とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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162(戦乙女日記)

 

 P月P日

 

 『クリフォト』の件で、私に護衛が付く事になった。

 学生時代に私が論文に書いたのは、異説である『616』の事。

 23枚の封印。その封印の応用――24枚目の封印。

 それが私の書いた論文だ。

 結局、卒業までに間に合いそうになかったので破棄したのだが。

 だが、『666』の封印を解除するのが目的なら、私の論文は真逆の効果なはずだ。

 覚えている限りで書き起こし、アザゼル先生に渡しておいた。

 何か判れば良いが……。

 

 

 

 P月Q日

 

 家の皆にも、私が学生時代に勉強していたことを説明した。

 まぁ、専門的過ぎて黒歌さんでも半分くらいしか判らないと言っていたが。

 研究者の論文なんて、興味が無い人が聞いたらそんなモノなんだろうなぁ。

 とにかく、私が『616』の研究をしていたせいで狙われている、というのが心苦しい。

 心配、されてるし。

 ……私、元々は裏切り者なのになぁ。

 この家の人達は、皆優しすぎる。

 ――嬉しいな。

 

 リアスさん達も少しピリピリしている。

 ユーグリットさんを捕まえる事は、グレイフィアさんの無実を証明する事になるから当たり前か。

 あのデートの時、捕まえたらよかったな。魔力失くしてたし。

 ……みんなが私の心配をしてくれてる。

 いつか恩返しが出来たら……出来る事があればいいな。

 

 

 

 P月R日

 

 次の休みに、全員で出かける事になった。泊まり込み。

 行先はソーナさんが作ったレーティングゲームの学校だけど。

 私が悩んでるから息抜きに、だそうだ。

 ……良く見ててくれるなぁ、と。

 年下なのに。年上の心配なんかしちゃって。

 そーいうところが、いいんですよねぇ。

 皆にからかわれてしまった。

 良いじゃないですか。嬉しいんですもの。

 

 

 

 P月S日

 

 最近、アザゼル先生は他勢力への口利きに奔走している。学校に居ない事も多い。

 『D×D』の結成に、『クリフォト』の動き、何かあった際の連携の相談。

 ……凄いなぁ、と。

 多分アザゼル先生が一番働いてると思う。

 それで、給料と言ったら学校の教員としての給料だけ。

 『神の子を見張る者』からは外れたから、今はただの一堕天使のはずだし。

 まぁ、魔王様とか熾天使様からいくらか融通してもらってるのだろうけど。

 いつ休んでるのだろう?

 また今度、飲みに誘おうと思う。

 

 

 

 P月T日

 

 お婆ちゃん――変な事を言わないでほしい。本当に。

 というか私は、お婆ちゃんになんて事を言ってるのか。

 あんなふうに手紙に書いてたのかと思うと、恥ずかしくて顔から火が出るとはああいう事かと理解した。

 ……本人にあんなこと言わないでよ。

 いや、本心だけど。そう思ってるけど……明日から、どんな顔をすればいいのか。

 憂鬱とは違うけど……顔を合わせ辛いなぁ。

 

 あと、徹君って優しいというか、フレンドリーだから良いんだと思うんです。

 威厳とか命令とか……うん。

 レイナーレさんが少し羨ましかった。

 あんな風に言われたら、誰だって……うん。

 ちょっとだけ、ゾクッときた。

 悪寒とかじゃなくて、身体が熱くなったのは誰にも言えない――。

 

 

 

 P月U日

 

 徹君は威厳が無い方がいいと思う。

 普段の優しい徹君がみんな好きだ。私も。

 ……というか、アレは駄目だ。駄目だというか、ダメになる。私達が。

 黒歌さんと白音さんはもっと命令されたいと言ってたけど。

 やっぱり似てるなぁ、あの二人。普段の性格は真逆なのに。

 徹君が絡むと、同じ思考になってる。

 

 私も二人の事は言えないんだけど。

 私も呼び捨てで呼ばれて、命令されて。

 楽だし、悪くない気分だけど、徹君に頼って、溺れてしまいそうになる。

 それじゃ意味が無い。私達が居る意味が。徹君を守りたいという想いの意味が無くなる。

 徹君は凄いし、強いし、優しいし。

 だからこそ、徹君を守る為に私達が居るのだと思いたい。

 守られる為じゃなくて、守る為に、と。

 

