とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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ちょっと改善?
この人の立ち位置が、一番微妙な気がする。



105(戦乙女日記 エピローグ)

 +月A日

 

 徹君も、その周りにいる人たちも、堕天使や悪魔達も、よくしてくれる。

 学校での教職にも慣れてきたし、普通の毎日を過ごしている。

 ……オーディン様としては、あまり面白くない状態だろう。

 三大勢力も『禍の団』も、徹君を警戒している者達も、行動には移らない。

 異世界の神だと言われた徹君の本質、能力の情報を調べているのだろう。

 それを知らなければ、対策など立てられるはずもないのだし。

 しばらくは、このまま現状維持だろう。

 ――私としては、望むべき平穏な毎日なのだが。それではオーディン様は納得しない。

 溜息が多い。アザゼル先生から心配された。よほど疲れた顔をしていたらしい。

 家に帰ると、黒歌さんが徹君とイチャついていた。

 せめて、人前では、と注意しておいた。

 昼間、白音さんが徹君とお昼を一緒にしたので、家では自分の番、というのが彼女の言い分だった。

 真面目なのか、おちゃらけているのか…彼女がよく判らなくなる。

 

 

 

 +月B日

 

 どうしてか、私も修学旅行に行く事になった。

 日本の京都には言った事が無いので、少し楽しみだ。

 だが、徹君の傍を離れる事になるのは、あまり良くないかもしれない。

 オーディン様に伝えておいた。最悪、修学旅行は……断るのは難しいだろうな。仕事というのは、そう言うものだ。

 それよりも、スコルとハティに鎖が付けられた。グレイプニルだ。

 徹君が、アザゼル先生経由で手に入れたらしい。

 ……神さえ縛る鎖を民家に置いているのは、おそらく世界中で徹君の家だけだろう。

 並みの敵――テロリスト程度なら、グレイプニルだけで無力化できるだろう。

 本当に、この家の防犯……でいいのだろうか?

 フェンリル二匹が番犬で、捕縛用のグレイプニル。黒歌さんの結界。

 ――盗みに入る泥棒は、可哀相になる。

 

 

 

 +月C日

 

 魔王ルシファーから、グレモリー側に付かないか、と勧誘された。

 正直、かなり魅力的だったが、断らせていただいた。

 故郷に家族もいる事だし、オーディン様は裏切れない。

 その辺りの事情は、悪魔側にも気付かれているのだろう。その話は簡単に終わった。

 ……私の立場は、日本の言葉で言うなら、針の筵というものなのだろうな。

 学校で授業をするよりも、徹君の家に居る方が気疲れする。

 辛い――たすけ

 

 

 ――もう寝よう。

 

 

 

 +月D日

 

 グレモリー眷属のアーシアさんよりも、スコルとハティに警戒されている私って……。

 しかも、黒歌さんとは違う警戒だ。

 大好きなご主人様の傍に居る黒歌さんにはライバル心を、私には敵意を。

 ――この家で過ごすようになって暫く経つが、改善される気配は無い。

 まぁ、私の立ち位置が立ち位置なのだからしょうがないのだが。

 徹君から心配された。

 ……一番辛いのは、彼の優しさなのだが。

 彼に心配されるのが、一番辛い。

 

 

 +月E日

 

 ソーナ・シトリーから、徹君の事で話を聞かれた。

 一応、オーディン様の事は話さなかったが、あの調子では気付かれているだろう。

 そもそも、アザゼル先生も気付いているのだから、そこから話が漏れていてもおかしくは無い。

 だが、そんな私を警戒するよりも心配するあたり、彼女も底抜けの御人好しなのだろうか?

 徹君に似ている、と思う。

 まぁ、忠告すべき事は忠告してきたが。

 裏切る――か。

 現状、裏切り者の立場である私には、耳が痛い話だ。

 徹君ならなんとかしてくれる――と言っていた。

 本当にそうなら……どれだけ嬉しい事か。

 

 

 助けてほしい? ああ――きっとそうなのだろう。

 こんなスパイのような事をするために戦乙女になった訳ではない。

 

 

 

 +月F日

 

 京都への旅行――学生の付添いだが、それでも楽しみだ。

 いい息抜きになる、とアザゼル先生も言ってくれた。

 徹君から離れる事も大事だ、とも。

 そうだろうか?

