とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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なんだかんだで、小説を書いちゃう俺
ゼロお母さんが可愛すぎると思う。


112(戦乙女日記)

 !月O日

 

 レイナーレさんとの修業は順調だ。

 才能は無いが、魔術への知識は確実に自分の糧にしているように思う。

 そんなに頑張ってまで徹君の役に立ちたいのか、と聞くと徹君の為だけではなく、黒歌さんや白音さん――私。

 この家に住む人達の為に、強くなりたいのだそうだ。

 ――そこまで頑張れる彼女が、正直羨ましい。眩しくさえ思える。

 助けられたから、救われたから、守られたから――。

 だから、今度は自分が助けたい、救いたい、守りたい。

 それが彼女が頑張る理由。それが――レイナーレさんの、強くなる理由。

 支えたいと思う。思ってしまった。

 徹君達を裏切りたくない、彼女の願いを支えたい。

 

 

 

 !月P日

 

 魔王ルシファーの『女王』グレイフィアさんが徹君へカウンセリングの代金を持ってきた。

 徹君は断っていたが。大金を持っていると落ち着かないのだとか。

 庶民というか、普通というか……彼らしい理由に苦笑してしまった。

 結局、ドライグ殿へのカウンセリングのお礼は、今度白音さんが参加するレーティングゲームでの応援するための席を用意してもらう事。

 魔王ならば簡単に用意できるだろう。

 ――白音さんも、黒歌さんも喜んでいた。もちろん、レイナーレさんも……私も。

 彼にとっては、お金よりも身内の方がよほど大事なのだろう。

 なんとなく、そう思えた。

 

 

 

 !月Q日

 

 レイナーレさんの魔術の授業が一歩進んだ。

 黒歌さんの方でも、近いうちに仙術、妖術の修業のレベルを一段階上げるそうだ。

 白音さんも、随分と実力を上げてきた。仙術、妖術は相当な腕だと思う。

 レイナーレさんも、最初の頃に比べたら格段に腕をあげた。まだまだ粗削りだが、上級悪魔ともそれなりに撃ち合えるレベルだと判断している。

 とりあえず、攻撃と防御のどちらに重点を置くか聞いたが、どちらも覚えたいそうだ。

 才能が無いのなら、知識として覚え、今ではなくこれから先、必要な時に使えるようになりたいのだ、と。

 以前、黒歌さんが強くなるためにあせっている、とレイナーレさんの事を言っていたが、今は大丈夫そうだ。

 彼女には時間がある。強くなるための準備期間が。今はその時だと、気付いた心の余裕もある。

 本当に――教え甲斐のある生徒だ。

 鍛えよう。彼女が望む『女王』へなれるように。彼女が願う自分になれるように。

 ……そう思えるのは、きっと彼女の人徳だろう。

 黒歌さんも、グレイフィアさんも――こんな気持ちなのだろうか?

 だとしたら、嬉しく思う。私も少しは、この家に馴染めたのかもしれない。

 

 

 

 !月R日

 

 今日から、レイナーレさんはグレモリー家へと徹君の『女王』として修行に行っている。

 黒歌さんが心配していた。

 以前、私は京都へと修学旅行で出かけていたが、その時にグレモリー領で暴動が起きている。

 今回もそんな事が無いか心配しているのだそうだ。

 ……本当に彼女は、レイナーレさんが好きなのだな、と感じた。

 多分、黒歌さんにとってこの家――家族という者は、特別なのだろう。

 彼女が元テロリスト、元指名手配犯の犯罪者だとは聞いている。

 だからこそ、この家が、この場所がとても大事なのだろう。

 

 今日は、黒歌さんと白音さんが夕食の用意をしてくれていた。

 家に帰ると、食事を用意してくれた。

 ――少しは、認めてもらえているのだろうか? だと嬉しく思う。

 

 

 

 !月S日

 

 レイヴェルさんから相談を受けた。

 徹君とどのように話せばいいのか判らないのだとか。

 気負わずに話して大丈夫、と伝えておいた。

 彼はあまり肩書や立場を気にしない。

 自分の目で見て、耳で聞いて、話して、触れ合って、相手を判断する。

 だから、気負わずに話した方が良い印象を与えられると思う。

 レイヴェルさんも色々と大変なようだ。貴族の家系として、徹君との付き合いに考える所があるのだろう。

 まぁ、一番の問題は渦中の彼が自分の立場をどこまで理解しているのか判らない、という事か。

 誰にでも手を差し伸べ、三大勢力、北欧との繋がりがある。

 だと言うのに、それらと敵対している『禍の団』とも一定の距離で付き合っているようだし。

 ……オーフィスとも、それなりに親しいようだし。

 そう言えば、その事もオーディン様には伝えていない。

 何かしらの情報を話さなければならなくなったら、その事でも伝えようか。

 

 

 

 !月T日

 

 今日は、徹君と白音さんの勉強を見た。

 夕食の後、勉強を教えてほしいと言われたからだ。

 ああやって、戦乙女や徹君の立場を考えず、普通に勉強をする時間も悪くないと思えた。

 少なくとも、あの時間はとても楽しかった。オーディン様や北欧、家族の事を考えず、ただ徹君と白音さんに勉強を教えていた気がする。

 ……気を使われたのだろうか? そうかもしれない。

 彼は優しい。本当に。

 もう何度書いたか、もう何度感じたか――もう何度、思ったか。

 良い人だと思う。

 

 もし私が助けを求めたら、彼は助けてくれるだろうか?

