私が幼稚園の頃はクマさんとキリンさんをよく描いていました。実家に帰って思い出の品々を見るとキリンがどう見てもラクダにしか見えませんでした。
写生。
絵画において、事物を見たまま写しとることであり、主観的な表現を表す写意の対立概念。まあちょっと博識ぶって説明してみたが、要はデッサンである。
先生が園児達にスケッチブックに何でもいいから園内で自分の見たものを描こうという提案があった。
正直俺はこの案に賛成だった。何故なら教室にいることなく一人で黙々と時間を潰せるからな。絵を書き終わったらその後はもう自由にしていいらしいし。適当に遊具の風景でも描いてさっさと終わらせて日向ぼっこしながら寝ちまお。
そう思ってた時期が俺にもありましたよ。
八幡「なんだこの状況」
雪乃「・・・」
凛「・・・」
加蓮「・・・」
奈緒「くふっ・・ぷぷっ」
女の子に囲まれ、ポーズを取らされる五歳児がそこにはいた。
というか俺だった。おい神谷、笑いすぎだ。
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十五分ほど前だろうか。先生の合図で園児達がスケッチブックとクレヨンを手に持ち、各々が思っているであろう絵を描くために散らばっていった。
団子のように固まって絵を描く園児達もいれば、一人黙々と作業を進める園児もいる。というか後者は俺だったわ。
俺は遊具をスケッチブックに描いていた。シーソー、滑り台、ジャングルジム、ブランコ。これだけ描けば充分だろ。ジャングルジム地味に難しかったな。この後の寝る時間が少し無くなっちまった。まあいいや、あとは背景に空を適当に描いてっと・・・。
加蓮「あ・・・は、はちまんくん」
八幡「ん?ああ北条か」
加蓮「ここをかいてたの?」
八幡「まあな。もう終わりそうだ」
加蓮「ええっ、はやいね・・。わたしまだなにもかけてないよ・・・。」
八幡「ここ結構描きやすいぞ。俺もう終わるからここで描いたらいい」
そう言って俺は立ち去ろうとすると北条が目の前に回り込んできた。意図が分からなかったので北条の横を通ろうかとすると北条も横に移動し、また俺の行く手を阻んできた。くっ・・・こいつ、やりよる・・・。
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その後五、六回ほど北条から行く手を阻まれた。傍から見たらすごい絵面だっただろうな。北条も「う、うぅ・・・」って恥ずかしがるくらいならやらなけりゃ良かったのに。
北条に先程の意図を聞くと、自分は絵があまり上手くないから、俺に描き方を教えて欲しいらしい。しかし俺もそんなに絵は得意ではない。それに俺たちは幼稚園児なのだ。下手でなんぼだろう。
というか俺は知っている。北条は体があまり優れないことが多いらしい。だから周りの子達のようにあまり外で遊ぶことができないため、よく教室の中で絵を描いていることを。たまに通りかかる時にちらりと見たけど、上手い部類には確実に入るほどの実力だということを。
北条の意図が読めん。あと北条、何故遊具ではなく俺を見ている。何故百歩譲って俺がここに残り、北条の絵ができるまで待つとしても、俺が描いた風景と同じになるはずのお前が、何故俺の対面にいる。遊具を描くんじゃなかったのか?それ絶対俺のこと描いてるよね?
そのような思いを込め北条の目を見る。気付け。あ、目が合った。・・・おい、口をもごもごするんじゃない。かわいいなくそ。
八幡「な、なあ北条、お、俺はてっきりお前も遊具を描くと思ってたんだけど」
加蓮「だ、だって、それははちまんくんがもうかいちゃったから、あたしもかくとマネしたみたいになっちゃうじゃん。ず、ズルはしちゃダメなんだよ?」
八幡「い、いやズルじゃないと思うぞ?ほら、周り見てみろよ。皆で固まって描いてる子達もたくさんいるぞ?だから、北条も遊具を「はちまんくん、うごいちゃだめ」・・・はい、すいません」
加蓮「ほら、はちまんくん、ちゃんとこっちみて」
・・・もう何も言うまい。ただ時間が過ぎるのを待とう。言われた通り前見とくか。
加蓮「・・・うぅ」
北条よ、さっきから唸ってるがどうしたんだ、体調悪いのか。心なしか顔も赤い。
八幡「な、なあ北条。顔赤いけど大丈夫か・・・?さっきからきつそうだし、もうやめといたほうが・・・」
加蓮「え!?だ、だいじょうぶだよ!ぜんぜんきつくないし、おかおは・・・うぅ、おかおあかいんだ・・・」
とりあえず大丈夫らしい。後半聞き取れなかったが。まあ本人が言うなら大丈夫なのかな。
加蓮「・・・はちまんくんはやさしいね」
八幡「ん?そ、そうか?」
加蓮「うん。やさしい。あのときもあたしたちをたすけてくれた。いまも、あたしのことしんぱいしてくれる」
八幡「・・・あれは俺の自己満足だ。俺の目の前で起きていることが、俺にしか解決できないことだったら俺がやる。俺にとっては当たり前のことなんだよ」
加蓮「よくわかんないけど、はちまんくんはやさしいよ。あのときも、とってもうれしかった。ありがとう」
八幡「き、気にすんな」
加蓮「もう、おれいはすなおにうけとらなきゃダメなんだよ?」
そう言って北条がクスリと笑う。仕方ねえだろ、あんまこういうこと言われる機会ないんだから。
八幡「・・・おう、わかった」
加蓮「ふふ、うん!」
今日一番の笑顔を見せてくれた北条は、とても可愛くて、思わず目をそらしてしまった。
加蓮「あのときのはちまんくん、すっごくかっk「かれん、なにしてるの?」・・・げっ」
俺たちがいる所に渋谷と神谷が来た。というか北条、げっ、って言ってやるな。友達なんでしょ?