 ……年下に呼び捨てで命令されるって、なぁ。

 

 

 

 P月V日

 

 もう、お婆ちゃんが変な事を言うから。

 徹君はいつも通りが良いです、と伝えたら少し落ち込んでいた。

 悪い意味じゃない、と。

 逆に、威厳があり過ぎて全部を徹君任せにしてしまいそうなのが怖かった。

 ……言えなかったけど。

 言えるわけがない。

 年下に頼り切ってしまいそうになっただなんて。

 私達にも、年上としてのプライドとかあるし。

 ……ほとんど無いですけど。白音さんは年下だし。

 

 その後はずっと、オーフィスさんに慰められてた。

 悪いことを言ったかな……。

 

 

 

 P月W日

 

 明日は朝から、リアスさん達と一緒に冥界のアガレス領に行く事になっている。

 ソーナさんの学校を見学にだ。

 社会見学という事で、しばらくは滞在する予定。

 楽しくなると良いな。

 うん――みんなで楽しみたい。

 スコルとハティは、しばらくお隣のグリゼルダさんに預ける事になった。

 徹君が噛まないように、と言い聞かせていたので大丈夫だろう。

 あの子たち、徹君とレイナーレさんのいう事は良く聞くし。

 私や黒歌さんには、まだ偶に吠えてくるけど……。

 

 私の将来。

 どうなるんだろう。

 天使として、徹君の眷属として、教師として。

 女として――はグリゼルダさんの考え過ぎだと思う。

 いくら旅先だからって、学校でなんてスる訳ないのに。

 天使って割と、耳年増が多いのだろうか……。

 

 

 

 P月X日

 

 今日からしばらく、レーティングゲーム学校の女子寮の一室を借りることになった。

 私はルフェイさんと同室になった。

 冥界に来る前に、ヴァーリさん達と会い、一緒に来ることになったのだ。

 暇だからって…仕事も、学校にも行ってない人は良いなぁ。

 その分、訓練というか特訓に時間を割いてるけど。

 

 しかし、ルフェイさんが兵藤君の事を好きなのは驚いた。

 まぁ、『おっぱいドラゴン』としてだけど。

 人の趣味はそれぞれとは言うけど。

 ヒーロー…英雄か。

 確かに兵藤君は子供たちのヒーローなんだろう。人気もあるし。

 

 

 

 P月Y日

 

 ソーナさん達に学校の事を説明してもらった。

 今日は、学校の目的と施設の説明、あと授業を見せてもらった。

 ソーナさんの目標――誰でもレーティングゲームが出来るように。

 その理念からか、生徒は小さな子供が多い。

 今日はリアスさん達が来るからと大人の方も多かったが、いつもは子供たちばかりらしい。

 レーティングゲームの学校、それも小学校くらいに感じた。

 魔族の強さは才能に左右される。

 そして才能は、名家の者ほど高い傾向がある。

 ――努力ではどうにもならない事もある。その事は私達も知っている。良く、判っている。

 でも、努力すればどうにかなる事もある。その事も、私達はよく知っている。

 だから――ソーナさんには、頑張ってほしい。

 本当に、心からそう思う。

 

 

 

 P月Z日

 

 朝起きたら、徹君に荷物が届いていた。

 レヴィアタン様から。

 あの人はどうして、徹君がこの学校に来ている事を知っているのだろう。

 まぁ、魔王だから、と言われればそれまでだが。

 ちなみに届いたのは、サタンシルバーの衣装だった。

 ……乳龍帝への対抗ですか。

 オーフィスちゃん、シルバーが好きだからなぁ。

 着て上げればいいのに。

 本物のサタンシルバー。

 きっと、子供たちも喜ぶだろうし。

 

 

 

 P月!日

 

 今日は、臨時の教師として教鞭を振るう事になった。

 生徒は悪魔の子供たちに、黒歌さんを除いた皆。

 駒王学園とはまた違って楽しかった。

 人間界では小学校の教員には資格が必要なはずだが、冥界でも必要なのだろうか?