 私の仕事を気付いているだろうに……。

 

 兵藤君のいやらしい視線が、少し楽だ。

 彼は何も考えてないんだろうなぁ、と思うと気を許せる。

 注意するべき事を注意するだけだし。

 

 

 

 +月G日

 

 今日は良い買い物ができた。息抜きには、安くて良い物を探す買い物が一番良い。

 ……家に帰ると、今日は白龍皇達が家に来たと教えられたが。

 私は抜けてるなぁ、と思う。

 もう、このままでもいいんじゃないか、とも。

 京都で『禍の団』が活動しているらしいので、注意するように、との忠告に来てくれたようだ。

 徹君の友好関係は、今更だが不思議だな、と思う。

 テロリストが、身内の情報を教えるものだろうか? 私はテロリストではないので判らないが。

 『禍の団』も一枚岩ではないのだろう。

 ……まぁ、京都へは徹君ではなく私が行くのだが。

 面倒が無ければいいが。

 

 

 

 +月H日

 

 京都へ旅行に来ている間、兵藤君の部屋が悪魔や堕天使たちの相談部屋になるそうだ。

 彼には悪いが、我慢してほしく思う。

 まぁ、個室なのだからそこまで悪くは無いはずだ。

 しかし、兵藤君には困ったものだ。

 彼のスケベ根性は判っていたつもりだが、躊躇いも無く女湯を覗きに行くとは思わなかった。

 ソーナ・シトリーの眷属たちと一緒に撃退した。

 ……彼は、エッチな事になると強くなるのだと理解した。もう少し真面目に戦えないのだろうか?

 左腕の赤龍帝の泣き声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう……多分。

 よく徹君がドライグさんの話を聞いていたが、ああいう事か。同情してしまいそうだ。

 それにしても、魔王レヴィアタンに、京都の狐――それに、白龍王の話では『禍の団』も動いている。

 オーディン様からの指令では、この旅行では特に何もしなくていいとの事だ。

 赤龍帝には興味を示されていないのか、それとも私とは別の監視者が居るのか。

 京都の問題に関わるかどうか、私の判断次第。

 ……できれば、せっかくの京都なのでゆっくりしたい。

 

 

 

 +月I日

 

 学生たちは気楽でいいと思う。私も、学生で駒王学園へ入学すればよかったかもしれない。

 まぁ、今更ハイスクールの学業など、退屈でしかないのだが。

 日本の寺は雰囲気というか、なんというか……美しい。

 私の様な外国の者が日本に惹かれる理由が、なんとなく判った。

 今度来る時は、ゆっくりと見て回りたいと思う。来る時があるかは判らないが。

 

 アザゼル先生が動いてくれたおかげで、京都の妖怪達との誤解が解けた。

 『禍の団』が動いており、京都の九尾を捕えているらしい。

 私達は、彼女の奪還に動くことになりそうだ。

 ……信頼を得るには、こういう事の積み重ねだろう。

 現状をどうにか改善したい。――人を騙している。その意識から逃げたいだけだろうが。

 自分で自分が嫌になる。

 どうしてこんな事になっているのか……。

 

 

 

 +月J日

 

 気持ち悪い。疲れた。眠い。

 

 

 

 +月K日

 

 酒に酔い、感情のままに暴れたら、気分が良い。

 もう二度とお酒には呑まれたくないが、偶にはいいかもしれない。

 よく覚えていないが。アザゼル先生が愚痴を聞いてくれた事は覚えている。

 今度お礼を言おう。

 というか、徹君達にお土産を買ってくるのを忘れた。

 徹君が心配してくれた。

 肩を揉んで、お疲れ様、と言ってくれた。

 ――私は酔って暴れただけなのだが。

 本当に、彼は優しい。黒歌さんが好きになった理由が、少し判った。

 甘えたくなる。年下の彼に。

 ソーナ・シトリーは徹君が何とかしてくれる。助けてくれると言った。

 そうなのだろうか? 信じていいのだろうか?

 黒歌さんが、おかえりと言ってくれた。

 ……黒歌さんにまで優しくされると、本当に自分が惨めになる。

 

 

 

 +月L日

 

 『禍の団』英雄派の曹操が徹君への対抗策を考えているような事を言っていた。

 思い出した事を、オーディン様へと伝えた。笑っておられた。心底から、楽しそうに。

 きっと、その対抗策をもって、曹操は徹君へと挑むのだろう。

 ――その結果を、子供のように楽しみにしている主神に、溜息しか出ない。

 過去の英雄程度に、徹君がどうにかできるだなんて思えない。

 ……でも、徹君に戦いは似合わない。

 もしその時、私が横槍を入れれば――オーディン様はどう動くだろうか?

 そんな事を考える私は、戦乙女失格だろうか?

