もしもシリーズ   作:ユッケライス

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いつもありがとうございます。番外編です。
今回は雪乃様ということですが、一応他のヒロイン達も書けたら書こうかなと思ってます。




番外編7:もしも全てが始まったら 雪乃編

 

 

雫乃「雪乃、起きなさい雪乃。今日は入園式ですよ」

 

雪乃「んん……」

 

雫乃「もう……そう枕に顔を埋めるんじゃありません……。」

 

雪乃「ご本よむからいい……。おかあさんだけでいってきてちょうだい」

 

雫乃「はぁ、それでは意味が無いでしょう……」

 

全く起き上がる気配の無い我が娘に溜息が出る。前々から人付き合いが苦手だとは思っていたけれど、ここまでとは。この歳でこんなに頑固な性格だと、将来は一体どのような娘になってしまうのだろう。

私自身も頑固であると思ってはいるが、雪乃は小学校に上がる頃には私以上の頑固者になってしまっているのではないだろうか。全く、変な所が似てしまったわね……。

 

雪乃「まったく、そもそもヨウチエンってなによ。わたしはヨウチではないのだけれど」

 

そう言って枕に顔を埋めたまま足をパタパタとベッドに向かって蹴る。雪乃のせめてもの抵抗だろうけれど、その小さな体で悔しがっても可愛いだけ。どうやらプライドの高さも既に似ているらしい。愛らしいが、とりあえずはこの子を起こさなくては。

ドアがノックされる。

 

都築「奥様……本日のご予定ですが……」

 

この子がまだ寝ていると判断した彼は、起こさない様にと小さな声で用件を伝える。その気遣いが今はもどかしい。

 

雫乃「ええ、分かりました。ですがなにも此処で伝える必要はないでしょう」

 

都築「申し訳ございません……。しかし雪乃様を起こしに行かれて随分時間が経ちますので……」

 

所謂、時間が押していると言いたいのだろう。それ程までに目の前の愛娘はひたすら頑固に、起きてはくれなかった。

 

雫乃「はぁ……」

 

朝食、身支度。このままでは入園式に間に合わない。遅刻など言語道断。仕方ない。

 

雫乃「雪乃……」

 

冷ややかな声を発する。一瞬、雪乃の体がビクリと震えた気がしたが関係ない。

 

雫乃「言うことの聞かない子は……こうですよ」

 

私の両手が雪乃の体に接近する。

 

 

 

 

 

雫乃「こちょこちょこちょ!!!」

 

雪乃「ちょっとおかあさん、やめてほしいのだけれど」

 

雫乃「……」

 

……仕方ないので、朝食は先に一人で食べることにした。部屋を出る際、都築が冷ややかな、それでいて笑いを堪えるような顔をしていたので横腹を殴っておいた。

 

 

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都築「痛たた……」

 

奥様にやられた横腹を擦りながら、雪乃様を見やる。確か雪乃様はくすぐりは効くはずでしたが、先程は我慢していたのでしょうか。それ程幼稚舎に行くことに気分が乗らないのでしょうか……。

 

都築「雪乃様、本日は幼稚舎の入園式ですよ。さあ、起きて奥様と朝食を」

 

雪乃「ふん」

 

そっぽを向き、布団の中へ潜ってしまった。これは明らかに状況を悪くしてしまいましたかね。

 

都築「……」

 

どうしたものか……。とりあえず雪乃様の機嫌を直さなければ。ええと、雪乃様の好きな物は……ああ。

 

都築「雪乃様」

 

雪乃「……」

 

都築「雪乃様、私の掌を見てください」

 

そう言うと、布団の中から顔だけ出してくれた。さあ、ここからが本領発揮です。何も無い両手を雪乃様に見せ、包み隠す。

 

都築「むむ……はっ!」

 

雪乃「!!」

 

そう掛け声をあげて両手を開くと、雪乃様は目を輝かせてくれた。

 

雪乃「パンさんのキーホルダー……!!」

 

先日買い出しに行った時に新発売と、大々的に売り出されていたのが目に入った。雪乃様に渡そうと思っていましたが、購入してそのままスーツのポケットの中に入れ忘れてしまっていた。まさかこんな所で役に立つとは思いませんでした。

 

都築「どうぞ」

 

雪乃「あ、ありがとう……ふふ」

 

都築「雪乃様は、ご本を読むことが好きですね?」

 

雪乃「……? ええ、そうよ」

 

チラリと雪乃様のそばに置いてある絵本を見て手に取る。この本は特にお気に入りの様で、何回も読んでいるのを知っている。

 

都築「この本の主人公は、沢山のご友人と一緒に笑って物語を終えます」

 