 子供たちの相手も楽しかった。

 ……こういう道も悪くない。

 

 日本は良い所だ。

 誰もが学ぶことが出来る。それが当たり前になっている。

 でも冥界では違う。

 学ぶ権利があるのは、地位と力がある人だけだ。

 ソーナさんはそれを変えようとしている。

 その夢を応援出来たら、手伝えたら――と思う。

 

 

 

 P月#日

 

 徹君に裸を見られた。

 ……変じゃなかったかな?

 でも、チラチラ見てたから変じゃなかったよね? うん。そう思っておこう。

 うわー……。

 

 女子寮のお風呂が壊れたから男子寮のお風呂を借りていたら、徹君が入ってきた。

 多分情報が伝わってなかったのだろうし、私も入口に使用中とか何か目印を残してなかったし。

 悪いのは私だし。

 まぁ、裸を見られたのは自業自得だ。

 それに、裸の付き合いではないですけど、色々と相談する事が出来た。

 私の考えを伝える事が出来た。

 ――私が誘拐されたら、見捨てて下さい、か。

 それは本心であり、本心ではない。

 そう思っているし、そう思っていない。

 助けてほしい、けど徹君を巻き込みたくない。

 ……私は弱い。

 追い詰められると、すぐに誰かに頼ろうとしてる。

 変わらないと、な。変わらないといけない。

 徹君の傍に居たいから。隣に居たいから。

 

 でも、その後兵藤君がお風呂に来たのには驚いた。

 驚いて、魔術で吹き飛ばしてしまった。

 ……悪いことをしたとは思ってるけど、恥ずかしかったし……。

 

 

 

 P月$日

 

 今日はずっと、徹君を黒歌さんに取られていた。

 ソーナさんから子供たちに眷属の事を教えてほしいという話になった。

 『女王』『戦車』『僧侶』。

 私は天使だから、魔術を教えていたのだけれど、黒歌さんはもう――色々と酷かった。

 ちょっとマセた子供を逆に誘惑するし。

 いつもは怒るのはレイナーレさんだけど、今日は授業で離れてたし。

 そうなると、黒歌さんを止めるのは徹君の役目だった。

 なので今日は、ずっと徹君と黒歌さんは揃って行動していた。

 ……あれって狙ってたんだろうなぁ。

 多分、今頃部屋で白音さんに怒られてるだろう。幸せな顔をして。

 羨ましいなぁ。

 

 

 

 P月=日

 

 徹君が、サタンシルバーの衣装を着て子供たちの相手をしていた。

 子供が好きなのかな? オーフィスさんの事もよく気にしているし。

 嫌いという事は無いだろう。見ていて微笑ましい気分になれた。

 やっぱり徹君には、ああいうのが似合うなぁ。戦場とか、威厳とかじゃなくて。

 驚いたのは、子供たちに人気なのはそうだけど、保護者の方達にも人気なのだ。

 冥界を救ったりして、随分と有名だからしょうがないんだけど。

 なんだかなぁ。

 徹君は戦う事が嫌いなのに。普通に暮らしたいだけなのに。

 ……でも、素顔よりサタンシルバーの方が有名なあたりが、なんだか徹君らしいと思った。

 徹君の素顔は私達が知ってます――なんちゃって。

 

 でも、確かにサタンシルバーは格好良い。

 あんな台詞を戦場で言われたら、やる気も出るし、心が震えるだろう。

 ――言われてみたい、と思ったのは秘密だ。

 

 

 

 P月~日

 

 『クリフォト』から襲撃があった。

 狙いは徹君と私――私の知識。

 人質は学校とその生徒たち。それに、丁度今日はお婆ちゃんも学校に来ていた。

 徹君の友人であるソーナさんの夢と、子供たちの命。

 『禍の団』が生易しかったのか。

 『クリフォト』は一般人を巻き込むのにも躊躇いが無い。

 その事がよく判った。

 アレは、潰さなければならない。絶対に。

 レイナーレさんは、オーフィスさんの力を使い過ぎて倒れている。

 徹君も――だ。

 学校と子供たちが無事で良かったけど。

 

