もしもシリーズ   作:ユッケライス

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もしもあの日に戻れたら 1

 

 本田の相談から一日が経過し、本日は週末ということもあり学校は休みだ。時刻は朝の八時。学生である俺は休みであるが、両親は相も変わらず会社へ出勤しているため家には妹の小町と二人だけだ。一階から生活音が聞こえる。恐らく小町が朝食を作ってくれているのだろう。しかし、俺はまだ起き上がる気にはなれず、無理矢理目を瞑り、少し経つと目を開けて天井を眺め、また目を瞑り、という無駄な事を繰り返していた。今更二度寝など出来ない事は分かっているのに。

 ふと、部屋の扉がノックされる。

 

小町「お兄ちゃん、起きてるー?朝ごはんできたから食べちゃって。休みだけどずっと寝てるなんて、小町的にポイント低いよー?」

 

八幡「……分かった。すぐ行く」

 

 そう返事すると階段を下りる音が聞こえた。起き上がろうとするが、何故か身体が重く感じ、中々起き上がれない。小学生の頃、学校が面倒臭くて行きたくない日はこんな感じだったな。そう思い苦笑いするが、すぐにその表情は解ける。もう一度目を瞑り、歯を食いしばりながら勢いをつけ無理矢理起き上がり、部屋の扉を開けた。

 

 

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小町「おはよう!お兄ちゃん!」

 

八幡「おう、おはよう」

 

 顔を洗い、小町に挨拶をして椅子に座る。目の前の小町は先に朝食に手をつけていた。自分も食べようと、手を合わせた後朝食を箸でつついた。小町が咀嚼する度にアホ毛がピョコピョコと揺れる。それを見て、俺も傍から見るとあの様に揺れているのだろうか、とどうでもいい事を考える。

 目の前の味噌汁を啜る。うん、美味い。ふと、視線を感じる。

 

八幡「……何だ?お兄ちゃんの顔になんか付いてるか?」

 

小町「え?ああ、いやそうじゃないけど、お兄ちゃん何かいつもと様子が違うなぁって」

 

八幡「っ……。……そうか?」

 

小町「うーん、何か、お悩みかな?って感じ。さっき起こした時も、休みだからってずっと寝るなって言うと、いつもなら屁理屈の一つも返すのに、今日はやけに素直に応じたからさ」

 

八幡「……俺だっていつも屁理屈言う訳じゃないっつの。ていうか小町ちゃん?お兄ちゃんの事いつもそんな風に思ってるの?」

 

小町「だって事実じゃん」

 

八幡「はあ。悲報、最近妹が辛辣っと……」

 

小町「変な事言ってないでさっさと食べちゃってよ。汚れ物片した後小町出掛けなくちゃなんないんだから」

 

八幡「へいへい……」

 

 小町は先に食べ終わり、出掛けると言っていたのでその為であろう準備をするため自分の部屋へ駆けて行った。

 それにしても、我が妹ながら変な所で勘が鋭い。先程の自分はどの様な表情をしていたのだろう。上手く誤魔化せたのだろうか。小町は俺の事をよく見ているし、理解してくれていると思う。これは自意識過剰など無しにそう思う。小さな頃から両親は共働きで家に居ないことが多かったので、二人で過ごす時間が多かった。そのためか、俺の感情の機微に小町は非常に敏感だ。さすがに先程の一目見ただけで見抜かれた事には驚いたが。あの子は一言目に心配しているということを直接伝えることは無い。遠回しに此方の様子を伺って来る。余計な事を言うこともあるが、それが小町なりの心配の仕方であり優しさなのだろう。

 

八幡「はあ……。妹に心配かけるなんて、お兄ちゃん失格だな……。気が緩んでるのかねえ」

 

 本当に気が緩んでるのだろう。リビングの扉の向こうに、てっきり階段を上がっていったと思っていた子が居た事など比企谷八幡は気付いてなどいなかった。

 

 

小町「……」

 

 

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 小町はあの後朝食に使った食器を洗い、家から一番近くのファミレスを目指していた。お兄ちゃんにはお昼は冷蔵庫に昨日の余りがあるからそれを食べるように伝えた。お兄ちゃんの贔屓にしているファミレスだから、昼ごはんを食べに来て鉢合わせないように。