雪乃「そうね」

 

都築「雪乃様は、この本を読み終えた後、いつも嬉しそうな表情です」

 

雪乃「そうかしら……」

 

都築「幼稚舎へ行けば、この本のようなことを、雪乃様ご自身がきっと体験出来ます」

 

雪乃「……」

 

都築「この主人公は雪乃様なのですよ」

 

雪乃「この子は……わたし」

 

そう呟いた雪乃様はむくりと起き上がり、一階へ降りていった。

 

都築「ふふっ」

ベッドに置かれたキーホルダーは、幼稚舎用の鞄に付け、準備をする。このまま休む事にならず、雪乃様が幼稚舎に行く事を決意して下さって良かった良かった。

 

 

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〜幼稚園 入園式直前〜

 

 

「それじゃあ皆ー!移動するから隣のお友達とお手手を繋いでねー!」

 

ぎゅっ

 

雪乃「!?」

 

ばしっ

 

雪乃「いきなりわたしのてをにぎるなんて、なんて ふらちで へんたいなのかしら。これいじょういわれたくなかったら、にどとわたしにさわらないでちょうだい」

 

「う、う、うわあああああああん!!!」

 

「ああ!!ど、どうしたの!?何があったの!?」

 

 

 

 

雫乃「あわわわ……雪乃……」

 

都築「……」

 

前言撤回。休ませた方が良かったかも知れません。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだあいつ……」

 

 

-------------

 

 

 

ようちえんにきてしばらくたつけれど、えほんのようなことは まだおこってない。きょうもわたしはひとりでいる。ほかの子たちはみんなグラウンドであそんでるのに。

 

雪乃「……」

 

つづきさんのうそつき。……ん?

 

雪乃「あの子もひとり……」

 

みんなあそんでるのに、あの子はすみっこでボーッとしてる。あ、こっちにをみた。……ビクッとされた。目をそらされた。

 

雪乃「む……」

 

しつれいな子。

きづいたらわたしはすこしずつ、その子にちかづいていた。

 

雪乃「……」

 

「……」

 

雪乃「……」

 

「……」

 

知らんぷりをつづけてる。ほんとにしつれいな子ね。

 

雪乃「……きづいてるでしょう。こっちをみなさい」

 

「……なんだよ」

 

雪乃「なんだじゃないわよ。さっきはロコツに目をそらすし、わたしがあなたに ちかづいてるあいだ、すごくいやそうなかおをしてたでしょう」

 

「……してない」

 

雪乃「わたし、きょげんは はかないの。たったいまうそをついてるあなたとちがってね」

 

「そ、そうか……」

 

雪乃「ところであなた、なんでひとりなの?」

 

「いきなりしつれいなやつだな」

 

雪乃「いいからこたえなさい」

 

「見りゃわかるだろ、ともだちいないんだよ」

 

雪乃「あら、かわいそうな子」

 

「そんなにおれをいじめたいか。つかおまえも一人じゃん」

 

雪乃「わたしはココウ?だからちがうのよ」

 

「ああそう……」

 

雪乃「む……なによそのたいど……」

 

「いや、べつに」

 

雪乃「むう……」

 

 

『そろそろ教室に戻ってきてねー!』

 

「お、やっとおわったか……。それじゃあな」

 

雪乃「あっ!まちなさい!」

 

その子は はしっていった。さいしょからさいごまで しつれいな子だったけれど、ひさしぶりに ほかの子と はなしをしたきがする。

 

 

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「おやつの時間ですよー」

 

 

せんせいがみんなにおやつをくばる。きょうのおやつはクッキーとチョコ。

 

雪乃「ふふ、おいしい」

 

クッキーはさいごにたべたいから、おさらにのこしておく。

 

「まてよー!」

 

「あっはっは!」

 

雪乃「いたっ……」

 

ほかの男の子たちが はしりまわってて、わたしにぶつかった。つくえを見ると、クッキーがない。

 

雪乃「あれ……。ああっ……」

 

したを見ると、クッキーが落ちてて、われていた。

 

雪乃「……」

 

たのしみにしてたのに……。

 

 

 

「ん……?」

 

雪乃「……」

 

「……はあ。……おい」

 

雪乃「……え?」

 

「ほら」

 

雪乃「……クッキー?」

 

「やるよ」

 

雪乃「でも、これはあなたのでしょ?」

 

「クッキーきらいだから、かわりにたべてくれ」

 

雪乃「……」

 

「ああもう、ほら、ここおいとくからな」

 

そういって、いつもひとりでボーッとしてた子は、クッキーをくれた。

 

 

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雪乃「ねえ」

 