 それにしても、私を狙っていた理由が24枚目の封印だとは思わなかった。

 いや、その辺りだろうと予想してたが、封印の相手が徹君だったのは驚いた。

 良く考えている。『666』を封印する結界なら、確かに徹君を封印できるのかもしれない。

 少なくとも、一時的にとはいえ、徹君を封印する事が出来ていた。

 それとも、自分が封印されて私達を試したのか。

 徹君の事だから、どっちとも言えないのが何とも……。

 その結果、レイナーレさんは倒れたのだから、もしかしたら前者なのかもしれない。

 これで一つ、徹君に対抗できる手段を与えてしまった、と考えるべきだろう。

 アザゼル先生も驚いていた。

 私達も、だ。

 徹君は強い。でも、万能ではない。

 そんな事、判っていたはずなのに……。

 それに比べて私は…ユーグリットに捕まるし、徹君封印の餌にされるし。

 情けない。

 

 

 

 P月¥日

 

 レイナーレさんが目を覚ました。

 徹君が、自分より先にレイナーレさんを回復させたそうだ。

 私は『神器』とか気の流れとかは得意じゃないけど、黒歌さんが言うならそうなのだろう。

 ……徹君も、サタンシルバーの格好で居るから、倒れたんじゃないだろうか。

 というか、テロリスト相手に余裕を見せ過ぎだと思う。

 心配する方の身にもなってほしい。

 辛いのだ。本当に。

 何も出来ず、心配するだけというのは。

 リアスさん達も、『邪龍』相手に奮闘して精神的に参っている。

 ヴァーリさん達は、『邪龍』とリゼヴィムという『クリフォト』の首魁を同時に相手取っていたが、逃げられたことを気にしていた。

 余裕が無い。

 これから先、私達は徹君を守れるのだろうか?

 普通の人間であることを望む人を、守りたい。

 ――強くなりたい。もっと。

 

 

 

 P月*日

 

 徹君が目を覚ました。

 ……けど、『クリフォト』襲撃の事は覚えていなかった。

 レイナーレさん達が言うには、以前にもあったらしい。

 記憶が無くなるという事が。

 それが、徹君が『神器』を使った影響なのか、それともまた何か別の要因があるのかも判らない。

 ただ――忘れられるというのが、酷く辛い。

 あの時、レイナーレさんは命懸けで頑張った。戦った。

 オーフィスさんの力を限界以上に引出し、消滅しかけた。

 あの時の決意も、想いも、徹君には残っていない。

 その事が、ただただ悲しい。

 残っているのは、一本の黒い槍。オーフィスさんの力で変質してしまった神槍。

 いや…神槍とはもう呼べない――龍の槍だけだ。

 

 

 

 P月1日

 

 アガレス領での魔法使いの集会が終わった。

 近い内に、お婆ちゃんも北欧に帰るだろう。

 ……オーディンが何もしないという保証はない。

 『クリフォト』とは違うとは思うけど、本質は自分の欲望の為なら何でも使う人だ。

 自分の命すら天秤に掛けられる神だ。

 ――また会いたい、というと笑っていた。

 心配し過ぎなのかな。徹君やレイナーレさんの事があったから。

 

 

 

 P月2日

 

 お婆ちゃん…最後になんて事を……。

 皆の好奇の視線が痛い。

 ひ孫だなんて。

 まだ早いよ。

 

 

 

 P月3日

 

 徹君、本当に冥界での事を覚えていないんだな。

 ……あの時の事を聞かれるのって、結構辛いんだな、と。

 覚えてないって言われるのは、キツイ。

 忘れているって事実を突き付けられるのは、キツイ。

 泣きたくなるくらい、キツイ。

 レイナーレさんと黒歌さんは付き合いが長いから、きっと私や白音さんよりも辛いはずだ。

 ――こんな気持ちは嫌だ。

 感じたくないし、誰にも感じさせたくない。

 

 何故、徹君なんだろう。

 あんなにも、戦う事が嫌いなのに。

 普通でいようとしてるのに。

 いつか、このままだと――私達の事も忘れてしまうのだろうか。

 


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