な女の子から好かれています。それも強敵ばかりです。そういった子達を牽制するためにも、勿論、雪乃ちゃんの暴言から守るためにも♡」
佐久間さんの言っている強敵とは、恐らくあの三人のことだろう。牽制と言うが、彼女達が潔く退くなどありえないと思うが……。
雪乃「だ、だから私は別に彼を傷付けようと言っているわけではなくて……」
まゆ「そうなんですかぁ?まゆには傷付けているようにしか見えないですけど」
雪乃「……」
まゆ「なんて。ごめんなさい。ちょっとだけ悪戯しちゃいましたぁ。雪乃ちゃんも八幡さんを好きな事ぐらい知っていますよぉ。八幡さんを好きになって色々調べたので♪とにかく、さっき言った通り、まゆが八幡さんの近くにいることによって雪乃ちゃん達への牽制になるのならそれは願ったり叶ったりです。それでも譲らないと言うのならまゆは更に八幡さんへ好意を伝えるのみです」
雪乃「……」
まゆ「素直になれなくて言葉が乱暴になっちゃうのかも知れませんけど、たまには素直になるのもいいかもしれませんよぉ」
雪乃「……仮に私が彼に……こ、好意、を抱いているとして、何故あなたは私にそのような助言までするのかしら?私や彼女達はあなたにとって邪魔ではないの?」
まゆ「確かに雪乃ちゃんや加蓮ちゃん達はまゆにとっては恋敵です。でも同時に大事なお友達でもあります。数多くいる男の子の中で好きな人が偶然同じになってしまいましたけど、まゆの大事なお友達である事実は変わらないんです。今回は雪乃ちゃんに塩を送る形になっちゃいましたけど、別にいいんです。だって……」
まゆ「最後に勝つのはまゆですから」
雪乃「!」
まゆ「ふふ、じゃあまゆはこれで。八幡さんを追わないといけませんから♪」
そう言い残し佐久間さんは走り去って行く。廊下の角を曲がる寸前で彼女を呼び止める。
雪乃「……私、負けず嫌いなの」
まゆ「……」
佐久間さんは何も言わずに去って行った。私の宣戦布告は、呼び止めた時の声とは程遠い小さな声だったと思う。聞こえているかは分からない。でも、彼女の姿が見えなくなる時に一瞬見えた、彼女の笑みが私の言葉に対する答えであるように感じた。
おわり
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〜おまけ〜
雪乃(確かに、佐久間さんの言うことも一理あるかもしれないわ。罵倒するばかりでなくて、たまには素直になってみましょう。……っと)
八幡「ん?」
雪乃「あ、比企谷君……」
八幡「お、おう。……なんか久しぶりだな」
雪乃「そ、そうかしら。風邪で数日間来てなかったからかも知れないわね」
八幡「そ、そうか。もう大丈夫なのか?」
素直に……。
雪乃「ええ。もう治ったわ。ありがとう」
八幡「……本当に治ったのか?」
雪乃「……?ええ、治ったわよ?どうして?」
八幡「いや、お前が素直に礼を言ってきたからまだ体調悪いのかと……」
雪乃「……」
八幡「いっだあぁぁぁぁぁあ!?か、関節技はやめろ!うあぁぁぁぁああ!?」
おわり
次回投稿は少し空きます。申し訳御座いません。