「ん?」

 

雪乃「さっきは、あの、……ありがとう」

 

「いや、おれもクッキーどうしようかとおもってたから、だいじょうぶだ」

 

雪乃「クッキーきらいなの?」

 

「……きょうはきらいだった」

 

雪乃「きょうは? あなたかわってるのね」

 

「うるせ」

 

雪乃「ふふっ」

 

なふだをみた。ひきがやはちまん。ひきがやくん。おぼえておこう。

 

 

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あの日からわたしはひきがやくんにはなしかけることがふえた。ひきがやくんもわたしのなまえをおぼえてくれた。

かれはほかの子とちがって、へんな子だ。でもいっしょにいてたのしい。

 

雪乃「えっと、ひきがやくんは」

いつもはここにいるのだけれど……。

 

「ほらはちまん、はやくいかないとおもちゃとられちゃうよ」

 

八幡「いや、おれはいいからひとりであそんでこいよ……」

 

雪乃「む……」

 

いた。でも、しらない女の子といっしょだった。

 

雪乃「ひきがやくん、その手をはなしなさい」

 

八幡「ん、ゆきのした?」

 

「ちょっと、いきなりなんなのさ」

 

雪乃「わたしはあなたのためにいってるのよ」

 

「いみわかんないよ。ほらはちまんいこ」

 

八幡「うわっ……ひっぱるな……」

 

雪乃「……」

 

ひきがやくんは女の子につれていかれた。

 

雪乃「……」

 

 

 

 

 

「じゃあはちまんはおとうさんのやくね」

 

八幡「ええ……」

 

雪乃「ならあなたはこどものやくをしなさい」

 

八幡「うわ、……ゆきのした?」

 

雪乃「あら、ひきがやくん。きぐうね」

 

「ちょっと、おかあさんやくはわたしだよ」

 

雪乃「おかあさんはわたしよ」

 

「さっきからいみわかんないよ」

 

雪乃「なによ」

 

「なにさ」

 

雪乃「……」

 

「……」

 

八幡「ちょ……せ、先生!!たすけて!!」

 

 

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あの女の子はしぶやりん さんというらしい。あのあとなぜか、せんせいがきて、せんせいがおかあさんやくをした。わたしとしぶやさんは こどものやくだった。

つぎの日からしぶやさんもいっしょにあそぶことがふえた。

 

 

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雪乃「ほうじょうさんは えがじょうずなのね」

 

加蓮「ありがとう。えへへ、わたしおえかきすきなんだ」

 

雪乃「わたしもいっしょにかいていいかしら?」

 

加蓮「うん!いっしょにかこう!」

 

 

 

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奈緒「ほらゆきの、これあたしのおきにいりのにんぎょうだ!」

 

雪乃「へえ」

 

奈緒「ん?ゆきののもってるキーホルダー、それなんだ?」

 

雪乃「これ?これはパンさんのキーホルダーよ」

 

奈緒「へー!パンさんっていうのか!かわいいなあ!」

 

雪乃「ふふん、そうでしょう。でもかみやさんのそのおにんぎょうも すてきよ」

 

奈緒「へへん!だろー!」

 

 

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雪乃「はやみさん、なんども言うけれど、あまりひきがやくんにベタベタしないほうがいいわ。ひきがやきんにやられてしまうわよ」

 

奏「あら、そんなこと言って、ほんとうはあなたがはちまんくんとあそびたいんじゃない?」

 

雪乃「な、なにを言ってるのかしら!」

 

奏「ふふ、照れちゃって♪」

 

 

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凛「ほら、いくよ」

 

奈緒「きょうはなにしてあそぼっかなー!」

 

奏「ほらはちまんくん、おいていくわよ♪」

 

八幡「かってに行ってこいよ……」

 

 

加蓮「ゆきのちゃん、いっしょにいこ。みんなまってるよ!」

 

雪乃「うん」

 

 

 

 

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雪乃「……ん」

 

 

目を覚ますと外は既に明るくなっていた。起き上がる。胸の辺りが温かい。とても懐かしい気持ちになる。

しばらく胸の辺りを優しく押さえていると、ドアがノックされ開く。

 

都築「雪乃様、おはようございます。……ん?どうなさいました?」

 

雪乃「……いえ、何でもないわ」

 

都築「は、はあ……。朝食の準備が出来ておりますので、一階へお越しください」

 

雪乃「ええ、わかったわ」

 

そう返事すると都築さんは背を向け退室しようとしたが、呼び止めた。

 

雪乃「都築さん」

 

都築「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「ふふ、あなたの言う通りだったわ」

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 






次回から本編に戻ります。


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