 小町は部活に入っていないので、学校の授業が終わると真っ直ぐ家に帰るか、友達と少し話をしてから帰るのだが、昨日は直ぐに家に帰った。お兄ちゃんも部活には入っておらず、小町と同じく帰宅部だけど、昨日は小町よりお兄ちゃんの方が帰ってくるのが遅かった。ちょうどお風呂を沸かし終えたので風呂場から玄関へお兄ちゃんを迎えたが、お兄ちゃんの表情は少し暗かった。違うなあ、暗い、落胆と言うより、苦悩かな。眉間に皺を寄せ、少し怖かった。兄がそのような表情になる事は滅多にない。少なくとも妹の小町にはそんな表情をした事なんて一度もない。いつもは小町に対して呆れるなどはあるが、それでも優しく笑ってくれるお兄ちゃん。それがあの様な表情をするなんて、学校で何かあったのかと思う他に無かった。何があったのか聞きたかったが、とてもそんな雰囲気では無かったので止めた。その後も気になりながらも、湯船に浸かっていると、風呂場の扉の向こう、洗面所で携帯の着信音が響いた。いつもは決まった時間湯船に浸かっているが、何だか連絡を送ってきた相手が誰なのか気になった。差出人は凛さん。お兄ちゃんの事を良く思ってくれていて、小町の事も本当の妹のように可愛がってくれている。

 本文を確認すると、明日会えないか、小町達が会うことはお兄ちゃんには内緒にしておいてほしいという内容だった。お兄ちゃんのあの表情と関係があると感じた小町は、時間と場所を指定し、携帯の電源を落とした。

 

 ファミレス付近に到着した。凛さんに、もう着くとメールで伝えると、先に着いており、席を確保してくれているらしい。かなり時間に余裕を持って家を出たため、約束の時間はまだだ。あの年上のお姉さんの、こういう律儀な所には敵わないなと思いながら、ファミレスの扉を開けようとする。が、先程まで客であったであろう家族連れが出て来たので、直ぐには入れなかった。先に道を譲り、早足で店内に入った。

 

 

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小町「えーと……」

 

 

 店員さんに一名かと訊かれたので待ち合わせと伝える。何処かに居るはずだ。休日ということもあるのだろうが、この時間帯には珍しく客が多かった。

 

凛「小町、こっちこっち」

 

 声のする方へ振り返ると、そう言いながら手をヒラヒラと挙げてくれていた凛さんを見つけた。凛さんはファミリー席に座っており、他にも加蓮さんと雪乃さんが座っていた。てっきり凛さんだけかと思っていたので、少し驚きはしたが、別に気にする事ではないと思った。

 

小町「すいません、お待たせしてしまって」

 

凛「ううん。約束の時間より早いよ。私達が早く来ちゃっただけだから気にしないで」

 

 そう言うと凛さんは呼出ボタンを押して店員を呼ぶ。小町たち四人はドリンクバーだけ頼む。小町だけでなく、目の前にいる先輩達も朝食は家で済ませてきたようだ。

 

 

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小町「えっと、それで話というのは……」

 

加蓮「そうだね。うーん……。小町ちゃんは、私達が放課後に女子限定でお悩み相談してるのは知ってる?」

 

 加蓮さんが小町にそう訊ねる。

 

小町「あ、はい。知ってます。小町達一年生の間でも結構話題になってるので」

 

 この人達が女子達の相談に乗っていることは知っていた。お兄ちゃんが何週間か前に晩ご飯を一緒に食べている時に話していたし、それとは別に、目の前にいるこの人達はその容姿から、学校内でも一番の有名人達だ。そんな人たちがそのような活動をしているとなると、下級生である小町達の耳にも届く。尤も、この人達は、……主に凛さん、雪乃さん、あとこの場には居ないが奏さんはその為人を知らないと妙なオーラというか、羨望の眼差しは向けはするけど、同時に威圧感のようなものを小町の周りの子達は感じているみたいなので、身近に相談しに行った子はまだ居なかった。

 

加蓮「そうそう。いつもは勉強で分からない所だったり、恋愛に関することだったりするんだけどね」

 

小町「いつもは?」

 

 加蓮さんの言葉に引っかかった。つまり、そのいつもとは違うイレギュラーな相談が来た。お兄ちゃんの様子から察するに、多分昨日あたりかな。そう考えていると、それが顔に出ていたらしい。

 

雪乃「……察しがいいのね。やっぱりあの男の妹さんと言ったところかしら」

 

 それまで何も言わず紅茶を飲んでいた雪乃さんが、加蓮さんからバトンタッチとばかりに話す。

 