 その事ばかりを考えてしまう。

 ――どっちつかずの私は、本当に弱い。

 

 

 

 +月M日

 

 兵藤君から心配された。京都の時も心配されたが、どうやら私は判りやすいほどに悩んでいるようだ。

 ……自分でも判っている。

 現状に限界を感じている。裏切る事を、無理だと感じている。

 オーディン様にそれとなく言うと、それでもやれ、との言葉しか返ってこない。

 辛い。疲れた……何もかも、手放したくなる。

 

 

 

 +月N日

 

 京都では、私は酔って暴れただけだ。酔いに任せて、ストレスを発散しただけだ。

 目立った戦果は上げていない。

 だがそれでも、徹君はその事を喜んでくれた。

 正直……驚いた。いや、彼の性格なら、ああ言うのかもしれない。

 怪我をしなくて良かった、と。無理をしないで、と言ってくれた。

 一番堪えた。

 辛い。裏切りたくない。

 ……彼の優しさは、私には毒だ。

 

 

 

 +月O日

 

 黒歌さんが、徹君のベッドに潜り込んでいた。

 昨日の話。

 無理をしないで、という話。

 それに黒歌さんが入っていなかったから。それと、いつも無理をする徹君へのご褒美と罰、だと。

 なんというか……黒歌さんは、良い人だな、と心から思えた気がする。

 きっと、前記は建前、後記は本音なのだろう。

 あんな優しい人に好かれている徹君が羨ましい。

 

 

 

 +月P日

 

 グレモリー眷属のアーシアさんが泊まりに来た。

 偶に来ているらしく、彼女の着替えはレイナーレさんの部屋に置いてあった。仲が良いようだ。

 京都での話を楽しそうにしていた。

 彼女は兵藤君が好きらしく、京都で何があったのか、というのを細かくレイナーレさん達に説明していた。

 私も聞かれたが、私は仕事ばかりだったので、特別話す事も無い。

 『禍の団』と事を構えた時は酔っていたし。

 曹操が徹君への対策がある、という話になると少し空気が重くなったが。

 それでも、徹君なら大丈夫と黒歌さんが言っていた。

 ――けど、一番心配しているのは、レイナーレさんか……黒歌さんだろう、とも思う。

 大丈夫だと、自分に向けて言っていたのだと思う。

 ……その時、私は横槍を入れるだろうか?

 答えはまだ、出ていない。

 

 

 

 +月Q日

 

 黒歌さんから、私はどちらの味方か、と聞かれた。

 答えきれなかった。

 正直、私は何者なのか、誰の、何の味方なのか――最近、判らなくなる。

 ただ、もう裏切りたくない。それだけは本当だ。

 それだけは、黒歌さんに伝えておいた。

 

 徹君からも心配された。

 彼はいつも、私の心配をしてくれている気がする。

 ……私は、気付いていないだけで、どれだけ彼に心配されているのだろうか?

 

 

 

 +月R日

 

 アザゼル先生から、徹君の事を聞かれた。

 といっても、私も先生も、知っている事などほとんど同じだが。

 ただ、曹操の言っていた対抗策が気になる。

 アザゼル先生も、徹君への対抗策があるのか、と疑っている。

 徹君。異世界の神。時間を操るのか、それとも時間を操っているように感じているだけなのか。

 彼の能力は、いまだに未知だ。

 もし曹操がその未知の内容に気付いているのなら、とても気になる、というのが本音だ。私も、アザゼル先生も。

 それとも、単純に力押しをするのか。

 その対抗策の事を徹君には内緒に、と言っていたが、この前アーシアさんが黒歌さん達に伝えていた。

 たぶん、彼女が伝えなかったら、近いうちに私が伝えていたとも思う。

 そういうと、あからさまに溜息を吐いていた。

 まぁ、それでも曹操は何らかの行動に出るだろう。

 その時が、私の分岐点だ……。その時、私はどちら側になるのだろう? 判らない……。

 

 

 

 +月S日

 

 ルフェイという『禍の団』の魔法使いと、フェンリルが来た。

 覚えていないが、私が酔っている時に接触して、助けてくれたらしい。

 本当に覚えていなかった……お礼を言うと、笑われた。

 ルフェイさんは私が酔っていた事を覚えていたようだ……泣きたい。

 

 

 

 +月T日

 

 今日は、なんだろうか……良い事、なのだろう。良い事があったんだと思う。

 あまり、よく判らない。もしかしたら、よくない事なのかもしれない。

 徹君が夕食を用意してくれた。北欧の家庭料理を、だ。

 私の為に、私を心配して。お隣の天使、グリゼルダさんに相談して、レシピを聞いて。

 昼間は一緒に買い物に行って、私の事を心配してくれて。愚痴を聞いてくれて。

 夜は故郷の料理を用意してくれて。

 ……とても美味しかった。

 本当に、美味しかった……凄く。

 どうしよう――私、もう無理だ。

 家族に会いたい。おばあちゃんに会いたい。

 会って、話したい。

 日本で、とても素敵な男の子と会った。その人を騙してる。騙したくない……そう話したい。

 

 

 

 +月U日

 

 今日は、特に何も無かった。

 ただ、少しだけ黒歌さんと話す事に抵抗が無くなった気がする。

 それだけだ。

 ……大した変化だと思う。

 

 

 

 +月V日

 

 仕事から帰ると、徹君が肩を揉んでくれた。気持ち良かった。

 彼の優しさを、素直に受ける事が出来た。楽だった。

 ただ、白音さんがやたらと私を睨んできた。黒歌さんもだ。何があったのだろうか?