 ――そんな都合のいい話など、ある訳ない。

 私は彼を騙している。彼が、そんな私にまで手を伸ばしてくれるなど……。

 

 

 

 !月U日

 

 レイナーレさんがグレモリー家から帰ってきた。

 随分と顔つきが変わって見えたのは、私の気のせいだろうか?

 グレモリー家でサイラオーグ・バアルと会ったそうだ。その事が関係しているのかもしれない。

 彼とレイナーレさんはどこか似た所があるように感じる。

 きっと、何か得るものがあったのだろう。

 ――それが、レイナーレさんの為になるものであることを願おう。

 彼女には、真っ直ぐ成長してほしい。

 歪まず、曲がらず、徹君の『女王』として、徹君の隣に立つ者として。

 ……その為なら、私は私が持つ知識の全てを教えよう。

 それがきっと、私に出来る事だ――。

 

 

 

 !月V日

 

 アザゼル総督から、今度のリアスさん達のレーティングゲームに帝釈天、インドラ様も見に来ると聞いた。

 いきなりの事だったらしい。恐らく――徹君がそのレーティングゲームを観戦するから。

 和平に興味を示しているが、積極的に参加していない神。

 何を考えているか判らない、というのは私も同意見だ。

 『禍の団』――英雄派とも何かしらの繋がりがあるようでもある。

 オーディン様と同じく、油断できない神だ。

 珍しく、アザゼル総督が私の前で溜息を吐いていた。私も同じ気分だ。

 あの神もまた、何かしらの価値を徹君に見出しているのだろうか?

 ――本当に、平穏を望みながら、平穏とは程遠いと思う。

 徹君は、いつか平穏へと至れるのだろうか?

 アザゼル総督は、徹君が本当に望んだなら、平穏に至れると言っていた。

 ……数多くの神話体系を黙らせれば、と。

 ああ確かに――彼なら、それが出来るだけの力があるのかもしれない。

 でも、きっと彼はそれを望まないだろう。それは私もアザゼル総督も同じ考えだった。

 そういう人間だ、彼は。

 だからこそ、レイナーレさんの様な人が彼の元に集まるのだと思う。

 

 ――アザゼル総督は、そのうちの一人は私だ、と言ってくれた。

 そうだろうか?

 私はまだ、答えを出していない。まだ――私は徹君の側ではない。

 

 

 

 !月W日

 

 胃が痛い、というのを久し振りに感じた気がする。

 徹君に魔王が二人、堕天使総督、それに帝釈天。

 核心には触れないあいさつ程度の軽い話でしかなかったが、胎の探り合いの場は胃に悪い。

 帝釈天は『禍の団』英雄派である曹操との関係を簡単に口にするし。

 何を考えているのか――それとも、こちらを混乱させるのが狙いなのか。

 よく判らない。オーディン様と一緒だ。頭が回る神は胃に悪い。

 それに、冥府の神ハーデスもなにかしらの行動をしている、とも。

 いったいどこまで、何を知っているのか。

 それでも、共同でオーフィスを打倒するとは言っていた。他の神話体系でも『無限の龍神』は邪魔でしかないようだ。インドラも、冥界の神も、いまだオーフィスへの有効な対策は得ていないという事か。ブラフかどうかは判らないが。

 ――しかし、徹君にも困ったものだ。知り合い――仲間、身内には優しすぎる。

 彼の中では、オーフィスもまたそのうちの一人なのだろう。

 口にも表情にも出していなかったが、帝釈天がオーフィスと敵対する事を口にした時…微かに、だが確かに、神に敵意を向けた。

 明らかに……帝釈天と敵対でもするつもりか、とも慌てたが、そのつもりも無いみたいだが。

 彼の傍は心臓に悪い。

 徹君が帝釈天に劣るとは思わないが、アレも神の一柱。どうなるかは判らない。

 ……本当に、彼の傍は心臓に悪い。

 

 

 

 !月Z日

 

 今日、レイナーレさんと徹君がサイラオーグさんの家へと行った。

 私と黒歌さん、白音さんは付いて行く事が出来なかったので、何があったのか、詳細は判らない。

 徹君の話では、サイラオーグさんのお母様の病気を治してきた、とだけ聞いた。

 ただ、レイナーレさんの様子から、そう悪い事ではなかったのだと思う。

 それに、サイラオーグさんの事は――それなりに信頼できると思っている。

 彼はきっと、嘘を吐けない性格だろうから。

 黒歌さんからは呆れられたが。

 そういうものだと思う、ああいう男の子は。

 

 

 

 !月!日

 

 帝釈天、ハーデス、天界――それ以外にも、さまざまな神話体系の神々。

 表面上は和平や平和を謳っているが、水面下では複雑に警戒し合っている。

 帝釈天の言う通り、世界は動きを止めない。

 上代徹という力を誰もが望んでいる。

 アザゼル総督の調べで、その裏付けが取れた。

 オーディン様はまだ何の動きも見せていない。

 あの方が望んでいるのは徹君の力ではなく、彼の『異世界の神』の情報だからだろうと思う。

 その情報を得た時、どのような行動に出るかは判らないが。

 ……不思議なものだと思う。

 アザゼル総督から、生き生きしていると言われた。

 よく判らない。

 ただ――北欧、オーディン様の為ではなく、徹君の為に動いている。

 それは、悪い気がしない。

 レイナーレさんではないが、少しでも徹君を支えられたら、と思う。

 ――吹っ切れた、とも言えるのだろうか?