雪乃「昨日の事よ。私達はいつも通り相談室を開いていて、いつも通り相談を解決していたわ。そして最終下校時刻が迫っていたので切り上げて帰ろうかと思っていた。すると、私達と同じ学年の女の子が相談に来たの」

 

小町「……それが、その相談が『いつも通り』とは違う相談だったと?」

 

雪乃「ええ。その子のクラスに関する事なのだけれどね……」

 

 

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未央『あたしさ、あたしのクラスで一応総務委員長なんだけど、クラスの皆があたしの言うことあんまり聞いてくれなくてさー……あはは』

 

凛『その事を担任には言わなかったの?』

 

未央『先生に言いはするんだけど、クラスの子達は先生の前では大人しいいい子だからさ。結局私の言いがかり的な、手腕不足的な感じで終わっちゃうんだよね……』

 

奏『ふざけた話ね……』

 

未央『あはは……。何ていうんだろ、男子はそんなに問題では無いんだけど、女子の方がね……。問題あるっていうか、流れてる空気が悪いっていうかさ……。クラスの中で立場が一番上の子が三人いて、その子達の独裁って感じなんだよね。好き勝手してて、従わないと、その、ハブられるって言うかさ……酷い時には陰で暴力なんかも……あるらしくて……みんな怖くて周りに言えなくてさ……』

 

雪乃『……っ』

 

未央『だから、さ……そんな訳で、自分で言ってて情けないんだけど、未央ちゃんのお話、でした……あはは……』

 

 

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小町「そんな事が……」

 

雪乃「……正直、私達が普段受けていた相談とは掛け離れた物であることは確か。一生徒達が力になれる範疇を超えているわ」

 

小町「確かにそうですね……」

 

凛「昨日その場にいた私達は何も言えなかったんだ。未央……ああ、相談に来た子の名前なんだけど、未央のクラスがそんな状況だったなんて知りもしなかったからさ……」

 

加蓮「私達皆が困惑してたんだけど、一人だけ私達とは違うことを思っているような感じで……」

 

小町「……薄々気付いてはいますけど、その場にうちの兄が?」

 

 小町の言葉に表情を暗くして加蓮さんが首肯する。

 

凛「……八幡は私達より先に教室を出て行ったんだけど、その時周りに聞こえないくらいの小さな声で言った言葉が何か気掛かりでさ……その場では私しか聞こえてなかったみたいで」

 

小町「……」

 

凛「『……いつになってもそういう奴がいるんだな』ってさ……」

 

雪乃「……私達が小学生の時、少し似たような事があったのよ。私が周りに嫌がらせをされた事が」

 

加蓮「結果的に解決は出来たんだけど、昨日の八幡君はその時の雰囲気に似ててさ。当時雪乃の事を八幡君に相談してから少し経って、私と登校時二人になった時に……他の奴には絶対言うな。俺が何とかするってきつく言われたんだ」

 

小町「……」

 

 この人達の言いたいことは、つまりうちの兄がその当時予定していたように、また今回も一人で何とかしようとしていると言いたいのだろう。

 当時の事は知っている。尤も、雪乃さんのお母さんが家に訪ねてきてお兄ちゃんと話していた内容をこっそり聞いたことにより知った。

 事後に知ったということ、お兄ちゃんが必死にどうしようか悩んでいたことに気付いてあげる事が出来なかった。その事が、思い出す度に歯痒い。

 

小町「……話は大体分かりました。分かりはしたんですけど、それを聞いた小町は一体どうすれば……」

 

加蓮「小町ちゃんには、八幡君を止めておいて欲しいんだ」

 

小町「お兄ちゃんを?」

 

雪乃「……彼はきっと自分一人で行動するわ。誰も傷付けようとせず、誰にも気付かせない。私の時も、かなり後からうちの執事に聞いたのだけれど、彼、その執事に『明日までに全部終わらせる』って言ったらしいのよ。私は勿論、ここに居る二人もそんな事は聞いていなかった」

 

小町「それって……」

 

凛「私達が雪乃の事に気付いたから良かったけど、気付かなかったら八幡が何をしてたのかってね。考えたら恐くてね……」

 

雪乃「だからこれは私達で解決する。頼みの教師に頼れないのは厄介だけれどね」

 

 

 そう言う三人の瞳は、覚悟と不安が入り混じったように揺れ動いていた。

 

 

 

続く

 





今回も読んで頂きありがとうございました。
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