 聞いたが、答えてくれなかった。というか、無視された。

 黒歌さんは笑っていたが、何があったのだろうか?

 ……そんな事を楽しめる余裕があるのは、自分でも驚いた。

 気の持ちようというのは、大事だと思った。

 

 

 

 +月W日

 

 徹君から聞いたが、アザゼル先生が私の事を心配してくれているらしい。

 恐らくだが、彼も私を介してオーディン様の情報が欲しいのだろう。

 あの方は、おそらく明確に徹君を興味の対象としてしか見ていない。

 敵対するわけでも、近付くわけでも、距離を置くわけでもない。

 ただ、興味の対象としか見ていない。だからこそ、明日にはどういう行動に出るか判らない。

 アザゼル先生は、徹君には関わらない立ち位置だと思う。

 だからこそ、オーディン様に徹君を刺激される前にどうにかしたいのだろう。

 ……どちらかというと、私もアザゼル先生寄りの考えだと思う。

 出来るなら、徹君には平穏の道を進んでほしい。

 優しい彼には、戦いは似合わない。

 ――それが、今の私の本音だ。

 

 

 

 +月X日

 

 黒歌さんが、白龍皇達の元へと向かった。

 彼女が徹君を裏切るとは思えない――情報収集、という事だろうか?

 黒歌さんは私が思っているよりも聡い。他にも考えがあるのかもしれない。

 それでなくても、黒歌さんは徹君側。『禍の団』には曹操が居る。

 徹君と、明確に敵対する意思を見せた英雄が。

 レイナーレさんは心配していなかった。黒歌さんを信頼しているらしい。白音さんも。

 ……羨ましい。そう思う。

 私は心配だ。そう思うくらいには――黒歌さんを好きになっている。

 いまだ、あの時聞かれた質問の答えは出ない。

 だれの味方か。

 その答えを何時か聞いてもらう為にも、無事に帰ってきてほしい。

 

 それと、徹君から相談を受けた。

 最近白音さんから避けられてる、という事だ。

 そんな事は無いと思うが…。

 

 

 

 +月Y日

 

 呆れた。呆れたと言うか、豪胆というか……聞いた時には、驚きと溜息が出た。

 徹君が、私達に隠れてオーフィスと接触していたらしい。

 しかも何度も。

 なんて無茶を……一度殺された相手、しかも『禍の団』の首魁に一人で会うなんて。

 黒歌さんに怒られていた。当然だと思う。何事も無かったのが不思議なくらいだ。

 どれだけ危ない事を、と思う。まったく…。

 それに、オーフィスにたこ焼きとかラーメンを奢ったとか。

 私達が怒っているのはそこじゃない。もう……レイナーレさんは苦笑していた。

 徹君らしい、との事だ。多分、怒りを通り越して、笑うしかなかったのかもしれない。

 『女王』がそんなだから、『王』がのんびりし過ぎてるのではないだろうか?

 そう思った。

 

 

 

 +月Z日

 

 白音さんが、徹君に甘えていた。膝枕をせがんでいた。正直、聞いた時は耳を疑った。レイナーレさんも驚いていた。

 なんというか、普段の彼女らしくない態度に私も驚いた。

 何か、ストレスが爆発するような事でもあったのだろうか?

 黒歌さんはなにか判っているようだったが、何だろうか? 教えてもらえなかった。

 まぁ、しばらくはあのままで、と言っていた。大丈夫なんだろうか?

 とりあえず、理解しているだろう黒歌さんが慌てていないので、大丈夫なのだろうが…。

 

 ――オーディン様への報告を随分としていない。

 北欧……オーディン様は、私のこの行動を不審に思われているだろうか?

 報告する事が無い?

 それでも、一報を入れるのは必要な事だと判っている。

 ……判っているのだ。

 

 




徹君に傾いてるけど、まだどっちつかずな戦乙女さん。
しかし、徹君が気付いたら餌付けキャラになってて、自分で驚いてます。
黒歌→猫缶
白音→マタタビ?
ロスヴァイセ→故郷の料理
オーフィス→アイス

手料理がロスヴァイセしかいない件について
そして、アザゼル先生の胃がヤバい

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