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未央「うーん……」
昼休み、学校の女子トイレの鏡の前に立ち髪を整える。
未央「前髪伸びたなあ。美容院行くの面倒だから自分で切っちゃおうかなあ。でも失敗するのは嫌だし……」
誰に言うでもなしにそう一人呟く。ここの所、専らクラスの事に関する悩みで中々髪にまで気が回らなかった。女子としてそれはどうなのだと未央自身思ってはいるが、実際そうなのだから仕方無い。人前では明るい彼女も、一人になると考え込んでしまう事も多い。本田未央という少女を知る者からすれば意外かもしれないが、人一倍責任感が強い表れでもある。
未央「……私もクラスのこと、頼むだけじゃ駄目だよね……。私も自分からもっと解決に向けて動かなくちゃね……!」
そう決意を口にした刹那、女子トイレのドアが一つ開いた。誰も居ないと思っていた未央は驚き、音がした先を振り向く。
未央「……あ」
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雪乃「……」
放課後、例の如く私達は各自の報告の為集まっている。尤も、報告する事なんて、「異常なし」の四文字以外無い。いくら何でも動きの無さすぎる毎日に対しての焦りや苛立ちが顔に出ていたらしい。
奈緒「お、おい、雪乃の奴、イライラしてるように見えるんだけど……」
加蓮「やっぱりそうだよね?私の勘違いじゃないよね?」
凛「どう見てもだよ。眉間に皺が寄ってるもん」
小声で三人の会話が聞こえるけれど、聞こえない振りをする。
奏「雪乃、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。ほら、深呼吸。あなたが進行しないのなら、代わりに私がやるけど?」
雪乃「……。……すー、はー。……ごめんなさい、空気を悪くしちゃって。それでは、今日も報告を始めましょうか……」
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全員の報告が終わったけれど、相も変わらずの結果。本田さんが相談に来る前のことを考えると、今のこの何も起きない状況の方が良いことは確かなのだが、これでは動くに動けない。三人への接触も却って向こうを煽ってしまうかもしれないので今は止めた方がいいだろう。
雪乃「それでは今日はこのくらいにしておきましょう……」
かおり「未央が来てないけどいいの?」
雪乃「……そう言えば」
本田さんの姿が無い事に今気付いた。報告会には毎回来るように言っている筈だけれど。
雪乃「……」
黒板の横に設置されている掛時計に目をやる。まだ下校時刻までには少し時間がある。
雪乃「少し待ちましょうか。来なければ最悪明日に報告してもらいましょう」
五分程待っていると、折本さんの携帯電話から無機質な音が鳴った。
かおり「未央からじゃん。えっと……今日は来れないってさ。連絡遅れてごめん、今日もクラスは何も無かった。だってさ」
雪乃「そう。では今日はもう引き上げましょう」
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未央からのメール。その内容の一部をあたしは雪ノ下さん達には伝えなかった。
かおり「……」
未央からのメールの内容が書かれた液晶画面を見る。
『かおりんごめん!今日報告会行けないや〜……。皆に代わりに言っておいてくれない?連絡遅れてごめん!クラスは今日も何も無かったよ!あと、もう正直何も起きないと思うから、皆にもう監視しなくていいって言っといてくれない?』
この最後の一文。確かに何も起きてない。でもなら何で未央から直接皆に言わないんだろう。それに、無理やり打ち切ったような、そんな違和感があったから、あたしは未央に連絡して会うことにした。
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かおり「おーっす久しぶり未央!って学校でも会ったか、ウケる!」
未央「やあやあかおりん!ふっふっふ、お久しぶりだね!」
未央を近くの公園に呼んだけど、様子はいつも通り?あたしの考えすぎ?
かおり「今日の放課後何で来なかったん?雪ノ下さんめちゃくちゃ怒ってたよ?」
未央「えええ!?ほ、本当に!?」
かおり「あっははは!!嘘うそ!ウケる!」
未央「んな!?もーう!心臓に悪いよ!」
かおり「まあ、未央のクラスに動きが無いから動くに動けないー……って感じでちょっとイライラはしてたかな。ウケるよね」
未央「あー確かに最近特に何も無いもんね。あっ、そうそうかおりん、メールでも言ったと思うけど、雪ノ下さん達にもう監視とか、何もしなくていいって言ってくれないかな?」
かおり「多分明日も放課後集まると思うよ?その時直接言えばいいんじゃない?」
未央「いやー……、明日は家の用事があるからさ、私は集まれないんだよね……」
かおり「……あーなるほどね!そりゃ集まるのは無理だ!」
未央「そうなんだよー……。悪いけど頼むよかおりん」
かおり「オッケーオッケー!…でも何でまた、もう何も起きないって急に思ったわけ?」
未央「いやー、さっきも言ったけど最近特に何も起きてなくて平和じゃん?だからもう大丈夫かなって。ふっふっふ、これも未央ちゃんの総務としての実力かな!ってね!」
かおり「……ぷっ、あっはっは!ウケる!確かにそうかも!オッケー、雪ノ下さん達にはあたしから言っとくから」
未央「おお!ありがとうかおりん!」
かおり「ほいほい。じゃあ暗くなってきたしあたしはそろそろ帰るから」
未央「うん、じゃあね!また明日」
かおり「んじゃ!また明日!」
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薄暗くなった、見慣れた道を一人で歩き自分の家を目指す。
『もう何もしなくていいって言ってくれないかな?』
未央、悪いけどあんたの頼み、聞くわけにはいかないよ。皆に伝えて、はいじゃあこの件はもう終わり。それで終わらせる訳ないよ。
直接じゃなくて代わりにあたしに言わせようとするのは、直接言ったら皆にバレると思ったからなんじゃないの?だからあたしに代わりに言うように頼んだんでしょ?でもね未央、あんたは直接言う事を選んだ方が良かったと思う。中学から知り合ったあの子達なら騙せたと思うから。でもあたしは騙せないよ。小学校から親友のあたしはね。未央はいつも通り、元気で明るい『本田未央』になれてたって思ってるよね?でもあたしは、未央のあんなぐちゃぐちゃな、無理やり作ってる笑顔を初めて見たよ。
あたしは楽しいことが大好き。あんたと馬鹿することはもっと大好き。だから、今回のことは本当にウケないよ。
あたしは頭は良いほうじゃないかもしれない。だから未央のあの表情、あたしは『助けて』って言ってるって勝手に解釈するからね。
口を紡ぐ。力を入れすぎて歯がミシッ、と軋む音がするが、そんな事気にすることなく、歩き続けた。
続く