 ただ、家族の事が心配だ……これだけは、誰にも相談できない。

 私が、どうにかしなければならない事だ。

 

 

 

 !月”日

 

 家に帰ると、サイラオーグさんが訪ねてきていた。

 なんでも、徹君にお母様の病気を治していただいたのだとか。

 徹君は黒歌さんの薬で治った、と言っていたが。

 ……あの薬はイッセー君の性欲の抑制。病気を治す薬ではない。抑える薬だ。

 判りやすい嘘だと思う。

 恐らく、その事にサイラオーグさんも気付いているのだろう。

 それでもお礼を言いに来たのは――本当に救われたから、か。

 彼の笑顔を見ればわかる。徹君は、また一人、信じられる仲間を手に入れた。

 徹君の強さは、時間を操る事でも、異世界の神の力でもない……ああやって、心から信頼できる仲間を増やせることかもしれない。

 ――黒歌さんからは否定されたが…やはり徹君は、勇者だと思う。

 英雄、救世主……勇者。人を導ける存在。

 

 

 ……ただ私が、その存在を望んでいるだけか――。

 

 

 

 !月#日

 

 サイラオーグさんから頂いた新鮮な果物を使って、ケーキを焼いた。

 久し振りだったが、とてもいい出来だったと思う。

 徹君達にも好評だった。

 ……黒歌さんにも、美味しいと言ってもらえた。

 

 最近は良く眠れている。

 つい先日までは、あまり寝る事も出来ていなかったと言うのに…気の持ちようも、大事だと思う。

 近いうちに曹操――『禍の団』、もしくは帝釈天、ハーデスが何らかの行動を起こすかもしれない。アザゼル総督の考えでは、神話の神々はともかく、英雄である曹操は戦いを望むだろうという話だった。

 帝釈天インドラが今回動いた。きっとそれには何かしらの意味がある、と思う。

 狙いは新しい力に目覚めたイッセー君を擁するグレモリー眷属か、それとも――徹君か。

 その事を、オーディン様には伝えていない。

 近いうちに、黒歌さん達には伝えなければならないだろう。

 ……学園祭が終わって、落ち着いたら話そうと思う。

 それが、私の答えだ。

 曹操の件――『禍の団』の件が落ち着いたら、北欧へ帰ろう。

 この身がどうなるかは判らないが、私にはやはり無理だったのだ。

 スパイになる為に、戦乙女になった訳ではない。

 誰かを騙す為に、力を得た訳ではない。

 それでいい。それで十分。……今回は、いい勉強になった。

 この身を賭してでも、徹君を、この家の皆を守ろう。

 それが私の罪滅ぼしだ。

 

 

 

 !月$日

 

 明日は学園祭だ。

 最初で最後の、だが。

 楽しみたいと思う。きっと、もう二度と日本のハイスクールの学園祭は楽しめないだろうから。

 レイナーレさんと黒歌さんも来るそうだ。

 徹君と白音さんも出し物をするのだとか。

 徹君は屋台を、白音さんは占い屋を。

 時間を作って見に行こうと思う。

 

 

 

 !月%日

 

 今日は楽しかった。とても楽しかった。

 レイナーレさんと黒歌さん、徹君と一緒に色んな出し物を見て回った。

 午前中は見回りをしていたが、午後からは徹君達と合流して学園祭を楽しませてもらった。教師失格だと思う。少し反省している。

 でも、楽しかった。良い思い出になった。

 北欧に戻っても、きっと忘れない思い出だ。

 レイナーレさんとイッセー君。

 昔何かあったようですが、仲直りをしていた。

 私もいつか、私がした事を話し、徹君達と仲直りをしたい。

 仲直りをして別れたい。

 ――それを願うには、私が犯した罪は重すぎるだろうか?

 

 

 

 アザゼル総督からは笑われた。

 悩み過ぎだ、と。

 そうだろうか? 私がしてきた事は、明確な裏切りだ。

 その罪は重い。

 ――それでも、徹君なら笑って許すと、堕天使の総督殿は言ってくれた。

 そうは思えない。

 でも……私も、そう思いたい。許されたい。

 ――助けてほしい。

 

                      我儘だな。本当に。後悔をするには、遅すぎる

 

 




次は誰かなぁ。
感想を見て思ったけど、ようやくロスヴァイセさんにも優しいお声が多く寄せられるようになってきたなぁ、と。
良かった良かった。
最初が結構あれだったから、受け入れられるか不安だった。

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