凛「あれ?かれん?あれれ?となりの組のともだちとかくんじゃなかったの?」
加蓮「あ、あれー?そ、そうだったっけ?そ、そんなこといったかなあ」
奈緒「まあ、あたしはそんなこったろうとおもってたけどさ・・」
そう言い神谷が苦笑いしている。話が読めん。
凛「なお、しってたならあたしに言わなくちゃ。ほうれんそうは きほんだっておとうさんが言ってたよ」
奈緒「え、なんでやさいがきほんなんだ?」
もはや誰も俺の存在を気に止めていない。女三人集まれば、などと言うが、強ち間違っていないのかもしれない、とにかくこれで解放される。逃げ恥逃げ恥。まさかこんな所で役に立つとはな。そう思い、そろりそろりとその場を後にしようとすると、
雪乃「あら、これはいったいどういうじょうきょうなのかしら、へんたいがやくん?女の子をはべらせて、なにをするつもりなのかしらこのたらしがやくんは」
ああああ、今一番遭遇してはいけない奴が来やがった。しかも渾名を二つも・・・。雪ノ下、立ち直れなくなるからその辺で勘弁してくれ・・・。
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その後逃げられなくなった俺は北条、渋谷、雪ノ下に囲まれながら一人一人が要求してきたポーズを取らなければならなくなった。神谷はブランコに座りながら俺たちのことを描いている。おい神谷、笑いながら描いてないで止めろ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。
雪乃「ひきがやくん、ちょっと滑り台のところですわってちょうだい」
凛「はちまん、ジャングルジムのてっぺんでばんざいってしてよ」
加蓮「はちまんくん、シーソーにいっしょにのってるところをかくからいこうよ。・・・あれ、でもそしたらわたしものるからかけないや・・・うう」
などというような画伯たちの要求が続いた。北条がだんだんポンコツになってきている。あと神谷、お前もうブランコ楽しんじゃってるじゃねえか。少しはこっちを気にしてくれ。
結局俺は予定していた昼寝もできず、時間になるまで三人のデッサンに付き合わなければならなかった。
おわり
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〜おまけ〜
みんなのがんばって描いた絵を見るのは感慨深いわね〜。
子供は想像力が豊かだから、見てるこっちも勉強になるわ。
先生「八幡くんは遊具を描いたのね。上手だなあ。あの子はやっぱりいろいろ器用だから将来が楽しみねえ」
もちろん八幡くんに限らず、みんなとっても上手に描けているけれど。
・・・ん?これは、凛ちゃんね。ジャングルジムが描かれてあるけど、その頂上に男の子が居るわ。この特徴的なアホ毛は、八幡くんかしら。本当に仲がいいわねえ。さて次の子は・・・ん?またアホ毛。今度は滑り台で遊んでる風景ね。描いたのは雪乃ちゃんか。この二人は本当に八幡くんのことが好きねえ、ふふっ。
・・・またアホ毛だわ。今度は加蓮ちゃん。シーソーに乗ってる八幡くんと、一緒に遊んでる加蓮ちゃんといったところかしら。八幡くん、本当に罪な子ねえ。その年でモテ期を経験するなんて。でもそろそろ先生の心が抉れそうだからほどほどにしてね?・・・はあ、彼氏ほしい。
次は奈緒ちゃんか。ん?名前の横に「じしんさく!」って描いてあるわね。奈緒ちゃんは活発な子だから、見てるこっちも楽しくなるような絵なのかもね。
・・・これもアホ毛。まさかアホ毛のフォーカードが揃うとは思わなかったわ。
でも奈緒ちゃんの絵の中には三人の女の子が八幡くんを奪い合う様子が描かれており、中心にいる八幡くんは泣きそうな顔でこちらを見ているものだった。
・・・奈緒ちゃんが一番絵が上手かったのね。まさかこの一枚で状況を全部理解出来るとは。八幡くん、モテる男は辛いわねえ。
あと奈緒ちゃん、面白がって描いてないで少しは助けてあげなさい・・・。
おわり